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2023年6月5日月曜日

腹痛発作時にリンパ球が増多する症例

 症例: 中年の女性. これまで年に数回, 急性の腹痛で救急受診歴がある患者さん.

 誘因は様々〜認めず, 急性の腹痛を生じ体動困難となり受診.

 受診後 補液や検査中に改善し, 帰宅となることが多い.

 これまで複数回, 発作時に腹部造影CTも評価されているが, その際に十二指腸〜空腸の腸管の浮腫が認められ, 腸炎疑い, とされている. 


 血液検査ではCRP 0.5mg/dL程度の軽度の上昇のみ. という症例の相談を受けた.


腹部CTを見直すと確かに軽度の腸管浮腫があるのみで, 他に原因はない.

血液検査を見ると, 一つの違和感に気づいた.

それは, 発作で受診した時のリンパ球分画が常に高い(60%)ということ.

WBCは8000-9000と軽度上昇. 好中球は20-30%と低下し, Eo, Baは正常範囲.

Lyは60%台と高く, フォローの採血では速やかに低下(入院した際の翌日のLabでも低下)

他に生化学の検査では異常なし.


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このようなLabの動態を示す病態を, 自分は過去数回経験している.

それは, アナフィラキシーなのだ.




そこで色々論文を漁ると, 以下の論文があった.


Shock vitalの症例において, 血球分画を解析し, 比較した報告.

(American Journal of Emergency Medicine (2005) 23, 763–766)

・アナフィラキシーショック 17例


 出血性ショック 105例

 
心原性ショック 35例


 敗血症性ショック 18例を比較した.


アナフィラキシーショック群と他の原因のLabを比較すると,

・白血球増多が少なく, Neu分画が低く,
さらにLy分画が多い. 

 左方移動が生じにくいショックと言える.


Ly(%)の分布

・アナフィラキシーでは40%を上回る例が多い.


 出血性や心原性では広く分布.
 

 敗血症では左方移動が生じるため, Lyは低い.


なぜLyが上昇するのだろうか?

・これについては, 上記論文ではViral Infection説とカテコラミン説が挙げられているが, その双方ともアナフィラキシー症例のみでの説明はむずかしく, 原因は不明と結論されている.


カテコラミン説

(Brain Behavior and Immunity 1996;10:77-91)

・カテコラミンを投与すると
 ~30分で末梢循環中のLyが増加し,
 その後好中球の増加が認められ, Lyは低下する現象が観察される.

・カテコラミンはNK細胞や顆粒球数に影響するが,
 B細胞やT細胞数には影響しない.

・Lyの増加はβ2刺激が, 顆粒球の増加はα刺激が関連し,
 Lyは脾臓のプールより導入され, 
顆粒球は主に肺のプールより導入される.

・感情ストレスや運動ストレス下でも同様のLy増多が生じうる.


最近の報告では, 20-30歳の健常者を, 14度の冷水で
クーリングした研究があった.

(INTERNATIONAL JOURNAL OF HYPERTHERMIA 2021, VOL. 38, NO. 1, 696–707)

・冷水曝露後はカテコラミンや
コルチゾールは上昇する.


・一方, Lyは増加すると思いきや, むしろ低下している. Neuは徐々に上昇.


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冒頭の症例以外にも,
繰り返す急性〜亜急性経過の腹痛, 腸管浮腫 + 発作時にLy分画70%台, 翌日には改善という症例を経験しており, 
その症例は結果的にアナフィラキシー発作 → 全身性肥満細胞症であった.

アレルギーに関連したサイトカインが一過性のLyの主に脾臓から末梢血への遊走を促進させるのかは定かではない.

それ以外に脾臓プールの関連(脾腫?)などの要素も関わっているのか? 

ちょっとアナフィラキシーの症例集めてみる.