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2018年6月28日木曜日

症例: 熱中症の女性

70台女性熱中症で入院

 肺癌化学療法後の女性 定期外来受診で来院され特に異常認めずその後帰宅された.
 その際はいつもとかわり無く経過元気であった.

 帰りはバスで駅までゆき、そこから20分くらい歩行した際に気分不良を自覚しその場でへたり込んだそのまま動けずに経過. 5-10分後に人が通りがかり救急要請となった. ER到着時, 38度台の発熱、意識朦朧. BP 138/50mmHg, HR 102bpm. 熱源精査では肺炎やUTI, 軟部組織感染症など認められず炎症反応も陰性であり熱中症として入院加療となった.

 翌日には解熱し元気いつも通りという
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京都の夏には多い熱中症症例の一つです今年も増えてきました.
このような症例は毎年診る先生方も多いと思います.

入院後改善しやはり熱中症かということで退院手続きを始める...前にこの病歴で違和感を感じませんか?

癌・化学療法後・そして20分かそこら歩いただけで熱中症?
(
実際はこの病歴は入院後に綿密に病歴を聞いて評価したものです)

それはあり得ないだろう!何かあるはずだ,というディスカッションが当科ではなされます.

一つの仮説のもと, ある検査を行いました.
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イソジン-小麦粉試験(院内に片栗粉がなく小麦粉を購入して使用)

ADLの関係で全身で行うのが難しいため手足腹部背部にイソジンを塗りつけ乾かしその上に小麦粉をふりかけさらにフィルムでパッチします.

その後お布団を二重がけにして30体温は37(最初36)
さらに30体温は37度後半.

さて発汗はしているでしょうか?

最初: 腹部


1時間後: 37度後半

背部、四肢も同様に発汗なし

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ということで無汗症をベースとした熱中症という診断になりました.

去年の夏は問題なかったとのことからおそらくは化学療法が契機となった可能性を考慮していますが論文では化学療法による無汗症の報告はありません因果関係を証明することが難しい点無汗症自体を注意して見ている医師がいないためでしょう.

化学療法による皮膚障害の1つに発汗障害があっても矛盾しない気がします.
さらに肺癌による傍腫瘍症候群としての自律神経障害として発汗障害があるのかもしれません.

熱中症と発汗障害の関係は報告はあり

シンガポールからの報告では熱中症となった兵士30例中, 無汗症は31%で認められた.
・9例中1例が深在性汗疹, 2例が後天性特発性無汗症,
・6例がAcquired symmetrical hypohidrosis(ASH)
 ASH: この文献で初めて定義された左右対称性の無汗症
 体幹の広範囲で, 左右対称性に発汗低下が認められている
(Dermatology. 2016;232(1):50-6.)

中国における後天性特発性無汗症15
( J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)
・この報告では, Heat exhaustionは5/15で認められます.

これからの季節, 熱中症はさらに増えると思われます.
ERや入院診療では発汗の有無や範囲は常に気にしておきましょう
(当科では常に片栗粉や小麦粉は医局に常備しております)

こちらも参照
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/06/blog-post_18.html

この患者さんの無汗症の治療は難しいですが, 原因がわかれば対応もできます.
日中の行動の注意や霧吹きを持って歩くこと、濡れタオルを常備するなど生活指導ができますので、この原因を評価することは重要と思っています.

2018年6月20日水曜日

ストレス因子と自己免疫性疾患

(JAMA. 2018;319(23):2388-2400. )より
外傷や近しい人の死亡, 著しい環境の変化では多大な精神的なストレスが生じる.
・これらのストレスによりPTSDや急性ストレス障害となる患者もいる
・ストレスは自律神経障害や副腎-下垂体-視床下部のバランスの障害など身体への影響もあり, 免疫機能にも影響する.
・これらストレスを契機に自己免疫疾患を発症する可能性もあり, これらの関連を評価した

スウェーデンにおける国勢調査を元にしたCohort研究
・1980年時にスウェーデンに在住(スウェーデン生まれ)の国民を対象
1981年~2013年に初めてストレス関連障害と診断を受けた患者で自己免疫疾患の既往がない/疑うような病歴がない患者群とその親族, 上記要素を認めない群をフォローし, 比較.
ストレス関連障害はさらにPTSD, 急性ストレス反応, 適応障害, その他に分類して評価.
 PTSDは初期での診断が難しいため, 初診後1年以内にPTSDと判断された患者はPTSDに分類した

解析・比較は以下の2つで施行
・Population-matched cohort: ストレス障害と診断された106464例と 
 診断されていない対象群 1064640例を比較(1:10で生年, 性別を一致)
・Sibling cohort: ストレス障害と診断された78635例と 
 その親族(兄弟)である126652例を比較

自己免疫疾患は41疾患を対象. 一般的な膠原病~インスリン依存性DM, 神経疾患(MS, 脳炎, MG, GBS), などなど

アウトカム:

・ストレス関連疾患の既往は有意な自己免疫疾患リスクとなる:HR 1.36[1.33-1.40]
男女双方とも同等のリスク.
年齢は若年ほどわずかだがリスクも高い.
診断~発症まではどの年数でもある. 1年未満~10年以上

疾患別: 全体的にリスクは上昇
・内分泌疾患や炎症性疾患のリスクは上昇する印象
・血液疾患リスクはあまり差はないか

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・日本国内ですと震災後のこれら疾患の発症, 診断頻度が気になるところです.
・東日本大震災後の甲状腺疾患云々・・・というのはこういった要素もあるのでは、とも思ってしまいます.

2018年6月19日火曜日

難治性腹水を伴う肝硬変では定期的なアルブミン投与が予後改善し得る

ANSWER trial: 肝硬変患者にてスピロノラクトン≥200mg/d, フロセミド≥25mg/dを使用しているが腹水貯留を認める431例を対象としたRCT
(Lancet 2018; 391: 2417–29)
・通常治療+アルブミン投与群 vs 通常治療のみの群に割付け, 18ヶ月継続
 アルブミンは最初の2wk40gを週2, その後は40g/wkで投与.(アルブミナー®25%3-4. 1(50ml)あたり12.5g)
生存率, 腹水コントロール率などを評価.
除外項目はTIPS, 活動性HCC, 肝移植, アルコール摂取継続
 肝臓以外の臓器障害, 1ヶ月以内の腹水治療目的でのアルブミン使用
 SBPなど感染性, 複雑性の腹水貯留

母集団データ

アウトカム
・生存率は有意にアルブミン群で改善
・肝臓由来死亡+非肝臓由来死亡+TIPS+肝移植適応率も有意に低下する

腹水コントロール
腹水穿刺施行率難治性腹水合併率も有意にアルブミン投与群で低下

他の肝硬変合併症

・SBP, 感染, 腎障害リスクも低下する
 食道静脈瘤出血, 他の門脈圧亢進が関連する出血のリスクは有意差なし
・入院率も有意に低下.
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・腹水マネージメントが難しい患者ではアルブミンの定期投与は予後を改善しえる治療と言える. 
・他に難治性腹水で有用なのはバプタンの報告がありますが、この方法も覚えておこうと思います。

2018年6月13日水曜日

IgG4関連疾患以外のIgG4上昇をきたす疾患/病態

IgG4関連疾患以外にIgG4が上昇する疾患には以下のようなデータがある

疾患
IgG4上昇例(%)
疾患
IgG4上昇例(%)
Sjögren症候群
7.7%
好酸球増多症
12.5%
膵癌
5.2%
間質性肺炎
33.3%
SLE
13.9%
Behcet病
10%
関節リウマチ
14.5%
EGPA
71.4%
胆管癌
6.2%
喘息
14.3%
慢性膵炎
4.4%
炎症性筋症
16.7%
全身性硬化症
6.8%
抗リン脂質抗体症候群
20%
肝硬変
9.1%
MCTD
0
慢性肝炎
4.8%
MPA
20%
Castleman病
43.7%
健常人
1.3%
(Mayo Clin Proc. 2015;90(7):927-939 )

他に国内から
札幌医大, 手稲, JR札幌病院におけるStudy
(Mod Rheumatol (2012) 22:419–425)
・IgG4-RD患者と, 自己免疫疾患患者のIgG4値を評価.(Mikulicz’s disease 66, Kuttner’s tumor 17, dacryoadenitis 11, AIP 8) 

CSS, APS, RA, PM/DM, MCD, 好酸球性疾患肝炎, 肝硬変ではIgG4が高値となるので注意.

primary Sjogren syndrome(pSS) 102, SSc 102SLE 100, PBC 59, 健常人 40例における評価では,
(Medicine 94(2):e387) 
IgG4>135mg/dLとなったのは
 pSS3%, SSc7%, SLE 11%, PBC 3%, 健常人では5%

見方を変えて, 
IgGのサブクラスがどれか単一で上昇を認めた552例のReview
(Seminars in Arthritis and Rheumatism 47 (2017) 276–280 )
・IgG422.1%で上昇
IgG4上昇例は自己免疫性膵炎, アスピリン誘発性呼吸器疾患Celiac, 鼻ポリープ, 好酸球増多に関連する.

と, 色々な疾患でIgG4の上昇は認められる.
特に好酸球上昇に関連しているような印象.

最近喘息とIgG4上昇の関連を評価した報告が出ているので紹介

2006-2015年に難治性喘息と判断された患者群123例において血清IgG4を評価.
(Respiratory Medicine 112 (2016) 39-44 )
・このうち25例でIgG4/IgG >10%を満たし, 非上昇例98例と比較
IgG4上昇群では好酸球増多も多い
FeNO>100ppbも有意に多い(気道炎症のマーカー)

喘息のPhenotypeIgG4
・Non-atpic, non-eosinophilicではIgG4陽性例はいない
EGPAを満たす場合やEo上昇を伴う喘息ではIgG4の関連があるかも

IgG4関連疾患における好酸球増多の合併は?
MGHにおける病理で診断されたIgG4-RD 70例の解析
(Allergy 2014; 69: 269–272. )
・IgG4-RD診断時のIgE, 好酸球数を評価.
アトピー性皮膚炎の既往は22/70(31%)で認められた.
・IgE上昇は35%. 平均値523IU/mL[範囲129-1869]
 末梢血好酸球増多は27%. 平均1062/µL[範囲600-2000]
アトピー性皮膚炎合併例の方がEoIgEは高い

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IgG4関連疾患以外にIgG4の上昇を認めるものは多数あり,
特に好酸球増多との関連はありそうである

EGPAや難治性喘息で好酸球増多を伴うタイプ, 好酸球増多症ではIgG4も高値となりやすく
さらにIgG4関連疾患患者でも好酸球増多やIgE増多を伴うことも多い.

IgG4-RD自体新しい疾患概念であり, 今後さらに分類化される可能性もあるが,
現時点では、IgG4と好酸球増多・アレルギー疾患を関連づけて考えておくとよいだろう