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2022年2月3日木曜日

糖尿病による関節・筋骨格系の症状

糖尿病患者では, リウマチ性疾患様の筋骨格系症状を呈することがあり, しばしばADLに大きく影響する.

・関節症状で紹介されるケースもあり, 関連する病態は押さえておくことは重要.

・関連する疾患/病態は以下の通り;

(Rheum Dis Clin N Am 36 (2010) 681–699)

・DMに関連する主な筋骨格系疾患の頻度

(Br J Sports Med 2003;37:30–35)


Diabetic Hand Syndrome(DHS): 糖尿病性手症候群

(Medicine 94(41):e1575)

・DM患者では様々な手の疾患を合併する.


 手根管症候群(Carpal tunnel syndrome: CTS)


 閉塞性屈筋腱鞘炎 (Stenosing flexor tenosynovitis: SFT)


 関節可動域制限 (Limited joint mobility: LJM)


 Dupuytren Contracture: DCなど が含まれる.

・DM患者606152例のフォローでは, 9年間で8.45%でDHSを合併

・年齢, 性別を合わせたコントロール群との比較では,

 
DHS全体 HR 1.51[1.48-1.53]

 
SFTのHR 1.90[1.86-1.95] 


 DDのHR 1.83[1.39-2.39]


 CTSのHR 1.31[1.28-1.34]


 LJMのHR 1.24[1.13-1.35] 

 若年ほどリスクは高い傾向.

・432例のDM患者における上肢の障害の頻度, リスク因子を評価した報告では, 

 頻度はSC 8.79%, CTS 8.56%, LJM 6.94%, DC 7.4%, TF 6.71%

 リスク因子は以下の通り: (JRHS 2014; 14(1): 93-96)


個別にみてみると,


Limited joint mobility(LJM): 別名糖尿病性手関節症

・主に手の手背側に硬く肥厚したワックスがかった皮膚を認め, MP, PIP, DIP関節の屈曲変形を特徴とする病態.

・1型DMの30-58%, 2型DMの45-76%で認められる
(非糖尿病患者では4-20%程度の頻度)


 長期罹患やコントロール不良のDMはリスクとなる.

・疼痛は伴わないが, 早期では軽度の疼痛や痺れが認められることがある

・複数の要因があり, コラーゲンの増加, 微小血管障害, 神経障害などが関連して生じると考えられている.

・診断は臨床所見で行われるが, 重要なポイントが2つある;


  Prayer sign: 拝むように, 両手の手掌を合わせることができない


  Table tap sign: 指を広げて手のひらをテーブルに置いた時, 手掌と指全体を平面に接触させられない.

・対応は理学療法. 疼痛があればNSAID.

 血糖コントロールは増悪を予防することを期待して行う.


Dupuytren拘縮

・手掌腱膜や皮膚が肥厚, 退縮し,
指が屈曲拘縮を生じる病態.


・DM患者では男女双方とも,
 第3,4指で生じやすい.

・非DM患者では男性で多く,
 第5指で生じやすい.

・DM患者における頻度は16-42%. 高齢者, 長期罹患がリスクとなる.


 一般人口では13%程度の頻度. 

・Dupuytren拘縮を認める患者におけるDMの頻度は13-39%であり, 
 Dupuytren拘縮では必ずDMを評価することが重要.

・遺伝的要因, 外傷, 長期間の高血糖, 微小血管障害, 虚血など多因子が関連している.


Flexor tenosynovitis (trigger finger): 

・腱鞘の線維性組織の増生により腱の運動が障害されて生じる


・DM患者の11%で認められる
(非DM患者では1%未満)

・DMによるFlexor tenosynovitisでは複数の指で生じ,
 多い部位は母指, 中指, 薬指.

・DM罹患期間が長いほど生じやすいが, 血糖コントロールとの相関はない


手根管症候群(CTS)

・手根管内で正中神経が圧迫される病態. 
一般人口の3.8%で認められるが, 
DM患者では神経障害(-)例で14%, (+)例で30%で合併

・DM罹患期間が長いほどリスクも高い

・握力の低下と手指の機能障害を呈し, 夜間に症状は増悪することが多い

・評価には身体所見が有用.
Tinel試験やPhalen試験, The hand elevation testがある.

・診断はMRIや神経伝導速度を行う


Adhesive capsulitis(癒着性関節包炎)

(Am Fam Physician. 2019; 99(5):297-300)

・主に肩関節で生じる(Frozen shoulder)

・肩甲上腕関節包の拘縮を特徴とし, 
進行性, 有痛性の肩関節運動障害で, 特に外転, 外旋が障害される.

・DM患者の10-29%で合併. Meta-analysisでは30%[24-37]


 同年齢の有病率は3-5%程度で, 40-60歳台の女性で多い.

 
DM以外にも甲状腺機能低下症もリスクとなる(27.3% vs 10.7%)

・両側性はDM関連で多い(33-42% vs 5-20%)

・DMの診断時に認められることがある.


Adhesive capsulitis(癒着性関節包炎)の臨床経過

・病期は疼痛期, 癒着/強直期, 改善期の3つに分けられる.


 Self-limitedで数年の経過で改善するが, 一部症例では慢性化したり, 
ROM制限を残すなどあり.

・著明なROM制限を伴う肩の疼痛で発症. 肩痛は全体的であり, 局所的な疼痛ではなく, 鈍い疼痛. 二頭筋への放散を伴うこともある.

・上腕の挙上や腕を背部に回す運動で疼痛は増強
屈曲, 外転, 外旋, 内旋のROM制限は特徴的な所見.

・体重減少や寝汗などの消耗症症状は認められない.


ACの鑑別疾患


ACの診断

・リスクがある患者や疑う症状があれば, 
糖尿病や甲状腺機能低下症の評価は行う.

・画像検査は他疾患の除外, 鑑別のために行うことが多い.

・肩関節の単純MRIでは, 烏口上腕靭帯肥厚, 烏口下脂肪組織の回旋区域への浸潤, 腋窩の肥厚所見が認められ, これら所見は癒着性関節包炎に対する特異性が高い所見. (Clin Imaging. Jul-Aug 2017;44:46-50.)


・烏口上腕靭帯肥厚 3.40±1.25mm vs 2.60±0.93mm


他にDMに関連する筋骨格系の障害

DISH: Diffuse idiopathic skeletal hyperostosis

・説明は別エントリー参照. http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/07/diffuse-idiopathic-skeletal.html

・2型DM患者の13-40%, 一般人口では2.2-3.5%で合併

・胸椎で生じる例が多く, 無症候性が多いが一部で脊椎の強直を認める


Neuropathic osteoarthropathy(シャルコー関節)

・神経障害を生じる様々な疾患に合併する, 進行性, 破壊性の関節症
糖尿病は最も多い原因疾患の1つ

・著明な関節変形や再発性潰瘍を呈し, 最終的には切断に至ることがある

・DMでは足関節や足指に多く認められる.

・機序は不明確なところが多いが, 繰り返す外傷, 感覚神経障害による感覚の低下, 微小骨折による損傷などが原因となる.


 また他の原因として, 神経障害が血流の増加を誘発し,
破骨細胞を刺激して骨吸収の増加, 骨粗鬆症,
骨折, 関節損傷を引き起こすことも指摘されている


 炎症も誘因となる

・関節内出血による破壊性関節炎, DMとの合併頻度は0.12%

・大半が外傷に由来するものであり, 
神経障害があると関節内出血に気付かず, そのまま酷使する為に生じる

・Risk Factors;

Risk

OR

Risk

OR

DM>=6yr

1.26[1.03-1.53]

肥満(BMI>30)

1.60[1.15-2.19]

HbA1c>7%

1.33[1.06-1.68]

神経障害

14.0[9.5-20.1]



上記双方

21.2[14.4-31.1]

(Am J of Med 2008;121:1008-1014)

Diabetic muscle infarction: 糖尿病性筋梗塞

(World J Nephrol 2018 March 6; 7(2): 58-64)(BMJ Open Diabetes Research and Care 2015;3:e000082.)

・DMでは稀な合併症.


 長期間のコントロール不良のDMに合併する報告が多い
(特に微小血管障害を伴う1型DM)

 動脈の閉塞には関連せず,
また, 糖尿病性ESRDを伴うことが多い

・急性経過の四肢筋痛と腫脹(触知可能なMassが34-44%)で発症し,
 運動で増悪する. 

 数日〜数週の経過で増悪を認める

・大腿が多いが, 下腿や上肢, 腹壁筋での発症もある.

・炎症反応や白血球は上昇する. CPKは正常〜軽度上昇程度であり, 疾患のマーカーにはなり難い.
MRIによる筋肉の評価は重要

・糖尿病性amyotrophyも類似した経過となりえる

 参考: http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/08/diabetic-amyotrophy.html

・DMI 126例のLiterature review:
 

 発症年齢は44.6歳[20-67], 1型DMでは35.9[20-65], 2型では52.2[34-67]
 

 2型DMが50%, 1型DMが41.7%
 

 DM発症〜DMI発症まで1型DMが18.9年[5-33], 2型が11.0[1-25]
 

 HbA1cは9.34%[5-21]と様々
 

 他のDM合併症を認める例(網膜症, 神経症, 腎症)が46.6%

・血液検査所見

・部位の分布: