抗ARS抗体: Antiaminoacyl-transfer RNA synthetase抗体.
・抗Jo-1抗体(抗histidyl−tRNA-synthetase), PL7抗体(抗threonyl-), PL12抗体(抗alanyl-), OJ抗体(抗isoleucyl-), 抗EJ抗体(抗glycyl−tRNA-synthetase), 抗KS抗体, 抗Wa抗体など含まれる
・抗ARS抗体が陽性となる疾患群はASS(Antisynthetase syndrome)や抗ARS症候群と呼ばれる.
・ASSは間質性肺疾患, 炎症性筋症, レイノー現象 ± 機械工の手を特徴とする自己免疫性疾患
日常診療で検査可能な「抗ARS抗体」には5種類の抗体を評価する検査方法.
・含まれるものは抗Jo-1抗体, 抗PL-7抗体, 抗PL-12抗体, 抗EJ抗体, 抗KS抗体.
・自費検査になるが, 各個別の抗体を評価することも可能. 3万円くらい.
抗ARS抗体が陽性となったILD症例において, 個別の抗体間でどのような違いがあるのだろうか?
北京Chaoyang Hospのリウマチ膠原病科において, 2017年1月〜2019年6月に診療した抗ARS抗体陽性のILD症例 84例を後ろ向きにReview
(Medicine 2021;100:19(e25816).)
・抗Jo-1抗体が36例で最多(43%),
次いで抗PL-7抗体(26%), 抗EJ抗体(14%), 抗PL-12抗体(11%), 抗OJ抗体(6%)と続く
・抗Jo-1抗体や抗PL-7抗体陽性例では, 筋炎や関節炎, 機械工の手, レイノーなどASSで認められる筋炎や皮膚関節所見を伴いやすい.
・抗PL-12抗体陽性例では, 筋炎や関節炎は少ない.
・抗OJ抗体陽性例ではほぼそれら所見は認められず.
画像所見
・抗Jo-1抗体, 抗PL-7抗体, 抗EJ抗体例ではNSIPパターンが最も多い
・抗PL-12抗体例ではOPパターン
・抗OJ抗体例ではUIPパターンが主となる.
画像所見の経過
・増悪傾向となりやすいのは抗Jo-1抗体や抗PL-7抗体陽性例.一方で改善する傾向があるのもその2つ.
他は一定の経過であることが多い.
前述の北京Chaoyang Hosp.の呼吸器科, 集中治療科において, 2017年12月〜2019年3月に診療した抗ARS抗体陽性ILD患者 108例を後ろ向きにReview
(BMC Pulm Med (2021) 21:57)
・抗Jo-1抗体陽性例が33例で最多,
次いで抗PL-7抗体 30例, 抗EJ抗体 23例, 抗PL-12抗体 13, 抗OJ抗体 9
・機械工の手は抗Jo-1抗体で半数以上で認められる. 皮膚所見陽性例は抗Jo-1抗体, 抗EJ抗体例で多い
・抗Ro-52抗体陽性合併は抗Jo-1抗体, 抗EJ抗体陽性例で多い
CTパターンは,
・抗Jo-1抗体ではOP > NSIPが主.
・抗PL-7抗体はNSIPが多いが, UIPパターンも認められ, 治療反応性も最も悪い.
・抗EJ抗体はOPパターンがおよそ8割を占める
・抗PL-12抗体ではNSIP > OPパターン
・抗OJ抗体ではOPパターンが主.
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抗ARS抗体陽性のILD症例の特徴としては,
・画像所見はOPやNSIPとなることが多い.
抗体間で傾向性はありそうだが, ばらつきもありなんとも.
UIPとなりえるのは抗PL-7抗体や抗OJ抗体.
・機械工の手や筋炎, 皮膚筋炎に関連した皮膚症状が多いのは抗Jo-1抗体と抗EJ抗体, 抗PL-7抗体
逆にそれらが少ないのは抗PL-12抗体, 抗OJ抗体
・ILDの進行リスクが高そうなのは抗Jo-1抗体や抗PL-7抗体.
という傾向があるか