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2017年1月12日木曜日

PMRとSmall vessel vasculitis

リウマチ性多発筋痛症(PMR)は高齢者をよく診療する総合診療科では比較的コモンな疾患と言える.

しかしながら、PMRと一言といっても, 高齢発症の関節リウマチ(EORA)や傍腫瘍症候群など他の疾患も同様の症状や経過で発症し得るため注意が必要である.

RAとの鑑別:
 http://hospitalist-gim.blogspot.jp/2015/10/pmrmri.html
 http://hospitalist-gim.blogspot.jp/2015/06/blog-post_60.html
某腫瘍症候群としての膠原病
 http://hospitalist-gim.blogspot.jp/2014/09/blog-post.html

そのなかで一つ押さえておきたのがSmall vessel vasculitis(SVV)

SVVによる糸球体腎炎の患者86名のRetrospective cohort.
・このなかの13%がPMRとして初期治療を受けていた.

PMR診断既往(+) vs (-)の比較

・PMRとして治療された群では, 腎不全, 透析, 死亡Riskいずれも低く,軽症のSVVの初期ではPMRと誤診される可能性が示唆される.



PMRとGCAとSVVはオーバーラップする

臨床的にGCS±PMRの診断を受けた490名でTA生検を施行した前向きコホート
(Arthritis and Rheumatism 2008;58:2565-73)
・生検でTA正常 + TA周囲の小血管への単核球浸潤 → SVVとしたとき, SVVは35名(7.14%)で認められた. 
 他にTA生検でGCAに典型的な症例が280例, TA生検陰性例は175例.

SVVはTAと比較して,
・炎症がやや低く, 消耗症状, 全身症状も軽い傾向.
・側頭動脈異常も少ない.
・PMR様症状はSVVで多い. 
・発症年齢は同じ.

SVVとTA生検陰性例の比較
・SVVでは発熱の頻度が低い. 他症状や所見に差はない

871例の患者より888件の側頭動脈生検を施行した報告.
(Arthritis and Rheumatism 2008;58:2565-73)
・上記の354例(39.9%)で炎症所見が得られた.
・生検所見を以下の4つに分類
  Small vessel vasculitis(SVV): 側頭動脈自体は保たれており, 外膜周囲の小血管の炎症所見が認められる.
  vasa vasorum vasculitis(VVV): 外膜の栄養血管のみの炎症所見
  inflammation limited to adventitia(ILA): 炎症が血管外〜外膜のみに波及し, 中膜は保たれている所見
  transmural inflammation(TMI): 炎症が外弾性板を経て中膜に波及している所見.
・354例中, SVVが9%, VVVが6.5%, ILAが7%, TMAが77.5%であった.

病理所見と臨床症状, 所見, 検査結果

・末梢の滑膜炎はSVVで合併頻度が多い.
・顎跛行や頭痛はTMIで有意に多い.
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PMRとSmall vessel vasculitisはしばしば鑑別が困難である.
・PMR様の症状だが, 腎障害, 蛋白尿, 血尿がある場合や, PMRとしては症状が非典型的な場合(ROM制限がないなど)は, SVVも考慮してANCAや補体などの評価も重要.
・PMRは滑膜炎がMainであり, 一般的にROM制限が強いはず.

GCA(側頭動脈炎)と臨床的に疑わしくても, 組織ではSVVである可能性もある.
・組織所見間で長期予後やステロイド調節, 腎機能予後がどうなるかはまだわからないが, PMRやGCAの中にはSVVが含まれている可能性には留意した方が良い
・ただし「組織上SVV」であることがどの程度予後に関連するか、ステロイド反応性に関わるか、というのはよくわからない. 組織上SVVならばPMRとすべきとしている論文もある. 

臨床的にPMRやGCAが疑わしい患者ではANCAの評価や尿所見の評価/フォローは大事.

2017年1月6日金曜日

糖尿病でも爪床毛細血管ループ(Nail-fold capillary)の異常を生じる

Nail-fold capillaryの評価は強皮症や皮膚筋炎の評価で重要な所見の一つだが, 糖尿病による微小血管障害でもNFCの異常が生じる可能性がある.

台湾からの報告. 2型糖尿病 115例, 前糖尿病 41例, 健常人 37例において, Nail-fold videocapillaroscopy(NVC)を評価.
(Medicine (2016) 95:52(e5714))
・活動性肝疾患, 妊娠, 活動性感染症, 脳血管疾患がある患者は除外.
・NVCは24度の室内で評価. 評価項目は以下のとおり. 
 異常所見からスコアを作成.
 ・毛細血管長(正常 200-500µm, 短縮, 延長)
 ・配列(秩序だった整列, カンマ様, 不整, 高度にバラバラ)
 ・形態(ヘアピン, ねじれ, 分岐, もじゃもじゃ)
 ・密度(10-30/mm2, 8-10/mm2, <8/mm2)
 ・太さ(正常, 拡大, 巨大ループ)
 ・出血(なし, 一部, びまん性)
 ・血流(正常, 速度低下, 間欠性の血流)



アウトカム
・DM, 前糖尿病患者では有意にNFCの異常所見が認められる.
・血糖コントロール間(HbA1c 7%未満, 以上)の比較では, 所見の頻度に大きな差はないが, スコアは7%以上の群で高い.

微小血管障害の有無で比較すると, 障害(+)群では毛細血管長の短縮が有意に多い結果.
・NVCスコアはDM神経症スコア, 微小血管障害数に低い相関性が認められる.

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興味深い報告.
DM性の微小血管障害としてNFCの異常が生じる可能性がある.
微小血管障害, 神経症との相関性はあるが, 関連性は低く, 日常診療でフォローする必要がある所見とまでは言い難い.

強皮症や膠原病患者でNFC所見評価する際に、背景にDMがあるかどうかは念頭に置く必要がある

IVビスフォスフォネートによる顎骨壊死の頻度, リスク因子

(Mayo Clin Proc. 2017;92(1):106-113)より
2008-2013年にIV Bisphosphonateを使用した65歳以上の患者を対象とした後ろ向き解析.
・腫瘍(+)群 11098例, 腫瘍(-)群 18361例, 対照群として経口Bisphosphonate使用群 6880例を評価し, ONJ発症率, 発症リスクを評価した.
・使用薬剤はの85-87%がZoledronic acidを使用.

アウトカム
ONJ(疑い含む)の発症率は
・最大6年間のフォロー期間において, 腫瘍(+)群で0.42%, 腫瘍(-)群で0.05%
・6年間の予測発症率は
 腫瘍(+)でZoledronic acid使用群では0.61%[0.31-1.23]
 腫瘍(-)でZoledronic acid使用群では0.08%[0.04-0.18]となる.

リスク因子は悪性腫瘍のみ.
投与回数や性別はリスクにならない結果.

2017年1月5日木曜日

黄色ブドウ球菌が尿培養より生えたら?

通常S aureus(SA)は尿路感染を来すことは稀. 複雑性尿路感染症の原因菌では0.9-2.0%程度の頻度
(J of Infect Dis 2001;183:S5-8)


基本的に, 尿培養よりSAが検出された場合, コンタミ, 常在, 長期間の抗生剤などの影響を考慮する. 
そして, 菌血症に合併するSA尿症というのも考慮する.
それらが否定されればUTIの可能性を考える.

尿培養よりSAが検出された場合, SA菌血症を合併している可能性は1割程度

尿倍陽にてS aureusが検出された男性患者102名のCohort Study
(CID 2006;42:46-50)
・平均 72.8yr, 70%が施設入所者, 86%がMRSA, 82%がUrinary Catheterを使用
尿培S aureus陽性時, 33%がUTIの診断Criteriaを満たした.
13%が血培よりS aureus陽性.

尿培養よりMSSAが検出された106例のReview
(Journal of Infection (2009) 58, 119e122)
・尿培養よりMSSAが検出されたのは全体の0.18%とまれ.
・尿道バルーン留置されていたのは44%であった.
・12%はMSSA菌血症も合併.


SA菌血症患者において, UTIではなくても, 尿培養からもSAが検出されるのは1-2割.

59名のSA菌血症患者の尿培養をCheckすると,
(Am J Med. 1978 Aug;65(2):303-6.)
・27%(16名)で尿からもSAが検出.
・その内UTI症状を認めたのは6名のみ. → 10名(17%は尿への漏出?)
・他の病院では, SA菌血症中7%で尿からSAが検出.
・SA感染性心内膜炎の13%で尿からSAが検出されている.

カテーテル挿入患者を除くSA菌血症128名中,
(J Infect. 2009 Jul;59(1):37-41.)
尿からSAが検出されてのは19.5%.
・リスクは尿路手術, 閉塞, 市中SA感染症, 化膿性脊椎炎の3項目であった.

UTI症状, 所見の無いSA菌血症患者153名のRetrospective cohort
(Clinical Infectious Diseases 2007;44:1457–9)
・12名(7.8%)で尿培養よりSA検出.
・ただし, 10名は尿カテ挿入中であり, 尿カテ(-) UTI症状(-)患者群で評価すると2/79(2.5%)のみと低頻度であった.

アイスランドにおいて, 2003-2008年に報告された成人のS. aureus菌血症 166例の報告
(Journal of Infection (2012) 64, 41e46 )
・同時に尿培養からS. aureusが認められたのは16.3%(27例)
・S. aureusによるUTIを除いた152例では, 10.5%(16例)で尿培養も陽性.


S. aureus菌血症において, 尿培養も陽性であることは, 有意なIE, 複雑性SAB, ICU管理リスクとなる(尿路感染症を除く)


SA菌血症 + SA尿症の合併は予後不良因子となる
Retrospective Studyでは, SA血症+尿症の合併では
(J Hosp Infect. 2008 Aug;69(4):345-9)
ICU入室 RR 2.5[1.06-4.36]
・院内死亡 RR 2.18[1.05-3.57] と予後不良因子となる.

SA血症(+)患者で尿からも検出された群 vs 不検出群で比較したCase-control study
(BMC Infectious Diseases 2010, 10:225)
・尿培養よりSAが陽性は有意な死亡リスク因子.

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UTIにおいて, S. aureusは起因菌としては稀(1-2%)程度であり, 特に施設入所者やバルーンカテーテル挿入患者で多い.

発熱ワークアップにおいて、
・尿グラム染色でGPC cluster, 培養でSA+の場合はSAによるUTIよりもSA菌血症による二次性を念頭におく
・他に他菌によるフォーカスがある場合はおそらくコンタミ or 保菌。
・他にフォーカスなく、UTIで矛盾しない症状, 所見がある場合、除外診断的にSAによるUTIと診断する. ただし腎臓へのSeptic emboliの関連は念頭に置くべし

2017年1月4日水曜日

透析シャント開存維持目的の抗血小板薬

維持透析で造設する動静脈シャント.
このシャントの開存を維持するために抗血小板薬が用いられることがある.

これにはどのようなエビデンスがあるのか?

抗血小板薬による維持透析に使用するAVシャント, グラフトの開存性を評価した15 RCTsのMeta.
(Eur J Vasc Endovasc Surg (2016) 52, 243e252 )(Cochrane Database of Systematic Reviews 2015, Issue 7. Art. No.: CD002786.)
・全体的なエビデンスレベルは低い.

Ticolopidine vs Placeboを比較したRCTは3つ
・Nは少ないものの, Ticolopidineで有意に開存性維持効果が見込める

Aspirin vs Placeboを比較したRCTは3つ. 小規模Studyのみ.
・開存性維持効果は有意差を認めない.

Clopidgrel vs Placeboを比較したRCTは2つ.
・JAMA 2008年のStudyが最も大規模であり, それは有意差を認める.
・全体では有意差なし.

PRT-201: human type-I pancreatic elastaseは有意差を認めない結果

他にFish oilも試されているが, 2つのRCTで有意差を認めない結果
OR 0.24[0.03-1.95]


最もNの大きいClopidogrelを評価したJAMA 2008のStudy
ESRDでシャント造設を行なった877例を対象としたDB-RCT
(JAMA. 2008;299(18):2164-2171 )
・除外項目は12wk以内の輸血を必要とする出血イベント, PLT<7.5万, 凝固生涯, 急性潰瘍性疾患, sBP>200, dBP>115, 進行性肝障害, 他の理由で抗血小板薬, 抗凝固の継続使用が必要, 薬物依存, 妊婦
・上記患者をClopidogrel群 vs Placebo群に割付け, 増設後1日以内開始し, 6wk継続する.
・Clopidogrelは初回300mg, 以後75mg/d
・フォローアップは増設後150-180日, もしくは透析開始後30日(どちらか遅い方で設定する)継続.
・アウトカムは6wk以内のシャント内血栓. 

母集団

アウトカム

・6週間の血栓症リスクはClopidogrel群で有意に低下する.
・部位別では前腕のシャントで有意に低下.
・Suitability failure*は有意差なし
 *Suitabilityは8-12回の透析において, 脱血速度が300mL/min以上で可能なことで定義される
・副作用も有意差は認めない

短期的な血栓リスクは軽減し得る可能性がある.

さらに, 最近(2017年1月頃)発表されたFAVOURED trial
FAVOURED trial: 維持透析目的でシャントを造設した567例を対象としたDB-RCT
(Effect of Fish Oil Supplementation and Aspirin Use on Arteriovenous Fistula Failure in Patients Requiring Hemodialysis A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med)
・患者は19歳以上で, Stage 4-5のCKD, 12ヶ月以内に透析導入になると予測された患者群を対象
・出血リスクがある患者(出血性疾患, 出血性潰瘍, PLT<10万, 肝不全), 2wk以内のアスピリン使用, 4wk以内のFish oil使用歴, NSAID常用, 抗凝固, 抗血小板薬使用している患者は除外.
 (開始3年後の2011年よりアスピリン使用患者は許可されている: Fish oil vs Placeboに割付け, 比較するため.)

上記患者群を, 
 Fish oil(4g/d) vs Placebo群, 
 Aspirin 100mg vs Placebo群に割付け, 12ヶ月フォローした.

母集団

アウトカム
・シャント不全はFish oil, aspirin, Placebo群で有意差なし.
・シャント不全はAbondonment(破棄), 血栓, 穿刺不全全てで有意なし

副作用も両者で有意差なし.

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・シャント開存性維持目的の抗血小板薬については小規模Studyが主.
・その上でのMetaにおいて, 有意に開存性維持効果があるのはチクロピジンのみ.
・Clopidogrelは比較的規模の大きいStudyで有意差を認めているが, 短期予後のみ評価されているのが現状.
・アスピリンについてはMetaでも有意差がなく, FAVOUREDでも有意差が認められない結果であり, 開存維持効果は期待できないと考えるべきか. Fish oilも同様

骨転移に対するゾメタの投与間隔

悪性腫瘍の骨転移に対するZoledronic acidは疼痛の軽減効果, 高Ca血症治療効果, 骨病変進行予防効果が見込める
・通常月1回投与となる

乳癌, 前立腺癌, MMで骨病変を認める1822例を対象とし, Zoledronic acid 4wk毎投与 vs 12wk毎投与に割付け比較した非劣性 open-label RCT.
(JAMA. 2017;317(1):48-58. )
・患者は上記を満たす18歳以上の成人で, ECOG 0-2, eCCr ≥30mL/min, 補正Ca 8.0-11.6mg/dLを満たす群を対象
・脳転移や, Bisphosphonateの使用歴, Denosumab使用歴, 骨病変を目標としたRadiopharmaceuticalの使用歴は除外.
 放射線治療は割付時に終了しており, 1つ以上の骨病変が未治療の状態ならば許可した

Zoledronic acidは4wk毎, 12wk毎に投与し, 2年間継続.
・Ca 500mg, Vit D 400-800IU/dは併用.
・2年以内の臨床的骨折, 脊髄圧迫, 骨病変への放射線療法, 外科処置, 薬剤による副作用を比較した

母集団

アウトカム
・骨関連イベント(SRE): 臨床的骨折, 脊髄圧迫, 骨病変への放射線療法, 外科処置で定義.
・4wk毎 vs 12wk毎でSREに有意差はなし.
・原発巣別の評価でも有意差はない.

・疼痛の変化も有意差なし.
・Cr値は4wk毎投与群の方が上昇する可能性がある.
 (基礎Cr ≤1.4では0.5mg/dL以上の上昇, >1.4では1mg/dLの上昇で定義)

C-Telopeptideは4wk毎の方が低下する.
・骨代謝のマーカー.

低Ca血症は有意差なし
・4wk群では38% vs 12wk群では35%
・Ca<6mg/dLの重症例はそれぞれ0.9% vs 0.6%で有意差はない結果.
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乳癌や前立腺癌, 多発性骨髄腫における骨病変では, ゾメタは12wk毎でもよいかもしれない.

2017年1月3日火曜日

脳出血後の予防的抗てんかん薬

脳出血既往がある患者で, 痙攣, てんかん発作の既往はないが, 抗てんかん薬を使用している患者はたまに診る.
 薬剤性の意識障害やADLの低下で入院する例が多いのですが...

そもそも脳出血後の予防的抗てんかん薬の位置づけはどのようなものか.

脳出血後の痙攣発作
(Lancet 2009;373:1632-44)
・脳出血に付随する痙攣発作は10-15%.
 8%が発症1mo以内にてんかん発作を生じる
・EEG検査では, 発症72hr以内に28%, 全体では60%でてんかん波(+). 
 ⇒ Subclinical Seizure, Non-convulsive status epilepticusが多い
・発症>2wkでのてんかん発症は再発リスクが高く, 長期の抗てんかん薬を必要とする可能性が高い.
予防的抗てんかん薬の利点, 欠点に関してはRCTが未だ無く, エキスパートオピニオンが推奨の主体となっている

頭蓋内出血患者で, 痙攣既往のない522例を前向きにフォロー
(Neurology® 2011;77:1794–1800)
・発症7日以内の痙攣発作は14%[11-17]で認められた.
 半数が脳出血発症時に痙攣+
・早期痙攣発作のリスク因子は皮質を含むICHのみ(OR 2.06[1.28-3.31])

フィンランドにおける脳出血後の痙攣, てんかん発症率を評価したcohort study.
(Epilepsy Research (2014) 108, 732—739)
・935例の脳出血患者において, 急性期(<24h)、早期(1−14d)、晩期(>2wk)におけるてんかん発症率を評価
・脳出血発症<24hでのてんかん発症率は51/935(5.5%)
 1−14日では21例(2.2%)、
 >2wkでは58例(6.2%)であった.
・リスク因子
皮質下出血が有意なリスク因子となる.

脳出血後の晩期てんかんリスクを評価: CAVE score.
(Stroke. 2014;45:1971-1976.)
・Helsinki ICH studyにおいて, 993例の脳出血患者をフォロー.
 発症7日以内にてんかんを発症したのは109例(11%)
・7日目に生存していた764例中, 
 それ以後にてんかんを発症したのが70例(9.2%) (晩期てんかん)
 1年以内で7.1%, 2年で10.0%, 3年で10.2%, 4年で11.0%, 5年で11.8%と発症2年以内でリスクが高く, それ以後は0.8%/y程度.

晩期てんかんの発症リスク因子は,
 皮質を含む出血、
 <65歳、
 血腫体積>10mL、
 7日以内のてんかん(+)の4項目
 各1点として, 0−4点で評価したものをCAVE scoreとした.

CAVE scoreと痙攣, てんかん発症率

頭蓋内出血における予防的抗てんかん薬
AHA, European Stroke Organizationのガイドラインによる推奨
(Stroke. 2016;47:2666-2672.)
・ICH後では非けいれん性てんかん発作も多く, 意識障害や変容が認められた場合はEEGを評価しつつ使用する
・予防的投与は推奨されない. 脳葉内出血ではエキスパートオピニオンとして考慮されることもある

ガイドライン上では予防的抗てんかん薬の使用は推奨されていないが, 実際多くのエキスパートが予防的使用をしている.
・痙攣発作は脳代謝の亢進, 血腫体積の増大のリスク, Midline shift, 神経予後の悪化リスクとなる.
・したがって, 予防的抗てんかん薬は一部患者ではReasonableな選択肢と言える. 特にEEGが評価できない環境やモニタリングが困難な環境で.
・ただし, 予防投与により早期痙攣のリスクは低下する可能性があるものの晩期痙攣や症候性てんかん発症リスクには関連しない.
(Stroke. 2016;47:2666-2672.)

使用される薬剤はフェニトイン, レベチラセタム(イーケプラ®)が多いが, 両者を比較したMeta-analysisでは抗てんかん作用は両者で有意差なし.
(BMC Neurology 2012, 12:30)

ICHに対する予防目的の抗けいれん薬使用は予後増悪リスクとはならない(OR 1.11[0.74-1.65])
(Stroke. 2015;46:3532-3535.)

ICHにおける抗てんかん薬の予防投与フローチャート
(Stroke. 2016;47:2666-2672.)
・頭蓋内出血において, 高リスク群では予防的投与を考慮する
 高リスク群とは, 意識変容や意識障害, 意識状態の変動がある患者, ヘルニア所見, 皮質病変を認める患者.
・高リスク群ではEEG評価, モニタリングを行い
 EEGでてんかん波を認める場合は抗てんかん薬を使用する.
 EEG評価やモニタリングが困難な場合も使用を考慮する.
・使用する場合は7日間継続し, てんかん所見, 痙攣症状が消失していれば減量, 終了
 依然認められる場合は6-12週間継続.
・その後再評価し, 改善していれば減量, 終了
 所見残存していれば長期間継続.