自律神経障害を呈する病態は糖尿病による神経障害やアミロイドーシスなどの沈着性疾患, 薬剤性, 腫瘍性など様々ある. しばしば鑑別も難しいことも多い.
中枢では島回, 前帯状回, 視床下部, 脳幹の障害は自律神経障害を来す
この原因の一つに自己免疫性自律神経障害がある. この一部に抗gAChR抗体の関連が証明されており, 治療可能な自律神経障害として押さえておく事は重要である.
自律神経により影響をうける臓器, 自律神経障害による症状
(The American Journal of Medicine (2019) 132:420−436)
自律神経障害により影響を受ける臓器は以下のようなものがある:
・起立性の低血圧, 不耐症が主な症状となる
・他に重要な症状として消化管, 分泌線の障害(乾燥症状や発汗障害), 膀胱, 生殖器の障害など
Autoimmune autonomic ganglinopathy: AAG. 自己免疫性自律神経障害
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2017;88:367-368.)
・自己免疫機序で自律神経節が障害されることで生じる, 後天性の自律神経障害で, 疾患のおよそ半数にAChRに対する抗体との関連が認められる
・AAGにおよそ半数に抗gAChR抗体(ganglionic AChR)が認められ, 抗体量は重症度と相関性を認める.
重症筋無力症で認められる抗筋AChR抗体との交差反応は認めない ・Pure autonomic failureやPOTS,
自律神経障害+感覚障害やCNS障害,
自律神経障害+自己免疫疾患や腫瘍などで疑う病態.
抗gAChR抗体が関連する可能性がある病態(Autonomic Neuroscience: Basic and Clinical 146 (2009) 13–17) ・急性/亜急性の自律神経障害. 特にコリン性の要素の障害が目立つ場合
・緩徐進行性/慢性経過のPure autonomic failure
・POTS: 起立不耐症
・CIA: 慢性経過の発汗障害, 熱不耐
・消化管運動の障害
・末梢のSmall fiber neuropathy(感覚障害, 発汗障害)
日本国内より, AAGで抗gAChR抗体陽性となった179例を解析.(2012-2018年, Nakane)
(Journal of Autoimmunity 108 (2020) 102403)
・抗体は抗gAChRα3抗体陽性例が116例, 抗gAChRβ4抗体陽性が13例
残り50例はDouble positive.
・発症年齢は55±21歳, 女性例が59%
急性, 亜急性例が26%のみで, 3/4は慢性緩徐経過.
・前駆症状は15%(26)のみ. インフルエンザ様症状(11), 腸炎(9), ヘルペスウイルス感染症(2), 精巣上体炎(1), クラミジア感染症, 外科手術
・起立性低血圧/起立不耐症がおよそ8割
・下部消化管症状も7割強と頻度が高い
・乾燥症状や発汗障害が4割強
・他に膀胱機能障害や性腺機能障害
・抗体別の症状比較では, 起立性低血圧や不耐症は双方同等. 乾燥症状や発汗障害, 上部消化管障害, 感覚障害はβ4抗体の方で頻度が高い
・感覚障害が45%(四肢末端のしびれ感, 感覚障害など)
・CNS障害が33%(精神症状, 性格変化, 認知機能障害, パーキンソン症状, 失調)
・内分泌が15%(低Na, 無月経, SIADH, 下垂体不全など)
・自己免疫疾患が30%(SS 20, 橋本病13)
・腫瘍が11%(卵巣腫瘍 5, 肺癌 5, 胃癌 3, 前立腺癌 1, 上顎洞, 縦隔, 胸腺, 精巣)
・検査所見では,
CSFのリンパ球増多は14%, 軽度の上昇のみ.
蛋白上昇が48%, 蛋白細胞解離は37%で認められる.
MIBG心筋シンチにおいて取り込みの低下が認められるのが80%
CVRRの低下も72%で認められる
抗gAChR抗体陽性AAG 19例とSeronegative AAG 87例の比較
(Arch Neurol. 2004;61:44-48
)
・Mayo clinicのAutonomic laboratoryに起立性低血圧で紹介となった患者群で, 二次性の原因(糖尿病, MSA, 薬剤など)が除外され, 特発性起立性低血圧と判断され, さらに抗aAChR抗体が評価された106例を抽出.
・このうち, 陽性例19例と陰性例87例を比較:
年齢は陽性群で63.4歳, 陰性群で61.9歳で有意差なし
性別は74% vs 54%で陽性群は女性が多い(陽性群では2.8 : 1).
・抗体陽性例は前駆症状が多く, 亜急性経過が多い
さらに乾燥症状や瞳孔異常, 消化管症状の頻度が高い
補足: AAGを含む, 末梢の自律神経障害をきたす自己免疫機序の病態
(Clinical Autonomic Research (2019) 29:277–288)
・これらは一部オーバーラップすることもある
------------------------------自律神経障害は日常生活に著しく障害を及ぼす病態である.
AAGでは, IVIGや血漿交換, 免疫抑制療法が効果的である可能性があり, この病態を把握しておく事は重要.
ただし, 抗gAChR抗体は現時点では保険収載はなく, 自費検査となるため, なかなか運用は難しいのが難点.