・そもそも妊婦自体は, 非妊婦よりも虫垂炎リスクは低い(OR 0.78[0.73-0.82])
妊娠後期では若干リスクは上昇する程度.
・妊婦における妊娠関連以外で行う最も多い外科手術の原因となる.
問題は, 妊婦における虫垂炎では診断が難しいこと
・診断できずに虫垂が破裂し, 合併症をきたすことも多い.
・妊婦ではそもそも消化管症状が多いこと,
妊娠した子宮により虫垂の位置が変化する点,
生理的白血球上昇があることが診断困難の原因
・また, 被曝の問題もあり, CT検査の閾値もあがる.
・超音波が有用であるが, 感度は不十分という問題がある.
(Rev Assoc Med Bras 2015; 61(2):170-177)
妊婦における虫垂の位置の変化
(Obstet Gynecol Clin N Am 41 (2014) 465–489)
妊婦における虫垂炎の症状
・713例のReviewでは, 虫垂破裂は25%で認められた.
胎児死亡率は8.5%, 早産が6.4%
特徴, 症状 |
頻度 |
所見 |
頻度 |
妊娠初期で発症 |
26% |
筋性防御 |
50% |
妊娠中期で発症 |
48% |
反跳痛 |
80% |
妊娠後期で発症 |
26% |
RLQ圧痛 |
85% |
|
|
RUQ圧痛 |
20% |
悪心 |
85% |
直腸診で圧痛 |
45% |
嘔吐 |
70% |
体温>37.8度 |
20% |
食欲低下 |
65% |
|
|
腹痛 |
96% |
WBC <1万/µL |
15% |
RLQ疼痛 |
75% |
WBC 1万-1万6千 |
35% |
RUQ疼痛 |
20% |
WBC >1万6千 |
50% |
排尿時痛 |
8% |
Neu ≥ 80% |
90% |
・妊婦でも, 非妊婦の虫垂炎とほぼ同じ症状, 所見を呈する.
妊娠の時期に関わらず, RLQの痛みが最も多い.
・炎症した虫垂が膀胱や尿管に隣接すると, 膿尿や排尿時痛を生じる.
(Rev Assoc Med Bras 2015; 61(2):170-177)
妊婦の虫垂炎疑いにおける検査
妊婦の虫垂炎疑いではまず腹部エコー
・エコーは他の疾患(卵巣捻転や尿管結石)の評価も兼ねて行う.
・虫垂が腫大(>6mm)していれば診断に有用であるが, 正常の場合や, 描出できない場合は除外は困難である.
・感度は67-100%, 特異度は 83-96%との報告あり(非妊婦では感度86%, 特異度 96%).
(Rev Assoc Med Bras 2015; 61(2):170-177)
エコーで診断がつかない場合はMRIを考慮する
・Ga造影は基本的には使用しない. 胎児への影響は不明.
・特に妊娠初期におけるMRIは虫垂の描出能は良好(USでも初期ほど虫垂は描出しやすい)
(Am J Obstet Gynecol. 2015 Mar;212(3):345.e1-6.)
・USで診断がつかない場合のMRI検査は, 感度 80%[44-98], 特異度 99%[94-100]で虫垂炎を評価可能
CTは感度 85.7%[63.7-97], 特異度 97.4[86.2-99.9]とほぼ同等.
(Obstet Gynecol Surv. 2009 Jul;64(7):481-8)
妊婦におけるMRI評価で推奨されるプロトコール
(Current Problems in Diagnostic Radiology 44 (2015) 297–302)
多施設における後ろ向きstudy.
・2009-2014年の間に虫垂炎を疑われた妊婦で単純MRIを施行された709例を評価.
・MRI前にUSを施行したのは192例(24.5%)のみ.
・MRIで虫垂に所見を認めた症例全例が手術治療を施行している.
709例中66例がMRIで虫垂に異常所見あり.
・そのうち組織的に虫垂炎と診断されたのは61例.
・MRIで所見を認めなかった643例中, 72例(11.2%)がMRI検査で他の腹痛の原因が判明.
また, 2例が最終的に虫垂炎と診断.
・単純MRIは感度96.8%[89-99.6], 特異度 99.2%[98.2-99.8%]で虫垂炎を示唆する結果.
(Am J Obstet Gynecol. 2015 Nov;213(5):693.e1-6.)
CTは臨床所見, US, MRIで判断がつかない場合に考慮
・被曝が少ないようなプロトコールも開発されているがその診断能については未評価.
(Rev Assoc Med Bras 2015; 61(2):170-177)