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2022年6月15日水曜日

齧られた赤血球による溶血性貧血

 症例: 高齢男性.

 皮膚疾患に対してダプソンが1ヶ月前に開始された.

 最近になり倦怠感, 発熱, 全身性の紅斑を認め内科外来受診.

 検査にて高度の貧血;Hb 6.2g/dL, MCV 108fl, LDH 450, Bil 4.2mg/dL, AST/ALT 89/79と

 肝障害と溶血を疑う貧血を認めた.

 WBCやPLTは保たれており, 末梢血の黙視にて破砕赤血球が陽性であった.

 直接クームス試験は陰性.

 実際みてみると, ヘルメット状の破砕赤血球に混じり, 齧られたような断片化した赤血球が多く眼についた.

参考:  (Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia, Vol. 20, No. 11, e821-5 a 2021)より


さて, この貧血, 皮疹や発熱の原因は?





Dapsoneによる過敏性症候群: Dapsone Hypersensitivity Syndrome(DHS)

(The Journal of Dermatology Vol. 32: 883–889, 2005)

・Dapsone: Diaminodiphenyl sulphoneはハンセン氏病の治療や, ST合剤が使用できないPCP予防として用いられる薬剤.


 また, 好中球性皮膚症(sweet病)や, 他の皮膚疾患に対しても用いられる.

・このDapsoneにより薬剤過敏症候群を古典的にはDapsone hypersensitivity syndromeと呼ぶ

・Dapsoneの副作用としては, 他にメトヘモグロビン血症や骨髄抑制, 溶血性貧血, 末梢神経障害などがある.(Journal of Occupational Medicine and Toxicology 2006, 1:9 doi:10.1186/1745-6673-1-9)


台湾のCohortでは, 非ハンセン氏病患者でDapsoneを使用した361例において, DHSは6例で発症(1.66%)

(Journal of Dermatological Treatment. 2009; 20:340–343)

・これはハンセン氏病群における発症率 およそ2%とほぼ同等.

・使用量は100mg/d, 全例で開始から6wk以内に認められた.(19.5日[8-36])

・好酸球増多は3/6, 貧血は全例(Hb 5.8-11.1g/dL)

・Dapsone中止し, ステロイド投与にて治療行い,
 2-3wkで血液データは正常化.

 皮膚症状は8.3日[5-14]で改善を認めた.


DHSで認められる症状, 所見

(Journal of Occupational Medicine and Toxicology 2006, 1:9 doi:10.1186/1745-6673-1-9)

・所謂一般的なDIHSと異なるのは溶血性貧血を認める例があることと, 肝障害の頻度が高い点

・肝障害も併せて, BilやLDHの上昇が認められやすい

皮膚所見の頻度

(The Journal of Dermatology Vol. 32: 883–889, 2005)


全身症状の頻度

・黄疸やリンパ節腫大の頻度は高い


検査所見

・貧血を46%で伴う.


・Bilの上昇やRetの上昇を認める.

・
Dapsoneではクームス陰性溶血性貧血を合併することもある


 (溶血性貧血はこの群では4例で合併)


Dapsoneによる溶血性貧血

・Dapsoneの副作用の1つに溶血性貧血がある.


 これはG6PD欠乏がリスクとなることが知られているが
, 正常患者における報告も多い.

・PCP予防としてST合剤を使用した23例, ペンタミジンを使用した17例,
 Dapsoneを使用した12例を評価したところ,
 Hb 2.0g/dL以上低下を認めたのは13%, 24%, 58%とDapsoneで多い結果.

(Neuro Oncol. 2020 Jun 9;22(6):892-893. doi: 10.1093/neuonc/noaa026.)

・Dapsoneで貧血を合併した患者7例中 
4例でMCV >100fl,

 3例でLDHの上昇あり


 末梢血スメアでは, Degmacyte(bite cells)が
5/5で認められた.


Degmacyte(bite cell); 赤血球の断片化の形態の1つ.

・破砕赤血球は力学的に引きちぎられた形態であり, ヘルメット型や角型を呈する一方, DegmacyteはRBCの辺縁が齧られたような形態を呈する.

・これは大量の酸化剤によるヘモグロビンの変性, 赤血球の酸化防御作用の低下(G6PD欠損), 酸化を受けやすい異常ヘモグロビンが存在する際に形成される.

・Heinz小体が脾臓で除去
された際に生じる. (Heinz小体: 酸化変性物の封入体)

(Clinical Lymphoma, Myeloma & Leukemia, Vol. 20, No. 11, e821-5 a 2021)

・原因薬物としては, 
Dapsone, Phenazopyridine,
Sulfasalazine, Sulfapyridineで
特に報告が多く,
さらに
Clindamycin,
Gentamicin, Clonidineなどで
報告されている.

(Am J Hematol. 1983 Sep;15(2):135-46.)(Am J Med. 1992 Mar;92(3):243-8.)


Dapsoneの急性過量服薬でも溶血性貧血は生じる

・43例の急性中毒例の検討では,
全例でメトヘモグロビン血症を認め,
69.8%で溶血性貧血を認めた.

・溶血性貧血は翌日〜6日以上持続.

・過量服薬の場合, しばらく貧血の経過観察が必要である

(American Journal of Emergency Medicine 34 (2016) 366–369)