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2018年6月1日金曜日

一過性にインスリンが枯渇する糖尿病: Ketosis-prone DM

DPP-4阻害薬のみで血糖コントロール良好長年HbA1c 6%前半で推移していた患者
ある日突然口渇感など増悪し来院時DKAであった. HbA1c 13%(3ヶ月前は6.8%, その前は6%前半で推移)

よくよく病歴を調査すると,
15年前(50歳台)DKAで発症. HbA1c 16%. その際インスリン分泌能を評価され低下していると判断インスリンが導入された.
その数年後にコントロール良好となり離脱で、受診を自己中断.
初回DKAから10年後に再度DKAありその際もインスリン分泌低下あり、導入.でその3年後にインスリン離脱し、以後内服のみで安定.そして、今回のエピソードと。

これで3回目のDKA, いずれもインスリン枯渇状態であったが, 数年でインスリン離脱
この病態は一体なんなのだろうか?

これは非典型的なDMの一つ. Ketosis-prone DM: KPDと呼ばれるタイプ
典型的なType 1 DMではないのにDKAを生じるタイプ
・通常DKAはインスリンの枯渇により生じるため, DKAを来す患者では大抵がType 1 DMでインスリン導入となるが中には経過中にインスリン分泌能が改善し, 導入の必要が無い患者もいる.
このような患者群では長期間のフォローでインスリン枯渇(増悪)と分泌正常(寛解)を行き来する症例がある.
 寛解期には軽度の高血糖のみか, 薬剤を必要としなくなるレベルまで改善.

 このようなタイプをKetosis-prone DMと呼び, 自己抗体をもつタイプ(GAD抗体, IA-2抗体)A+β+, もたないA-β+と表記する.
 β細胞機能の改善がえられない, 不十分なものをβ-と表記.

人種により差があり, Afro-Caribbean, Hispanicで多い. Asia人では少ない.

Ketosis-prone DMの特徴
臨床特徴
Labの特徴
誘因の無いDKAを来す.
DKA時にDMが診断されることもある
Afro-Caribbean, Hispanicで多い.
インスリン非依存性と依存性±DKAの期間がある
Type 2 DM-likeな要素が多い
(肥満, 耐糖能障害, Metabolic syndrome)
β細胞機能の変動でHbA1cもバラツく
DKAを来たす患者群では男性が多い(2.6:1)
初期治療としてインスリンが推奨される
β細胞抗体は28%で陽性
C-ペプチドはDKA時には低値.
その後は>60%で改善する.
空腹時C-ペプチド(nmol/L)/glu(mmol/L) >11はインスリン中断可能を示唆.
Type 1 DMのHLAパターンならば1-2年で
インスリン依存性となる
それぞれのタイプの特徴
(J Clin Endocrinol Metab 88: 5090–5098, 2003 )
・β+群では, 6ヶ月でインスリンを中断できるのが約半数
12ヶ月時点で投薬中止できるのが1-2.
 経口血糖降下薬のみで管理可能なのが3-4となる

KPD 111例の解析(Sub-Saharan African)
(Diabetes 53:645–653, 2004 )
最終的にインスリン離脱できたのが75.7%
インスリン投与が必要な期間は離脱群では14.3±25.9wk

KPDの再燃, インスリン依存のリスク
・3-5年にかけて再燃のリスクが高い.
また経過ごとに徐々にインスリン依存のリスクは増大する.

再燃時のHbA1c, 体重の変化

・A,B: 寛解のままの患者のデータ
C,D: 再燃をきたした患者のデータ. 半年~3ヶ月前よりHbA1cは上昇
  その前から若干体重が増加する経過をとる

他の報告では, 
106例のKPD患者をDKA後半年間フォローした報告では, インスリンを中止できたのは50例と約半数. (Diabet. Med. 22, 1744–1750 (2005) )

新規に診断されたDMKPD(A-β+)を疑う患者11例を前向きに1年間フォローした報告
C-peptideの変動
・半年以上かけて分泌能は改善する経過. 反応性も改善する

1年後の投薬、管理内容
・SUやMetforminのみ, 併用, 生活療法のみと改善を認める.

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アジア人では少ないが, β細胞機能が低下〜回復を繰り返し, DKAを繰り返す症例があることは覚えておくと良い.
なんかおかしい2型糖尿病のDKAではKPDの可能性も念頭に