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2021年7月30日金曜日

全身性の膿疱を伴う疾患

数日の経過で全身性の膿疱が出現, 拡大し紹介となった患者さん.

膿疱は体幹, 四肢に広がり, それぞれの膿疱は数mm, 癒合性はなく, 膿疱周囲には軽度紅斑あり.

紅斑自体は膿疱に合わせて認められる程度で, 紅皮症のようにびまん性に広がっていない.

38度台の発熱と軽度のCRP上昇を認めるのみ.


薬剤使用歴はなし.


全身性の膿疱の鑑別はどのようなものを考えるべきだろうか?

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ここで押さえておきたい疾患は, AGEPとAGPB, GPP, PPPの4つ.

AGEP: 急性汎発性発疹性膿皮症

AGPB: 急性汎発性嚢胞性細菌疹

GPP: 汎発性膿疱性乾癬

PPP: 掌蹠膿疱症


AGPB

AGEP

GPP
汎発性膿疱性乾癬

PPP
掌蹠膿疱症

年齢

小児, 成人

成人

成人

成人

原因

溶連菌感染

薬剤, Enterovirus

上気道感染など

上気道感染など

臨床的特徴

四肢優位に分布する散在性の膿疱. 紅斑のHaloを伴う. 皮膚は正常

びまん性に発赤した皮膚上に癒合性の膿疱を認める

鱗屑状, 発赤した皮膚に癒合性の膿疱を認める

手掌や足裏の紅斑や鱗屑を伴う皮膚に生じる小水疱, 深在性の膿疱

ASO

上昇

不明

上昇もある

不明

発熱

様々

あり

遷延性の発熱

なし

白血球上昇

あり

あり

あり

不明

経過

Self-limiting

Self-limiting

再発性

遷延性

病理

角質下の海綿状膿疱 
± 白血球破砕性血管炎

角質下の海綿状膿疱 
± 白血球破砕性血管炎 
± 好酸球浸潤

角質下の海綿状膿疱 
± 尋常性乾癬

角質下の海綿状膿疱 
+ 好中球浸潤 
+ 膿内に多核球や上皮細胞の残滓を伴う

(The Journal of Dermatology Vol. 30: 141–145, 2003)

AGEP: Acute Generalized Exanthematous Pustulosis. 
急性汎発性発疹性膿皮症
(J Am Acad Dermatol 2015;73:843-8.)
・薬剤による急性の非毛包性の無菌性膿疱を伴う紅斑所見
・主に抗菌薬が原因として多く, 使用後48時間以内に急性に出現し,
 発熱や白血球増多を伴うことが多い
 薬疹として, TEN/SJS, DIHSと並んで押さえておくことが大事な皮疹
・重症例では粘膜障害や臓器障害を伴う(20%程度)

AGEPの診断スコア(EuroSCAR Study)

他の重症薬疹との比較

AGEP 58例の解析(EuroSCSR>4で定義)
(British Journal of Dermatology (2013) 169, pp1223–1232)
・臓器障害を呈したのは10例(17%)
・原因薬剤は抗菌薬が多い

AGEPは薬剤以外に感染症でも生じる報告がある
・マイコプラズマ感染症に伴うAGEPの症例報告が数例.
 Arch Dermatol. 2009 Jul;145(7):848-9. J Dermatol. 2016 Jan;43(1):113-4. Rev Chilena Infectol. 2016 Feb;33(1):66-70. 

・Parvovirus B19感染症によるAGEP
 Journal of Dermatology 2007; 34: 121–123 

・他に連鎖球菌, EBV, CMV, アデノウイルスによる報告がある.
感染症は特に小児例で多い
 Pediatr Dermatol. 2021 Mar;38(2):424-430. 



AGPB: Acute Generalized Pustular Bacterid. 
急性汎発性膿疱性細菌疹
(J Investig Allergol Clin Immunol 2019; Vol. 29(5): 403-404)
・細菌感染症に伴う全身性の膿疱を呈する病態.
・局所の感染症状が先行(咽頭炎や扁桃炎など)する.

 β溶連菌による報告が多く, SuperantigenやToxinがTNFαやINF-γを誘導し, C3, C5aカスケードを活性化させ, 表皮への好中球の集簇を促す.
・無菌性の膿疱で, 各膿疱は癒合せず, 大きさは数mm.
紅斑によるHaloを伴う.
・発熱や炎症反応の亢進を伴う.

 β溶連菌の関連がある場合はASOの上昇も認められる.
・大半は積極的な治療なしでも, 12日以内に改善を認める.(7-14日)

・治療は経過観察や抗菌薬治療, ステロイドが試されるが,
ステロイドの有用性は議論がある.
  
抗菌薬は使用されることが多い.
・一部症例では糸球体腎炎や関節痛, 強直性脊椎炎の合併も報告あり.
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2021年7月28日水曜日

多中心性キャスルマン病の肺病変, IgG4-RDとの違い

参考: Multicentric Castleman Disease(MCD)

参考: IgG4関連疾患と多中心性キャスルマン病


中年男性. 肺の小結節, 一部Consolidation, 気管支拡張を認め, 

 血液IgGは多クローナルに上昇. CRP 3-4mg/dLと慢性的に上昇を認めるものの

 感染症検査はいずれも陰性. 特異的自己抗体も陰性.

 原因不明とのことで紹介となった.


 膠原病を示唆する他の臓器症状, 所見は認められず. IgG4は軽度上昇あるが, IgG4/IgG比は10%程度でそこまで有意な上昇とも言い難い. 

 サルコイドーシスとしてもBHLもなく, 決め手に欠ける状況(基本除外診断だし...). 

 CTを見直すと, 頸部, 縦隔, 腹腔Ao周囲, 鼠径に部分的には1cm強のリンパ節が目立つ印象. 脾腫も著明ではないが, 年齢にしては大きい印象.

 慢性炎症, 多クローン性IgG上昇, 全身性リンパ節の軽度の腫脹.

 これってMCDによる肺病変の可能性ってあるのだろうか? という疑問.

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MCDによる肺病変

(Radiology 1998;209:477-48)

・MCDの一部では肺病変を呈する.

 報告からは, リンパ球性間質性肺炎の報告が多いが, まとまった報告はあまりない.

・縦隔リンパ節や肺門部リンパ節の腫大は多く認められる所見

MCDで肺病変を認めた12例のCT所見:

・全例で境界不明瞭の小葉中心性陰影を認めた.


 他に壁の薄い嚢胞性病変が10例


 気管支血管束の肥厚が10例


 小葉間隔壁肥厚が9例

 頻度は落ちるが, 他に胸膜下結節, GGO, Consolidation, 気管支拡張が認められた.


画像の例.

(Radiology 1998;209:477-481)

HIV+ MCD患者における肺病変の画像例

(J Thorac Imaging 2007;22:207–211)

・様々なパターンの画像所見を呈しうる.
 小葉中心性陰影, 小葉間隔壁肥厚, GGO, Consolidation, 胸水, 気管支血管束肥厚など.
 孤発性の肺結節もあり.


しばしばiMCDとの鑑別で重要となるIgG4-RD.
このIgG4-RDでも肺病変を呈することがある;

2011-2015年に診断されたIgG4関連疾患 248例中
 胸腔内病変を認めたのは87例
(Medicine 94(50):e2150)
・平均年齢は54.19±13.80歳
・肺実質の結節病変が25.3%
 肺胞浸潤病変が20.7%
 GGOが9.2%
・他に気管病変, 胸膜病変
縦隔病変など様々ある.

IgG4-RDによる呼吸器病変の診断基準案
(Respiratory Investigation 2016;54:130-132)


PC-iMCD(形質細胞性MCD)による肺病変とIgG4-RDによる肺病変の比較
(J. Pers. Med. 2020, 10, 269; doi:10.3390/jpm10040269)
・臨床所見の比較では,
 
 PC-iMCDではより中年 vs IgG4-RDは高齢

 膵臓や唾液腺はIgG4-RDで多い
 
PLTの上昇やAlb低下はiMCD
 
IgG4は双方上昇するが, IgG4/IgG比は
IgG4-RDでより上昇する.

・病理所見では, Sheet-like plasmacytosisや好酸球浸潤が異なる
 Sheet-like plasmacytosisはiMCD,
 好酸球浸潤はIgG4-RDで多い.

同様にiMCDとIgG4-RDによる
肺病変症例の比較
(Histopathology 2017, 70, 1114–1124. DOI: 10.1111/his.13186)
・同様にIgG4-RDではより高齢.
・また, 検査では炎症反応や貧血, IgG4/IgG比に差がある
・病理所見ではIgG4-RDでより線維性変化や好酸球浸潤が多い.

2021年7月26日月曜日

B型肝炎関連結節性多発動脈炎(HBV-PAN)

症例: 中年〜高齢女性の発熱, 下肢の皮疹

 1ヶ月の経過での発熱, 下肢痛, 下肢の点状紫斑を主訴に受診された患者さん.

 IgA血管炎かなー?と思い, 診察すると, 点状紫斑以外に下腿全体のLivedo racemosaが目立った

 さらに同時期より下痢も持続しており, これは結節性多発動脈炎か... という印象.

 血液検査でHBs抗原が陽性となり, 軽度の肝障害もあり. 

 HBV-PANの可能性が挙がった.

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PAN(結節性多発動脈炎)は, 中型血管の炎症を主とする病態であり,

特発性以外に二次性の原因がある.


(Clin Exp Rheumatol 2018; 36 (Suppl. 111): S135-S142.)

二次性ではHBV, HCV, FMF, ADA2欠損が関連するものがある


HBVに関連するPAN(HBV-PAN)

(J CLIN EXP HEPATOL 2013;3:204–212)(Autoimmunity Reviews 15 (2016) 564–570)

・PANの二次性の原因として最も多いものがHBV感染症

 HBVワクチンの普及により頻度は36%から5%に低下している


 フランスのデータでは, 1982-1986年ではHBV-PANはPANの48.8%を占めていたが, 1997-2002年には17.4%まで低下.

・原因として考えられている機序は,


 ウイルスの複製が血管壁を直接的に障害している可能性


 免疫複合体の沈着, 形成による血管壁の障害

 これらが補体を活性化させ, 好中球を引きつけ, 炎症が生じる

・HBV以外にも, HCVやHTLV, CMV, HIVなど様々なウイルスでのPANの報告がある.

肝炎ウイルスによる血管炎では, 
HBV-PANとHCVによるクリオグロブリン血症が有名

( J CLIN EXP HEPATOL 2013;3:204–212)


HBV-PANの特徴

・HBV感染の契機となったエピソード〜PAN発症までは596±628日(範囲30-1695日)

・HBV感染の診断〜の期間は217±800.9日

・PAN診断時の肝炎は通常軽症のことが多い

 軽度のAST, ALT上昇のみで, Bil上昇や黄疸を伴うことは少ない.

 肝炎と同時にPANが発症する例も報告されている.


 肝炎の増悪の前駆症状としてPANが出現する例もある

・免疫複合体の沈着により補体が活性化するため,
 PANの活動期では消費性に補体は低下する事が多い


PAN 348例の解析 

(ARTHRITIS & RHEUMATISM Vol. 62, No. 2, February 2010, pp 616–626)

・フランスのRetrospective study
PAN348名(HBV-PAN 123名; 35.3%含む)の解析

・患者群の特徴;


全体

Non-HBV

HBV

男性/女性

1.7

1.6

2.1

診断時年齢

51.2±17.3y

50.9±17.8y

51.7±16.4y

全身症状

93.1%

92.9%

93.5%

 発熱

63.8%

60.4%

69.9%

 体重減少

69.5%

66.2%

75.6%

 筋肉痛

58.6%

61.8%

52.8%

 関節痛

48.9%

47.1%

52%

神経症状

79%

74.2%

87.8%

 末梢神経障害

74.1%

68%

85.4%

 多発単神経炎

70.7%

64.4%

82.1%

 CNS症状

4.6%

4.9%

4.1%


全体

Non-HBV

HBV

尿路腎障害

50.6%

44.4%

61.8%

 血尿

15.2%

15.1%

15.4%

 タンパク尿(>0.4g/d)

21.6%

20.4%

23.6%

 新規発症のHTN

34.8%

27.1%

48.8%

 重度のHTN

6.9%

4.9%

10.6%

 精巣炎卵巣炎

17.3%

13.1%

24.1%

皮膚所見

49.7%

57.8%

35%

 結節

17.2%

23.6%

5.7%

 紫斑

22.1%

24.4%

17.9%

 Livedo

16.7%

20%

10.6%

末梢浮腫

24.4%

22.2%

28.5%

消化器症状

37.9%

31.1%

50.4%

 腹痛

35.6%

27.6%

50.4%

 消化管出血

3.4%

3.6%

3.3%

 消化管穿孔

4.3%

3.6%

5.7%

 胆嚢炎

3.7%

2.2%

6.5%

 虫垂炎

1.1%

0.9%

1.6%

 膵炎

3.7%

2.7%

5.7%

 手術必要とする病態

13.8%

10.7%

19.5%


全体

Non-HBV

HBV

心血管障害

22.4%

20.4%

26%

 血管炎関連心筋症

7.5%

4.4%

13%

 心外膜炎

5.5%

4.9%

6.5%

 手指尖端潰瘍

6%

5.3%

7.3%

 末端壊死病変

6.3%

6.2%

6.5%

眼症状

8.6%

7.6%

10.6%

 網膜血管炎

4.3%

3.6%

5.7%

肺病変




 咳嗽

5.7%

6.2%

4.9%

 浸潤影

3.4%

4.4%

1.6%

 胸水

3.4%

3.1%

4.1%


検査所見:

HBV-PANの治療
・B型肝炎の治療を基本とし, 加えて短期的(〜2週間)なGCを用いる.

 重症例では血漿交換を行う.
・長期間のステロイドはウイルス量の増加や慢性肝炎への進行,
 肝硬変リスクとなりえるため, 避ける

致命的な臓器障害がある場合,
・PSL 1mg/kg/dの高用量GCを
2週間を限度にまず使用する.
・2週間後には抗ウイルス薬による
Seroconversionを促すため, 
GCは終了する.
・コントロールがつかない症例で血漿交換を抗ウイルス治療により, HBVが消失するまで繰り返す

HBV-PANはnon-HBV-PANと比較して再燃リスクは低い
・non-HBV-PANは再燃HR 2.27[1.11-4.63]
・皮膚症状も再燃リスク因子; HR 1.85[1.08-3.23]
 
 特に結節がある場合はリスク: HR 2.21[1.30-3.78]