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2021年3月15日月曜日

顔面神経麻痺(Bell麻痺)のMRI所見は?

 顔面神経麻痺についてはこれも参照

顔面神経麻痺, Bell's Palsy


典型的顔面神経麻痺患者で造影MRIを評価したところ(発症4wk時点で),
顔面神経が 内耳管〜膝神経節, 〜乳突部まで造影されていた.

これは何か他の病気では?とのことで紹介となった患者さん.

でも, 特に他に疑う病気ないし...
やっぱりBell麻痺でよいのではないか. 

そもそもBell麻痺での造影MRIの経験がなく, どのような所見となるか, 私は知らない.

そういうことで調べてみることにした.

先ずは顔面神経の走行から.

顔面神経の走行 (Radiology Research and Practice Volume 2013, Article ID 248039)
顔面神経核は橋にあり,
顔面神経は外転神経核をぐるっと一回りする走行となる.
橋からは内耳神経と並列し(前方がVII, 後方がVIII), 内耳管へ
左:内耳管と迷路部
中央:膝神経節と鼓膜部
右:乳突部

内耳管を通り, 膝神経節で分岐し, 下方に向かう神経は顔面神経管を通り(鼓膜部, 乳突蜂巣部), 茎乳突孔より出る.

実際の症例のMRIのイメージはこんな感じ(画像は論文から)
・顔面神経が内耳管〜膝神経節から下方にかけて造影されている.
 (Radiology Research and Practice Volume 2013, Article ID 248039)

では, 顔面神経麻痺における造影MRI所見ってどうなるのだろうか?

Bell麻痺やVZVによる顔面神経麻痺では造影MRIにより顔面神経の造影所見が得られる.
(Acta Otolaryngol (Stockh) 1995; 115: 577-584)
・特に内耳管の部分での所見が多い
 内耳管の遠位部, 迷路・膝神経節, 鼓膜部, 乳突蜂巣部に多く認める
・発症後数週間~1-2ヶ月後のMRIでそれらの造影所見が認められ完全に改善して10wk後に評価した報告でも, 軽度であるが造影が残存
・一部の報告では, 初期は近位部の造影が, 時間経過とともに遠位部となる報告もある.
造影の強さや範囲, 部位と顔面神経麻痺の重症度, 予後の相関性は認められていない.

中国の以下を満たす顔面神経麻痺(BP)症例では,
・HB grade V-VI, ステロイド治療で反応なし, ENOG>90%の神経変性, Nerve decompressionを施行した症例群
・上記を満たす13例では, 11例で造影効果が認められ多くは膝神経節, Vertical segmentであった.
・また外科所見では浮腫が半数程度で認められる.
(Clinical Radiology 76 (2021) 237.e9e237.e14)

日本国内より, 顔面神経麻痺と造影MRI所見を評価した報告
(Nihon Jibiinkoka Gakkai Kaiho. 1993 Aug;96(8):1329-39.)
・健常患者でも膝神経節や水平部, 垂直部の造影が認められるが, 内耳管内, 迷路部の造影はまず認められない. 
・一方で, Bell麻痺患者群では同部位の造影が高頻度で認められる.
・またこの報告では, Bell麻痺発症早期では内耳管〜迷路部で多かった造影効果が, 発症数週間経過すると, 遠位部にも延長する傾向があることが示された.

顔面神経麻痺 147例と, 聴神経腫瘍を疑われてMRI評価された300例のControl群において, 顔面神経の造影所見を評価(日本)
(Clinical Radiology (2001) 56: 926±932)
・迷路~遠位部はControl群では造影を認める症例はない一方膝神経節, 近位部, MastoidControl群でもあり.
顔面神経障害群では全領域にわたって造影効果を認める
・主には先の報告と同様.

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顔面神経麻痺(Bell麻痺)では, 顔面神経の浮腫が生じ, 特に内耳管〜迷路部での造影効果が特徴的な所見となる.
これは時間が経過すると(3-4wk)遠位部まで拡大する傾向がある.
健常人でも顔面神経遠位部(膝神経節以遠)では造影効果が認められる可能性がある