症例: コントロール不良の2型糖尿病患者(HbA1c 11%).
2週間前に左大腿部の腫瘤を自覚し, その後同部位の疼痛が出現した.
疼痛は強く, 体動困難となり救急要請.
来院時, CRP 12mg/dLと上昇あり, 左大腿部の強い浮腫と圧痛を認めた.
CT検査にて大腿部の筋に限局した強い筋浮腫と造影不良領域が認められ, 壊死を伴う筋炎と考えられた.
当初感染症を疑い抗菌薬投与を行うも反応は乏しく,
試験切開や穿刺でも菌体は確認できなかった.
Focal myositisや感染性筋炎が疑われ, 筋生検も行ったところ, 感染巣は認められなかったものの, 壊死した筋組織, 強い筋浮腫が認められた.
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稀であるが, たまに遭遇する糖尿病の合併症に, Diabetic amyotrophy(糖尿病性筋萎縮症)がある.
これは, 腰神経叢の虚血, 血管炎に伴う下肢近位筋の脱力や筋萎縮を主体とする病態である.
参考: 糖尿病による近位筋の脱力, 萎縮: Diabetic amyotrophy
こういった稀なDM合併症の一つに, 糖尿病性筋症, または糖尿病性壊死性筋症(Diabetic myonecrosis), 糖尿病性筋梗塞(Diabetic muscle infarction: DMI)と呼ばれる疾患がある.
筋炎Mimickerとして押さえておきたい.
Diabetic myonecrosis, Diabetic muscle infarction
(AJR 2010; 195:198–204)(AACE Clinical Case Rep. 2019;5: e77-e81)
・DMによる微小血管障害が原因の 筋組織の虚血, 梗塞による筋障害.
・下肢の近位筋で多く, 大腿四頭筋, ヒラメ筋での報告が多い.
罹患部位の腫脹, 疼痛が主な症状となる.
・微小血管障害であり, 他の腎症やPAD, CADが合併しているDM例で多い.
・最初に報告されたのは1965年であり, それから2015年までに200例以下の報告例のみと稀な病態.
2015年に発表されたLiterature reviewでは, 126例をReview.
(BMJ Open Diabetes Research and Care 2015;3:e000082.)
・女性例が54%であり, 平均発症年齢は44.6歳(20-67)
1型DMでは35.9歳[20-65]と若く, 2型DMでは52.2歳[34-67]と中年で多い
・またDM発症〜DMI発症までの期間は
1型DMで18.9年[5-33], 2型DMで11.0年[1-25]
・発症時のHbA1cは9.34%[5-21]
117/126で糖尿病性の合併症あり.
46.6%で網膜症, 腎症, 神経症を合併.
65.8%で2つ以上の合併症があり, 75%で腎症が認められた.
・DMIの機序は不明確であるが動脈硬化やDM性血管障害, 血栓症を伴う血管炎, 虚血による障害が指摘されている.
DMIの診断/特徴
・DM患者における急性の筋痛や筋腫脹で疑う. 特に下肢で多い.
・また, コントロール不良のDM, DM性合併症の存在はさらに可能性を上げる.
・多くの患者は初診時に発熱は認めず(89%), 外傷歴もない(96.3%)
・DVTの除外や感染症の除外, 自己免疫性疾患(APS)の除外は重要.
血液検査
・WBC上昇は42.5%で認められる.
CRPやESRの亢進は8-9割で認められる
CPKは68.4%で正常範囲.
DMIの分布: 主に下腿近位で多い.
DMIの筋病理は非特異的であり, 筋壊死と浮腫を認める
・生検は感染症や腫瘍性病変の評価, 除外を目的として行われる.
MRI所見はT2WIでの高信号とT1WIの等〜低信号
・T2WI高信号は76.8%, T1WI等〜低信号は14.6%の頻度
DMIの治療は安静やNSAID, また抗血小板薬などが試される.
・基本的に保存的加療と血糖管理により1-3ヶ月かけて徐々に改善を認める.
・しかしながら再発例も1/3程度で認められる.
DMIの病状のまとめ表 (AACE Clinical Case Rep. 2019;5: e77-e81)