70台女性. 熱中症で入院
肺癌, 化学療法後の女性. 定期外来受診で来院され, 特に異常認めず, その後帰宅された.
その際はいつもとかわり無く経過. 元気であった.
帰りはバスで駅までゆき、そこから20分くらい歩行した際に気分不良を自覚し, その場でへたり込んだ. そのまま動けずに経過. 5-10分後に人が通りがかり, 救急要請となった. ER到着時, 38度台の発熱、意識朦朧. BP 138/50mmHg, HR 102bpm. 熱源精査では肺炎やUTI, 軟部組織感染症など認められず. 炎症反応も陰性であり, 熱中症として入院加療となった.
翌日には解熱し元気. いつも通りという.
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京都の夏には多い熱中症症例の一つです. 今年も増えてきました.
このような症例は毎年診る先生方も多いと思います.
入院後改善し, やはり熱中症か, ということで退院手続きを始める...前に, この病歴で違和感を感じませんか?
癌・化学療法後・そして20分かそこら歩いただけで熱中症?
(実際はこの病歴は入院後に綿密に病歴を聞いて評価したものです)
(実際はこの病歴は入院後に綿密に病歴を聞いて評価したものです)
それはあり得ないだろう!何かあるはずだ,というディスカッションが当科ではなされます.
一つの仮説のもと, ある検査を行いました.
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イソジン-小麦粉試験(院内に片栗粉がなく, 小麦粉を購入して使用)
ADLの関係で全身で行うのが難しいため, 手足, 腹部, 背部にイソジンを塗りつけ, 乾かし, その上に小麦粉をふりかけ, さらにフィルムでパッチします.
その後, お布団を二重がけにして30分. 体温は37度(最初36度)
さらに30分. 体温は37度後半.
さて, 発汗はしているでしょうか?
最初: 腹部
1時間後: 37度後半
背部、四肢も同様に発汗なし
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去年の夏は問題なかったとのことから, おそらくは化学療法が契機となった可能性を考慮していますが, 論文では化学療法による無汗症の報告はありません. 因果関係を証明することが難しい点, 無汗症自体を注意して見ている医師がいないためでしょう.
化学療法による皮膚障害の1つに発汗障害があっても矛盾しない気がします.
さらに, 肺癌による傍腫瘍症候群としての自律神経障害として発汗障害があるのかもしれません.
熱中症と発汗障害の関係は報告はあり
シンガポールからの報告では, 熱中症となった兵士30例中, 無汗症は31%で認められた.
・9例中1例が深在性汗疹, 2例が後天性特発性無汗症,
・6例がAcquired symmetrical hypohidrosis(ASH)
ASH: この文献で初めて定義された左右対称性の無汗症
体幹の広範囲で, 左右対称性に発汗低下が認められている
(Dermatology. 2016;232(1):50-6.)
中国における後天性特発性無汗症15例
( J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)
・この報告では, Heat exhaustionは5/15で認められます.
これからの季節, 熱中症はさらに増えると思われます.
ERや入院診療では発汗の有無や範囲は常に気にしておきましょう
(当科では常に片栗粉や小麦粉は医局に常備しております)
こちらも参照
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/06/blog-post_18.html
この患者さんの無汗症の治療は難しいですが, 原因がわかれば対応もできます.
日中の行動の注意や霧吹きを持って歩くこと、濡れタオルを常備するなど生活指導ができますので、この原因を評価することは重要と思っています.
この患者さんの無汗症の治療は難しいですが, 原因がわかれば対応もできます.
日中の行動の注意や霧吹きを持って歩くこと、濡れタオルを常備するなど生活指導ができますので、この原因を評価することは重要と思っています.