症例: 中年〜高齢女性の発熱, 下肢の皮疹
1ヶ月の経過での発熱, 下肢痛, 下肢の点状紫斑を主訴に受診された患者さん.
IgA血管炎かなー?と思い, 診察すると, 点状紫斑以外に下腿全体のLivedo racemosaが目立った
さらに同時期より下痢も持続しており, これは結節性多発動脈炎か... という印象.
血液検査でHBs抗原が陽性となり, 軽度の肝障害もあり.
HBV-PANの可能性が挙がった.
--------------------------
PAN(結節性多発動脈炎)は, 中型血管の炎症を主とする病態であり,
特発性以外に二次性の原因がある.
(Clin Exp Rheumatol 2018; 36 (Suppl. 111): S135-S142.)
・二次性ではHBV, HCV, FMF, ADA2欠損が関連するものがある
HBVに関連するPAN(HBV-PAN)
(J CLIN EXP HEPATOL 2013;3:204–212)(Autoimmunity Reviews 15 (2016) 564–570)
・PANの二次性の原因として最も多いものがHBV感染症
HBVワクチンの普及により頻度は36%から5%に低下している
フランスのデータでは, 1982-1986年ではHBV-PANはPANの48.8%を占めていたが, 1997-2002年には17.4%まで低下.
・原因として考えられている機序は,
ウイルスの複製が血管壁を直接的に障害している可能性
免疫複合体の沈着, 形成による血管壁の障害
これらが補体を活性化させ, 好中球を引きつけ, 炎症が生じる
・HBV以外にも, HCVやHTLV, CMV, HIVなど様々なウイルスでのPANの報告がある.
肝炎ウイルスによる血管炎では,
HBV-PANとHCVによるクリオグロブリン血症が有名
( J CLIN EXP HEPATOL 2013;3:204–212)
HBV-PANの特徴
・HBV感染の契機となったエピソード〜PAN発症までは596±628日(範囲30-1695日)
・HBV感染の診断〜の期間は217±800.9日
・PAN診断時の肝炎は通常軽症のことが多い
軽度のAST, ALT上昇のみで, Bil上昇や黄疸を伴うことは少ない.
肝炎と同時にPANが発症する例も報告されている.
肝炎の増悪の前駆症状としてPANが出現する例もある
・免疫複合体の沈着により補体が活性化するため,
PANの活動期では消費性に補体は低下する事が多い
PAN 348例の解析
(ARTHRITIS & RHEUMATISM Vol. 62, No. 2, February 2010, pp 616–626)
・フランスのRetrospective study
PAN348名(HBV-PAN 123名; 35.3%含む)の解析
・患者群の特徴;
| 全体 | Non-HBV | HBV |
男性/女性 | 1.7 | 1.6 | 2.1 |
診断時年齢 | 51.2±17.3y | 50.9±17.8y | 51.7±16.4y |
全身症状 | 93.1% | 92.9% | 93.5% |
発熱 | 63.8% | 60.4% | 69.9% |
体重減少 | 69.5% | 66.2% | 75.6% |
筋肉痛 | 58.6% | 61.8% | 52.8% |
関節痛 | 48.9% | 47.1% | 52% |
神経症状 | 79% | 74.2% | 87.8% |
末梢神経障害 | 74.1% | 68% | 85.4% |
多発単神経炎 | 70.7% | 64.4% | 82.1% |
CNS症状 | 4.6% | 4.9% | 4.1% |
| 全体 | Non-HBV | HBV |
尿路, 腎障害 | 50.6% | 44.4% | 61.8% |
血尿 | 15.2% | 15.1% | 15.4% |
タンパク尿(>0.4g/d) | 21.6% | 20.4% | 23.6% |
新規発症のHTN | 34.8% | 27.1% | 48.8% |
重度のHTN | 6.9% | 4.9% | 10.6% |
精巣炎, 卵巣炎 | 17.3% | 13.1% | 24.1% |
皮膚所見 | 49.7% | 57.8% | 35% |
結節 | 17.2% | 23.6% | 5.7% |
紫斑 | 22.1% | 24.4% | 17.9% |
Livedo | 16.7% | 20% | 10.6% |
末梢浮腫 | 24.4% | 22.2% | 28.5% |
消化器症状 | 37.9% | 31.1% | 50.4% |
腹痛 | 35.6% | 27.6% | 50.4% |
消化管出血 | 3.4% | 3.6% | 3.3% |
消化管穿孔 | 4.3% | 3.6% | 5.7% |
胆嚢炎 | 3.7% | 2.2% | 6.5% |
虫垂炎 | 1.1% | 0.9% | 1.6% |
膵炎 | 3.7% | 2.7% | 5.7% |
手術必要とする病態 | 13.8% | 10.7% | 19.5% |
| 全体 | Non-HBV | HBV |
心血管障害 | 22.4% | 20.4% | 26% |
血管炎関連心筋症 | 7.5% | 4.4% | 13% |
心外膜炎 | 5.5% | 4.9% | 6.5% |
手指尖端潰瘍 | 6% | 5.3% | 7.3% |
末端壊死病変 | 6.3% | 6.2% | 6.5% |
眼症状 | 8.6% | 7.6% | 10.6% |
網膜血管炎 | 4.3% | 3.6% | 5.7% |
肺病変 |
|
|
|
咳嗽 | 5.7% | 6.2% | 4.9% |
浸潤影 | 3.4% | 4.4% | 1.6% |
胸水 | 3.4% | 3.1% | 4.1% |
HBV-PANの治療
・B型肝炎の治療を基本とし, 加えて短期的(〜2週間)なGCを用いる.
重症例では血漿交換を行う.
・長期間のステロイドはウイルス量の増加や慢性肝炎への進行,
肝硬変リスクとなりえるため, 避ける
致命的な臓器障害がある場合,
・PSL 1mg/kg/dの高用量GCを
2週間を限度にまず使用する.
・2週間後には抗ウイルス薬による
Seroconversionを促すため,
GCは終了する.
・コントロールがつかない症例で血漿交換を抗ウイルス治療により, HBVが消失するまで繰り返す
HBV-PANはnon-HBV-PANと比較して再燃リスクは低い
・non-HBV-PANは再燃HR 2.27[1.11-4.63]
・皮膚症状も再燃リスク因子; HR 1.85[1.08-3.23]
特に結節がある場合はリスク: HR 2.21[1.30-3.78]