自分が総合診療/リウマチ膠原病の守備範囲の中でも, 比較的好んで診療しているMDS/MPN(特にCMML)に伴う自己炎症性の病態(あとは好酸球性疾患が好きです).
参考:
MDSには自己免疫性疾患が合併することがある
治療は原疾患の治療(アザシチジン)だが, その適応が難しい場合はステロイドやTNFα阻害薬が試されるものの, ステロイドは減量で再発しやすく, TNF-α阻害薬も長期間の使用で不応となる例がある.
そこで, ふとMPN, 特に骨髄線維症や真性多血症で使用されるRuxolitinib(JAK1/2阻害薬)がこのような病態に効果が期待できるのでは。。。?と思ったが, そもそも上記のような疾患群は数が少なく, また狭間疾患ということもあり, ほぼ研究が進んでいない.
とりあえず手当たり次第に読んでみた.
CMMLとJAK阻害薬
CMMLでは, 異常クローンよりCFU-GM(colony-forming units granulocyte/macrophage)が形成される.
・GFU-GMはin vitroにおいてGM-CSFより分化増殖し, 顆粒球やマクロファージから成るコロニーを形成する造血細胞群.
・JAK1/2はGM-CSFシグナル伝達経路のセンチネルキナーゼであり, CMMLにおけるJAK1/2阻害は疾患の治療に有用な可能性がある(Eur J Haematol . 2016 Dec;97(6):562-567.)
CMML-1と診断された患者群20例において Ruxolitinibを投与した報告(JAK1/2阻害薬)
(Clin Cancer Res . 2016 Aug 1;22(15):3746-54.)
・好中球数<250/µL, PLT<35000/µL, Cr >2.0mg/dL, T-bil ≥1.5ULNの症例は除外
また過去の治療歴とその内容は問わず.
・Ruxolitinibは1回5-20mg, 1日2回投与で評価.
Cohort 1が5mg bid 6例 Cohort 2が10mg bid 4例 Cohort 3が15mg bid 5例 Cohort 4が20mg bid 5例
各患者の経過. 平均投与期間は122日[範囲28-409]
・血液所見の改善が4例. 1例はPRを達成.
脾腫を認めた5/9で脾臓サイズの改善
疾患に関連する症状を認めた10/11で臨床症状の改善を認めた
・疾患の改善を認めた症例全てでJAK2変異は認められなかった(JAK2変異陽性は4/20)
CMMLと診断された50例の患者を対象とし, Ruxolitinib 20mg bidを投与.
(Clin Cancer Res. 2021 Nov 15;27(22):6095-6105.)
・好中球数<250/µL, PLT<35000/µL, Cr >2.0mg/dL, T-bil ≥1.5ULNの症例は除外
・Phase 1において10mg/dで開始され, 最大40mg/dまで増量. 20例を導入
Phase 2では40mg/dで投与(20mg bid). さらに30例を導入
・投薬は疾患の増悪や許容できない副作用が出現まで継続
治療反応性
・CRやPRは少ないながら認められる.
脾腫のサイズの縮小は43.5%で認められた.
・全体的な反応率は38%
JAK阻害薬: MDS症例に対してはどうか?
・いくつかの研究により, NF-κβ活性化を特徴とする自然免疫, 炎症シグナルの調節がMDSの病態に重要な役割を示すことが示唆されている
・NF-κβ経路とJAK-STAT経路には相互関係が認められ, RuxolitinibはNF-κβを抑制する効果が認められるため, MDSにおいてJAK1/2阻害薬は病勢のコントロールに有用な可能性がある.
(Leuk Res. 2018 Oct;73:78-85.)
治療歴のあるLow, Int-1のMDS症例で, 且つNF-κβまたはJAK-STATの活性化が認められる症例において, Ruxolitinibを投与した報告.
(Leuk Res. 2018 Oct;73:78-85.)
・NF-κβ活性はphosphorylated p65を認めることで定義
JAK-STAT活性はJAK2変異を認めることで定義
(陽性細胞が骨髄細胞中≥5%を満たすことで定義)
・またβ2-microglobulin >2ULNを満たす患者群も導入された
・肝障害, 腎障害を認める患者群は除外
・患者数は20例. Ruxilitinibは5mg bid, 10mg bid, 15mg bid, 20mg bidの4群に分けて投与
母集団では
・CMMLが42%(8例) JAK2陽性例が42%(8例)
治療反応性を認めたのは
・MDSの4/11例. 血小板改善が2, 貧血改善が1 , 細胞遺伝学的のPRが1例.
CMMLでは反応性を認めた症例は無し.
・pp65発現例と治療反応性に関連を認めた.
Ruxolitinib + Azacytidineの併用療法
MDS/MPN症例35例を対象(MDS/MPN-U 14例, CMML 17例, aCML 4)
(Am J Hematol. 2018;93:277–285.)
・Ruxolitinibを1サイクル28日とし, 3サイクル先行投与し, 4サイクル目からAzacytidine 25mg/m2(Day 1-5)を追加投与.
・Ruxolitinibは血小板数に基づき投与量を調節.
Azacytidineは最大75mg/m2まで増量可. また急速に細胞数が増加した症例や芽球が増加した症例では4サイクル待たずに開始可能とした.
母集団
・JAK2変異は10例(29%)
アウトカム
・ORは57%で認められた.
・脾臓サイズの改善は9例(64%). AZA併用前に4例, 併用後にさらに5例で改善
・臨床症状の改善効果も期待
・輸血依存が改善したのは1/11
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JAK1/2阻害薬単独でのMDS/MPN, CMML治療はイマイチではあるが, 一部で反応性が認められる症例はある.
具体的な臨床症状や, 自己炎症性の病態を評価している報告はないものの, MDS/MPN, CMMLに伴う臨床症状の改善効果も期待できる.
原疾患の治療が難しい, 炎症性病態を有する患者群の選択肢として押さえていく価値はあるように思う.
JAK1/2双方を阻害するのはRuxolitinib以外にはTof, Bar, Pef, Upaあたりが選択肢.