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2022年12月29日木曜日

ITPに対する新薬: Fostamatinib(タバリス®)は関節リウマチ合併ITPによいかも

新しくITPの治療の選択肢となったFostamatinib

Spleen Tyrosine kinase(Syk)阻害薬である.

・SkyシグナルはITPにおいて抗体を介した血小板破壊の中心的な役割を担う. このSykを阻害することで血小板破壊の抑制効果が期待できる.

・Fostamatinibは経口Sky阻害薬であり,
FIT1, 2 trialsにおいて有意に血小板の改善が得られている.


FIT 1,2: 持続性, 慢性ITP患者を対象

(Am J Hematol. 2018 Jul;93(7):921-930.)

・Fostamatinibを1日2回内服群とプラセボ群に割り付け比較


 投与量は100mgを1日2回, または150mgに増量が可能.

・アウトカムはPLT >5万/µL達成, 維持率

・5万以上を維持できた症例は
投与群で18%, プラセボ群で2%と
有意にFostamatinib群で良好.

・12wk以内にPLT ≥5万達成率は43% vs 14%であった.


FIT 1,2の長期フォロー

(Am J Hematol. 2019 May;94(5):546-553.)

・28ヶ月間において, 44%でCRを達成.

 
TPO製剤が無効であった症例の34%でCR

・有害事象は下痢や高血圧, 嘔気嘔吐, 肝機能異常があったが, 軽症や中等症が主.


ということで, FostamatinibはTPO製剤が無効であったITP症例の1/3でCRが期待できる, 新たな治療の選択肢となる薬剤と言える.


そして, このSky阻害薬がRAでも効果が期待できる.


MTX投与下の活動性RA患者457例を対象とし,
Fostamatinib 100mg bid, または150mg/d(1日1回)群, Placebo群に割り付け, 比較したDB-RCT

(N Engl J Med 2010;363:1303-12.)

・MTXは7.5-25mg/wkを3ヶ月以上使用している状況で,

 
TJ, SJが6箇所以上, 炎症マーカー上昇を認める群.

・他のcsDMARDの併用は可. PSL ≤10mg/dの使用は可.


 bDMARDはWashout期間を経ている場合は使用歴があっても良い.


アウトカム


・Fostamatinib群では有意にACR20, 50, 70達成率が良好.

 
特に100mg bid群(200mg/d)で効果は良い

副作用の頻度


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しばしばRA患者に合併するITP症例はある. またその逆も.

そういった症例で, 難治性ITPでTPO製剤を使用するくらいならば, このsky阻害薬の選択は双方にとってよいかもしれない.

選択肢として覚えておく価値はありそう.

2022年12月9日金曜日

バセドウ病に合併する自己免疫性疾患は?

某自己免疫性疾患の精査をしていると, バセドウ病が発見された.

自己免疫性甲状腺炎(橋本病)とバセドウ病は, 自己免疫性甲状腺疾患であり, 

最も多い自己免疫性疾患の1つ
.

T細胞関連臓器特異性自己免疫性疾患に分類される.


バセドウ病2791例, 橋本病495例の通院患者において,
 併存する自己免疫性疾患を評価した報告では,

(The American Journal of Medicine (2010) 123, 183.e1-183.e9)

・バセドウ病の9.67%, 橋本病の14.3%で自己免疫性疾患が併発.

・最も多いものはRA. 他は悪性貧血, 白斑といったものが多い



1993-2010年の外来診療より3209例のGD患者を前向きに評価

(Autoimmun Rev. 2019 Mar;18(3):287-292.)

・対象群として, 年齢, 性別, ヨウ素摂取量がほぼ同じ
一般人口より無作為にマッチさせた3つの対称群を導入

 対象群Iは同じ地域の一般人口. 甲状腺スクリーニングを行い, 甲状腺障害がある患者は除外.

 対象群IIは一般人口から無作為に抽出した自己免疫性甲状腺炎(AT)群

 対称群IIIは一般人口から無作為に抽出された非中毒性多結節性甲状腺腫(MNG)群


自己免疫性疾患の合併率は, 

 GD患者群で16.7%,
 一方でAT群で18.5%と高く

 
一般人口群では3.3%, MNG群では3.5%と, 
GDとATで頻度が高い.

・ATとGDでは各疾患の合併率に差はない.

・GDで最も多い自己免疫性疾患の合併は, 白斑症 2.6%, 慢性自己免疫性胃炎 2.4%, RA 1.9%,
 PMR 1.3%, MS 0.3%, Celiac disease 1.1%, 1型糖尿病 0.9%
 

 他はSLEやサルコイドーシスが<0.1%, Sjogren症候群 0.8%


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膠原病ミミッカーとして甲状腺疾患は重要で, 有名なので

通常スクリーニングとして甲状腺機能は評価されることが多い. 

大体がその時に気づかれるので見落とすことがないとは思われるが,

今回PMR患者でバセドウ病が隠れていたのでそういうことがあるのか, と思い調べてみた次第

2022年11月24日木曜日

下肢病変を伴うSweet症候群は悪性腫瘍に関連したものなのか?

関節痛, 炎症反応高値, 皮膚に小結節を伴う有痛性紅斑を認めた患者.

生検では主に好中球浸潤を伴う病変であり, Sweet症候群に矛盾しない.

病変の分布が上肢, 手指が主であるが, 下肢にも同様の皮疹を複数認められた.


下肢に病変を認めるSweet症候群は悪性腫瘍の可能性が高い! とする情報(UpToDate)があるということを教えてもらったが, ピンとこないのでちょっと調べてみる.



その前にSweet症候群は炎症性疾患や感染症, 誘因が不明なClassicalと,

 薬剤に関連するもの, 妊娠に関連するもの, そして悪性腫瘍に関連するものがある

 悪性腫瘍では血液腫瘍が多く, AMLやMDSで認められるものが有名.


血液悪性腫瘍
 AML, CML, MDS, 
 Lymphoma, MM

感染症
 Strepto, Staph,
 Salmonella, yersinia,
 HIV, CMV, Hepatitis, 
 Helicobacter pylori,
 TB

全身疾患
 UC, CD, Sjogren’s, 
 Behcet’s disease,
 SLE, RA

非血液悪性腫瘍
 Genitourinary, 乳癌,
 
卵巣癌前立腺癌,
 
甲状腺癌肺癌

薬剤
 後述

妊娠

(Clinic in Dermatology 2008;26:265-73)


下肢の病変は腫瘍性が多いとする情報は以下の論文から引用;
(Orphanet Journal of Rare Diseases 2007, 2:34)

・たしかにClassicalでは下肢病変はInfrequentとされ, 悪性腫瘍や薬剤性では36〜48%と記載.

この大元の論文は以下; (Clinics in Dermatology 1993;11:149-157)

・1980-90年代のN=10〜29の小規模の後ろ向きStudyのMeta


では, 最近の症例Cohortではどうなのだろうか?

Seoul National Univ. HospとBoramae Medical Centerにおいて, 2000-2020年に診断されたSweet症候群を後ろ向きに評価した報告.
(Annals of Hematology (2022) 101:1499–1508 )
・この期間中に確定診断された症例 52例中,
 27例が悪性腫瘍を背景としていた(51.8%)
 
 21例が血液悪性腫瘍, 7例が固形腫瘍
 腫瘍の多くがAMLとMDS.

・男女差はなし. 診断時年齢は悪性腫瘍群で62歳(17-78)
 
 非悪性腫瘍群では46歳[28-84]
 
 高齢者ほど悪性腫瘍のリスクは上昇する: OR 1.04[1.00-1.08]
・他に悪性腫瘍との関連があるのはNoduleの形成程度.

・これをみると, 下肢病変の頻度は悪性腫瘍と非悪性腫瘍で変わらない.
 それぞれ3割程度で下肢病変を認めている.

Pennsylvania大学附属病院において, 2005-2015年に診断されたSweet症候群 83例を後ろ向きに解析.
(J Am Acad Dermatol. 2018 Feb;78(2):303-309.e4.)
・古典的Sweet症候群は30%, 腫瘍性が44%, 薬剤性が24%
 橋本病が7例, 上気道炎が6例, 

 悪性腫瘍ではAMLが24例と最多. 次いでMDSが10例

 薬剤性はFilgrastimが8例で最多.

・腫瘍関連/非関連性で比較すると, 関節痛は非腫瘍性で48%と多い.
 
 血球減少は腫瘍性で多くなる.
 
 下肢病変は66% vs 78%と差はない

Sweet症候群90例の解析では,
(Int J Dermatol. 2016 Sep;55(9):1033-9.)
・特発性が62例, 感染症関連が14例,
IBDが4例, 妊娠関連が3例
 薬剤性が1例, 悪性腫瘍が6例.
・上記母集団において, 下肢病変の頻度は74.4%で認められる
 
 上肢は83.3%, 顔面が27.7%, 頸部16.6%, 体幹13.3%

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最近の報告からは, 下肢病変を認めるSweet → 悪性腫瘍関連, とも言い難い.
Classicalでも下肢病変は同程度認められる

2022年11月14日月曜日

感染性心内膜炎とANCA陽性

ANCAが陽性となる非血管炎疾患として感染性心内膜炎は有名.

その症例のSystematic reviewが出ていたので紹介

(Clin Rheumatol. 2022 Oct;41(10):2949-2960.)


Systematic reviewより, IEにおけるANCA陽性率を評価

・ANCA陽性のIE 182例を含む74件の文献報告+自験例をReviewした報告

ANCA陽性はIEの18-43%で認められ, 亜急性IEで多い(73%)

・ANCAのタイプはc-ANCA, PR3-ANCAが79%であった.
 

 11%がp-ANCA/MPO-ANCAで, 

 8%がDouble positive.
 

 Titerの中央値は4.5ULN(50%の患者が2.6~8.5ULNに収まる)


ANCA陽性IE症例

・血尿が82%, 低補体が68%で認める. 
Ig高値が90%と高い.

・腎障害が72%で認められ, 腎生検では59%で免疫複合体沈着あり.
 

 37例では非免疫性糸球体腎炎を認めた.


ANCA陽性IEの腎生検結果

・半月形成GNが半数で認められる.


ANCA陽性IEの経過


・ANCAは陰性かが69%, Titerの低下が20%.
 Titerが増加/横ばいは5%のみ.
 

 抗菌薬のみで治療した群でも同様に低下/消失する例が大半.

・追跡中に全身性血管炎を発症した報告はない

2022年11月11日金曜日

自己免疫性内耳障害: 膠原病における難聴の合併頻度は?

 2021年に以下についてブログに書いた.

免疫介在性内耳障害, 自己免疫性内耳障害


それからも, ちょこちょこ膠原病患者さん亜急性〜慢性で生じる難聴±内耳障害(ふらつき)という患者さんは診療する機会がある. 悲しいかな, 新たに紹介される患者さんで, 数年前より難聴が進行し, 気づかれず/また気づかれてもステロイドトライアルを行なっていおらず, すでに不可逆性となっている症例もある.


特に通常のフォローで免疫抑制(特にステロイド)を使用する頻度が低い, シェーグレン症候群や, 強皮症の患者さんで目立つ気がする.


ステロイドが適応となる患者さんではその治療により抑えられている/治療されているということもあるのだろうか.



各疾患における難聴の頻度と少し調べてみた.

強直性脊椎炎患者のMetaでは,
聴力障害を伴う頻度は42.4%[29.2-56.2]
(J Rheumatol. 2021 Jan 1;48(1):40-47.)
・非AS患者との比較で, 聴力障害のORは4.65[2.73-7.91]と有意にリスクは上昇
・特に高音において, 聴力障害の程度が強い

SSc患者における感音性難聴
(Clin Rheumatol. 2018 Sep;37(9):2439-2446.)

・2割弱で難聴を自覚
. 耳鳴は4割強と多い. 
 難聴のほとんどが感音性
・SScのタイプや他のパラメータとの関連性は認められない.
(皮膚所見やNFC所見など)

シェーグレン症候群の観察研究のMeta-analysisにおいて,
 難聴の合併率は36.7%(バイアス中程度を除いた頻度).
・感音性難聴は42.6%[27.8-58.8]

 伝音性は5%, 混合性難聴が2.3%と, ほぼ感音性難聴となる.
(Rheumatol Int. 2022 Oct 28. doi: 10.1007/s00296-022-05235-9. Online ahead of print.)


レビューより, SS, RA, SLEにおける難聴の頻度とその音域
(Int J Mol Sci. 2022 Sep 23;23(19):11181. )

・自己免疫性内耳障害では高音での聴力低下の頻度が高い.

 通常会話で使用する500-2000Hzは保たれることも多く, 
気づかれていないこともある


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膠原病患者さんではそれなりに難聴を伴う頻度が高い.
そしてその難聴は治療可能な可能性がある.
ステロイドを2週間程度使用し, 聴力検査で改善があればそのまま継続/減量しつつ維持/他薬剤へ置き換え, 反応がないと判断されれば2週間で終了する.

その辺に意識を向けると, 引っ掛けられる患者さんはそれなりにいるように思う.

2022年11月8日火曜日

結核によるリンパ節腫大のCT所見のポイント

臨床におけるGreat mimickerの1つである結核.

しばしば非典型的な経過で我々を陥れにきます.

以前京都GIMカンファレンスにて, 結核によるリンパ節腫大では, 内部が壊死するので造影CTではLow見えるんですよね〜、 と速攻で診断している名読影医がおりました.

今回もそんな症例がおりましたので, その辺の論文を漁ってみます.


結核のリンパ節; CT所見


縦隔リンパ節腫大を伴う結核 49例
(活動性37例, 非活動性12例)のCT所見を比較した報告.

(AJR Am J Roentgenol. 1998 Mar;170(3):715-8.)


活動性

非活動性

P値

サイズ(平均)

1.5-6.7cm(2.8)

1.0-4.7cm(2.1)

<0.04

造影パターン




造影不良域+

100%

0%

<0.0001

均一

43%

100%

<0.004

結節内石灰化

19%

83%

<0.0001

・活動性の結核では, リンパ節内の造影不良域がある.


 非活動性では均一であり, 石灰化も多い.

・造影不良域はリンパ節内の壊死を示唆する所見である

A: LN内に複数の造影不良域が認められる


B: TB治療後9ヶ月のCT. 上記LN腫大が消失


結核性腹膜炎のCT所見のMeta-analysisより

(Clin Radiol. 2020 May;75(5):396.e7-396.e14.)

・腸管膜の>5mmの結節と並び, 

 壊死を伴うLNは感度21%, 特異度95%と
特異性が高い所見といえる.

・石灰化も特異性が高いが, 感度は12%のみと低い.


結核によるリンパ節腫大では内部壊死により抜けるように見えるが,

同様に菊池病(KD)でも壊死性リンパ節炎を呈するため, 同じような所見となる.

両者の違いはどのようなところか?


CTにて結節内の壊死所見を伴うKD 24例と結核性リンパ節炎 45例の比較

(AJNR Am J Neuroradiol. 2012 Jan;33(1):135-40.)

・リンパ節のサイズは双方平均2-2.5cm程度と同等


CT所見の比較


・壊死範囲は結核の方が広範囲
(<30%, 30-70%, >70%で分類)

・複数部位の壊死所見はKDで多い

・壊死の部位は辺縁が双方とも多い

・壊死の境界が明瞭なのは結核ぽい

・石灰化を認めるのも結核ぽい

・CTN >44.5HU, CTN/M >0.7は
KDを示唆する所見.

 CTNは壊死部のCT値をエリアで評価
3箇所で評価し, 平均をとる.

 
CTN/MはCTNと付近の筋のCT値の比


・CTN ≥44.5HUは
感度89.5%, 特異度86%

・CTN/M ≥0.7は
感度94.7%, 特異度76.7% でKDを示唆する.


最終的にKD or 結核性リンパ節炎と診断された87例を
2名の読影医が評価(27例がKD, 60例がTB)

(Jpn J Radiol. 2014 Nov;32(11):637-43.)

・KDを示唆する所見;

・1/2を超えるリンパ節の壊死所見はKDよりもTBを示唆する所見となる
(KD OR 0.25)



悪性リンパ腫との比較ではどのような違いがあるか?


腹腔内LN腫大を認める結核26例と悪性リンパ腫 43例の画像所見の比較

(AJR Am J Roentgenol. 1999 Mar;172(3):619-23.)

・造影パターンの比較;
 

 均一な造影はリンパ腫を示唆する.
 

 周囲が造影されるようなパターンや混在は結核を示唆


腸管膜TB 18例とNHL 22例のCT造影パターンを評価

(World J Gastroenterol. 2008 Jun 28;14(24):3914-8.)

・NHLの大半が均一に造影されるパターンとなるが

 
TBでは均一もあるものの, 混在や辺縁のみのパターンが多い.


縦隔リンパ節のCT所見をTB 37例と悪性リンパ腫 54例で比較

(Clin Radiol. 2012 Sep;67(9):877-83.)

・造影パターンはTBでは辺縁の造影が78%であるが

 
NHLやHDでは83%が均一な造影となる.

・混在パターンはそれぞれ1割強で認められ, 差はない.

・多房性に造影されるパターンはTBに特異的な所見


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まとめると,

・活動性結核によるリンパ節腫大は内部に壊死を認め, 造影不良域が混在するリンパ節所見となる.

 非活動性では均一に造影され, 石灰化所見も多く認められる.

・同様に内部に造影不良域を認める壊死性リンパ節炎を呈する疾患に菊池病があるが, 双方の違いは壊死の範囲(結核の方が広い), 壊死部の境界が明瞭, 石灰化, 壊死部のCT値(KDの方が高くなる)といった所見が挙げられる.

・悪性リンパ腫との鑑別では, リンパ腫は基本的に均一に造影される点でことなる. 一部で混在パターンとなるが, 多房性に造影される場合は結核に特異的な所見と言える.

2022年11月4日金曜日

アスピリン投与時のピロリ菌除菌の意義は?

ピロリ菌は消化性潰瘍のリスクとなり, 除菌によりそのリスクは低下することがわかっている.

アスピリンは長期に使用される薬剤であり, これも消化性潰瘍の原因となるため, アスピリンを使用する患者でピロリ菌が陽性の場合, 除菌することも一つの方法となっている.

この除菌療法の意義を評価したRCT 

(Lancet 2022; 400: 1597–606)


HEAT trial: 英国の多施設におけるDB-RCT

・60歳以上の患者でアスピリンを使用しており,
 且つスクリーニング時にC13尿素呼気試験で陽性であった患者を対象

・スクリーニング時に潰瘍の原因となる薬剤(NSAID)や, 制酸剤や胃粘膜保護薬を使用中の患者は除外. これら薬剤は導入後は投与は可能.

・対象者をピロリ除菌群(CAM, MNZ, ランソプラゾールを1wk)とプラセボ群に割り付け, 
消化性潰瘍出血による入院や死亡リスクを比較した.

母集団


アウトカム


・開始後2.5年未満では,
 除菌群で有意に潰瘍による入院/死亡は
減少する.

・しかしながら, ≥2.5年では両者で有意差は認めない.

・対象群における発症率は最初の2.5年で2.6/1000pt-yとそもそもかなり少なめ.

 除菌による消化性潰瘍入院/死亡予防NNTは238[184-1661]程度である.


・母集団から無作為で抽出した
サンプルによる再検査では, 

 フォロー3.95年[2.76-5.28]の患者で
除菌群では90.7%が呼気試験陰性
, 

 対象群では24.0%が陰性であった.



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アスピリン投与患者におけるピロリ菌の除菌は, 2.5年以内の消化性出血による入院や死亡リスクを軽減するが, その効果はNNT 240程度とよいものではない.(そもそも母集団のリスクが少ない)

しかも2.5年以後はその差もなくなり, 有意差は消失する.

除菌しなくても24%は自然に陰性化しており(他の理由で使用されたPPIやCAMがきいたのでは、という考察がある), その影響もあるのかもしれない.


ルーチンで行う必要は乏しい可能性が高い. 


2022年10月25日火曜日

COVID-19による心外膜炎

原因不明の大量心嚢水貯留があり, 穿刺を行い排液.

その後の経過は良好で, 退院となった高齢男性の患者さん.

心外膜炎の精査で自己免疫性疾患の可能性はないですか?との相談.


元々元気で特に既往もなく, 今回の検査ではANA 160(Homo)のみ. 特異抗体は全て評価されて陰性を確認.

穿刺も一度おこなってから再貯留もなく経過している.

身体所見や病歴でも膠原病や自己免疫性疾患を疑う所見は無い.



色々相談し, 可能性低いこと, 多いのはウイルス性ですということなど説明していると, 

「そういえば, コロナ陽性になったんですよ、その時!」との話(紹介状には一言もそんなこと書いてない...)




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COVID-19関連の心外膜炎

英国における16歳以上のSARS-CoV-2感染例,
 ワクチン接種者と心筋炎/心外膜炎リスクを評価

(Nat Med. 2022 Feb;28(2):410-422.)

・ワクチンはChAdOx1, BNT162b2, mRNA-1273の3種類で評価.
 

 接種前後の日数別に上記疾患発症リスクを評価.

・SARS-CoV-2検査陽性例は検査陽性日を診断日とし, 
それからの発症リスクを評価した.


ワクチンや感染とリスク

・心筋炎のリスクはワクチンの初回投与, 2回目投与で有意に上昇
することは有名だが, 

 SARS-CoV-2感染でも上昇し, そのリスク上昇の程度は感染の方が高い(IRR 30以上)

心外膜炎や不整脈は感染例でリスクが上昇する

 ワクチン接種ではこれらのリスク上昇はほぼない(一部で不整脈が上昇している)

100万人あたりの増加症例数

・心筋炎はワクチンでは100万あたり~10例ほど増加する. COVID-19感染例では40例も増加.

 ワクチンでの上昇例は<40歳で特に多い傾向がある.

・心外膜炎はワクチンではほぼ上昇を認めない. 感染例でのみ上昇する. 100万人あたり6例. 

 不整脈も感染例で増加. 


COVID-19感染による心外膜炎症例のSystematic review

(Cureus. 2022 Aug 12;14(8):e27948.)

・COVID-19感染と心外膜炎(心筋炎合併含む)の症例報告33例を抽出.

・症状は胸痛が60.6%, 発熱は51.5%, 呼吸苦 51.5%, 咳嗽 39.4%の頻度

・治療の多くはコルヒチンとNSAIDで行われ,
 心嚢穿刺など処置が必要となった例が13/33


ちなみに, ワクチンによる心筋炎はCOVID-19に限ったことではなく, 基本的に色々なワクチンで報告がある.

ワクチンによる心筋炎リスクを評価したMeta

(Lancet Respir Med 2022; 10: 679–88)

・ワクチン全体による心筋炎発症率は100万回あたり33.3[15.3-72.6]例.

・COVID-19ワクチンと他のワクチンで差はない.


 COVID-19ワクチン: 18.2[10.9-30.3]


 非COVID-19ワクチン: 56.0[10.7-293.7], p=0.20

・COVID-19ワクチンでは, 男性例, 30歳未満, mRNAワクチン,
 2回目接種後が有意にリスクが高い.

・発症率と重症度は別物なので、そこは勘違いしないこと

 (感染による心筋炎のほうが基本的に重篤となる)

2022年10月20日木曜日

本の感想: レジデントのための内科診断の道標

献本御礼

レジデントのための内科診断の道標


小嶌祐介先生は, 京都の洛和会丸太町病院 総合診療科の上田剛士先生の元で総合診療を学び, 現在は市立奈良病院の総合診療科で週に2回の外来をしておられます.

自分も洛和会音羽病院, 丸太町病院で上田先生に教えを受けていたので, 同門といっても差し支えないでしょう. 

その影響もあって, この本はすごく馴染みがある, 親和性が高いように感じました.


上田先生の臨床は, データをしっかりと把握し, それを目の前の患者に生かして臨床を行い, 自らの経験を蓄積する, という流れがあります. 丸太町病院に集う医師はそのような姿勢に陶酔, 憧れてその門を叩きますが, 実際そのスタイルを習得し, その後も長く, 丸太町病院を離れても突き詰め続けられる医師はそこまで多くありません.

小嶌先生の本を読んで, これがそれを突き詰めた先生の行き着く先なのだということを実感しまた. 素直にすごいです.


本の内容

EBMを理解するための感度/特異度の説明や批判的吟味などの基本的な内容から始まり, 咳嗽や呼吸困難, 腹痛, 意識障害といった主訴別の各論に入ります.

文章は非常にシンプルでわかりやすく, 読みやすい割には重要な点はしっかり抑えられています. 


EBMを理解するための序章なんかはまず研修医は10回は読み込むべき内容です.

方針を変えない検査は意味がない, 検査のStudyは対象集団が何かを意識しないと実臨床で使えない, 新しい検査はどのタイミングで行うべきかを意識して採用するといった記載はシビレます. 

各論では症例をベースとし, その疫学, 身体所見の感度/特異度, 検査に続きます. 緊急的な対応が必要となる意識障害や吐血下血などは実臨床に則して緊急対応, 重要な疾患からの鑑別が意識して記載されています.


記載内容は主に診断とその疾患の概要の解説までであり, 治療内容まではカバーされていません. それでも情報量は凄まじく, この内容を全部知っているぜ なんて人は恐らくはいないでしょう. 


特に読むのを勧めたいのは初期〜後期研修医です.

まずしっかり読み込んで, この内容を頭と体に叩き込み, 生かしつつ臨床をしてみてください. 

その状態で患者を診る, 診療するという経験を積み重ねることが優れた臨床医への成長につながります. 知識がないまま闇雲に臨床をしていても, 変なBiasがはいって自惚れた医師になるだけです.

是非、良い経験を積むために, この本を有意義に使ってください.

心から超おすすめします.



最後に, 

小嶌先生は夫婦共に医師で, 子供は三人.

私も夫婦共に医師で子供は二人.

この本を書くのに3年費やしたと聞きました. この分量を1人で. 3年間.

瞼を閉じるとそのキツさが目に浮かびます. 僕もあの地獄の思い出が蘇ります. 

PCに向かいすぎて, 坐骨神経痛を発症し, 歩けなくなったあの思い出. 毎日毎日仕事が終わった後に日付が変わるまで書き続けたあの思い出...


お疲れ様でした. しばし休んでください. 

どうせ2年後あたりに改訂の話きますから. 間違いなく.

2022年10月19日水曜日

ビタミンB12の補充方法の比較: 経口と筋注

VB12はDNA合成に重要な栄養素であり,
 成人の1日必要量は1-2µg/d, 最近は3-4µgが推奨

食事中には7-30µg/日が含有され, この内1-5µgが吸収される.


貯蔵量は2-5mg/bodyであり, 従って摂取や吸収の低下〜欠乏までは3-5年かかる


欠乏の背景疾患には消化管障害や外科切除後, メトホルミンやPPIなどの薬剤による吸収効率の低下が主となる.


従って補充方法も経口よりもIMが好まれてきたが,
 いくつかのRCTでは経口補充でも十分との報告がある.

2018年にコクランが経口とIMを比較した3つのRCTをMeta-analysisしたが,
 Study間に方法の差が大きく, またNも少ないため,
 より良質な研究が望まれるとの結論.

(Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 15;3(3):CD004655.)


経口Vit B12と筋注を比較したRCT(OB12)

(BMJ Open. 2020 Aug 20;10(8):e033687.)

・スペインのPrimary care settingの多施設研究

 .
≥65歳のVB12欠乏症例283例を対象とし,
 経口補充群とIM投与群に割り付け比較.

・患者はプライマリケアを何かしらの理由で通院中の高齢者で,
 血液検査にてVB<179pg/mLを認めた群
 

・除外項目: VB12欠乏の治療中, 重度の神経/精神症状, 視神経萎縮, 葉酸欠乏合併, Stage 4 CKD, 吸収不良性疾患/手術の施行歴(十二指腸-回腸に影響が及ぶ疾患や手術, 炎症性腸疾患, Celiac disease), 慢性膵炎, 骨髄異形性/血液悪性腫瘍, 血友病/他の凝固障害で注射が困難, 重度の全身性疾患, HIV, HBV, HCV, 使用薬剤への過敏など

・IM群では1mgを隔日投与 1-2週間. 1mg/wkを3-8週目,
 以後1mg/月を9-52wk継続.

・経口投与群では1mg/dを1-8wk投与し, 以後1wk/週を9-52wk


母集団


・内因子抗体は10.8%

・PPI, メトホルミン使用例は
半数近い.

・胃切後症例はほぼ無し


アウトカム: VB12 ≥211pg/mL達成

・治療期間中のVB12上昇は両群で有意差は認めない.


 経口は連日投与の8wkで上昇は良好だが, 週1回投与となると下がる傾向がある

二次アウトカム

・QOLやVB12欠乏関連症状の頻度も両者で変わらず.
 

 しかしながらIM群ではBaselineの半数に減っている一方で
経口群ではN自体変化がない.

・そもそも症状/所見を認める患者が少ない


この経口維持量としての1mg/wkというのは妥当なのか?

・≥70歳の120例のビタミンB12欠乏患者に対して, 
2.5, 100, 250, 500, 1000µg/日を16日間投与し,
メチルマロン酸濃度を評価したRCT.(Arch Intern Med. 2005;165:1167-1172)

・投与量に依存してVB12やVB12欠乏のマーカーとなるMMA, ホモシステインの変化は良好に認められる. 

・補充時の投与量は少なくとも≥1000µg/日とすべきだし, 維持量としてある程度必要な可能性がある. 少なくとも1g/wkはやや少ない可能性がある.

 でも維持量としては連日の継続は不要なのであろう(よく見るやつ).


胃切除症例は?

26例の胃全摘を行った患者群を対象に,
 全例でBV12 1mg/日を経口投与を行い, 3ヶ月毎に長期間フォロー (GE Port J Gastroenterol. 2018 Apr;25(3):117-122. )

・患者は64歳[29-79]で, 胃全摘後65ヶ月[3-309]経過していた.

・Study導入時にVB12のIM投与をしていた例が17/26. 
 

 残り9例はVB12投与はされていなかった.

・VB12正常例は25/26

・経口補充に切替/開始後からも
VB12値は上昇し, 維持が可能


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高齢者におけるビタミンB12欠乏の補充では, 吸収する小腸が使用できれば基本的に経口内服で補充は十分に可能である. 

内因子抗体や胃切後でもそれは変わらない

補充量は1mg/日程度の使用量でよく, まず2-3ヶ月継続し, その後は減量が可能. 

ただし週1回程度の使用では再度欠乏するリスクがあるので, その点は注意. 個々に合わせて減量がBetterか.

 例えば、胃切除や内因子抗体例では連日で継続とか。そうでなければ週3回〜週1回とか。

 1日1錠で見るとか(500µg)

2022年10月13日木曜日

症例: M蛋白血症, 血小板減少, 軽度Monocytosisを認める患者の関節症状

60歳台の男性. 

7年前より血小板減少(10万前後), 3年前にM蛋白血症を指摘(IgGλ, 2g/dL程度. MGUSと判断) を認め, 定期フォローされていた.

半年前からの1日中持続する手指の強張り, 手指関節痛を自覚. 主治医に相談し精査したところ,  RF陽性を認め, コンサルトとなった.


所見は両側手関節の軽度腫脹と圧痛を認めた. MP, PIP, DIP関節は腫脹や圧痛は認められず.

手関節と指の運動に強張りを自覚しており, エコーでは手関節伸側の腱鞘の腫脹とPD亢進, 手関節の軽度Fluid貯留が認められた.

皮膚や粘膜所見に有意なものは認めず.

血液検査ではCRP 0.8mg/dL程度の上昇を認めた. 甲状腺は正常. 抗CCP抗体や抗核抗体陰性.

気になる所見としてWBC 6000台, Mo 20%(絶対数600-700/µL, 3年前から増加傾向), PLT 11万.

また, 病歴より2年前より冬季になると手指先端のチアノーゼ, また潰瘍形成を伴うことがあるとの病歴が得られた.





さて, 診断は・・・? 問題点をまとめると,

#慢性の両側手関節炎, 手指の強張り

#3年前〜MGUS, 6年前〜PLT減少, 2年前〜Mo分画の上昇

#冬季の手指のチアノーゼ, 潰瘍

#RF陽性





なぜかこの時点でピンと神の啓示が降りて, 頭にHCV?と思い浮かんだ(最近ミミッカーのことばかり考えているから?)

精査するとビンゴであり, HCV抗体が陽性.

肝障害や肝硬変所見は認められず. 上記検査異常や関節症状はHCV関連の肝外症状と考えられた.

ちょっと勉強ついでにまとめてみる.


HCV感染症の肝外症状

(N Engl J Med 2021;384:1038-52.)


HCV感染症は肝臓以外にも多くの肝外症状を呈する.

単一施設におけるHCV慢性感染症 1614例の解析では,
1202例(74%)で肝外症状が認められた

(Arthritis Rheum. 1999 Oct;42(10):2204-12.)

・>10%を超えるものとしては, 関節痛(23%), 感覚異常(17%),
 筋肉痛(15%), 掻痒感(15%), Sicca症候群(11%)

・>5%を超える検査所見としては, クリオグロブリン(40%),
 抗核抗体(10%), チロキシン低下(10%), Sm抗体(7%)


・クリオグロブリン陽性/陰性例別の症状頻度

 陽性例では関節痛, 高血圧, 掻痒感, 血管炎などの頻度が高い.

 しかしながら陰性例でも23%で関節痛は認められる.


102 studiesのMetaにて, HCVの肝外症状の頻度を評価

(Gastroenterology 2016;150:1599–1608)

・クリオグロブリン血症の頻度は最も高い.


 次いで糖尿病やSjogren症候群.
 RAのリスクも上昇する. 

 PCT: Porphyria cutanea tarda


HCV関連関節炎

(J Musculoskel Med. 2010;27:351-354)

・HCV慢性感染症の肝外症状として関節痛, 関節炎は多くを占める.

 
関節症状は軽度の関節痛から, QOLを障害する関節炎まで様々.

・多くの患者はRA-like関節炎またはクリオグロブリン血症に関連する関節炎を呈する.

・RA-likeな関節炎は小関節の左右対象性の関節炎となり, 変形をきたすことは少ない. ACRのRA基準を満たすことも多い
またRFも陽性となる.

 RAとは対照的に, HCV関連関節炎では朝の強張りが少なく, リウマチ結節やXPにてびらんを呈することが少ない. ACPAもほぼ陰性.

 両者で初期症状は類似しているため, RAを疑う患者ではACPAとHCV抗体の評価はルーチンで行う

・クリオグロブリン関連関節炎は, 中, 大関節を侵す単関節炎, または少数関節炎で, 間欠的な経過となる.


HCV関連関節炎のCohort (BioDrugs 2001; 15 (9): 573-584 )


HCV関連関節炎とRAの比較 (Autoimmunity Reviews 8 (2008) 48–51)


HCV関連関節炎の治療

(Expert Opin. Pharmacother. (2014) 15(14):2039-2045)(J Musculoskelet Med. 2010 September ; 27(9): 351–354. )

・軽度の場合はNSAIDを用いた保存的治療となる


 肝硬変が進行した患者の場合, 腎障害や食道静脈瘤からの出血リスクとなるため, NSAIDは避ける必要がある.

・NSAIDで反応しない患者では, 短期間の少量PSL(2-8mg)が使用される.

・DMARDはHCV慢性感染症の患者では,


 MTXはChild-Pugh A,B,C全ての患者で禁忌


 SSZはB, Cで禁忌


 HCQはCで禁忌とされている.

・経験的にはHCQ+少量PSLが好まれて使用されている.

シクロスポリンは抗ウイルス作用があり, 代替薬となる.

 CsAのようなシクロフィリン阻害薬はHCV感染を阻害する. HCV関連関節炎に対して, 有効な治療となる可能性があるが,
十分な検討はされていない.

 CsAを使用中のHCV患者で, CsAを中断する場合は, 緩徐に中断することが推奨される(急な中止は肝炎の増悪につながる可能性がある)

・TNF阻害薬は有効と考えられるが, HCV関連関節炎は軽度のことが多く, 過剰治療となる可能性が常にある

・RTXも効果が期待できるが, 関節炎のみでは使用しにくい.

 後述の重症クリオグロブリン血症がある場合は選択肢となる


抗ウイルス治療はHCVに関連した全ての肝臓・肝外症状に対して有用と考えられる.

 DAA治療, IFNフリー治療が可能であり, HCV治療は考慮される.

 IFNによる治療では, 治療後に関節症状が増悪する報告がある.
(IFNによる免疫賦活に起因する)


HCVによる関節炎, 血管炎を認め, Sofosbuvirベースの治療が行われた24例を解析(関節15, 血管炎9).

(Z Rheumatol 2018 · 77:621–628)

・倦怠感(FAS), TJC, SJC, VAS全て治療群で有意に低下.
治療後から速やかに低下し, 24wk後にはかなり改善を認めている.

Gr Aが治療群.
Gr Bは過去にIFNで治療された患者の対象群


HCVクリオグロブリン血症の治療

(J Musculoskelet Med. 2010 September ; 27(9): 351–354.)

・軽症〜中等症の場合, 抗ウイルス薬による治療が推奨される.

・重症の場合(消耗性疾患や糸球体腎炎, 神経障害)では免疫抑制と抗ウイルス薬の併用が望ましい

・免疫抑制療法ではRTXの併用が望ましい.
 

 HCVがポリクローナルB細胞を直接活性化し, クローナルな増生を促す知見に基づいている.

 B細胞を抑制することでクリオグロブリンの合成を阻害する.
 

 RTX 375mg/m2を毎週4週間投与し, その後抗ウイルス薬を使用.


HCVに関連する重度のCV患者(皮膚潰瘍, 糸球体腎炎, 難治性末梢神経障害) 59例を対象.

(Arthritis Rheum. 2012 Mar;64(3):843-53.)

・HCVは抗ウイルス治療を失敗しているか, 適応とされなかった症例.


・RTXによる治療群(1g/2wk, 2回. 再燃時再投与)と, 非RTX治療群(GC, アザチオプリン, シクロホスファミド, 血漿交換など)に割り付け, 比較.

・非RTX群で治療反応を認めなかった群は後にRTXを使用した

治療前〜治療後2ヶ月での反応性は, RTX群で皮膚潰瘍, 蛋白尿, 尿沈渣, 疼痛や痺れ症状は有意に改善.


HCVによるクリオグロブリン血症で, 抗ウイルス治療が失敗した24例を対象としたopen-label RCT.

(Arthritis Rheum. 2012 Mar;64(3):835-42.)

・RTX 375mg/m2/wkを4回投与群 vs 通常の治療(免疫抑制)群に割り付け,
6ヶ月後のCV寛解率を比較した.


アウトカム: 6ヶ月後の寛解率はRTX群で83%, 対象群で8%のみ.


HCVの肝外症状では関節炎を伴う頻度は高く, 関節炎にはRA-likeな関節炎と, クリオグロブリン血症に伴う関節炎がある.

前者は手指の小関節炎で, NSAIDやDMARDが効果的. IFNフリーHCV治療も有用である.

後者は重症例ではRTXが有効. またHCV治療も効果的であり, 双方で治療を検討する.


補足: HCV患者における末梢血の特徴

312例の献血検体(HCV陽性例が144例含む)におけるViral loadと血球の関係を評価した報告.

(Biomed Res Int. 2015;2015:429290. )

・血液中のHCVウイルス量と関連するパラメータ;
 


・PLT低値は有意にHCVウイルス量との相関性が認められる.
 

・他にRBC, MONO, TPO(トロンボポエチン)高値はウイルス量と相関

・この因子をスコア化すると,

 全体のスコア(0-7点)では, 4点で感度75.6%, 特異度 78.5%


 TPOを除くスコア(0-5点)では, 3点で感度76.8%, 特異度 75.7%で
HCV感染を示唆する.


5281件の症例データ(コントロール群122例でHCV感染)の評価

(BMC Public Health (2021) 21:1388)

・慢性HCV感染症における単球/PLT比を評価.

・Mo/PLTx103/µL で計算する.
これが高いほど, HCV患者の可能性が上昇する結果.


HCV感染では, 肝障害に関係なく血液中PLTは低下し, Moは上昇する傾向が認められる.

この傾向は血液中Viral loadに相関が認められる.

2022年10月10日月曜日

痛風既往のない虚血性心疾患患者に対するアロプリノールは予後を改善させない

尿酸降下薬の適応についてはいろいろあるものの,

基本的には痛風を繰り返す症例や尿酸結石, 慢性の痛風関節炎で適応となる.

CKDや無症候性の尿酸降下薬は国内のガイドラインでは言及はされているが, それも年々推奨は低下している, のかそのままなのか...

参考 : CKDと尿酸降下薬


この度, 痛風発作の既往がない, 虚血性心疾患患者に対するアロプリノールのRCTが発表

(Lancet 2022; 400: 1195–205)

ALL-HEART: 60歳以上の虚血性心疾患既往がある患者で, 痛風の既往がない患者群を対象とし, アロプリノール群と通常治療群に割り付け比較した, 5000人規模のOpen-label RCT.

・中等度〜重度の腎障害(eGFR<60mL/min/1.73m2), 中等度以上のHF, 著明な肝疾患, 薬剤による重度薬疹の既往, 5年以内の悪性腫瘍症例は除外

・途中で, 中等度の腎障害(eGFR 30-59)症例も組み込まれるように変更

・アロプリノールは600mg/d(腎障害例では最大300mg/d)

・アウトカムは心血管イベントリスクを比較した.


母集団

・母集団のUA値は 5.9±1.4mg/dL (mmol/L → 1/0.059 mg/dL)


アウトカム



・4.8±1.5年間のフォロー

・虚血性心疾患, 心血管イベント全体で
両者で有意差は認めず.

基礎UA値で階層分けしたSub解析でも
アウトカムに有意差は認めず