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2019年4月3日水曜日

コリン作動性クリーゼにおけるChE

症例: 80歳台男性 脱力, 意識低下
 神経因性膀胱に対して, 2週間前にウブレチド 2.5mgが開始されている男性.
 来院日当日, ベッドから起き上がる際に脱力があり動けなくなった. 家族の呼びかけに対してもいつもよりも反応がおかしいため救急受診.
 
BP 160/94mmHg, HR 60と徐脈, 高血圧気味であるが, これはウブレチド投与開始前のカルテを見ても同程度.
縮瞳はなく, 下痢や唾液分泌亢進所見も無し. 発汗もなし
血清ChE 140 IU/Lと低下気味ではある.(投与開始前のChEは未評価であり不明)
 男性の基準値は>242 IU/L

コリン作動性クリーゼでは?というコンサルト

正直所見からは脱力, 意識障害はあるものの, 他のコリンクリーゼらしさはない. 
 それで除外してよいのか・・・
ChEの値はどう解釈していてよいのだろうか?

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コリン作動性クリーゼは, コリン作動薬の副作用によるコリン過剰状態であり下痢・嘔吐, ふらつき, 意識障害などを呈する.
・コリン作動薬にはコリンエステル系と抗コリンエステラーゼ系があり後者には重症筋無力症の治療薬や神経因性膀胱治療薬(ジスチグミン: ウブレチド®)がある.
この薬剤では血清ChEは異常低値となり, 診断に有用だが, Alb血症患者ではChEも低値となるため, カットオフの判断が難しいことがある.

コリン作動性クリーゼ患者(疑い含)29例とControl194例において血清ChE, Albを評価した報告
(Rinsho Byori 2010;58:972-978)
・疑い症例はコリンクリーゼに矛盾しない症状(下痢, 腹痛, 嘔吐, 発汗, ふらつきのいずれかの症状)を有し, Alb低下がないのにも関わらず, ChE活性がジスチグミン投与開始前と比較して半分以下に低下した群で定義.

両群におけるChE

クリーゼ群ではChEは低値となるがオーバーラップすることも多い
ChE 126 IU/Lで感度/特異度83%
・ChE 35 IU/LではLR 33.4

ChE/Albでの評価. AlbBCG法とBCP改良法双方で計算
 BCG: ブロムクレゾールグリーン色素結合法 (一般的なBMLの評価項目)
 BCP: ブロムクレゾールパープル色素結合改良法 (BMLではアルブミン/BCP改良法)

・ChE/Albの評価(BCG)では,
 ChE/Alb 36.6で感度/特異度 89%
  20.7LR 87.0
・BCP改良法では
 ChE/Alb 42.7で感度/特異度 90%
  25.0LR 93.7

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この患者ではChE 140程度
Albは3.0g/dLであり, ChE/Albを評価すると46とほぼ否定が可能と考えられる.
ということで他の原因なんでしょう.