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2021年7月26日月曜日

B型肝炎関連結節性多発動脈炎(HBV-PAN)

症例: 中年〜高齢女性の発熱, 下肢の皮疹

 1ヶ月の経過での発熱, 下肢痛, 下肢の点状紫斑を主訴に受診された患者さん.

 IgA血管炎かなー?と思い, 診察すると, 点状紫斑以外に下腿全体のLivedo racemosaが目立った

 さらに同時期より下痢も持続しており, これは結節性多発動脈炎か... という印象.

 血液検査でHBs抗原が陽性となり, 軽度の肝障害もあり. 

 HBV-PANの可能性が挙がった.

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PAN(結節性多発動脈炎)は, 中型血管の炎症を主とする病態であり,

特発性以外に二次性の原因がある.


(Clin Exp Rheumatol 2018; 36 (Suppl. 111): S135-S142.)

二次性ではHBV, HCV, FMF, ADA2欠損が関連するものがある


HBVに関連するPAN(HBV-PAN)

(J CLIN EXP HEPATOL 2013;3:204–212)(Autoimmunity Reviews 15 (2016) 564–570)

・PANの二次性の原因として最も多いものがHBV感染症

 HBVワクチンの普及により頻度は36%から5%に低下している


 フランスのデータでは, 1982-1986年ではHBV-PANはPANの48.8%を占めていたが, 1997-2002年には17.4%まで低下.

・原因として考えられている機序は,


 ウイルスの複製が血管壁を直接的に障害している可能性


 免疫複合体の沈着, 形成による血管壁の障害

 これらが補体を活性化させ, 好中球を引きつけ, 炎症が生じる

・HBV以外にも, HCVやHTLV, CMV, HIVなど様々なウイルスでのPANの報告がある.

肝炎ウイルスによる血管炎では, 
HBV-PANとHCVによるクリオグロブリン血症が有名

( J CLIN EXP HEPATOL 2013;3:204–212)


HBV-PANの特徴

・HBV感染の契機となったエピソード〜PAN発症までは596±628日(範囲30-1695日)

・HBV感染の診断〜の期間は217±800.9日

・PAN診断時の肝炎は通常軽症のことが多い

 軽度のAST, ALT上昇のみで, Bil上昇や黄疸を伴うことは少ない.

 肝炎と同時にPANが発症する例も報告されている.


 肝炎の増悪の前駆症状としてPANが出現する例もある

・免疫複合体の沈着により補体が活性化するため,
 PANの活動期では消費性に補体は低下する事が多い


PAN 348例の解析 

(ARTHRITIS & RHEUMATISM Vol. 62, No. 2, February 2010, pp 616–626)

・フランスのRetrospective study
PAN348名(HBV-PAN 123名; 35.3%含む)の解析

・患者群の特徴;


全体

Non-HBV

HBV

男性/女性

1.7

1.6

2.1

診断時年齢

51.2±17.3y

50.9±17.8y

51.7±16.4y

全身症状

93.1%

92.9%

93.5%

 発熱

63.8%

60.4%

69.9%

 体重減少

69.5%

66.2%

75.6%

 筋肉痛

58.6%

61.8%

52.8%

 関節痛

48.9%

47.1%

52%

神経症状

79%

74.2%

87.8%

 末梢神経障害

74.1%

68%

85.4%

 多発単神経炎

70.7%

64.4%

82.1%

 CNS症状

4.6%

4.9%

4.1%


全体

Non-HBV

HBV

尿路腎障害

50.6%

44.4%

61.8%

 血尿

15.2%

15.1%

15.4%

 タンパク尿(>0.4g/d)

21.6%

20.4%

23.6%

 新規発症のHTN

34.8%

27.1%

48.8%

 重度のHTN

6.9%

4.9%

10.6%

 精巣炎卵巣炎

17.3%

13.1%

24.1%

皮膚所見

49.7%

57.8%

35%

 結節

17.2%

23.6%

5.7%

 紫斑

22.1%

24.4%

17.9%

 Livedo

16.7%

20%

10.6%

末梢浮腫

24.4%

22.2%

28.5%

消化器症状

37.9%

31.1%

50.4%

 腹痛

35.6%

27.6%

50.4%

 消化管出血

3.4%

3.6%

3.3%

 消化管穿孔

4.3%

3.6%

5.7%

 胆嚢炎

3.7%

2.2%

6.5%

 虫垂炎

1.1%

0.9%

1.6%

 膵炎

3.7%

2.7%

5.7%

 手術必要とする病態

13.8%

10.7%

19.5%


全体

Non-HBV

HBV

心血管障害

22.4%

20.4%

26%

 血管炎関連心筋症

7.5%

4.4%

13%

 心外膜炎

5.5%

4.9%

6.5%

 手指尖端潰瘍

6%

5.3%

7.3%

 末端壊死病変

6.3%

6.2%

6.5%

眼症状

8.6%

7.6%

10.6%

 網膜血管炎

4.3%

3.6%

5.7%

肺病変




 咳嗽

5.7%

6.2%

4.9%

 浸潤影

3.4%

4.4%

1.6%

 胸水

3.4%

3.1%

4.1%


検査所見:

HBV-PANの治療
・B型肝炎の治療を基本とし, 加えて短期的(〜2週間)なGCを用いる.

 重症例では血漿交換を行う.
・長期間のステロイドはウイルス量の増加や慢性肝炎への進行,
 肝硬変リスクとなりえるため, 避ける

致命的な臓器障害がある場合,
・PSL 1mg/kg/dの高用量GCを
2週間を限度にまず使用する.
・2週間後には抗ウイルス薬による
Seroconversionを促すため, 
GCは終了する.
・コントロールがつかない症例で血漿交換を抗ウイルス治療により, HBVが消失するまで繰り返す

HBV-PANはnon-HBV-PANと比較して再燃リスクは低い
・non-HBV-PANは再燃HR 2.27[1.11-4.63]
・皮膚症状も再燃リスク因子; HR 1.85[1.08-3.23]
 
 特に結節がある場合はリスク: HR 2.21[1.30-3.78]