ページ

2020年6月26日金曜日

CKDと尿酸降下薬

CKD患者に対する尿酸降下薬については, 小規模なRCTがあり,
腎機能保持作用が期待されていた.
以前の記載:
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2015/11/blog-post_25.html

その後さらに規模の大きいStudyがいくつか発表されたため紹介

FEATHER Study: Stage 3CKD, 無症候性の高尿酸血症がある467例を対象としたDB-RCT
(Am J Kidney Dis. 72(6): 798-810.)
・患者は20歳以上のstage 3 CKD, UA 7-10mg/dLを満たす群
 痛風の既往なし.
コントロール不良のDMsBP≥160mmHg, dBP≥100mmHg, 肝酵素>2ULN, 腎機能不安定な患者は除外.

上記患者群をFebuxostat vs Placeboに割り付け, 108wk継続.
・腎機能をフォローした.
・Febuxostat10mgより開始し, 1ヶ月継続, その後20mg/d1ヶ月以後40mg/dを継続.

母集団

アウトカム
eGFRは有意差はないが, Febuxostatで維持する傾向がある.

FREED trial: 心血管イベントリスクがある高齢の高UA血症(7.0-9.0mg/dL)患者を対象としたopen-label RCT(国内).
(European Heart Journal (2019) 40, 1778–1786)
・患者は65歳以上のUA 7.0-9.0mg/dLを満たす群で且つ以下の1項目以上を満たす群;
 高血圧症, 2DM, 腎疾患(eGFR 30-60mL/min/1.73m2), 脳・心血管疾患既往
・上記患者群をFebuxostat vs Placebo群に割付け, 36ヶ月継続.
心血管イベントリスクを比較した.

母集団

アウトカム

・腎障害リスクは有意にFebuxostat群で低下を認める.
内容は,
 微量アルブミン尿, 軽度の蛋白尿出現: 12.3% vs 13.5%
 顕在性アルブミン尿, 高度の蛋白尿: 2.2% vs 4.4%
 顕在性アルブミン尿の増悪: 0.6% vs 2.1%
 Cr値が2: 1.1% vs 0.8%
 ESRDへの進行: 0% vs 0%
 であり, アルブミン尿の増悪リスクが低下する結果
(微量アルブミン尿 30-300mg/gCr 顕在性アルブミン尿  ≥300mg/gCr
軽度の蛋白尿 0.15-0.50g/gCr 高度の蛋白尿 ≥0.50g/gCr)

CKD-FIX: 痛風発作歴のないStage 3-4CKD, 腎機能増悪リスクがある患者群を対象としたRCT.
(N Engl J Med 2020;382:2504-13.)
・腎機能増悪リスク:
 U-Alb/Cr ≥265mg/g CrもしくはeGFR1年間で3.0mL/min/1.73m2以上低下した群
・上記を満たす患者群を, Allopurinol(100-300mg/d) vs Placeboに割り付け104wk(2年間)継続. eGFRの変化をフォローした.
・Allopurinol100mgより開始し, 初期の12wkで増量.
 血清UA値には規定はなく, 投与量調節においてもUA値を基準に調節することは禁止した
・母集団のUA8.2±1.8mg/dL程度

Studyは目標のN=620に満たない, N=369の時点で終了
・終了の理由は導入に時間がかかりすぎたため.

アウトカム
・eGFRの低下(30%以上の低下)は両者で有意差なし
・U-Alb/Cr比も両者で同等

副作用の比較: 両者で同等

------------------------------
痛風既往のないCKD患者への尿酸降下薬の使用については, 
一部アルブミン尿の増悪を抑制する報告はあるものの, eGFR低下の予防や死亡リスクを改善させる効果は乏しい.

〜2018年までのフェブキソスタットのCKD症例に対する効果を評価したMetaでは,
Stage 3-4を含むStudyにおいて, 有意にeGFR維持効果が期待される結果(Medicine (2019) 98:29(e16311))があるが, 2019-2020年の報告を加味すると, それも微妙かもしれない.

また関連した報告として,

痛風患者に対するAllopurinol ≥300mg/dの使用はCKD予防効果が認められる
・Propensity score-matched analysis, 5-6年の経過において, Stage 3以上のCKDは有意に減少(NNT 100程度) (JAMA Intern Med. 2018;178(11):1526-1533. )

といった報告はある

2020年6月24日水曜日

急性肝炎とフェリチン値

発熱, 意識障害, Shock vital,
でも感染症らしくはなく, 培養も陰性.
フェリチンが8000と高値であり, 何かしら原疾患に関連しているのでは? という疑問

実はShock vitalから低酸素性肝炎を併発しており, AST, ALT 数千と増加しており,

「いやいや急性肝障害からの上昇でしょっ!」

と思ったが, データがないので探してみる.

(結果的には肝障害の改善とともにフェリチンも正常化. 原疾患との関連はありませんでした)

----------------------------

九州大学付属病院に受診した急性肝炎118例の解析
(Hepatic Medicine: Evidence and Research 2009:1:1–8)
・急性肝不全の有無にかかわらず, フェリチンは数万台と異常高値
 重症ほど上昇する傾向がありそう

ALTとフェリチンには相関性がある

ウイルス性肝炎(A), その他の原因(B)
双方ともフェリチンは上昇

急性肝不全 102例におけるフェリチン値
(Liver International. 2017;37:1032–1041.)
・フェリチン高値は有意な死亡リスクとなる

長崎大学における調査
劇症肝不全 11, 重症急性肝炎 21, 急性肝炎 82
(Journal of Gastroenterology and Hepatology 26 (2011) 1326–1332)
・フェリチンは劇症肝不全では1090-69000,
 重症急性肝炎では30-82700
 急性肝炎では10-23200 と幅がある
・フェリチン高値は死亡リスク因子となる
 生存例 1025[14-82700] ng/mL
 死亡例 23800[1090-66900] ng/mL

--------------------------------------------------------------
急性肝炎で, しかもALTが高度に上昇するような場合はフェリチンも上昇する.
その値は数千〜数万までありえる. 高値は死亡リスク因子になりえる.

件の症例のように, 低酸素性肝炎(Shock liver)ではどうかを評価した論文は見つけられず, Clinical questionとしては良いかもしれない.

また, 症例報告で, 原因不明の急性肝障害でフェリチン高値!
 これは非典型的なAdult onset Still病だぁ! としていたものもあり苦笑
 (注: しっかり読み込んでません)

2020年6月19日金曜日

重症消化管出血に対するトラネキサム酸: HALT-IT

内科医必読.
個人的に注目していたHALT-ITの結果が発表されました.

(Lancet 2020; 395: 1927–36)
HALT-IT: 重症の消化管出血患者を対象とし, トラネキサム酸の効果を評価した, 1万人規模の大規模DB-RCT
・重症の消化管出血: 低血圧, 頻脈, Shock兆候, 輸血や緊急の手術・内視鏡治療が必要となる出血で定義.
上記を満たす成人患者を, Tranexamic acid, Placebo群に割り付け.
 Tranexamic acid: 1g 10分でDIV. その後125mg/h24時間継続(3gNS 1Lに溶解して24hで投与)
死亡リスク, 再出血リスク, 血栓症リスクを比較した.

母集団
・上部消化管出血がほぼ9割
・静脈瘤出血疑いが45%程度とほぼ半数を占める

アウトカム

・出血による死亡, 再出血リスクは両者で有意差なし
・出血部位や静脈瘤, 肝硬変の有無Rockall score別でも死亡リスクは有意差なし

処置の必要性や輸血についても有意差なし

合併症リスク:

・VTEリスクはTranexamic acid群で上昇
・痙攣リスクも上昇する

------------------------------
注目していた消化管出血に対するトラネキサム酸の大規模RCT
予後を改善するものではなく, それどころか血栓症や痙攣のリスクとなってしまう結果であった.

2020年6月17日水曜日

抗うつ薬による運動障害

参考:

薬剤性パーキンソン症候群: drug induced Parkinsonism(DIP)


超高齢の患者が四肢を捻るような動きが出現したとのことで受診
四肢の不随意な捻る様な運動.

メトクロプラミドでも使っているかと思いきや, 使用はしていない.
抗精神病薬もないが, 抗うつ薬は長期間使用していた.

さらに徐々に腎機能も増悪してきているとのことで,
おそらくは抗うつ薬によるTardive dyskinesiaであろうと思われた.



抗うつ薬にはどの様な運動障害があるのだろうか、ちょうど論文がでていたのでチェック.
(Published: というので, 昨日!)

(BMC Psychiatry (2020) 20:308)
WHOの薬剤副作用調査データベースであるVigiBase®より抗うつ薬に起因する運動障害リスクを評価した報告
運動障害ROR
アカシジア3.79[3.61-3.98]
夜間の歯軋り10.37[9.62-11.17]
ジストニア2.07[2.01-2.14]
ミオクローヌス4.79[4.55-5.05]
パーキンソニズム2.14[2.07-2.22]
Restless legs syndrome5.14[4.90-5.38]
Tardive dyskinesia(遅発性ジスキネジア)1.55[1.49-1.61]
Tics1.49[1.38-1.60]
振戦3.06[3.02-3.10]
・特に多いのは夜間の歯軋り, ミオクローヌス, RLS
・一通りの不随意運動のリスクはやはり上昇する.

参考: 薬剤別

・薬剤によって差はある

今回の被疑薬はデュロキセチン(サインバルタ®)であったが,
このレポートからはTardive dyskinesiaのリスクは上昇しない.

ただし, デュロキセチンによるTardive dystoniaのケース報告もいくつかあり, やはり原因として考えたいところ.
(Agri. 2018 Oct;30(4):199-201.)(Gen Hosp Psychiatry. 2010 Nov-Dec;32(6):646.e9-646.e11.)
(J Clin Psychopharmacol. 2012 Oct;32(5):723-4.)

2020年6月16日火曜日

アボカド切創

(American Journal of Emergency Medicine 38 (2020) 864–868)

アボカドの切る際に手も受傷しやすくそれによる救急受診が米国では増加している.
Avocado-related knife injuryとして米国のメディアでも度々取り上げられている・・・らしい
・アボカドは硬い皮 - 柔らかい果肉 - 硬く, すべりやすい種の三重構造であり, 手にもってナイフを入れ, 種の周りを一周させるように切る
 この際ナイフが滑り, 指や掌を切りやすい.
半割にしたのち, ナイフの根本の部分を種に突き刺して種をくり抜くが, その際にも受傷しやすい

米国ではアボカドの消費量が増大しその分Avocado handも増加している
一人当たりのアボカド消費量は近年で7.47 pound/y
 (1 pound = 0.45kg, アボカド1つは果肉120g程度)
・Avocado handの予測件数は1年間で5000

日曜日と土曜日に多く発症
・季節は春~夏にかけて増加

好発年齢は20-50歳台の女性

傷害部位
・指は示指が最多. 母指, 中指, 環指は同程度.

--------------------------

アボカドでは手の切創が生じやすく, 消費量の多い米国ではAvocado handとか言われているらしい.
今から知っておいたら, 時代を先取りできるかも.
研修医のみんなはそういう症例がきたらカルテに #Avocado hand とか書いて,
指導医を煙に巻こう!

2020年6月12日金曜日

ヒトメタニューモウイルス

3月〜4月初旬にCOVID-19が注目され始め,
発熱外来でも保健所にPCRを依頼する前に一通りの呼吸器感染起因菌の迅速検査を提出する必要があった.
その際結構陽性となったのがヒトメタニューモウイルス.

小児で多い呼吸器感染症のウイルスであるが, 成人でもチラホラと陽性となり, 気になった.

そんななかで, 韓国からの報告

(Clinical Infectious Diseases® 2020;70(12):2683–94)
韓国のChung-Ang Univ. Hospにおいて, 2007-2016年に呼吸器疾患で入院, 検体を採取した23694例において, hMPVを評価.
・検体は鼻腔swab73.5%, 咽頭Swab 18.3%, 鼻汁 7.3%, 喀痰 0.6%, 気管支洗浄液 0.3%
・23694例のうち, 13871(58.5%)1つ以上の呼吸器ウイルスを検出.
 Rhinovirus 15.3%, 
 RSV 14.7%, 
 Adenovirus 11.2%, 
 PIV 7.8%, 
 hMPV 5.4%
 Influenza A 5.2%, 
 Enterovirus 4.3%, 
 Influenza B 3.0%, 
 bocavirus 3.0%, 
 coronavirus 2.3% 2007-2016年でのコロナの割合ってこの程度だった...


hMPVの特徴

hMPVは季節性が強く, ピークは4-5月
・ピーク時期では, hMPVの陽性率20-30%にまで上昇する.

小児で多く, 陽性となった1275例中, 1200例は小児(94.1%)

hMPV成人例 75例のデータ
 ・症状は主に咳嗽, 喀痰.
 発熱は半数程度. (入院患者であるため解釈には注意.)
・臨床診断は肺炎が84%, 気管支炎が8%
・肺炎球菌が48%, マイコプラズマが32%で陽性となり, 
 細菌感染合併例が多い


参考: hMPV小児例 1200例のデータ


--------------------------------
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は4-5月の春期に流行する呼吸器感染ウイルス
流行期では2-3割を占める.

細菌性肺炎のきっかけにもなり, 成人例では重篤化することも.

毎年3月〜になると間質性肺炎の急性増悪も増加する印象があるのですが, そういうのにも一役買っているのかもしれませんね. 来年以降調べてみることにします.