(Br J Hosp Med (Lond). 2020 Nov 2;81(11):1-14)
手の感染症
・手は外傷を契機として感染症が生じやすい部位の1つ.
重症化すると機能予後にも関わる.
手の感染症は表在感染と, 深部感染症に分類される.
・表在の感染症ならば視診で感染部位がわかりやすく,
抗菌薬のみでの対応が可能. また効果判定もしやすい.
・深部の感染症では視診では判別しにくく, 運動制限や屈曲肢位を伴う.
屈筋腱鞘の圧痛, 指の嚢状腫脹, 屈曲固定した肢位, 受動伸展時の疼痛の
4徴候をKanavelの4徴と呼び, 屈筋腱鞘の感染症を示唆する所見.
治療は抗菌薬のみではなく, デブリが必要となることが多い.
表在感染症の例:
深部感染症の部位別の症状と対応
手の深部感染症: 化膿性屈筋腱鞘炎と手コンパートメントの感染症
手のコンパートメントは主 腱鞘-滑液包と筋膜がある;
・腱鞘-滑液包: 主に母指, 小指屈筋腱鞘, 尺側滑液包, 橈側滑液包が交通.
他の指の屈筋腱鞘は交通はなく, 独立しているが, variantが複数ある.
・筋膜では深部においてThenar, Midpalmar, Hypothenarに分かれる
(Orthop Rev (Pavia). 2012 May 9;4(2):e19.)
手の腱鞘-滑液包の感染症(Pyogenic Flexor Tenosynovitis)
(Br J Hosp Med (Lond). 2020 Nov 2;81(11):1-14.)(Hand Clin 36 (2020) 323–329)
・Kanavelの4徴が認められる化膿性腱鞘炎が含まれる.
・滑膜鞘は血管が少ないため, 微生物が増殖しやすい.
・初期には手指の特定の解剖学的区画に限局するが,
無治療で経過すると破裂し, 他の部位へ感染が波及する.
また, 通常 母指の屈筋腱鞘は橈側滑液包と, 小指の屈筋腱鞘は尺側滑液包と連絡するが, 17%では繋がりがなく, また11%で他の指の屈筋腱鞘と滑液包の連絡があるなどVariationも多い.
・従って, 小指の感染が母指に拡大する馬蹄形のPFTや
1指の感染が手掌や複数指に拡大するようなパターンもありえる
PFTの画像所見:
(J Hand Surg Am. 2019 May;44(5):394-399.)
・指の感染症患者をPFT 31例, 非PFT 31例に分類し, 両者で画像所見を比較
PFTの定義は腱鞘から膿が認められる, 手術において腱鞘からの培養が陽性であったことで定義.
非PFTには膿瘍や蜂窩織炎が含まれる
・結果: 指のびまん性の腫脹や, 腫脹の形は両者で差は認められず.
近位指節間における軟部組織腫脹の腹側と背側の差が
PFTと非PFTの判別に有用; 9±4mm vs 5±3mm
・差が7mm以上では
感度84%, 特異度 74%
差が10mm以上では,
76%[73-99]でPFT感染を予測
・造影CTやMRIは腱鞘周囲の感染, 膿瘍形成, 炎症の範囲を評価するのに最も優れた方法.
PFTの原因菌
・PFTは外傷や穿刺, 異物残留などで生じることが多い.
しかしながら明らかな外傷を認めず, 血行感染で発症することもある.
・原因菌で最も多いのは黄色ブドウ球菌で80%を占める.
・免疫不全患者ではStreptococcus viridansの一つであるS. mitisや
グラム陰性菌, 混合感染などもあり.
・海洋環境ではMycobacterium marinum, Shewanella algaeなども原因となる
・さらにNocardia novaによる報告もあり
PFTの治療
・PFTの治療は抗菌薬以外に切開洗浄が必要となることが多い.
・増悪因子に糖尿病, 治療の遅れ, PAD, 診察時虚血所見を認める場合がある
・Literature reviewにおいて, 化膿性屈筋腱鞘炎の治療で
最も機能予後が良好なのは
全身性抗菌薬投与とカテーテルを用いた洗浄 (J Hand Surg Eur Vol. 2015 September ; 40(7): 720–728.)
PFTの治療フロー
(J Hand Microsurg. 2019 Dec;11(3):121-126.)
PFTの予後
・PFTの合併症発症率は38%と高い.
強直や持続感染症, 腱鞘の変形,切断が多い合併症.
・予後不良因子としては,
高齢者(43歳以上),
糖尿病やPAD, CKD,
皮下膿瘍の存在
指の虚血
複数菌による感染症 が挙げられる.
Hand spaceの感染症
(Br J Hosp Med (Lond). 2020 Nov 2;81(11):1-14.)
・手指の腔には, Thenar(掌蹠), Mid-palmarと
Hypothenarがある.
・Thenar spaceの感染症では,
母指は外転しており, 第一指節の腫脹と
外転時の疼痛誘発が認められる.
・Mil-palmar spaceの感染症では,
薬指と中指の部分的な屈曲と,
手掌中央の凹みの消失が認められ,
それら指の伸展により強く疼痛が誘発
・Hypothenar spaceの感染症では,
腫脹は少なく, しばしば指や腱を含まず,
縦切開にてドレナージが行われる