中枢神経の血管炎には原発性のPACNS(Primary angiitis of the CNS)と全身性疾患に合併する二次性がある.
続発性の原疾患としては, 以下のようなものがある; (Frontiers in Bioscience 2004;9:946-55)
Group | 疾患 |
Giant cell arteritis | 側頭動脈炎, Takayasu病 |
Necrotizing Forms of Vasculitis | Wegener肉芽腫 |
Hypersensitivity Forms of Vasculitis | 薬剤性, 毒素性 |
Collagen Vascular Disorders | SLE, RA, PN, Sjogren’s Syndrome |
感染症 | Syphilitic |
Lymphomaによるもの | |
全身疾患によるもの | Sarcoidosis, Behcet’s disease |
・感染症によるCNS Vasculitis
Viral; VZV, HIV, HCV, CMV, Parvovirus B19
Bacterial; 梅毒, Borrelia burgdorferi, 結核, Mycoplasma pneumoniae, Bartonella henselae, Rickettisia spp
Fungal; Aspergillosis, Mucormycosis, Coccidioidomycosis, Candidosis
Parasitic; Cysticercosis
・全身性血管炎
AAV, Behcet病, Polyarteritis nodosa, Henoch-Schonlein purpura, Kawasaki病, Giant-cell arteritis, 高安病など
Wegener肉芽種の7-11%, CSSの1-8%でCNS症状あり
Behcet病では5.3-14.3%でCNS症状(+)
・他の膠原病による血管炎
SLE, RA, Sjogren症候群, 皮膚筋炎, MCTD
・薬剤性CNS Vasculitis
Allopurinol, Ephedrine, sympathomimetrics, Cocaine, Amphetamine Heroin, Antibiotics
・悪性腫瘍性CNS Vasculitis
Hodgkin’s lymphoma, Non-HL, Leukaemia, Lung Cancer
・その他
Cogan’s syndrome, Inflammatory bowel disease, Urticarial hypocomplementaemic vasculitis
(Lancet 2012; 380: 767–77)
105名のCNS vasculitisの解析による原疾患の内訳. (QJM 2005;98:643-54)
・PN 17名, PACNS 12名, MPA 11名, EGPA 11名, GPA 20名, Adult Henoch Schonlein purpura 14名, SLE 15名, Cutaneous vasculitis 4名
原発性のCNS血管炎(PACNS)
(Lancet 2012; 380: 767–77)(Current Rheumatology Reports (2018) 20: 37)
・<50yrの脳血管障害の原因の3-5%を占める.
・罹患率は2.4/100万人年と非常に稀.
男女差は無く, 平均年齢は50歳. 50%が37-59歳で発症する.
小血管〜中血管炎が主体.
・組織形は肉芽種性, リンパ球性, 壊死性血管炎.
・肉芽腫性血管炎が最も多く, 58%を占める.
・リンパ球浸潤による血管炎は28%. 特に小児例や, 血管造影で所見(-)例でこのタイプが多い.
・壊死性血管炎は14%で, PNに類似した組織形.
PACNSの経過や症状は様々
・急性発症〜CNS症状を認めない無症候性まである
・頭痛を伴う頻度が高い(>50%)が, Thunderclap headacheとなることは稀であり, 認める場合はRCVSをより疑う.
(RCVSとその鑑別についてはこちらを参照)
・神経局所症状も多い症状であるが, それ単独で生じることは少なく, 原因不明の頭痛や意識障害などと併存することが一般的.
・体重減少や寝汗, 発熱, 皮疹など全身症状を伴うことは少ない
認める場合は全身疾患に合併するCNS血管炎やCNS障害を考慮する
・CNS vasculitisの4%で腫瘤性病変(+).
・Cerebral amyloid angiopathyは29%
・頭蓋内出血は11-12%
以下の場合はCNS血管炎を鑑別に挙げる
・複数の血管支配領域の脳梗塞や, CSFの炎症徴候を伴う脳梗塞
・脳卒中のリスク因子を有さない, 若年患者の脳梗塞
・感染症や悪性疾患が認められない慢性経過の髄膜炎
・無菌性髄膜炎の既往や, 認知機能障害を伴う慢性経過の頭痛
・原因不明の局所性, およびびまん性の神経機能障害
血管造影 and/or 脳生検にて診断したPACNS 101名の解析 (Ann Neurol 2007;62:442-51)
・PCNSVの年間発症率は2.4[0.3-4.4]/1000000
・診断時の年齢は47yr[17-84], 約半数が37-59yrに診断されている.
発症から診断までの時間は0.1yr, 75%が半年以上かかっている.
症状 | 頻度 | 症状 | 頻度 | 症状 | 頻度 |
頭痛 | 63% | 視覚障害 | 42% | 対麻痺, 四肢麻痺 | 7% |
認知障害 | 50% | 視野障害 | 21% | Parkinsonism, 錐体外路症状 | 1% |
片麻痺 | 44% | 複視 | 16% | Prominent constitutional symptom | 9% |
持続性の神経障害 or Stroke | 40% | Blurred vision | 11% | 発熱 | 9% |
構音障害 | 28% | 一側性の視覚障害, | 1% | 嘔気, 嘔吐 | 25% |
TIA | 28% | 乳頭浮腫 | 5% | めまい, 回転性めまい | 9% |
失調運動 | 19% | 頭蓋内出血 | 8% | 構音障害 | 15% |
痙攣 | 16% | 健忘 | 9% | 片側性の痺れ | 13% |
・血液検査; ESR亢進は少なく, ESR>30mm/hrとなったのは19/85(22.4%)
RF, ANA, 抗カルジオリピン抗体はほぼ99%で陰性を示す.
ANCA, 補体, HIV, Lupus anticoagulantも通常陰性を示す.
・CSF所見;
CSF所見 | |
平均WBC数 | 5(0-535) cell/ml |
Leu >5 | 49.3% |
Prot濃度 | 72(15-1034) mg/dL |
Prot >45mg/dL | 72.6% |
・血管造影; 血管造影にて血管炎と診断できたのは90.5%
・MRI所見; 異常を認めたのは97%. 最も多い異常は梗塞巣で53%を占める
このうち, 多発性脳梗塞が85%(両側性83%, 皮質, 皮質下に分布63%)
・造影MRIで造影効果を認めたのは33%程度のみ.
・脳生検の感度は53-63%.
この報告における, 血管造影異常群と組織生検診断群で分けた解析(Lancet 2012; 380: 767–77)
・血管造影で異常あり ⇒ 中血管の病変あり
・血管造影で異常なく, 生検にて診断 ⇒ 小血管, 毛細血管の病変.
・その違いで症状も異なると 考えられる
Mayo clinicで1983-2011年に診断された163例(Medicine 94(21):e738)
・105例が血管造影、58例が生検により診断.
症状/所見 | |||
頭痛 | 59.5% | 複視 | 14% |
認知障害 | 54% | 霧視, 視力低下 | 11% |
片麻痺 | 40.5% | 片眼の症状, 一過性黒内障 | 1.2% |
神経症状, 脳卒中 | 40.5% | 視神経乳頭浮腫 | 4.3% |
失語 | 24.5% | 頭蓋内出血 | 9.8% |
TIA | 25.8% | 健忘症 | 6.1% |
失調 | 19% | 対麻痺, 四肢麻痺 | 4.9% |
痙攣 | 20.2% | パーキンソン症状, 錐体外路徴候 | 0.6% |
視覚症状 | 37.4% | 全身症状* | 9.2% |
視野障害 | 18.4% | 発熱 | 9.8% |
・CSF所見
・画像所見
PACNSの治療
(Current Rheumatology Reports (2018) 20: 37)(Lancet 2012; 380: 767–77)
基本はステロイド療法
・Prednisone 1mg/kg, または60mg/dで開始し, 数ヶ月かけて減量.
平均投与期間は10カ月. ¾が=<19mo治療.
・PSLにて反応乏しければ以下の併用を考慮.
Cyclophosphamide 150mg/d(2mg/kg/d), 平均10mo投与の併用,
Cyclophosphamide pulse(0.75g/m2/m 6mo)は連日内服よりも安全
・Azathioprine 100-150mg/d(1-2mg/kg/d), MTX 20-25mg/wk, Mycophenolate mofetil 1-2g/dによる寛解維持も有用
通常PSL+CYによる治療を行い, それでもうまくゆかない場合はPACNSの診断を再考した上で RTXやMMFを試す.
・疾患活動性の評価方法も課題.
MRI所見はそう頻回には施行が難しい. また, 血管狭窄所見はしばしば残存するため, 病勢フォローには向かない.
CSF所見のフォローは侵襲があるし, その妥当性は不明確
・抗CD20療法(Rituximab)はANCA関連血管炎に伴うCNS血管炎に対して, CYと同等に有用な可能性が示唆されているが, PACNSでは不明確 (J Clin Rheumatol. 2021 Mar 1;27(2):64-72.)
・Mayo clinicで診断されたPCNSV 163例のうち, 16例でMMFが使用され, 良好な疾患活動性の抑制が得られた (Seminars in Arthritis and Rheumatism 45 (2015) 55–59 )
・TNF阻害薬も有用との報告もある