特に既往のない高齢女性.
上気道症状, 発熱を認め, その後強い喘鳴, 呼吸苦を認めたため受診.
診察では主気管支領域にStridorも認められたが, 声帯浮腫は認められず.
上気道症状は副鼻腔炎を認め, それに伴う症状と考えられたが, ではWheezeやStridorは?
胸部CTを評価すると, 肺炎像は認めないが, 胸部大動脈が右胸腔に認められ, 大動脈弓が右側に, また左鎖骨下動脈起始部が嚢状に拡張を認めていた.
上行, 下行Ao, 左鎖骨下Aに気管と食道が覆われ, 一部圧排されている像も認められた.
この病態は。。。?
大動脈弓の奇形, 発生異常
(Eur J Cardiothorac Surg. 2021 Nov 2;60(5):1014-1021.)(Current Treatment Options in Cardiovascular Medicine 2006, 8:414–418)
・大動脈弓の奇形は先天性心奇形の1%程度と稀な病態
・主な奇形には血管輪があり, これは血管が完全に気管と食道を覆っている状態.
・重複大動脈弓と, 右側大動脈弓+異常な左鎖骨下動脈+動脈管索 の2つのパターンが78-99%を占める.
・重複大動脈弓では, 右回りの弓から右総頸動脈と右鎖骨下動脈, 左回りの弓から左総頸動脈と左鎖骨下動脈が生じる. 動脈管は双方, または左側より生じやすい.
・右側大動脈弓(RAA)で, 異常な左鎖骨下動脈と動脈管が生じる場合, 動脈輪を形成する.
左鎖骨下Aは下降Aoと同程度の径で分岐し, 嚢胞状となることがあり, この構造をKommerell憩室と呼ぶ. 食道や気管の圧排の一因となり得る.
RAAによる血管輪のモデル:
血管輪の臨床症状は,
・新生児の重篤な気道閉塞〜無症候性で成人例で偶発的に発見されるものまで様々.
・若年発症ほど重篤となる
・多い症状は喘鳴であり, 喘息や気管軟化症や気管支攣縮など初期診断される例がある.
他に咳嗽などの呼吸器症状, 再発性の気道感染症といった呼吸器症状,
嚥下障害, 摂食障害, 胃食道逆流症, 嘔吐などの消化器症状を呈することもある.
・これらは非特異的で多い症状であり, 特に小児領域では慢性的に持続する場合は血管輪も鑑別に入れておく必要がある.
・成人発症例では, 動脈硬化やKommerell憩室の拡大, 解離や破裂に関連して症状を生じるため, 症状はさらに非定型であることが多い.
オランダにおける先天性心奇形Cohortより動脈輪を認めた成人例69例を解析.
(Can J Cardiol. 2019 Apr;35(4):438-445.)
・診断年齢は11歳[0-70歳]
合併症を認めたのは23例で, その大半が喘息や気道過敏
・他の心奇形を伴う例も多い
動脈輪の形態
・重複大動脈弓が21例, RAAが16例, 左大動脈弓+右側異常鎖骨下動脈が30例
・発症年齢は小児期が多いが, 成人発症例もあり, 幅広い
・右側異常鎖骨下動脈と重複大動脈弓の図
初期症状
・呼吸器症状は8割で認められ, 呼吸苦やStridor, Wheezeなど
・消化器症状は3-4割.
成人例の症候性RAAに対する治療
・無症候性では治療の必要はない. 小児でも同様. 症候性の小児では手術治療が考慮される.
・成人例では進行性の血管拡張, 解離, Kommerell憩室の破裂に対して手術が適応となることが多い.
呼吸器症状に対しては吸入療法など試されることもある.