糖尿病患者では, リウマチ性疾患様の筋骨格系症状を呈することがあり, しばしばADLに大きく影響する.
・関節症状で紹介されるケースもあり, 関連する病態は押さえておくことは重要.
・関連する疾患/病態は以下の通り;
(Rheum Dis Clin N Am 36 (2010) 681–699
)・DMに関連する主な筋骨格系疾患の頻度
(Br J Sports Med 2003;37:30–35)
Diabetic Hand Syndrome(DHS): 糖尿病性手症候群
(Medicine 94(41):e1575)
・DM患者では様々な手の疾患を合併する.
手根管症候群(Carpal tunnel syndrome: CTS)
閉塞性屈筋腱鞘炎 (Stenosing flexor tenosynovitis: SFT)
関節可動域制限 (Limited joint mobility: LJM)
Dupuytren Contracture: DCなど が含まれる.
・DM患者606152例のフォローでは, 9年間で8.45%でDHSを合併
・年齢, 性別を合わせたコントロール群との比較では,
DHS全体 HR 1.51[1.48-1.53]
SFTのHR 1.90[1.86-1.95]
DDのHR 1.83[1.39-2.39]
CTSのHR 1.31[1.28-1.34]
LJMのHR 1.24[1.13-1.35]
若年ほどリスクは高い傾向.
・432例のDM患者における上肢の障害の頻度, リスク因子を評価した報告では,
頻度はSC 8.79%, CTS 8.56%, LJM 6.94%, DC 7.4%, TF 6.71%
リスク因子は以下の通り: (JRHS 2014; 14(1): 93-96)
個別にみてみると,
Limited joint mobility(LJM): 別名糖尿病性手関節症
・主に手の手背側に硬く肥厚したワックスがかった皮膚を認め, MP, PIP, DIP関節の屈曲変形を特徴とする病態.
・1型DMの30-58%, 2型DMの45-76%で認められる
(非糖尿病患者では4-20%程度の頻度)
長期罹患やコントロール不良のDMはリスクとなる.
・疼痛は伴わないが, 早期では軽度の疼痛や痺れが認められることがある
・複数の要因があり, コラーゲンの増加, 微小血管障害, 神経障害などが関連して生じると考えられている.
・診断は臨床所見で行われるが, 重要なポイントが2つある;
Prayer sign: 拝むように, 両手の手掌を合わせることができない
Table tap sign: 指を広げて手のひらをテーブルに置いた時, 手掌と指全体を平面に接触させられない.
・対応は理学療法. 疼痛があればNSAID.
血糖コントロールは増悪を予防することを期待して行う.
Dupuytren拘縮
・手掌腱膜や皮膚が肥厚, 退縮し,
指が屈曲拘縮を生じる病態.
・DM患者では男女双方とも,
第3,4指で生じやすい.
・非DM患者では男性で多く,
第5指で生じやすい.
・DM患者における頻度は16-42%. 高齢者, 長期罹患がリスクとなる.
一般人口では13%程度の頻度.
・Dupuytren拘縮を認める患者におけるDMの頻度は13-39%であり,
Dupuytren拘縮では必ずDMを評価することが重要.
・遺伝的要因, 外傷, 長期間の高血糖, 微小血管障害, 虚血など多因子が関連している.
Flexor tenosynovitis (trigger finger):
・腱鞘の線維性組織の増生により腱の運動が障害されて生じる
・DM患者の11%で認められる
(非DM患者では1%未満)
・DMによるFlexor tenosynovitisでは複数の指で生じ,
多い部位は母指, 中指, 薬指.
・DM罹患期間が長いほど生じやすいが, 血糖コントロールとの相関はない
手根管症候群(CTS)
・手根管内で正中神経が圧迫される病態.
一般人口の3.8%で認められるが,
DM患者では神経障害(-)例で14%, (+)例で30%で合併
・DM罹患期間が長いほどリスクも高い
・握力の低下と手指の機能障害を呈し, 夜間に症状は増悪することが多い
・評価には身体所見が有用.
Tinel試験やPhalen試験, The hand elevation testがある.
・診断はMRIや神経伝導速度を行う
Adhesive capsulitis(癒着性関節包炎)
(Am Fam Physician. 2019; 99(5):297-300)
・主に肩関節で生じる(Frozen shoulder)
・肩甲上腕関節包の拘縮を特徴とし,
進行性, 有痛性の肩関節運動障害で, 特に外転, 外旋が障害される.
・DM患者の10-29%で合併. Meta-analysisでは30%[24-37]
同年齢の有病率は3-5%程度で, 40-60歳台の女性で多い.
DM以外にも甲状腺機能低下症もリスクとなる(27.3% vs 10.7%)
・両側性はDM関連で多い(33-42% vs 5-20%)
・DMの診断時に認められることがある.
Adhesive capsulitis(癒着性関節包炎)の臨床経過
・病期は疼痛期, 癒着/強直期, 改善期の3つに分けられる.
Self-limitedで数年の経過で改善するが, 一部症例では慢性化したり,
ROM制限を残すなどあり.
・著明なROM制限を伴う肩の疼痛で発症. 肩痛は全体的であり, 局所的な疼痛ではなく, 鈍い疼痛. 二頭筋への放散を伴うこともある.
・上腕の挙上や腕を背部に回す運動で疼痛は増強
屈曲, 外転, 外旋, 内旋のROM制限は特徴的な所見.
・体重減少や寝汗などの消耗症症状は認められない.
ACの鑑別疾患
ACの診断
・リスクがある患者や疑う症状があれば,
糖尿病や甲状腺機能低下症の評価は行う.
・画像検査は他疾患の除外, 鑑別のために行うことが多い.
・肩関節の単純MRIでは, 烏口上腕靭帯肥厚, 烏口下脂肪組織の回旋区域への浸潤, 腋窩の肥厚所見が認められ, これら所見は癒着性関節包炎に対する特異性が高い所見. (Clin Imaging. Jul-Aug 2017;44:46-50.)
・烏口上腕靭帯肥厚 3.40±1.25mm vs 2.60±0.93mm
他にDMに関連する筋骨格系の障害
DISH: Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis
・説明は別エントリー参照. http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/07/diffuse-idiopathic-skeletal.html
・2型DM患者の13-40%, 一般人口では2.2-3.5%で合併
・胸椎で生じる例が多く, 無症候性が多いが一部で脊椎の強直を認める
Neuropathic osteoarthropathy(シャルコー関節)
・神経障害を生じる様々な疾患に合併する, 進行性, 破壊性の関節症
糖尿病は最も多い原因疾患の1つ
・著明な関節変形や再発性潰瘍を呈し, 最終的には切断に至ることがある
・DMでは足関節や足指に多く認められる.
・機序は不明確なところが多いが, 繰り返す外傷, 感覚神経障害による感覚の低下, 微小骨折による損傷などが原因となる.
また他の原因として, 神経障害が血流の増加を誘発し,
破骨細胞を刺激して骨吸収の増加, 骨粗鬆症,
骨折, 関節損傷を引き起こすことも指摘されている
炎症も誘因となる
・関節内出血による破壊性関節炎, DMとの合併頻度は0.12%
・大半が外傷に由来するものであり,
神経障害があると関節内出血に気付かず, そのまま酷使する為に生じる
・Risk Factors;
Risk | OR | Risk | OR |
DM歴>=6yr | 1.26[1.03-1.53] | 肥満(BMI>30) | 1.60[1.15-2.19] |
HbA1c>7% | 1.33[1.06-1.68] | 神経障害 | 14.0[9.5-20.1] |
|
| 上記双方 | 21.2[14.4-31.1] |
(Am J of Med 2008;121:1008-1014)
Diabetic muscle infarction: 糖尿病性筋梗塞
(World J Nephrol 2018 March 6; 7(2): 58-64)(BMJ Open Diabetes Research and Care 2015;3:e000082.)
・DMでは稀な合併症.
長期間のコントロール不良のDMに合併する報告が多い
(特に微小血管障害を伴う1型DM)
動脈の閉塞には関連せず,
また, 糖尿病性ESRDを伴うことが多い
・急性経過の四肢筋痛と腫脹(触知可能なMassが34-44%)で発症し,
運動で増悪する.
数日〜数週の経過で増悪を認める
・大腿が多いが, 下腿や上肢, 腹壁筋での発症もある.
・炎症反応や白血球は上昇する. CPKは正常〜軽度上昇程度であり, 疾患のマーカーにはなり難い.
MRIによる筋肉の評価は重要
・糖尿病性amyotrophyも類似した経過となりえる
参考: http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/08/diabetic-amyotrophy.html
・DMI 126例のLiterature review:
発症年齢は44.6歳[20-67], 1型DMでは35.9[20-65], 2型では52.2[34-67]
2型DMが50%, 1型DMが41.7%
DM発症〜DMI発症まで1型DMが18.9年[5-33], 2型が11.0[1-25]
HbA1cは9.34%[5-21]と様々
他のDM合併症を認める例(網膜症, 神経症, 腎症)が46.6%
・血液検査所見
・部位の分布: