Pelvic Congestion Syndrome: 骨盤鬱血症候群
(Semin Ultrasound CT MR. 2021 Feb;42(1):3-12.)(Medicina (Kaunas). 2021 Sep 30;57(10):1041.)
・女性の慢性骨盤痛を呈する病態であり, しばしば診断されずに見逃される疾患の1つ
・生殖腺静脈の逆流と静脈のうっ血があり, 卵巣や子宮付近の静脈瘤を認め, さらに 長時間の立位や性交, 月経で増悪する慢性の腰痛や骨盤痛を呈する.
疼痛は時に片側, 両側性双方あり
・通常, 20-45歳の若い多産婦で発症し, 子宮内膜症, 子宮腺筋症, 泌尿器科疾患, 腹部臓器疾患など他の原因を除外した上で診断される.
卵巣静脈瘤を持つ患者の60%でPCSを発症
また慢性骨盤痛の30%でPCSを認める.
・しばしば下肢静脈不全や外陰部静脈瘤を合併する
・PCSは大きく2つの原因が考えられている
1つは静脈弁の欠如や機能不全によるもの.
もう一つは外部からの静脈の圧排による鬱血や逆流. これにはMay-Thurner症候群やNutcracker症候群が挙げられる
・卵巣静脈は左は腎静脈, 右は下大静脈に流入する
May-Thurner症候群では, 左総腸骨Vが右総腸骨AとL5で圧排され 内腸骨静脈に逆流が生じ, その結果静脈瘤を形成.
Nutcraker症候群では, 左腎静脈がAoとSMAで圧排され, 卵巣静脈瘤を形成する.
PCSの典型的な臨床的特徴 (Arch Gynecol Obstet. 2016 Feb;293(2):291-301.)
・3-6ヶ月間持続する骨盤の疼痛
・疼痛は鈍痛, 重苦しい感じで, 片側性であるが, 時に両側性や変動性のことがある
・疼痛は月経前や月経中に増悪.
また, 長時間の立位, 歩行, 持ち上げる行為, 姿勢を変えるなど腹圧を増加させる行為で増悪する
・性交中や性交後, 妊娠中にも増悪.
・疼痛は治るまで数時間かかることもある
・下腹部痛や疝痛, 腰痛, 排尿障害を伴う例も多い
単一施設のける腹部CT 2384件の解析. (PLoS One. 2019 Apr 2;14(4):e0213834.)
・骨盤内の静脈拡張に影響を及ぼす疾患は除外され, 骨盤内静脈瘤の頻度とCT前の症状を評価した.
・骨盤内静脈拡張は12%で検出, 閉経前女性で21%, 閉経後は10%.
・原因不明の慢性骨盤痛の頻度は集団全体で2%
閉経前女性が8%, 閉経後女性が0.5% , 静脈拡張例が18%.
・CG1: 静脈拡張(+), 慢性骨盤痛(-) CG2: 静脈拡張(-), 慢性骨盤痛(-)
・PCS群では下腹部痛や腰痛, 鼠径部痛の頻度も高い.
疝痛や血尿, 排尿障害, 頻尿といった症状もきたしやすい
PCSの診断はCT, MRIの画像検査や経膣USが有用
・経膣USでは, 直径4mm以上の拡張, 蛇行, 血流が遅延(<3cm/秒), または逆流を認める傍子宮・子宮卵管静脈を確認する.
または骨盤内静脈瘤と喉痛した子宮筋層の拡張した弓状静脈を認める
・USではバルサルバ法を用いることで逆流検出の感度を上げるなど動的な評価も可能
・CT, MRIでも静脈瘤は検出可能であるが, 臥位で撮像するため, 骨盤静脈の拡張を検出する感度は低下する.
CT静脈造影は逆流の程度を定量化可能.
MRIでは子宮内膜症や周囲臓器, 筋骨格の評価も可能であり, 慢性骨盤疼痛全体の評価に向く
(Br J Radiol 2020; 94: 20200881.)・経カテーテル静脈造影はPCS診断のGold standardであるが, 画像検査で診断がつかない場合や, インターベンションが予定されている患者で行う
・腹部触診における卵巣の圧痛と, 性交後の疼痛増強があると 他の骨盤痛疾患との鑑別に感度 94%, 特異度 77%で鑑別が可能とする報告もある.
PCSの治療
・PCSの治療は主に静脈瘤に対する塞栓術や硬化療法が多い.
難治性では外科手術も行われる.
・内科的治療では, 鎮痛, メドロキシプロゲステロン, GnRH agonistが使用される.
・二次性(静脈の圧迫による逆流や静脈瘤の形成)では, ステント留置や, 圧排の解除が治療となる