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2019年5月9日木曜日

症例: 40歳台男性、意識障害

受診歴, 内服歴なし.
40歳台男性, 3日前からの体動困難, 食事摂取不良あり
搬送当日, 呼びかけへの反応不良, 見当識障害あり救急要請となった.

BP 168/120, HR 101reg, RR 22, SpO2 98%(RA), BT 37.6度
身体所見上は特記すべき所見なし.
項部硬直もなし. 脳神経所見も問題なし.

血液検査にて,
 WBC 26000(Neu 84%), Hb 16.4g/dL, PLT 7.6万,
 UA 24mg/dL, LDH 2300IU/L, AST/ALT 168/62, ALP/GGT 231/56, T-Bil 2.1mg/dL(D-bil 0.4)
 BUN/Cr 63/6.2mg/dL, Na 148, K 3.2, Cl 98, P 4.3, Mg 3.2, Ca 9.2
 CRP 1.3mg/dL

と, 著明な腎障害, LDH高値, UA高値を認めた.
エコーや身体所見にて溢水所見なし. 血液ガス検査ではアシドーシスなし, Lac 3.2程度.
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著明なUA, LDHの上昇, 腎障害があり,
まず緊急性から, Tumor lysis syndromeを疑った.


Tumor Lysis Syndrome(TLS)

腫瘍細胞の崩壊による細胞内容物の漏出に伴う症候群
K血症, P血症, Ca血症, 高尿酸血症を来す.
・腫瘍細胞量の多い悪性腫瘍に対する化学療法がトリガーとなって生じることが主.
 腫瘍は血液腫瘍(NHL, Lymphocytic leukemia, MM, AML, CML)治療開始後での報告が主だが固形腫瘍でも増殖の速い肺小細胞癌精巣腫瘍,  Neuroblastoma, 乳癌で生じ得る.
・治療関連では化学療法施行後12-72hで生じることが多い



Chemo~出現

K血症
6-72hr
腎不全で増悪
P血症
24-48hr
腫瘍細胞中のP濃度は通常の3.PCaと結合しCaを来す.また腎結石を生じ腎不全にも関与
高尿酸血症

尿細管内に結晶化し腎不全を来す

・主に電解質異常による不整脈, 意識障害, 痙攣
 高尿酸血症による腎障害
 乳酸アシドーシスが主な病態. 致死的にもなりえる.
(J Family Med Prim Care. 2018 Sep-Oct;7(5):1116-1119.)

TLSの診断基準: Cairo-Bishop基準


化学療法におけるTLSのリスク因子
(Arch Pathol Lab Med. 2019;143:386–393)

TLSリスクと化学療法における対応
(Arch Pathol Lab Med. 2019;143:386–393)

TLSの対応
・電解質異常, 高尿酸血症に対して逐一対応. 全身管理を行う.



さて, 今症例では化学療法の既往はなく, 治療に関連するTLSではない.
治療に関係なく発症するTLSを「Spontaneous TLS」と呼び, その大半が血液腫瘍(急性白血病)
([West J Emerg Med. 2019;20(2)316–322.] )
・倦怠感や脱水, 痙攣, 不整脈, 悪心嘔吐を認め, 受診する
ケースレポートでは消化管腫瘍や肺癌, 婦人科腫瘍前立腺癌などでの突発性TLSの報告はある

TLSが初発症状となった悪性腫瘍の3例のLab
(J Family Med Prim Care. 2018 Sep-Oct;7(5):1116-1119.)
・腫瘍はALL, Burkitt lymphoma, Plasma cell leukemia
・UAは非常に高値となり, 腎不全も高度. アシドーシスも強い.


1999-2002年に急性腎障害でChang Gung Memorial Hospitalを受診した患者を後ろ向きにReviewでは
(J NEPHROL 2004; 17: 50-56 )
・926例の急性腎障害患者のうち, Acute spontaneous TLS10例で診断された(1.08%)
 ASTLSはステロイドや化学療法の投与がない患者UA高値尿中UA/尿Cr >1.0, LDH>500 U/L,  悪性腫瘍を認めた患者で診断.
・APTLS 10例のデータ
 腫瘍は悪性リンパ腫が7例, 白血病, Leiomyosarcoma

・10例のLab. 透析を必要としたのは7/10であった.
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ということで, すぐに対応が必要なSpontaneous TLSを検討し, 即日以下検査を施行したところ
全身CT → Massなし
骨髄穿刺, 生検 → AMLや骨髄増殖性疾患を示唆する所見なし.

ということで空振り・・・

さてなんだろう。つづきは明日。