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2022年6月24日金曜日

敗血症性ショックに対する補液量の比較: CLASSIC trial

 CLASSIC trial: 敗血症性Shock症例を対象としたRCT.

(10.1056/NEJMoa2202707)

・1L輸液治療を受けた患者群を, 輸液制限群 vs 通常治療群に割り付け,
予後を比較.

・患者は成人の発症12h以内の敗血症性ショック(Lac≥2mmol/L, 輸液, 昇圧薬の使用が必要な感染症患者)を対象


輸液制限群では, 以下を満たした場合に輸液を行う;


・重度の低循環が認められる; Lac≥4mmol/L, 昇圧薬使用でもMAP<50, 膝の先端を越えるMottling(Mottlingスコア>2), 割り付け後から2時間の尿量<0.1mL/kg/hを満たす
 

 >> このいずれかを認めた場合, 細胞外液250-500mlを投与


・体液の喪失が認められた患者(消化管からの喪失やドレナージ)


・経腸管投与ができず, 脱水や電解質補正が必要な場合


・経腸管投与ができない場合の1日に必要な補液(1L)


通常群では, 特に制限は設けず, 以下の場合に投与

・2016年のSSCGで定義される血流動態の安定化まで投与


・脱水や電解質補正, 体液喪失が予測される場合


・維持輸液として


母集団


アウトカム

・両群における輸液量



・90日死亡リスクや,
合併症リスクは両者で有意差なし

・サブ解析でも同等.

2022年6月20日月曜日

成人Still病のクラスター解析: 症状や経過のタイプ

 (Rheumatology (Oxford). 2021 Oct 2;60(10):4844-4849.)

イタリアのAOSDコホート; GIRRCSの解析.
全例がYamaguchi基準を満たし, Mimickerが除外されている.

・診断時の12の症状について評価し, それぞれを1点としてスコアを評価し, またESR, CRP, Ferritinも評価.


 12の症状: 発熱, 典型的皮疹, 胸膜炎, 肺炎, 心外膜炎, 肝腫大/LFT異常, 脾腫, リンパ節腫大, WBC>15000, 咽頭痛, 筋肉痛, 腹痛

・また, 最終的な経過より単発性, 慢性, 死亡に分類(Cush基準)


その結果, AOSDは症状や経過, 検査所見から4つのClusterに分けられた


Cluster 1: 

・最もFerrtinが高値(14724±6837ng/mL)でESRが最も低い(36.67±13.87)

・慢性経過となることが多く, 致命的な症例は無し.

・肺病変は認めず, 全身性スコア>7となる例は25%のみ.

・多い症状は発熱(100%), 典型的な皮疹(92%), 関節炎(83%)

・csDMARD(75%)やbDMARD(42%)で治療される例が多い


Cluster 2: 

・最もCRPが高値(28.81±4.60 mg/dL)で, Ferritinは低値(2039±1314ng/mL)

・60%が慢性経過となり, 40%は単相性の経過となる

・多い症状は発熱(100%), 関節炎(100%), 肝障害(90%)


Cluster 3:

・最も全身スコアが高く(8.88±1.79), 死亡率も高い(54.2%)
最も高齢でもある(55.75±16.16歳)

・単相性の患者はいない

・発熱(100%), 筋肉痛(96%), 咽頭痛(92%), 脾腫(88%)


 全身スコア>7を満たすのは88%と多い.


 MASは54%, 肺疾患は42%で認められる.


Cluster 4:

・最も多い群であり, 
Ferritinは1457±1298ng/mL, CRPは5.50±4.87mg/dLと低い.
 

 平均年齢は44.08±15.02歳.

・慢性経過が55.8%. 死亡率は9.5%

・発熱(100%), 関節炎(90%)


まとめると, 発熱, 関節炎, 皮疹はどれも高頻度

Cluster 1はフェリチンが高値で
, 炎症はそこまで高くはなく,
 慢性経過だが致命的では無い.

 全身スコア>7となる例もすくない

 >> フェリチンが高値なのが目立つが, 炎症や臓器障害はあまり強く無いタイプ. 慢性経過となりやすい.

Cluster 2は肝障害が多く, CRPも高値.
 慢性経過と単相性が混在

 全身スコア>7となる例は半数以上あり

 >> CRPが高く, 多臓器障害も多い. 単相性のこともある. 

Cluster 3は咽頭痛, 他多臓器障害, MASが顕著で致命率が高い.
 全例が慢性経過となる

 全身スコア>7となる例が9割近く. 多臓器障害を呈する.

 >> 予後が悪いタイプ. 多臓器障害の多く, MASや肺病変も多く要注意.

Cluster 4はCRP, Ferritinは低め.
 慢性経過と単相性が混在.

 全身スコア>7はCluster 1と同様, 少ない.

 >> 多臓器障害は少なく, フェリチンやCRPもさほど派手ではない. 単相性もあり.

2022年6月16日木曜日

LOVIT trial: 敗血症に対する大量ビタミンCのRCT.

 敗血症に対する大量ビタミンC投与を評価した報告たち

敗血症に対するHAT療法

最初は効果が期待できるかも, と言われていたが, その後の追試では悉くNegativeであり,

もはや廃れている治療法といえる.

そして今回, 大量Vit C投与により, 予後改善どころか予後増悪の可能性がでてきた.


LOVIT trial: 感染症でICU管理となった成人症例を対象としたRCT.

(10.1056/NEJMoa2200644)

・患者はICU入室後24h以内で, 感染症が証明/強く疑われた症例. 
 

 さらに昇圧薬を使用されている群を対象

・除外項目はVit Cの禁忌(G6PD欠損など), すでにVit Cを使用中, 48h以内に蘇生治療を中止することが予測された症例, 48h以内に死亡が予測された症例

Vit C 50mg/kgを6h毎に投与する群 vs Placebo群に割り付け, 96h継続.


 死亡リスクや臓器障害リスクを比較した.


母集団


・敗血症性ショックは5-6割で満たす.

・人工呼吸器管理は6-7割.


・感染部位は肺, 消化管が主.


アウトカム


・28日における死亡, 臓器障害残存は
有意にVit C投与群で多い: RR 1.21[1.04-1.40]

・28日死亡率は35.4% vs 31.6%, RR 1.17[0.98-1.40]
 

 持続性の臓器障害 9.1% vs 6.9%, RR 1.30[0.83-2.05]

・両群で溶血性貧血はなし.
 腎障害や低血糖も差は認めない

・サブ解析でも全体的にVit C群の予後が不良な傾向がある.

2022年6月15日水曜日

齧られた赤血球による溶血性貧血

 症例: 高齢男性.

 皮膚疾患に対してダプソンが1ヶ月前に開始された.

 最近になり倦怠感, 発熱, 全身性の紅斑を認め内科外来受診.

 検査にて高度の貧血;Hb 6.2g/dL, MCV 108fl, LDH 450, Bil 4.2mg/dL, AST/ALT 89/79と

 肝障害と溶血を疑う貧血を認めた.

 WBCやPLTは保たれており, 末梢血の黙視にて破砕赤血球が陽性であった.

 直接クームス試験は陰性.

 実際みてみると, ヘルメット状の破砕赤血球に混じり, 齧られたような断片化した赤血球が多く眼についた.

参考:  (Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia, Vol. 20, No. 11, e821-5 a 2021)より


さて, この貧血, 皮疹や発熱の原因は?





Dapsoneによる過敏性症候群: Dapsone Hypersensitivity Syndrome(DHS)

(The Journal of Dermatology Vol. 32: 883–889, 2005)

・Dapsone: Diaminodiphenyl sulphoneはハンセン氏病の治療や, ST合剤が使用できないPCP予防として用いられる薬剤.


 また, 好中球性皮膚症(sweet病)や, 他の皮膚疾患に対しても用いられる.

・このDapsoneにより薬剤過敏症候群を古典的にはDapsone hypersensitivity syndromeと呼ぶ

・Dapsoneの副作用としては, 他にメトヘモグロビン血症や骨髄抑制, 溶血性貧血, 末梢神経障害などがある.(Journal of Occupational Medicine and Toxicology 2006, 1:9 doi:10.1186/1745-6673-1-9)


台湾のCohortでは, 非ハンセン氏病患者でDapsoneを使用した361例において, DHSは6例で発症(1.66%)

(Journal of Dermatological Treatment. 2009; 20:340–343)

・これはハンセン氏病群における発症率 およそ2%とほぼ同等.

・使用量は100mg/d, 全例で開始から6wk以内に認められた.(19.5日[8-36])

・好酸球増多は3/6, 貧血は全例(Hb 5.8-11.1g/dL)

・Dapsone中止し, ステロイド投与にて治療行い,
 2-3wkで血液データは正常化.

 皮膚症状は8.3日[5-14]で改善を認めた.


DHSで認められる症状, 所見

(Journal of Occupational Medicine and Toxicology 2006, 1:9 doi:10.1186/1745-6673-1-9)

・所謂一般的なDIHSと異なるのは溶血性貧血を認める例があることと, 肝障害の頻度が高い点

・肝障害も併せて, BilやLDHの上昇が認められやすい

皮膚所見の頻度

(The Journal of Dermatology Vol. 32: 883–889, 2005)


全身症状の頻度

・黄疸やリンパ節腫大の頻度は高い


検査所見

・貧血を46%で伴う.


・Bilの上昇やRetの上昇を認める.

・
Dapsoneではクームス陰性溶血性貧血を合併することもある


 (溶血性貧血はこの群では4例で合併)


Dapsoneによる溶血性貧血

・Dapsoneの副作用の1つに溶血性貧血がある.


 これはG6PD欠乏がリスクとなることが知られているが
, 正常患者における報告も多い.

・PCP予防としてST合剤を使用した23例, ペンタミジンを使用した17例,
 Dapsoneを使用した12例を評価したところ,
 Hb 2.0g/dL以上低下を認めたのは13%, 24%, 58%とDapsoneで多い結果.

(Neuro Oncol. 2020 Jun 9;22(6):892-893. doi: 10.1093/neuonc/noaa026.)

・Dapsoneで貧血を合併した患者7例中 
4例でMCV >100fl,

 3例でLDHの上昇あり


 末梢血スメアでは, Degmacyte(bite cells)が
5/5で認められた.


Degmacyte(bite cell); 赤血球の断片化の形態の1つ.

・破砕赤血球は力学的に引きちぎられた形態であり, ヘルメット型や角型を呈する一方, DegmacyteはRBCの辺縁が齧られたような形態を呈する.

・これは大量の酸化剤によるヘモグロビンの変性, 赤血球の酸化防御作用の低下(G6PD欠損), 酸化を受けやすい異常ヘモグロビンが存在する際に形成される.

・Heinz小体が脾臓で除去
された際に生じる. (Heinz小体: 酸化変性物の封入体)

(Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia, Vol. 20, No. 11, e821-5 a 2021)

・原因薬物としては, 
Dapsone, Phenazopyridine,
Sulfasalazine, Sulfapyridineで
特に報告が多く,
さらに
Clindamycin,
Gentamicin, Clonidineなどで
報告されている.

(Am J Hematol. 1983 Sep;15(2):135-46.)(Am J Med. 1992 Mar;92(3):243-8.)


Dapsoneの急性過量服薬でも溶血性貧血は生じる

・43例の急性中毒例の検討では,
全例でメトヘモグロビン血症を認め,
69.8%で溶血性貧血を認めた.

・溶血性貧血は翌日〜6日以上持続.

・過量服薬の場合, しばらく貧血の経過観察が必要である

(American Journal of Emergency Medicine 34 (2016) 366–369)

MDS/CMMLと血管炎

血液腫瘍ではさまざまな自己免疫性疾患やそれに類似した病態を合併することがある.

参考;

MDSには自己免疫性疾患が合併することがある


フランスのCohortより, MDS/CMMLに合併した血管炎症例を評価した報告.
(Seminars in Arthritis and Rheumatism 50 (2020) 879-884)

・MDS/CMMLで血管炎を合併した70例を解析


・年齢は71.5歳[21-90], 男性/女性は2.3と男性で多い.

・MDS/CMML診断前に血管炎を診断 31例(44%)


 MDS/CMML診断後に血管炎を発症した症例は20例

・血管炎や自己免疫性疾患合併(-)と比較して,
 MDS/CMMLのタイプ自体に差は認めない.


MDS/CMMLに合併した血管炎のSubtypeは

・GCAが24例(34%), Behcet病様症候群が11例(20%)と多くを占める.

 他にはPANが6例(9%), AAVが7例(10%), 他IgAV, クリオグロブリン血管炎, 分類不能など


治療とアウトカム

・治療としてGCやDMARDsが使用されることが多い.


 再燃率は6割と高く, ステロイド依存となる患者もおよそ半数

・Azacytidineが使用される例もあり.

感染性結膜炎; 細菌性, ウイルス性の比較. JAMA Rational Clinical Examination

久々のJAMA The Rational Clinical Examinationより


急性感染性結膜炎における細菌感染症の評価したReveiw

(JAMA. 2022;327(22):2231-2237. doi:10.1001/jama.2022.7687)


細菌性とウイルス性の頻度

・小児例を評価した5 studies, N=881, 平均年齢4.7歳.
 

 ウイルス性は71%[38-91], 細菌性は16%[4-46], 


 13%は培養陰性, Chlamydia trachomatis陽性, アレルギー性結膜炎

・成人例を評価したのは1 studyのみ. N=207, 平均年齢 25.7歳


 ウイルス性が78%, 細菌性が16%


 6%がその他(HSVやChlamydiaを含む)

・細菌性やウイルス性の割合は小児, 成人ともにほぼ変わらない.

 おおよそ7-8割がウイルス性で、1-2割が細菌性.


ウイルス性結膜炎と細菌性結膜炎の症状, 所見頻度

・ウイルス性で多い所見は結膜濾胞と水様性分泌物, 咽頭炎の合併など

・細菌性では膿性分泌物や上記所見が認めない点が挙げられる.


両者の鑑別

・ウイルス性を示唆する所見: 咽頭炎の併発, 耳介前リンパ節の腫脹, 同様の疾患患者との暴露歴

・細菌性を示唆する所見: 中耳炎の合併, 膿性分泌物

・しかしながら, 明確に判別可能な所見や情報はない.

2022年6月6日月曜日

手の深部感染症

(Br J Hosp Med (Lond). 2020 Nov 2;81(11):1-14)

 手の感染症

・手は外傷を契機として感染症が生じやすい部位の1つ.

 重症化すると機能予後にも関わる.


手の感染症は表在感染と, 深部感染症に分類される.

・表在の感染症ならば視診で感染部位がわかりやすく, 
抗菌薬のみでの対応が可能. また効果判定もしやすい.

深部の感染症では視診では判別しにくく, 運動制限や屈曲肢位を伴う. 


 屈筋腱鞘の圧痛, 指の嚢状腫脹, 屈曲固定した肢位, 受動伸展時の疼痛の
4徴候をKanavelの4徴と呼び, 屈筋腱鞘の感染症を示唆する所見.


 治療は抗菌薬のみではなく, デブリが必要となることが多い.


表在感染症の例:


深部感染症の部位別の症状と対応


手の深部感染症: 化膿性屈筋腱鞘炎と手コンパートメントの感染症


手のコンパートメントは主 腱鞘-滑液包と筋膜がある;

・腱鞘-滑液包: 主に母指, 小指屈筋腱鞘, 尺側滑液包, 橈側滑液包が交通.
 

  他の指の屈筋腱鞘は交通はなく, 独立しているが, variantが複数ある.

・筋膜では深部においてThenar, Midpalmar, Hypothenarに分かれる

(Orthop Rev (Pavia). 2012 May 9;4(2):e19.)


手の腱鞘-滑液包の感染症(Pyogenic Flexor Tenosynovitis)

(Br J Hosp Med (Lond). 2020 Nov 2;81(11):1-14.)(Hand Clin 36 (2020) 323–329)

・Kanavelの4徴が認められる化膿性腱鞘炎が含まれる.

・滑膜鞘は血管が少ないため, 微生物が増殖しやすい.

・初期には手指の特定の解剖学的区画に限局するが, 
無治療で経過すると破裂し, 他の部位へ感染が波及する.


 また, 通常 母指の屈筋腱鞘は橈側滑液包と, 小指の屈筋腱鞘は尺側滑液包と連絡するが, 17%では繋がりがなく, また11%で他の指の屈筋腱鞘と滑液包の連絡があるなどVariationも多い.


・従って, 小指の感染が母指に拡大する馬蹄形のPFTや

 
1指の感染が手掌や複数指に拡大するようなパターンもありえる


PFTの画像所見:

(J Hand Surg Am. 2019 May;44(5):394-399.)

・指の感染症患者をPFT 31例, 非PFT 31例に分類し, 両者で画像所見を比較


 PFTの定義は腱鞘から膿が認められる, 手術において腱鞘からの培養が陽性であったことで定義.


 非PFTには膿瘍や蜂窩織炎が含まれる

・結果: 指のびまん性の腫脹や, 腫脹の形は両者で差は認められず.

 近位指節間における軟部組織腫脹の腹側と背側の差が
PFTと非PFTの判別に有用; 9±4mm vs 5±3mm



・差が7mm以上では
感度84%, 特異度 74%

 差が10mm以上では,
76%[73-99]でPFT感染を予測


・造影CTやMRIは腱鞘周囲の感染, 膿瘍形成, 炎症の範囲を評価するのに最も優れた方法.


PFTの原因菌

・PFTは外傷や穿刺, 異物残留などで生じることが多い.
しかしながら明らかな外傷を認めず, 血行感染で発症することもある.

・原因菌で最も多いのは黄色ブドウ球菌で80%を占める.

・免疫不全患者ではStreptococcus viridansの一つであるS. mitisや
グラム陰性菌, 混合感染などもあり.

・海洋環境ではMycobacterium marinum, Shewanella algaeなども原因となる

・さらにNocardia novaによる報告もあり


PFTの治療

・PFTの治療は抗菌薬以外に切開洗浄が必要となることが多い.

・増悪因子に糖尿病, 治療の遅れ, PAD, 診察時虚血所見を認める場合がある

・Literature reviewにおいて, 化膿性屈筋腱鞘炎の治療で
最も機能予後が良好なのは
全身性抗菌薬投与とカテーテルを用いた洗浄 (J Hand Surg Eur Vol. 2015 September ; 40(7): 720–728.)


PFTの治療フロー

(J Hand Microsurg. 2019 Dec;11(3):121-126.)


PFTの予後

・PFTの合併症発症率は38%と高い.


 強直や持続感染症, 腱鞘の変形,切断が多い合併症.

・予後不良因子としては,


 高齢者(43歳以上), 


 糖尿病やPAD, CKD, 


 皮下膿瘍の存在


 指の虚血
複数菌による感染症 が挙げられる.


Hand spaceの感染症

(Br J Hosp Med (Lond). 2020 Nov 2;81(11):1-14.)

・手指の腔には, Thenar(掌蹠), Mid-palmarと
Hypothenarがある.


・Thenar spaceの感染症では, 
母指は外転しており, 第一指節の腫脹と
外転時の疼痛誘発が認められる.

・Mil-palmar spaceの感染症では,
 薬指と中指の部分的な屈曲と,
手掌中央の凹みの消失が認められ,
 それら指の伸展により強く疼痛が誘発

・Hypothenar spaceの感染症では,
 腫脹は少なく, しばしば指や腱を含まず,
 縦切開にてドレナージが行われる

2022年6月2日木曜日

Dupuytren拘縮に対するTNF-α阻害薬の局所注射

Dupuytren拘縮は手掌腱膜や皮膚が肥厚, 退縮し,
 指が屈曲拘縮を生じる病態.

・手掌に生じる線維性疾患の1つで, 一般人口の4-7%で認められる. また高齢者で多い(西欧諸国では, 55歳の12%, 75歳の29%で認める)

・遺伝性の要素が強く, 80%で遺伝が関与している.

 遺伝的要因以外には, 外傷, 長期間の高血糖, 微小血管障害, 虚血など多因子が関連している.

・特に糖尿病患者における合併は多く, Dupuytren拘縮を認める患者におけるDMの頻度は13-39%であり, 
 Dupuytren拘縮では必ずDMを評価することが重要.

・DM患者では男女双方とも,
 第3,4指で生じやすい.

・非DM患者では男性で多く,
 第5指で生じやすい.

・DM患者における頻度は16-42%. 高齢者, 長期罹患がリスクとなる.



・手掌の索状腫瘤は手指の屈曲変形を引き起こす. 

 現在の治療では, 指関節が30度に屈曲し, 手指の機能障害が出現した場合, 外科的に切除するか, Collagenaseや針を用いて索状組織を破壊する方法がとられる.
しかしながら再発率も高く, 外科治療群の21%, 針による筋膜切除群の85%が5年以内に再発する.

・ステロイドの局所注射や放射線治療も索状腫瘤の軟化効果が認められるが, エビデンスは不十分な状態.

・初期のDupuytren拘縮は局所的な炎症性の病態であり, TNF受容体と局所M2マクロファージ, マスト細胞より分泌されるTNFが関連していることがわかっており, TNF阻害薬が病態の改善や進行の予防に使用可能な可能性が示唆されている.

(Lancet Rheumatol 2022; 4: e407–16)(Medicine 94(41):e1575)


RIDD(phase 2): 早期のDupuytren拘縮患者を対象とし,
 TNF-α阻害薬(ADA) vs NSの局所注射を比較したDB-RCT

・早期Dupuytren拘縮はMP関節, PIPの進展障害が30度以下で定義.
 

 成人患者で, 過去6ヶ月間に臨床的に明確な結節が認められ,
 病状の進行(結節の増大, 疼痛, 圧痛, 掻痒)が認めるものを導入.

・また, 他にDupuytren拘縮の治療歴がある患者, HIV, TB, HBV, HCV, 重大な肝障害や腎障害, 全身性炎症性疾患, 中等度以上の心不全, 脱髄疾患, 繰り返す感染症既往, ワーファリンの使用などは除外.


・上記を満たす患者群において,
 

 ADA 40mg/0.4mLを結節内に局所注射, 3ヶ月毎に4回行う群と
 

 NSを用いて同様に注射を行う群に割り付け, 12ヶ月継続.
 

 12ヶ月後の結節の硬さ(Durometerを用いて測定)や大きさ(エコーを用いて測定)を比較した.


患者群


アウトカム



・結節のサイズや硬さは有意にADA群で減少.

・自覚症状やは有意差なし

・受動的進展障害はADA群で進行は緩徐となる 
(しかしながら増悪はする)

・より長期間の経過フォローが必要である.