40歳台男性, 3日前からの体動困難, 食事摂取不良あり
搬送当日, 呼びかけへの反応不良, 見当識障害あり救急要請となった.
BP 168/120, HR 101reg, RR 22, SpO2 98%(RA), BT 37.6度
身体所見上は特記すべき所見なし.
項部硬直もなし. 脳神経所見も問題なし.
血液検査にて,
WBC 26000(Neu 84%), Hb 16.4g/dL, PLT 7.6万,
UA 24mg/dL, LDH 2300IU/L, AST/ALT 168/62, ALP/GGT 231/56, T-Bil 2.1mg/dL(D-bil 0.4)
BUN/Cr 63/6.2mg/dL, Na 148, K 3.2, Cl 98, P 4.3, Mg 3.2, Ca 9.2
CRP 1.3mg/dL
と, 著明な腎障害, LDH高値, UA高値を認めた.
エコーや身体所見にて溢水所見なし. 血液ガス検査ではアシドーシスなし, Lac 3.2程度.
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著明なUA, LDHの上昇, 腎障害があり,
まず緊急性から, Tumor lysis syndromeを疑った.
Tumor Lysis Syndrome(TLS)
腫瘍細胞の崩壊による細胞内容物の漏出に伴う症候群
・高K血症, 高P血症, 低Ca血症, 高尿酸血症を来す.
・腫瘍細胞量の多い悪性腫瘍に対する化学療法がトリガーとなって生じることが主.
腫瘍は血液腫瘍(NHL, Lymphocytic leukemia, MM, AML, CML)の治療開始後での報告が主だが, 固形腫瘍でも増殖の速い肺小細胞癌, 精巣腫瘍, Neuroblastoma, 乳癌で生じ得る.
・治療関連では化学療法施行後12-72hで生じることが多い
Chemo後~出現
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高K血症
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6-72hr
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腎不全で増悪
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高P血症
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24-48hr
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腫瘍細胞中のP濃度は通常の3倍.高PがCaと結合し, 低Caを来す.また腎結石を生じ, 腎不全にも関与
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高尿酸血症
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尿細管内に結晶化し, 腎不全を来す
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・主に電解質異常による不整脈, 意識障害, 痙攣
高尿酸血症による腎障害
乳酸アシドーシスが主な病態. 致死的にもなりえる.
(J Family Med Prim Care. 2018 Sep-Oct;7(5):1116-1119.)
TLSの診断基準: Cairo-Bishop基準
化学療法におけるTLSのリスク因子
(Arch Pathol Lab Med. 2019;143:386–393)
TLSリスクと化学療法における対応
(Arch Pathol Lab Med. 2019;143:386–393)
TLSの対応
・電解質異常, 高尿酸血症に対して逐一対応. 全身管理を行う.
さて, 今症例では化学療法の既往はなく, 治療に関連するTLSではない.
治療に関係なく発症するTLSを「Spontaneous TLS」と呼び, その大半が血液腫瘍(急性白血病)
([West J Emerg Med. 2019;20(2)316–322.] )
・倦怠感や脱水, 痙攣, 不整脈, 悪心嘔吐を認め, 受診する
・ケースレポートでは消化管腫瘍や肺癌, 婦人科腫瘍, 前立腺癌などでの突発性TLSの報告はある
TLSが初発症状となった悪性腫瘍の3例のLab
(J Family Med Prim Care. 2018 Sep-Oct;7(5):1116-1119.)
・腫瘍はALL, Burkitt lymphoma, Plasma cell leukemia
・UAは非常に高値となり, 腎不全も高度. アシドーシスも強い.
1999-2002年に急性腎障害でChang Gung Memorial Hospitalを受診した患者を後ろ向きにReviewでは
(J NEPHROL 2004; 17: 50-56 )
・926例の急性腎障害患者のうち, Acute spontaneous TLSは10例で診断された(1.08%)
ASTLSはステロイドや化学療法の投与がない患者, UA高値, 尿中UA/尿Cr >1.0, LDH>500 U/L, 悪性腫瘍を認めた患者で診断.
・APTLS 10例のデータ
腫瘍は悪性リンパ腫が7例, 白血病, Leiomyosarcoma
・10例のLab. 透析を必要としたのは7/10であった.
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ということで, すぐに対応が必要なSpontaneous TLSを検討し, 即日以下検査を施行したところ
全身CT → Massなし
骨髄穿刺, 生検 → AMLや骨髄増殖性疾患を示唆する所見なし.
ということで空振り・・・
さてなんだろう。つづきは明日。