アモキサピンはトライエイジでも偽陰性となるリスクが高いため, 処方歴がある患者では余計に注意している.
参考: 急性薬物中毒におけるトライエージ 他
でも, その根拠をしっかりと探したことがなかったので, 探してみました.
J Med Toxicol. 2008 Dec;4(4):238-50.
USにおける抗うつ薬単独の自殺目的の過量服薬症例82802例を解析し, 薬剤別の致命リスク, 合併症リスクを評価.
・過量服薬は女性例で多く, 全体では10台の若年者で多いが, 致命的な過量服薬は40歳台で多く, 男女差も少なくなる
年代別の薬剤内容
・若年ではSSRIが多く, 中年ではMAO阻害薬が多くなる
薬剤の頻度と致命的となるHazard Index.
・最も多いのはTrazodoneだが, 致命的となるリスクは低い.
・最もリスクが高いのはAmoxapine.
・頻度もリスクも高いのはAmitriptyline
薬剤別の症状, 合併症の頻度
心血管系合併症・心静止, 徐脈, 心停止のリスクがアモキサピンで高い.
・伝導障害や血圧の変動, 頻脈は他の薬剤と同程度.
消化管系合併症
・消化管系の症状はアモキサピンでは悪心嘔吐が目立つが, MAOIやSNRI, SSRIの方が多い
神経系合併症
・意識障害はTCAやMAOIで多く, SNRI, SSRIでは少なめ
・痙攣リスクはアモキサピンで著しく高い.
腎・泌尿器系合併症
・アモキサピンではCrの上昇や腎不全が他よりも多い傾向. これは心血管系合併症や痙攣に関連しているのかもしれない
呼吸器系合併症
・低換気や呼吸停止がアモキサピンで目立つ. がこれも心血管系合併症や痙攣に関連しているのかもしれない
-------------------------------
個人的には以前アモキサピンを長期間使用している患者で, 腎不全が進行, さらに痙攣で救急搬送. 対応中に目の前で徐脈・Asystole → E-CPRで救命 という結構劇的な症例を経験したことがあります.
通常, TCA中毒ではQRS延長がある場合に痙攣や不整脈を呈するリスクが上昇しますが, アモキサピンはそれとは関係なく痙攣や不整脈をきたすため, この点にも注意が必要です.
参考: TCA中毒における心電図所見と痙攣・予後リスク
Outcome | Cutoff | Sn(%) | Sp(%) | LR(+) | LR(-) |
痙攣 | 血中濃度>1000ng/mL | 75[61-85] | 72[61-81] | 2.39[1.76-3.25] | 0.46[0.30-0.71] |
QRS≥100ms | 69[57-78] | 69[58-78] | 3.18[2.60-3.90] | 0.38[0.27-0.55] | |
QTc≥430ms | - | - | - | - | |
死亡 | 血中濃度>1000ng/mL | 76[49-91] | 60[47-72] | 1.90[1.31-2.75] | 0.57[0.22-1.44] |
QRS≥100ms | 81[54-94] | 62[55-68] | 2.13[1.59-2.86] | 0.31[0.10-0.99] | |
QTc≥430ms | 50[0-91] | 68[22-94] | 1.56[0.36-6.75] | 0.74[0.18-2.99] | |
心室不整脈 | 血中濃度>1000ng/mL | 78[56-90] | 57[46-67] | 1.81[1.42-2.32] | 0.39[0.17-0.85] |
QRS≥100ms | 79[58-91] | 46[35-59] | 1.46[1.21-1.77] | 0.46[0.24-0.88] | |
QTc≥430ms | 78[41-95] | 56[38-73] | 1.77[1.26-2.50] | 0.39[0.17-0.93] | |
R/S ratio>0.7 | 47 | 97 | 15.7 | 0.55 |
Metaより(Journal of Toxicology CLINICAL TOXICOLOGY 2004;42:877-888)