骨折外傷や整形外科手術においては静脈血栓症(VTE)予防としてヘパリンの投与などが行われる. 海外は低分子ヘパリン(LWMH)が使用される.
出血リスクが高い症例ではアスピリンも選択肢となるという報告.
股関節置換, 膝関節置換術におけるVTE予防として アスピリン vs 他の抗凝固薬を比較したTrialsのMeta
(JAMA Intern Med. 2020;180(3):376-384.)
・13 RCTs, N=6060例での解析
・LMWH(5), リバロキサバン(3)との比較が最も多い
・アスピリンは他の抗凝固薬と比較して, VTE予防効果は同等, 出血リスクもかわらない結果.
VTEリスク: RR 1.12[0.78-1.62]
DVTリスク: RR 1.04[0.72-1.51]
PEリスク: RR 1.01[0.68-1.48]
・出血, 血腫形成リスクは両者で有意差なし
・Sub解析でも特に大きな差は認めない
PREVENT CLOT: 骨折患者を対象とし, LWMHとASAによるVTE予防効果を比較した非劣性RCT.
(N Engl J Med. 2023 Jan 19;388(3):203-213.)
・手術治療が必要となる四肢の骨折, または臼蓋・骨盤骨折の成人症例12211例を対象.
・除外例: 受傷〜受診まで48時間以上, Study導入までに3回以上のVTE予防投与を受けている群, 6ヶ月以内のVTE既往, 治療的抗凝固療法を行っている群, 慢性の血液凝固疾患がある患者.
・入院中のVTE予防としてLWMH群(Enoxaparin 3000U, 1日2回)とアスピリン群(81mg 1日2回投与)に割り付け, 比較.
・退院後は各病院のプロトコールに則ってVTE予防を行なった.
母集団
・BMIは27.4[23.7-32.3]
・担癌患者は2.5%
・VTE既往は0.7%
・下肢骨折が87.5%
アウトカム
・90日死亡リスクはASA群で0.78%, LWMH群で0.73%と有意差なし
・DVT発症率は2.5% vs 1.7%, AD 0.80[0.28-1.31]
遠位DVTが1.45% vs 0.86%, AD 0.58[0.20-0.96]と差があり
近位DVTは1.23% vs 0.98%, AD 0.25[-0.12~0.62]と差は認めず
・PE発症率は1.49% vs 1.49%と差は認めず.
タイプ別でも差はない(症候性, 無症候性, Massiveなど)
・出血リスクも 有意差なし
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四肢外傷や整形術後のVTE予防として、アスピリンも選択肢となりえる.
遠位DVTは増加する可能性はあるが, 近位DVTや肺血栓塞栓症リスクは同等であり, 出血リスクが高い患者や抗凝固療法が行いにくい患者では選択肢として押さえておく価値はある.