ピロリ菌は消化性潰瘍のリスクとなり, 除菌によりそのリスクは低下することがわかっている.
アスピリンは長期に使用される薬剤であり, これも消化性潰瘍の原因となるため, アスピリンを使用する患者でピロリ菌が陽性の場合, 除菌することも一つの方法となっている.
この除菌療法の意義を評価したRCT
(Lancet 2022; 400: 1597–606)
HEAT trial: 英国の多施設におけるDB-RCT
・60歳以上の患者でアスピリンを使用しており, 且つスクリーニング時にC13尿素呼気試験で陽性であった患者を対象
・スクリーニング時に潰瘍の原因となる薬剤(NSAID)や, 制酸剤や胃粘膜保護薬を使用中の患者は除外. これら薬剤は導入後は投与は可能.
・対象者をピロリ除菌群(CAM, MNZ, ランソプラゾールを1wk)とプラセボ群に割り付け, 消化性潰瘍出血による入院や死亡リスクを比較した.
母集団
アウトカム
・開始後2.5年未満では, 除菌群で有意に潰瘍による入院/死亡は 減少する.
・しかしながら, ≥2.5年では両者で有意差は認めない.
・対象群における発症率は最初の2.5年で2.6/1000pt-yとそもそもかなり少なめ.
除菌による消化性潰瘍入院/死亡予防NNTは238[184-1661]程度である.
・母集団から無作為で抽出した サンプルによる再検査では,
フォロー3.95年[2.76-5.28]の患者で 除菌群では90.7%が呼気試験陰性 ,
対象群では24.0%が陰性であった.
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アスピリン投与患者におけるピロリ菌の除菌は, 2.5年以内の消化性出血による入院や死亡リスクを軽減するが, その効果はNNT 240程度とよいものではない.(そもそも母集団のリスクが少ない)
しかも2.5年以後はその差もなくなり, 有意差は消失する.
除菌しなくても24%は自然に陰性化しており(他の理由で使用されたPPIやCAMがきいたのでは、という考察がある), その影響もあるのかもしれない.
ルーチンで行う必要は乏しい可能性が高い.