(J Am Soc Nephrol 1999;10:666-74)
薬剤の基本的なデータ
・有効血中濃度: 0.6-1.2mEq/L
・Bioavailability: >95%
・吸収時間: 6hr~4d (薬剤混合物によりけり)
・タンパク結合率: <10%
・半減期: 13-50hr
・分布容量: 0.4-0.9
・血中ピーク時間: 0.5-2hr, OverdoseではMax72hr
薬剤の動態
1)ほぼ完全に上部消化管で吸収
2)初期分布容量 0.5L/kg (水分へ分布)
3)その後ゆっくりと細胞膜透化し、中枢神経系へ
(最終分布容量0.7-0.9L/kg) (24hr後位)
Na/H輸送体, Na-K共輸送体etcを介する
ほぼNaイオンと同じ動態と考えてよい
4)腎臓より排出
80%が尿細管にて再吸収(60%:近位, 20%:ループ)
ループ利尿薬, Amilorideにて排泄UP
Thiazideにて再吸収UP, 排泄DOWN
中毒
・常用量: 300-2400mg(8-64mEq)
・中毒量: 40mg/kg(1mEq/L)
一度にリーマス(100)を20-30錠服用すれば急性中毒に
・血中濃度(内服後6hrでの評価が重症度を反映)
1.5-2.0mEq/L: Mild
2.0-2.5mEq/L: Moderate
>2.5mEq/L: Severe
・Acute, Acute on Chronic, Chronicの3種類の中毒
常用患者ではリチウムの腎排泄が低下(半減期延長)しているため、Acute on Chronic, Chronicのほうが予後が悪い.
中毒や副作用のリスク因子
・尿崩症の存在,
・50歳以上の高齢者
・甲状腺機能低下症
・腎障害 はリチウム毒性を生じるリスク因子となる
(Aust N Z J Psychiatry 2001;35:833–40. )
薬剤とLithium濃度への影響
Thiazide ↑
ループ利尿薬 ↓
浸透圧性利尿 ↓
Acetazolamide ↓
ACEI ↑
NSAID ↑
Aspirin ↓
Thiazide ↑
ループ利尿薬 ↓
浸透圧性利尿 ↓
Acetazolamide ↓
ACEI ↑
NSAID ↑
Aspirin ↓
中毒症状の特徴
・血行動態が特徴的なため、血中濃度がピークに達した後に神経症状(+)
神経症状の前に消化管症状が最も早期に出現する.
・50-71%が他の薬剤も服薬しているため, 様々な症状を呈し得る.
・死亡率25%
・不可逆的な中枢神経症状を10%に認める
中枢神経症状
・意識障害, 筋力低下, 小脳症状, 球麻痺症状
・振戦(手,上肢の振戦)
循環器系症状
・血圧低下, 不整脈, ECG異常(T波陰転化)
消化器症状(早期症状!)
・嘔気、嘔吐、下痢
泌尿器
・乏尿, 尿崩症, 遠位尿細管性アシドーシス
・間質性腎炎
その他
・WBC増加
・甲状腺機能低下, ARDSなど
リチウム使用による各検査値への影響(metaより)
GFR変化 |
-6.22ml/min[-14.65~2.20] |
腎濃縮力(Osm変化) |
-158mOsm/kg[-229.78~-87.07] |
甲状腺機能低下症 発症OR |
5.78[2.00-16.67] |
血清Ca濃度変化 |
+0.09mmol/L[0.02-0.17] |
PTH |
+7.32pg/mL[3.42-11.23] |
体重増加 OR |
1.89[1.27-2.82] |
中毒センターの報告例の解析
Ontario Regional Poison Information Centreに1996年に報告されたリチウム中毒患者の前向きCohort study.
(Therapeutic Drug Monitoring 2000;22:650-5)
・205名のリチウム中毒患者が報告; Acute 6%, Acute on chronic 85%, Chronic 9%.
・上記の内, 54%が血清リチウム>1.5mmol/L
Acute | Acute on chronic | Chronic | |
内服量 | 3.6±5.0g | 7.8±7.4g | 1.3±0.5g |
初期濃度(mmol/L) | 0.90[0-2.40] | 1.90[0-8.92] | 2.40[0.42-4.12] |
内服〜初期濃度評価 | 6.2hr[1-25] | 3.0hr[0.5-26] | NA |
Peak Level | 1.02[0-2.47] | 2.14[0-8.92] | NA |
半減期(hr) | 6.0hr[6.0-24.0] | 12.5hr[3.5-45.1] | 31.6hr[11.0-100.1] |
Acute(12) | Acute on chronic(174) | Chronic(19) | |
Drowsiness | 3 | 59 | 4 |
Slurred speech | 2 | 19 | 5 |
振戦 | 1 | 14 | 9 |
運動失調 | 2 | 11 | 2 |
反射亢進 | 6 | 3 | |
混乱 | 3 | 6 | |
昏睡 | 8 | ||
昏迷 | 4 | 2 | |
Restlessness | 3 | ||
けいれん | 1 | ||
Blurred vision | 1 | ||
眼振 | 1 | ||
回転性めまい | 1 | ||
Spasticity | 1 | ||
硬直 | 1 | ||
こむら返り | 1 | ||
脱力 | 1 | 1 | |
口腔内乾燥 | 1 |
Acute(12) | Acute on chronic(174) | Chronic(19) | |
低血圧 | 5 | ||
高血圧 | 1 | 1 | 1 |
洞性頻脈 | 2 | ||
洞性徐脈 | 1 | ||
二段脈 | 1 | ||
PVC | 1 | ||
1度AVB | 2 | ||
2度AVB | 1 | ||
3度AVB | 1 | ||
QTc延長 | 4 | ||
Wide QRS | 1 | ||
ST低下 | 1 | ||
肺水腫 | 2 | ||
CHF | 1 | ||
悪心, 嘔吐 | 10 | ||
下痢 | 5 | 1 | |
多尿 | 1 | ||
乏尿 | 1 | ||
横紋筋融解 | 1 |
California Poison Control Systemにて2003-2007に報告されたリチウム単独中毒の入院例 502例の解析
(Clinical Toxicology (2010) 48, 443–448)
・急性のリチウム中毒が8.8%[6.3-11.2]
・Acute on chronic overdoseが24.7%[20.9-28.5]
・Chronic overdoseが56.2%[51.8-60.5]
・HDを施行したのは69例(13.7%)
臨床症状の頻度
臨床症状 | 全体 | 急性 | AOC | 慢性 |
急性意識障害 | 69.3% | 50% | 47.6% | 80.5% |
振戦 | 37.1% |
ー
|
ー
|
ー
|
消化管症状 | 18.6% |
ー
|
ー
|
ー
|
痙攣 | 3.0% | 2.3% | 0.8% | 3.2% |
挿管管理 | 4.6% | 2.3% | 4.0% | 5.0% |
死亡例 | 0.8%(4例) | 0 | 0 | 4例 |
心毒性 | 5.7%[3.7-7.7] (29例) | 2.3% | 2.4% | 8.2% |
心毒性をきたした29例の解析では,
・平均年齢は57.3歳, 24-80歳.
・最大リチウム血中濃度は2.98mEq/L[2.60-3.35]. これは心毒性(-)群と有意差なし.
・心毒性を示した患者で最も低い血中濃度は1.2mEq/L.
心毒性は徐脈が最も多い
・洞性徐脈で低血圧(-)が62%(18例)
・洞性徐脈で低血圧(+)が14%(4例)
・3度AVブロックが10%(3例))
・洞停止が7%(2例)
・徐脈性心停止が7%(2例)
・AVブロック, 洞停止, 徐脈性心停止は全て慢性中毒例で生じている
リチウムによる心毒性
リチウムによる心毒性: 5%で認められる.
・Brugada症候群様の心電図変化, 洞結節不全, AVブロックや様々な不整脈(Af, 心室性不整脈など)を呈する.
・心筋細胞膜の陽イオン交換チャネル(K,Na,Ca)を阻害し, 脱分極を抑制することが原因. 洞結節や房室結節, 心筋内伝導障害を引き起こす
・洞結節不全は慢性使用患者の中毒症で多く認められる
・慢性使用患者ではT波平坦化, 陰性T波などが認められることも多い. 頻度は20-30%程度
・心毒性のほとんどが治療域以上の濃度で生じるが, 治療域(0.6-1.2meq/L)で出現するような症例報告もある.
・長期使用患者では治療域でも洞結節の抑制が認められる報告もあるが初回に600mgを投与した4時間後に小脳失調, 意識障害, 洞性徐脈を生じた27歳の症例報告も国内からでている.
(Innov Clin Neurosci. 2015;12(11–12):18–20 )(Intern Med 52: 767-769, 2013)
リチウム中毒における心毒性は数日遅れて出現する.
・神経症状よりも遅れ, 初期に昏睡や痙攣, その数日後に徐脈, ショックとなる
(Am J Med 1976;61:665–70. )
(Innov Clin Neurosci. 2015;12(11–12):18–20 )(Intern Med 52: 767-769, 2013)
リチウム中毒における心毒性は数日遅れて出現する.
・神経症状よりも遅れ, 初期に昏睡や痙攣, その数日後に徐脈, ショックとなる
(Am J Med 1976;61:665–70. )
リチウム中毒の治療
(J Clin Psychopharmacol 2006;26:325-30, Ther Drug Monit 2009;31:247-60)
活性炭はリチウム吸着効果無し.
・他の過量服薬した薬剤の吸着目的に施行する.
・Extended-releaseのリチウム製剤では全腸洗浄を行っても良い
・胃洗浄は内服後1hr以内の症例で適応となる.
輸液負荷
・通常の腎機能 → 10-40ml/minでリチウム排泄
・腎性尿崩症のため, NSがリンゲルの大量負荷は高Naを来す.
負荷するならば1/2NS, 5%TZなどが推奨される.・利尿薬, 特にLoopは近位尿細管でのリチウム再吸収を31%減少.
・Amilorideは排泄促進するEvidence無し.
・Thiazideは排泄を遅延させてしまう. → 使用するならばFurosemideだが, そこまで排泄促進しない.
リチウムによる尿崩症も相成って, 脱水, 電解質異常が進行するため, 利尿薬使用に関しては注意が必要
血液透析
・リチウムは蛋白結合性低く, 透析による除去が可能
HD中は半減期3.5(0.8)hr vs 29hr(利尿薬投与)
一般的には透析中のリチウムの半減期は2.3-12.9hr
・細胞内分布容積0.7-0.9L/kg → 血中への再分布 → Lithium Rebound!
通常透析後6-8hrで生じる
・透析後、頻回の血中濃度測定と血液透析必要
透析終了後, 6-8hrで血中リチウム濃度>1.0mmol/Lならば再透析を行うべき.
・HDでは, Lithium Clearance 60-150mL/min. 第一選択.
血行動態不安定であればCVVHDFが選択される.
CVVHではLithium Clearance 42-60mL/min.
Hemodiafiltrationは推奨されない.
・また腹膜透析もClearance 9-15mL/minでほぼ無意味.
透析適応
Lithium Level |
適応 |
>6mEq/L |
全患者 |
>4mEq/L |
慢性的なリチウム内服患者 |
2.5-4mEq/L |
腎不全, 血行動態不安定患者 |
<2.5mEq/L |
腎不全患者, 入院後に濃度上昇する患者群(30minで1mEq/Lの上昇) |
・透析後の血清リンCheckをすべし
・リバウンドには気をつけるべし(入院後3-5dは上昇する)