症例: 中年の女性. これまで年に数回, 急性の腹痛で救急受診歴がある患者さん.
誘因は様々〜認めず, 急性の腹痛を生じ体動困難となり受診.
受診後 補液や検査中に改善し, 帰宅となることが多い.
これまで複数回, 発作時に腹部造影CTも評価されているが, その際に十二指腸〜空腸の腸管の浮腫が認められ, 腸炎疑い, とされている.
血液検査ではCRP 0.5mg/dL程度の軽度の上昇のみ. という症例の相談を受けた.
腹部CTを見直すと確かに軽度の腸管浮腫があるのみで, 他に原因はない.
血液検査を見ると, 一つの違和感に気づいた.
それは, 発作で受診した時のリンパ球分画が常に高い(60%)ということ.
WBCは8000-9000と軽度上昇. 好中球は20-30%と低下し, Eo, Baは正常範囲.
Lyは60%台と高く, フォローの採血では速やかに低下(入院した際の翌日のLabでも低下)
他に生化学の検査では異常なし.
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このようなLabの動態を示す病態を, 自分は過去数回経験している.
それは, アナフィラキシーなのだ.
そこで色々論文を漁ると, 以下の論文があった.
Shock vitalの症例において, 血球分画を解析し, 比較した報告.
(American Journal of Emergency Medicine (2005) 23, 763–766)
・アナフィラキシーショック 17例
出血性ショック 105例
心原性ショック 35例
敗血症性ショック 18例を比較した.
アナフィラキシーショック群と他の原因のLabを比較すると,
・白血球増多が少なく, Neu分画が低く, さらにLy分画が多い.
左方移動が生じにくいショックと言える.
Ly(%)の分布
・アナフィラキシーでは40%を上回る例が多い.
出血性や心原性では広く分布.
敗血症では左方移動が生じるため, Lyは低い.
なぜLyが上昇するのだろうか?
・これについては, 上記論文ではViral Infection説とカテコラミン説が挙げられているが, その双方ともアナフィラキシー症例のみでの説明はむずかしく, 原因は不明と結論されている.
カテコラミン説
(Brain Behavior and Immunity 1996;10:77-91)
・カテコラミンを投与すると ~30分で末梢循環中のLyが増加し, その後好中球の増加が認められ, Lyは低下する現象が観察される.
・カテコラミンはNK細胞や顆粒球数に影響するが, B細胞やT細胞数には影響しない.
・Lyの増加はβ2刺激が, 顆粒球の増加はα刺激が関連し, Lyは脾臓のプールより導入され, 顆粒球は主に肺のプールより導入される.
・感情ストレスや運動ストレス下でも同様のLy増多が生じうる.
最近の報告では, 20-30歳の健常者を, 14度の冷水で クーリングした研究があった.
(INTERNATIONAL JOURNAL OF HYPERTHERMIA 2021, VOL. 38, NO. 1, 696–707)
・冷水曝露後はカテコラミンや コルチゾールは上昇する.
・一方, Lyは増加すると思いきや, むしろ低下している. Neuは徐々に上昇.