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2022年11月24日木曜日

下肢病変を伴うSweet症候群は悪性腫瘍に関連したものなのか?

関節痛, 炎症反応高値, 皮膚に小結節を伴う有痛性紅斑を認めた患者.

生検では主に好中球浸潤を伴う病変であり, Sweet症候群に矛盾しない.

病変の分布が上肢, 手指が主であるが, 下肢にも同様の皮疹を複数認められた.


下肢に病変を認めるSweet症候群は悪性腫瘍の可能性が高い! とする情報(UpToDate)があるということを教えてもらったが, ピンとこないのでちょっと調べてみる.



その前にSweet症候群は炎症性疾患や感染症, 誘因が不明なClassicalと,

 薬剤に関連するもの, 妊娠に関連するもの, そして悪性腫瘍に関連するものがある

 悪性腫瘍では血液腫瘍が多く, AMLやMDSで認められるものが有名.


血液悪性腫瘍
 AML, CML, MDS, 
 Lymphoma, MM

感染症
 Strepto, Staph,
 Salmonella, yersinia,
 HIV, CMV, Hepatitis, 
 Helicobacter pylori,
 TB

全身疾患
 UC, CD, Sjogren’s, 
 Behcet’s disease,
 SLE, RA

非血液悪性腫瘍
 Genitourinary, 乳癌,
 
卵巣癌前立腺癌,
 
甲状腺癌肺癌

薬剤
 後述

妊娠

(Clinic in Dermatology 2008;26:265-73)


下肢の病変は腫瘍性が多いとする情報は以下の論文から引用;
(Orphanet Journal of Rare Diseases 2007, 2:34)

・たしかにClassicalでは下肢病変はInfrequentとされ, 悪性腫瘍や薬剤性では36〜48%と記載.

この大元の論文は以下; (Clinics in Dermatology 1993;11:149-157)

・1980-90年代のN=10〜29の小規模の後ろ向きStudyのMeta


では, 最近の症例Cohortではどうなのだろうか?

Seoul National Univ. HospとBoramae Medical Centerにおいて, 2000-2020年に診断されたSweet症候群を後ろ向きに評価した報告.
(Annals of Hematology (2022) 101:1499–1508 )
・この期間中に確定診断された症例 52例中,
 27例が悪性腫瘍を背景としていた(51.8%)
 
 21例が血液悪性腫瘍, 7例が固形腫瘍
 腫瘍の多くがAMLとMDS.

・男女差はなし. 診断時年齢は悪性腫瘍群で62歳(17-78)
 
 非悪性腫瘍群では46歳[28-84]
 
 高齢者ほど悪性腫瘍のリスクは上昇する: OR 1.04[1.00-1.08]
・他に悪性腫瘍との関連があるのはNoduleの形成程度.

・これをみると, 下肢病変の頻度は悪性腫瘍と非悪性腫瘍で変わらない.
 それぞれ3割程度で下肢病変を認めている.

Pennsylvania大学附属病院において, 2005-2015年に診断されたSweet症候群 83例を後ろ向きに解析.
(J Am Acad Dermatol. 2018 Feb;78(2):303-309.e4.)
・古典的Sweet症候群は30%, 腫瘍性が44%, 薬剤性が24%
 橋本病が7例, 上気道炎が6例, 

 悪性腫瘍ではAMLが24例と最多. 次いでMDSが10例

 薬剤性はFilgrastimが8例で最多.

・腫瘍関連/非関連性で比較すると, 関節痛は非腫瘍性で48%と多い.
 
 血球減少は腫瘍性で多くなる.
 
 下肢病変は66% vs 78%と差はない

Sweet症候群90例の解析では,
(Int J Dermatol. 2016 Sep;55(9):1033-9.)
・特発性が62例, 感染症関連が14例,
IBDが4例, 妊娠関連が3例
 薬剤性が1例, 悪性腫瘍が6例.
・上記母集団において, 下肢病変の頻度は74.4%で認められる
 
 上肢は83.3%, 顔面が27.7%, 頸部16.6%, 体幹13.3%

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最近の報告からは, 下肢病変を認めるSweet → 悪性腫瘍関連, とも言い難い.
Classicalでも下肢病変は同程度認められる

2022年11月14日月曜日

感染性心内膜炎とANCA陽性

ANCAが陽性となる非血管炎疾患として感染性心内膜炎は有名.

その症例のSystematic reviewが出ていたので紹介

(Clin Rheumatol. 2022 Oct;41(10):2949-2960.)


Systematic reviewより, IEにおけるANCA陽性率を評価

・ANCA陽性のIE 182例を含む74件の文献報告+自験例をReviewした報告

ANCA陽性はIEの18-43%で認められ, 亜急性IEで多い(73%)

・ANCAのタイプはc-ANCA, PR3-ANCAが79%であった.
 

 11%がp-ANCA/MPO-ANCAで, 

 8%がDouble positive.
 

 Titerの中央値は4.5ULN(50%の患者が2.6~8.5ULNに収まる)


ANCA陽性IE症例

・血尿が82%, 低補体が68%で認める. 
Ig高値が90%と高い.

・腎障害が72%で認められ, 腎生検では59%で免疫複合体沈着あり.
 

 37例では非免疫性糸球体腎炎を認めた.


ANCA陽性IEの腎生検結果

・半月形成GNが半数で認められる.


ANCA陽性IEの経過


・ANCAは陰性かが69%, Titerの低下が20%.
 Titerが増加/横ばいは5%のみ.
 

 抗菌薬のみで治療した群でも同様に低下/消失する例が大半.

・追跡中に全身性血管炎を発症した報告はない

2022年11月11日金曜日

自己免疫性内耳障害: 膠原病における難聴の合併頻度は?

 2021年に以下についてブログに書いた.

免疫介在性内耳障害, 自己免疫性内耳障害


それからも, ちょこちょこ膠原病患者さん亜急性〜慢性で生じる難聴±内耳障害(ふらつき)という患者さんは診療する機会がある. 悲しいかな, 新たに紹介される患者さんで, 数年前より難聴が進行し, 気づかれず/また気づかれてもステロイドトライアルを行なっていおらず, すでに不可逆性となっている症例もある.


特に通常のフォローで免疫抑制(特にステロイド)を使用する頻度が低い, シェーグレン症候群や, 強皮症の患者さんで目立つ気がする.


ステロイドが適応となる患者さんではその治療により抑えられている/治療されているということもあるのだろうか.



各疾患における難聴の頻度と少し調べてみた.

強直性脊椎炎患者のMetaでは,
聴力障害を伴う頻度は42.4%[29.2-56.2]
(J Rheumatol. 2021 Jan 1;48(1):40-47.)
・非AS患者との比較で, 聴力障害のORは4.65[2.73-7.91]と有意にリスクは上昇
・特に高音において, 聴力障害の程度が強い

SSc患者における感音性難聴
(Clin Rheumatol. 2018 Sep;37(9):2439-2446.)

・2割弱で難聴を自覚
. 耳鳴は4割強と多い. 
 難聴のほとんどが感音性
・SScのタイプや他のパラメータとの関連性は認められない.
(皮膚所見やNFC所見など)

シェーグレン症候群の観察研究のMeta-analysisにおいて,
 難聴の合併率は36.7%(バイアス中程度を除いた頻度).
・感音性難聴は42.6%[27.8-58.8]

 伝音性は5%, 混合性難聴が2.3%と, ほぼ感音性難聴となる.
(Rheumatol Int. 2022 Oct 28. doi: 10.1007/s00296-022-05235-9. Online ahead of print.)


レビューより, SS, RA, SLEにおける難聴の頻度とその音域
(Int J Mol Sci. 2022 Sep 23;23(19):11181. )

・自己免疫性内耳障害では高音での聴力低下の頻度が高い.

 通常会話で使用する500-2000Hzは保たれることも多く, 
気づかれていないこともある


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膠原病患者さんではそれなりに難聴を伴う頻度が高い.
そしてその難聴は治療可能な可能性がある.
ステロイドを2週間程度使用し, 聴力検査で改善があればそのまま継続/減量しつつ維持/他薬剤へ置き換え, 反応がないと判断されれば2週間で終了する.

その辺に意識を向けると, 引っ掛けられる患者さんはそれなりにいるように思う.

2022年11月8日火曜日

結核によるリンパ節腫大のCT所見のポイント

臨床におけるGreat mimickerの1つである結核.

しばしば非典型的な経過で我々を陥れにきます.

以前京都GIMカンファレンスにて, 結核によるリンパ節腫大では, 内部が壊死するので造影CTではLow見えるんですよね〜、 と速攻で診断している名読影医がおりました.

今回もそんな症例がおりましたので, その辺の論文を漁ってみます.


結核のリンパ節; CT所見


縦隔リンパ節腫大を伴う結核 49例
(活動性37例, 非活動性12例)のCT所見を比較した報告.

(AJR Am J Roentgenol. 1998 Mar;170(3):715-8.)


活動性

非活動性

P値

サイズ(平均)

1.5-6.7cm(2.8)

1.0-4.7cm(2.1)

<0.04

造影パターン




造影不良域+

100%

0%

<0.0001

均一

43%

100%

<0.004

結節内石灰化

19%

83%

<0.0001

・活動性の結核では, リンパ節内の造影不良域がある.


 非活動性では均一であり, 石灰化も多い.

・造影不良域はリンパ節内の壊死を示唆する所見である

A: LN内に複数の造影不良域が認められる


B: TB治療後9ヶ月のCT. 上記LN腫大が消失


結核性腹膜炎のCT所見のMeta-analysisより

(Clin Radiol. 2020 May;75(5):396.e7-396.e14.)

・腸管膜の>5mmの結節と並び, 

 壊死を伴うLNは感度21%, 特異度95%と
特異性が高い所見といえる.

・石灰化も特異性が高いが, 感度は12%のみと低い.


結核によるリンパ節腫大では内部壊死により抜けるように見えるが,

同様に菊池病(KD)でも壊死性リンパ節炎を呈するため, 同じような所見となる.

両者の違いはどのようなところか?


CTにて結節内の壊死所見を伴うKD 24例と結核性リンパ節炎 45例の比較

(AJNR Am J Neuroradiol. 2012 Jan;33(1):135-40.)

・リンパ節のサイズは双方平均2-2.5cm程度と同等


CT所見の比較


・壊死範囲は結核の方が広範囲
(<30%, 30-70%, >70%で分類)

・複数部位の壊死所見はKDで多い

・壊死の部位は辺縁が双方とも多い

・壊死の境界が明瞭なのは結核ぽい

・石灰化を認めるのも結核ぽい

・CTN >44.5HU, CTN/M >0.7は
KDを示唆する所見.

 CTNは壊死部のCT値をエリアで評価
3箇所で評価し, 平均をとる.

 
CTN/MはCTNと付近の筋のCT値の比


・CTN ≥44.5HUは
感度89.5%, 特異度86%

・CTN/M ≥0.7は
感度94.7%, 特異度76.7% でKDを示唆する.


最終的にKD or 結核性リンパ節炎と診断された87例を
2名の読影医が評価(27例がKD, 60例がTB)

(Jpn J Radiol. 2014 Nov;32(11):637-43.)

・KDを示唆する所見;

・1/2を超えるリンパ節の壊死所見はKDよりもTBを示唆する所見となる
(KD OR 0.25)



悪性リンパ腫との比較ではどのような違いがあるか?


腹腔内LN腫大を認める結核26例と悪性リンパ腫 43例の画像所見の比較

(AJR Am J Roentgenol. 1999 Mar;172(3):619-23.)

・造影パターンの比較;
 

 均一な造影はリンパ腫を示唆する.
 

 周囲が造影されるようなパターンや混在は結核を示唆


腸管膜TB 18例とNHL 22例のCT造影パターンを評価

(World J Gastroenterol. 2008 Jun 28;14(24):3914-8.)

・NHLの大半が均一に造影されるパターンとなるが

 
TBでは均一もあるものの, 混在や辺縁のみのパターンが多い.


縦隔リンパ節のCT所見をTB 37例と悪性リンパ腫 54例で比較

(Clin Radiol. 2012 Sep;67(9):877-83.)

・造影パターンはTBでは辺縁の造影が78%であるが

 
NHLやHDでは83%が均一な造影となる.

・混在パターンはそれぞれ1割強で認められ, 差はない.

・多房性に造影されるパターンはTBに特異的な所見


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まとめると,

・活動性結核によるリンパ節腫大は内部に壊死を認め, 造影不良域が混在するリンパ節所見となる.

 非活動性では均一に造影され, 石灰化所見も多く認められる.

・同様に内部に造影不良域を認める壊死性リンパ節炎を呈する疾患に菊池病があるが, 双方の違いは壊死の範囲(結核の方が広い), 壊死部の境界が明瞭, 石灰化, 壊死部のCT値(KDの方が高くなる)といった所見が挙げられる.

・悪性リンパ腫との鑑別では, リンパ腫は基本的に均一に造影される点でことなる. 一部で混在パターンとなるが, 多房性に造影される場合は結核に特異的な所見と言える.

2022年11月4日金曜日

アスピリン投与時のピロリ菌除菌の意義は?

ピロリ菌は消化性潰瘍のリスクとなり, 除菌によりそのリスクは低下することがわかっている.

アスピリンは長期に使用される薬剤であり, これも消化性潰瘍の原因となるため, アスピリンを使用する患者でピロリ菌が陽性の場合, 除菌することも一つの方法となっている.

この除菌療法の意義を評価したRCT 

(Lancet 2022; 400: 1597–606)


HEAT trial: 英国の多施設におけるDB-RCT

・60歳以上の患者でアスピリンを使用しており,
 且つスクリーニング時にC13尿素呼気試験で陽性であった患者を対象

・スクリーニング時に潰瘍の原因となる薬剤(NSAID)や, 制酸剤や胃粘膜保護薬を使用中の患者は除外. これら薬剤は導入後は投与は可能.

・対象者をピロリ除菌群(CAM, MNZ, ランソプラゾールを1wk)とプラセボ群に割り付け, 
消化性潰瘍出血による入院や死亡リスクを比較した.

母集団


アウトカム


・開始後2.5年未満では,
 除菌群で有意に潰瘍による入院/死亡は
減少する.

・しかしながら, ≥2.5年では両者で有意差は認めない.

・対象群における発症率は最初の2.5年で2.6/1000pt-yとそもそもかなり少なめ.

 除菌による消化性潰瘍入院/死亡予防NNTは238[184-1661]程度である.


・母集団から無作為で抽出した
サンプルによる再検査では, 

 フォロー3.95年[2.76-5.28]の患者で
除菌群では90.7%が呼気試験陰性
, 

 対象群では24.0%が陰性であった.



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アスピリン投与患者におけるピロリ菌の除菌は, 2.5年以内の消化性出血による入院や死亡リスクを軽減するが, その効果はNNT 240程度とよいものではない.(そもそも母集団のリスクが少ない)

しかも2.5年以後はその差もなくなり, 有意差は消失する.

除菌しなくても24%は自然に陰性化しており(他の理由で使用されたPPIやCAMがきいたのでは、という考察がある), その影響もあるのかもしれない.


ルーチンで行う必要は乏しい可能性が高い.