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2019年5月11日土曜日

続 症例: 40歳台男性、意識障害

前 http://hospitalist-gim.blogspot.com/2019/05/40.html

というわけで, Spontaneous TLSを疑ったものの, 腫瘍が見つからず空振り.
TLSと同時に鑑別に挙げていたMAHA(Microangiopathic Hemolytic anemia)を考慮した.
 ちなみにPLTは低値なものの, INR, APTTは正常範囲. D-dimer 高値からもMAHAを考慮

MAHAはTMA(thrombotic microangiopathy)とも呼ばれ, 微小血管の血栓症を呈する病態.
 微小血管内の血栓症+溶血, 塞栓症症状を呈し, 主にTTPやHUS, atypical HUSなど含まれる.

主なTMA
*Complement-mediated TMAはいわゆるatypical HUSと呼ばれる.
 Shiga toxin関連TMAがいわゆるHUS(ST-HUS)で, 他のTTP以外の病態は二次性HUSと呼ばれることが多い.
 atypical HUSと二次性HUSは論文によっては一緒くたにされていることもあり.

・この症例では薬剤歴なし. 同様のTMA既往歴なし, 家族歴なし.
・低栄養や偏食もなし.
 Vit B12欠乏や葉酸欠乏でもTMA様病態となるが, この場合は網赤血球が低下する(ほぼ全例でRPI<3を満たす)ものの, この患者では網赤血球は9万, RPI>3と増多していた.
 (Transfusion and Apheresis Science 57 (2018) 102–106 )

・背景を探ると数年前より高血圧の指摘があるが放置.
 眼底所見では高血圧性網膜症の所見がしっかりとあり,
 エコーでは心臓の全周性のLVHが認められた.
 救急の管理中にBP 220/150となることも多く, 高血圧性のMAHAを考慮した.

 しかしながら末梢血での破砕赤血球は明らかではなかった.

・また, 意識障害については頭部MRIにて後頭葉のT2WI High Intensityを, 髄液検査では髄液タンパク150mg/dL. 細胞増多無しであり, 高血圧性のPRESを考慮した.

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入院後, 前術のTLSを精査, 否定しつつ降圧療法を施行し, その12h後にはLDHやBilのピークアウト, PLTの上昇傾向が認められた.
補液により利尿もつき, それに伴いUAも有意に低下(24→15mg/dL).
血液濃縮が改善され, Hbは最終的に11台まで低下した.

その後も血圧管理を継続し, Crを除きLabは正常化, 状態は安定している.

上記経過より, 高血圧緊急症によるMAHA, PRESと判断した症例であった.

ちなみに, 補体は正常. ADAMTS13活性は病勢や経過から測定していない.
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高血圧緊急症によるTMA

・高血圧緊急症でもTMAを生じるが, その数は少なくあまりまとまったデータも乏しい.

高血圧緊急症症例におけるTMA合併例と非合併例を比較した報告
(Clinical and Experimental Hypertension, 33(2): 77–83, (2011) )
・症状は頭痛や呼吸苦, 視覚障害が多い. 他には血痰など.
・重度の高血圧緊急症では高度腎障害を伴うが,
 TMA合併の有無で異なるのはTMA合併例ではLDHがより高値, PLTが低下する点.
・また, TMA合併例のほうが血清アルドステロン値が高値となるデータもある(アルドステロン症を背景とする例が多い)

また, 最近高血圧性TMAにはatypical HUSを背景とするものがある報告が増えている
高血圧性TMAと判断された8/17CFH,CFI,MCP,C3遺伝子の変異あり(J Am Soc Nephrol 29: 2234–2243, 2018. )


もともと無症候性のaHUS素因がある患者で, 高血圧がトリガーとなってTMAが生じているのか, aHUS自体に高血圧を伴うバリアントがあるのかは現時点では不明. 今後あきらかになるかもしれない.

高血圧緊急症を伴うaHUSと伴わないaHUSを比較した報告
(Haematologica. 2019 Mar 19. pii: haematol.2019.216903. doi: 10.3324/haematol.2019.216903. [Epub ahead of print]
Impact of hypertensive emergency and complement rare variants on presentation and outcome of atypical hemolytic uremic syndrome.)
・高血圧緊急症を伴うaHUSでは神経障害が多く腎予後も悪い

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TLSにしろMAHAにしろ、緊急性を伴う病態で, 突如救急でやってくる病態です.
外来で来たこともありました.

背景疾患もわからず, 症状も非典型的で, Lab異常が顕著, という感じで診療することが個人的に多く, 対応しつつ, できる検査を素早く行い, いざという時は血漿交換をためらわない姿勢が求められます.

その割には稀なので, 知識も抜けがち. 
常に素振りしときたいところです.