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2020年8月28日金曜日

C. difficile感染症に対するバンコマイシンの予防投与

 CD感染症は繰り返す患者はほんと繰り返し, 難治性となる.

そのような患者が再度入院し, 抗菌薬投与が必要となる場合, 予防的にVCM投与はどうですか?と聞かれることがある.

経験的は有効な印象があるが, ガイドラインなどでは推奨されない. こればっかりは患者毎での検討になる.

また, この抗菌薬の予防投与に対しては, いままでRCTがなかった.(あるが, 小規模で有意差がついていないもの)


(Clin Infect Dis. 2020 Aug 22;71(5):1133-1139. doi: 10.1093/cid/ciz966.)

North CarolinaNovant Health Forsyth Medical Centerにおけるopen-label RCT.

・対象は施設関連CDI高リスクと考えられる患者群: ≥60, 30日以内の入院歴があり, その際抗菌薬の全身投与を施行

・上記患者群で, 今回NHFMCに入院し, 抗菌薬投与を受ける患者群を, VCM予防投与群(125mg経口を11) vs Placebo群に割り付け, CDIリスクを比較した.

・予防投与は抗菌薬開始後 72h以内に導入し, 抗菌薬投与終了後5日間まで継続.

・経口内服が不可能な患者, 同意ができない/しない患者, メトロニダゾールを使用している患者, VCMアレルギー, すでにCDIが強く疑われる患者は除外.

アウトカムは施設発症CDIと退院後のCDI発症: CDI3/24h以上の下痢, 便中C. difficile検査が陽性(PCR, Xpert C. difficile/Epi)で定義. 退院後のCDI発症は退院後28-32日後に連絡をとり, 確認した.

母集団


アウトカム

Placebo群でのみCDI発症. 入院中のCDIリスクは有意に予防群で低下


(Gastroenterol Hepatol. 2018 Jun - Jul;41(6):362-368.)

メキシコにおけるOpen-label RCT

・抗菌薬関連下痢症リスクがある患者を, MNZ 500mg q8h vs 経過観察群に割付け, 7日間継続

・抗菌薬関連下痢症は4.9% vs 16.4%, p0.109



・CDI0 vs 2例と有意差はないものの一部患者では予防的抗菌薬によりリスクは低下する可能性がある


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リスクがある患者全例で予防投与を行うのは当然すべきとは思わないが, 何回も繰り返している患者では, 抗菌薬全身投与時にVCMやMNZの予防投与は有効な可能性がある.

VCMは125mgを1回投与と, 治療Dose(125-250mgを1日4回)よりもずいぶん少なく, 費用的にもよいかもしれない.

この文献ではVREリスクの上昇はなかったものの, 頻度が増えれば当然懸念事項にもなる.

潜在性結核治療開始後の活動性結核発症リスク

 (Clin Infect Dis. 2020 Aug 22;71(5):1320-1323.)より

潜在性結核で治療した症例8472例を解析.

・その大半がHIV陰性例(3例のみ陽性)

治療はINH 9ヶ月が46%, RFP 4ヶ月が43%であった.

潜在性結核治療中~治療後に活動性結核を発症したのは24(0.28%). 10例が治療中の発症, 14例が治療後の発症であった.

治療開始後1年以内が131[65-234]/10万人年

 その後は25[13-42]/10万人年の頻度.

 12.5年間の発症リスクは4[2-7]/1000

 INHRFPレジメでリスクは変わらず

・また, 治療後の発症でも薬剤耐性には影響はなかった

・治療中の発症例では, より培養陽性例が少なく(30% vs 71%),

 肺病変が少ない結果(20% vs 57%)


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短いのですが、興味深いデータだったので紹介

入院患者の発熱、血液培養をとるべきかどうか?

(Clin Infect Dis. 2020 Aug 22;71(5):1339-1347. doi: 10.1093/cid/ciaa039.)より
好中球減少がない入院患者における発熱において, 血液培養を採取すべきかどうかどうかを判断するフローチャート


まとめると以下の場合に考慮
①重症敗血症, 敗血症性ショック, IE, 血管内感染症が疑われる場合
②菌血症High-risk(>50%)では全例で採取
Moderate-risk(10-50%)では熱源部位の検体採取が不可能なとき, 検体採取前に抗菌薬を投与する場合に採取
Low-risk(<10%)では, 基本的には不要.
 見逃すと大きく患者に不利益となる場合(ペースメーカー挿入や人工物留置されている患者)では採取を検討.

状況やフォーカスと菌血症のリスクは以下の通り


他にも, 菌血症の可能性を評価する報告としては以下も参照

2020年8月25日火曜日

副腎腫瘍における悪性腫瘍の予測: 前向きStudy

 副腎腫瘍については以下も参照

副腎腫瘍の画像診断


CT画像のポイントは腫瘍径とCT値でスクリーニングし, 怪しければ造影CTやMRIと繋げる.
今回副腎腫瘍の評価について, 2000例規模の前向きStudyが発表されたので紹介.
この分野でこのNはなかなか無いので貴重なデータです.

(Lancet Diabetes Endocrinol  2020; 8: 773–81)
副腎腫瘍を新規に診断された成人症例2169例を前向きにフォローし, 腫瘍径, CT, 尿中ステロイド代謝産物と悪性腫瘍の関連を評価.
・生化学検査にて褐色細胞腫と判断された症例, 妊婦, 授乳婦, 6ヶ月未満にステロイド分泌に影響を及ぼす薬剤を使用した患者, 担癌患者における, ステージングの評価, モニタリングとして撮影したCTで副腎腫瘍が認められた患者は除外

・腫瘍径は<4cm, ≥4cmをカットオフ
CT値は単純CT<10HU, 10-20HU, >20HUをカットオフとして評価
 さらに, MRI chemical shift analysis(out-of-phase imageでのロスなし), PET/CT(肝臓よりも取り込みが強い), フォロー画像(6ヶ月で20%以上の増大)も評価.
尿中ステロイド代謝産物は15種類の物質を評価し, アルゴリズムに従って分析.(J Clin Endocrinol Metab 2011; 96: 3775–84.)を参照

98(4.9%)が最終的に副腎皮質悪性腫瘍(ACC)と診断.

各群のデータ

画像所見と悪性腫瘍
・副腎皮質悪性腫瘍の96/98≥4cmとなる.
・CT値のカットオフは10HU20HUで変わらない
 良性疾患では10-20HU1割ほどあるため悪性腫瘍を評価するならば20HUをカットオフとした方が良いかもしれない

副腎皮質悪性腫瘍に対するLR:

・腫瘍径 ≥4cm LR(+) 4.8[4.4-5.3], LR(-) 0.03[0.01-0.10]
・CT >20HU LR(+) 4.8[4.4-5.3], LR(-) 0.01[0.00-0.09]
上記2項目 LR(+) 12.2[10.5-14.3], LR(-) 0.03[0.01-0.10]

評価は3 Stepで行い,
腫瘍径, 
・CT
・上記で否定できなければ尿中ホルモン代謝産物試験

2020年8月19日水曜日

敗血症に対するHAT療法

HAT療法:
 Hydrocortison 50mg q6hを4-7日
 Ascorbic acid(Vit C) 1.5g q6hを4日間
 Thiamine 200mg q12hを4日間

2017年にChest(CHEST 2017; 151(6):1229-1238)から, 重症敗血症, 敗血症性ショック患者に対してHydrocortisone 50mg q6h, ビタミンC 1.5g q6h, チアミン 200mg q12hを投与することで院内死亡率が顕著に改善したとする報告がでて(単一施設, プロトコール導入前後の死亡リスクを比較), 一時期話題に.

参考: 敗血症に対する大量ビタミンCのRCT

それから敗血症に対するHAT療法のRCTがいくつか発表されたため, 紹介

VITAMINS: 敗血症性ショック(Sepsis-3)患者 216例を対象とし, Vit C, hydrocortisone, Thiamine投与を評価したOpen-label RCT
(JAMA . 2020 Jan 17;323(5):423-431.)
・投薬はVit C 1.5g q6h, hydrocortisone 50mg q6h, Thiamine 200mg q12h
・Control群はhydrocortisone 50mg q6hのみとし, ショック改善まで継続

母集団
・全例で昇圧薬を使用. 呼吸器管理は6割程度
・感染Focusは様々. 

アウトカム:

・死亡リスクは有意差なし
・カテコラミン使用も差はなし
3日目のSOFAスコアはHAT群で有意に低下する.

HYVCTTSSS: Sepsis, septic shock患者 80例において, Hydrocortisone, Vit C, Thiaminの効果を評価したSingle Blind-RCT
(Chest 2020:158(1);174-182)
・患者はSepsis-3における敗血症, 敗血症性ショックを満たす患者で年齢≥18, PCT ≥2ng/mLを満たす群を対象
・以下の薬剤投与群(HAT) vs Placebo群に割り付け, 比較した.
 Hydrocortisone 50mg q6h7日間
 Vit C 1.5g q6h4日間
 Thiamine 200mg q12h4日間投与

母集団
・母集団では呼吸器感染症が8割弱を占める.
 呼吸器管理も8割弱. 昇圧薬は5-6割程度で使用

アウトカム
・28日死亡リスクは両者で有意差なし
72h時点でのSOFAスコアの改善は有意に介入群で良好
・重症度別の評価でも差は認めない

ORANGES: 敗血症, 敗血症性ショック患者を対象とし, HAT vs Placeboで比較したDB-RCT.
(Chest 2020:158(1);164-173)
・患者は≥18歳で2016SSCG基準で敗血症, 敗血症性ショックを満たす患者群. さらにICU入室の12時間以内に敗血症が診断され, 3h-bundleが施行されている.
・HATHydrocortisone 50mg q6h, Vit C 1.5g q6h, Thiamine 200mg q12hICU退室, または最大4日間継続.
 担当医の判断にて敗血症に対するステロイド投与は両群とも許可.
アウトカムはショックの改善, SOFAスコアの変化などパラメータ.

母集団

アウトカム
昇圧薬の期間はHAT群で有意に短縮
・死亡リスクやSOFAスコアの変化は有意差なし

(2020/8/19追加)
ACTS: 昇圧剤を必要とする敗血症症例を対象としたDB-RCT.
・投与薬剤アレルギー, 1年以内の症候性腎結石, Glucose-6-phosphate dehydrogenase欠損症, ヘモクロマトーシス, 維持透析(その後3b以上のCKD患者に拡大), 24h以内に死亡すると判断された症例は除外.
上記患者群を24h以内に, HAT療法 vs Placebo群に割り付け, 予後を比較した

HAT療法: Ascorbic acid 1500mg, Hydrocortisone 50mg, Thiamine 100mg6h毎に4日間またはICU退室まで継続.

母集団

アウトカム

72h後のSOFAスコアの変動30日死亡リスク双方とも有意差なし

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ということで2020年前半に発表された敗血症, 敗血症性ショックに対するHAT療法のRCTでは, 死亡リスクには影響しないものの, SOFAスコアは低下する(かも), という結果.
昇圧剤の期間の短縮はヒドロコルチゾンの昇圧作用の可能性があり, Vit Cやチアミン大量投与についてはあまり効果は期待しない方が良さそうな感じ.

2020年8月18日火曜日

外傷患者における "Permissive hypotension"

 外傷による出血性ショックでは, 止血と輸液・輸血が重要となるが, その際血圧を上げすぎると出血が増加するため, 臓器灌流を保ちつつ, 且つ血圧は上げない, という管理が理想となる.

この際従来のsBP>90mmHg, MAP≥65mmHgという目標よりも低い血圧を維持することが予後を改善させる可能性が動物実験でも示されており, これを Permissive hypotensionと呼ぶ.


Permissive hypotension vs 通常の治療で比較した5 RCTsMeta-analysis.

(J Trauma Acute Care Surg. 2018 May;84(5):802-808.)

・Permissive hypotensionsBP 50-70, またはMAP ≥50で管理

・通常の治療群ではsBP 60-100, またはMAP  ≥65で管理

5 RCTsの概要

穿通性外傷のみが2 trials, 他は鈍的外傷も含まれる

アウトカム

全体でみると, Permissive hypotension群では有意に30日死亡リスクの低下が認められる: OR 0.70[0.53-0.92]

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外傷からは離れているため, お恥ずかしい話, この概念が広まっていること自体知りませんでした.

これは消化管出血ですぐに止血が困難な状況でも利用できそうな概念です.(実際, こんなイメージで管理することも多い)

巨細胞性血管炎(側頭動脈炎)における身体所見, 検査所見の感度/特異度

(JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2020.3050 )より 

Meta-analysisによる各所見のGCAに対する感度/特異度

・GCAが疑われ, 評価された患者群を含む 68 studies, N=14037を評価

 Prospective15%(患者数), Retrospective85%

・GCA診断の79.8%が側頭動脈生検, 残りは臨床診断


患者背景


症状

・診断に有用なのは顎跛行(LR 4.9)

他の症状

・感度は低いが, 四肢の跛行も重要な所見の一つといえる


身体所見

・側頭動脈の異常所見, 側頭部の圧痛AION(Anterior ischemic optic neuropathy)は特異的な所見


検査所見

・ESRは亢進するが, >100mm/hとなるのは1/4程度のみ

 >80mm/hからは特異度も高い.

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特に目新しい情報はないですが, 最新のMetaということで紹介です

2020年8月15日土曜日

DPP-4阻害薬による関節痛、関節炎

リウマチ性多発筋痛症でステロイド減量中の患者さん.

炎症反応や上肢帯の疼痛は改善傾向にある一方, どうも手の浮腫感や強張り, 疼痛が持続しており, ステロイドも減らしきれないのです, という相談.

診察では肩関節の滑液包や周囲の疼痛, 圧痛はなく, 手指のこわばりが主. 圧痛も軽度だが腫脹はない. 変形もなし.

EORAも考慮したが, XP所見や抗体も陰性であり.


と, そこで背景に糖尿病があることに気づき, 他院での処方内容を確認すると, DPP-4阻害薬を長期間使用していた. もしかするとこれが原因かも, ということで中止し, その後症状も消失した, という症例.


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DPP-4iの使用により多関節痛を呈する症例報告がある.

(diabetes research and clinical practice 102 (2013) e8–e12)

・2DM患者でDPP-4i使用者 385, 非使用者 356例を評価した報告ではDPP-4i使用例の3.3%(13)で多関節症を呈した(非使用例では0)

DPP-4i使用による多関節症と考えられた13例の評価では,

 > 関節は主に小関節の疼痛がメインとなり, 一部で腫脹もあり.

 > 薬剤開始~発症まで3~31ヶ月, 中止~改善まで1~6ヶ月

 > 炎症反応はほぼ上昇を認めない


2DMDPP-4i使用例 93例と, 非使用例 107例を評価

(Acta Endocrinol (Buchar). Oct-Dec 2018;14(4):473-476.)

・DPP-4i使用期間は1.95(範囲16)

関節痛/関節炎を認めたのはDPP-4i使用例で41(44.1%)

 さらに, 27/41は炎症性リウマチ性疾患が否定的と判断された

・非使用例では19(17.8%), 13/19が炎症性リウマチ性疾患を否定

DPP-4iの使用は有意に関節痛/関節炎リスクを上昇させる


DPP-4iによる関節痛/関節炎は関節リウマチを惹起するものではなく, CohortやCase-control Studyではこれら薬剤の使用によるRA発症リスク上昇は認められない

DM患者において, RA診断症例と時期, 年齢, 性別を合わせたControl群を比較したCase-control study (Diabetes Ther (2018) 9:141–151)


英国における2DM患者144603例のCohort.(Epidemiology 2018;29: 904–912)

・567169pt-yのフォローアップにおいて, RA464例で診断(82/10/y)

・DPP-4iRAのリスクではない

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膠原病ではPSLを使用する頻度も高く, ステロイド性糖尿病からのDPP-4iの使用, という流れもある

関節症状が燻っている場合はこれら薬剤の関連も疑ってかかるとよいかもしれない.