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2019年2月9日土曜日

副腎出血

60歳代の女性
尿路感染症による敗血症性ショック, 心不全でICU管理中.

来院時の腹部CTにて両側性の副腎腫大が認められたが, 以前のCTでは認められず.
さらに5日後の腹部CTフォローでは副腎腫大は消退傾向があった.

画像は論文から拝借(Crit Care Resusc 2011; 13: 123124)
・副腎は両側性の腫大しており, 造影されない. 周囲の脂肪織混濁も伴う.

診断は画像に書いてある通り, 敗血症に伴う両側性副腎出血.


副腎出血

副腎は血流が特殊であり, 複数の細動脈より流入するものの, 流出するのは1本の静脈のみ.
静脈圧の上昇や静脈血栓症によりうっ血しやすい構造であり, Vascular damとか呼ばれる.
・静脈がうっ滞・血栓形成→副腎うっ血・腫脹→阻血・梗塞→出血 という機序で副腎出血が生じる.

・原因となる病態はいくつかに分類され,
 出血傾向: 抗凝固療法や血小板減少
 血栓傾向: 抗リン脂質抗体症候群や本態性血小板増多症, 多血症, ヘパリン誘発性血小板減少症
 急性ストレス下: 敗血症, 熱傷, 多発外傷, 多臓器不全, 術後
 副腎腫瘍
 特発性
(Ann Hematol (2002) 81:691–694 )(Abdom Radiol (2016) 41:303–310 )
・さらに心不全や静脈圧が上昇する疾患は修飾因子となる可能性がある.

両側性副腎出血のリスク因子
(MEDICINE® 80: 45-53, 2001 )
・カナダの多施設Case-control studyによる評価
・画像や組織で副腎出血と判断され, 副腎不全が証明された成人例
 Controlはコンピューターでランダムに抽出(入院期間と年齢は誤差1年以内). Case 1例に対してControl 4例を評価
Case 23例とControl 92例比較
・リスク因子はPLT低下, ヘパリン使用, 敗血症が挙げられる

両側性副腎出血120例の合併・併発疾患
(Medicine (Baltimore). 1978 May;57(3):211-21.)

抗リン脂質抗体症候群では初発症状として副腎出血がある

APSで副腎の病変を認めた86例の解析
・男性が55%, 女性が45%
平均年齢は43±16. 範囲は3日~72
71%Primary APS, 16%SLEによるAPS, 8%Lupus-like syndrome
 他は薬剤性や傍腫瘍症候群によるAPS
副腎不全がAPSの初期症状であった症例が36%
 以前にMajor vascular occlusionの既往があったのが53%
 DVT40%で合併(うち15/34PE), 
 動脈閉塞は19%で合併あり.
初発症状では, 副腎不全以外に腹痛が55%, 低血圧 54%, 発熱 40%
 悪心嘔吐が31%, 倦怠感/悪寒/脱力感が31%, 意識障害 19%
 体重減少13%, 皮膚色素沈着 10%, イレウス 6%, 下痢 4%
(Medicine 2003;82: 106–18)

両側性副腎出血の症状頻度

症例報告135例のReviewでは, 発熱, 胸痛や側腹部痛, 腹痛, 悪心嘔吐, 低血圧など

(Medicine (Baltimore). 1978 May;57(3):211-21.)

(BMJ Case Rep. 2014 Nov 19;2014.)

副腎出血の画像所見
(AJR 2012; 199:W91–W98 )
副腎出血では造影されない, 低濃度, 混合濃度のMassとなる
・一部正常に造影された副腎が残存していることもある
・単純CTでは副腎腫大と周囲の脂肪織混濁を伴う(副腎うっ血所見)
MRIでは出血はT1高信号となる

(J Clin Endocrinol Metab 98: 3179–3189, 2013)

副腎出血の前に副腎うっ血所見を拾い上げることが重要との意見もある
(Abdom Radiol (2016) 41:303–310 )
・敗血症や術後, 熱傷, 低血圧でも副腎出血を生じることがある.
 これは副腎血流が増加する一方で, 副腎静脈の血流が障害される, また副腎静脈血栓症を生じ, 副腎がうっ血し, 出血を生じる仮説がある
・腹部CTにおいて, 早期の副腎うっ血を検出することが副腎出血のリスク評価として有用な可能性がある.
うっ血の所見は副腎腫大と周囲の脂肪織混濁像.




この論文では, 副腎うっ血所見後、副腎出血を呈した4例の報告と, 別にICU管理となった症例からランダムで12例を抽出し, 画像を評価したControl群ではいずれも副腎うっ血所見は認められなかったことから, 急性疾患においてCTでこの所見が得られる場合はその後の病状の増悪に注意した方が良いという結論.

それ以上の副腎うっ血所見の意義を評価した論文は見つからず.

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・自験例では両側性副腎腫大をみとめたものの, 初回造影はせず虚血や出血については不明確であった. 5日後のフォローでは腫大は改善傾向にあり、副腎うっ血を見ていた可能性が高い. 出血も一部であったのであろうと考えた.
・副腎機能は当初は正常範囲であったが敗血症コントロールにおいて低血圧が遷延し、ステロイド併用を開始. これも減量後にACTH負荷試験の必要がある.

・副腎出血は無症候性や腹痛症状が主となることもあり, また画像でしばしば見逃しがちという点から意識してチェックするものと思う. 論文でも剖検から診断されることが多く, 見逃されている症例も多いように思う.
・副腎うっ血所見の有用性はまだ不明確であるものの, 確かに当院のICU症例の画像をいくつか見直すとあまり見ない所見ではあり、今後意識して見てゆきたい.