高齢男性, 両側の耳下腺と涙腺の腫脹を認め紹介となった.
画像検査では上記以外にLN腫大や他臓器の腫大などは認められず.
血液検査ではIgG 2500, IgG4 700台とIgG4の顕著な上昇を認め, IgG4関連疾患(ミクリッツ病)と考えられた.
CRPは陰性, LDH上昇もなく, IL-2Rも正常.
ところが, 涙腺の生検を行うと, MALTリンパ腫を疑う病理像を認め, IgG4+ 形質細胞は認められない結果であった. 最終的にMALTリンパ腫と診断された.
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ミクリッツ病の診断基準は以下のとおり.
A. 診断項目
1. 涙腺・耳下腺・顎下腺の持続性(3か月以上)、対称性に2ペア以上の腫脹を認める。
2. 血液学的に高IgG4血症(135 mg/dL以上)を認める。
3. 涙腺・唾液腺組織に著明なIgG4陽性形質細胞浸潤(強拡大5視野でIgG4+/IgG+が50%以上)を認める。
B. 鑑別疾患
シェーグレン症候群、サルコイドーシス、キャッスルマン病、多発血管炎性肉芽腫症、悪性リンパ腫、癌などを除外する。
<診断のカテゴリー>
Definite: ①A1+A2+Bを満たすもの ②A1+A3+Bを満たすもの
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これより, 病理所見がなくとも, 臨床所見とIgG4値, そして除外診断ができればミクリッツ病と診断される.
・その除外診断には病理が重要な疾患が多く含まれており, 結局病理は大事.
そして, 今症例では臨床所見や血液検査では非常にミクリッツ病に近い状態ではあったが, それが組織検査を行うとMALTリンパ腫であったという症例.
悪性リンパ腫, 特にMALTリンパ腫では, IgG4が上昇する点, 眼窩や唾液腺にMassを形成する点, また, 肥厚性硬膜炎の原因となり, IgG4-RDに類似した病態となることがある.
日本国内からの報告. 1014例の眼窩内リンパ増殖性疾患患者の解析
(Jpn J Ophthalmol (2013) 57:573–579)
・MALTリンパ腫が404例(39.8%)
その他の悪性リンパ腫が156例(15.4%)
IgG4以外の眼窩炎症が191例(18.8%)
IgG4関連眼窩炎症が219例(21.6%)
IgG4陽性MALTリンパ腫が44例(4.3%)
・これらデータからは, 眼窩内のMALTリンパ腫のおよそ10%はIgG4が陽性.また, 眼窩内リンパ増殖性疾患でIgG4が陽性の場合, 44/263(17%)がMALTリンパ腫 という計算となる.
中国において, 眼窩内MALTリンパ腫を診断された成人症例121例を解析
(OncoTargets and Therapy 2020:13 5755–5761)
・男性例80例, 女性41例. 年齢は42-71歳(平均53.7±121.5)
・MALTリンパ腫のうち,
IgG陽性例が90.91%(110例),
IgG4陽性例が61.98% (75例).
さらに37例はIgG4/IgG >40%であった.
30.58%はIgG4-RODの診断基準を満たした.
・IgG陽性細胞, IgG4陽性細胞は,
びまん性分布, 局所性分布, 散在性分布, 発現を認めないパターンがそれぞれあり,
IgG4/IgGとの相関性は無し.
IgG4-RDの鑑別としてMALTリンパ腫が重要であることは疑いはないが,
IgG4-RDからMALTリンパ腫を発症するのか,
IgG4産生細胞がMALTリンパ腫に変化するのかは議論がある,
・IgG4-RDとMALTリンパ腫の関連では, 圧倒的に涙腺病変での報告が多い.
(Journal of Neuro-Ophthalmology 2014;34:400–407 doi: 10.1097/WNO.0000000000000193)
・他にIgG4が陽性となる悪性リンパ腫の報告では,
皮膚のMarginal zone lymphoma, 肺のMALTリンパ腫での報告. 特にMargical zone lymphomaの報告は多い.(MALT自体がMargical zone lymphomaの1つ)
Nodular lymphocyte predominant Hodgkin Lymphoma
Follicular lymphoma
DLBCL
Plasmablastic lymphoma. などの症例報告が認められた.