急性胆嚢炎にて胆嚢摘出術を施行したところ,
胆嚢の病理所見より高度の抗酸球浸潤が認められ, EGPAやHESの可能性について相談があった.
末梢血好酸球数の増多は認めず. 喘息や慢性副鼻腔炎の既往もなし. アレルギーもない.
薬剤の暴露歴も乏しく, 胆嚢炎以外に肺や腎, 皮膚, 神経など臓器症状も認められない.
はて?
ということで好酸球性胆嚢炎について調べてみる.
好酸球性胆嚢炎 Eosinophilic cholecystitis: EC
急性胆嚢炎において, 好酸球浸潤が>90%認められる症例で定義される病態.
50-75%の浸潤を認める場合, Lympho-eosinophilic cholecystitisと呼ばれる.
・胆嚢炎で胆嚢摘出術を行われた症例のうち, 好酸球浸潤が認められる割合は,
625例のうち16例. このうち3例は著明な浸潤が認められた. (Gastroenterology 1972;63:1049-1052.)
217例のうち14例(6.5%): 好酸球性胆嚢炎で定義. (Am J Surg Pathol 1993;17:497-501.)
660例のうち55例(8.3%): ≥25%の浸潤で定義. (Int Arch Allergy 1954;5:434-448.)
といった報告が昔からでている.
・報告からはECの頻度は0.25-6.4%程度とされている
ECの背景疾患としてはHES, 薬剤, アレルギー, 寄生虫感染が挙げられる
・これらを認めず, また血管炎疾患による胆嚢炎が除外されれば, 特発性好酸球性胆嚢炎と判断する.
(Annals of Clinical & Laboratory Science, vol. 37, no. 2, 2007 : 182-185)
インド, ニューデリーの施設における報告
(Journal of Clinical and Diagnostic Research. 2017 Aug, Vol-11(8): EC20-EC23)
・2011-2015年に行われた胆嚢摘出術 1370例の組織を評価
・>90%の好酸球浸潤を認める症例をEC,
50-75%の症例をlympho-eosinophilic cholecystitisと定義.
・ECは22例(1.6%), LECは43例(6.4%)で認められた.
・ECは女性で多く(1:2.7), 20-50歳台で多い
・ECのうち7/22は急性胆嚢炎, 残りは慢性胆嚢炎や胆石症のみ.
・末梢血好酸球増多は2/22と少ない
2000-2014年に胆嚢摘出術が行われ, 組織が評価された7494例中, ECと診断されたのは12例(0.16%).
(Revista de Gastroenterología de México. 2018;83(4):405-409)
・患者の平均年齢は39±11歳. 女性で有意に多い(5:7).
・10/12が急性胆嚢炎
・末梢血好酸球は320±80/µLとほぼ正常〜ごく軽度の上昇
・全例で特発性と診断された.
韓国における後向き解析 2001-2011年に行われた胆嚢摘出術の組織検体を評価
(Korean J Hepatobiliary Pancreat Surg 2012;16:65-69)
・3539例のうち, ECは30例で認められた(0.84%)
・このEC30例と年齢, 性別, 胆石の有無を合わせた他の胆嚢炎症例60例を抽出し, 比較
好酸球数の比較
・術前の好酸球数は209 vs 147と差はないが, 好酸球増多を認める割合はEC群で多い.
・術後, 好酸球数はEC群では144とある程度横ばいの経過であるが 対象群では低下する.
・しかしながらさほど大きな差はない (好酸球増多があればECを疑うきっかけになるか)
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・胆嚢炎において, 好酸球浸潤を顕著に認める病理所見が得られることがあり,
その場合 好酸球性胆嚢炎やLympho-eosinophilic cholecystitisと呼ばれる.
・EGPAやHESに伴う胆嚢炎と異なり, 末梢血好酸球増多を合併する例は少ない.
またこれらは胆嚢の単一臓器の炎症を呈することも稀である.
・論文報告からは, 胆嚢以外に胆管や胃腸炎を合併する例も報告されている.