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2021年3月31日水曜日

リウマチ/膠原病患者に対するmRNAワクチン

COVID-19に対するmRNAワクチン接種が始まっています.

外来で免疫抑制を行っている患者さんからの問い合わせも多いですし, 今後そのようなリスク患者さんへの接種も優先的に始まると思います.

さて, このような患者さんへのワクチン接種の反応性はどのようなものだろうか?

ということを報告した論文が出ましたので紹介します.

(Ann Rheum Dis 2021;0:1–6. doi:10.1136/annrheumdis-2021-220272)

42例の健常人と26例の慢性炎症性疾患患者(CID)におけるmRNAワクチンの効果を評価した報告(単一施設ドイツのKiel Medical Centerにおける調査)

・抗体価(ELISA)をワクチン接種前と2回目接種 7日後に評価

CID患者の大半がRA, SpA. 生物学的製剤使用者が多い

 PSL7. 2.5-15mg/d


アウトカム

A: 両群のSARS-CoV-IgGの値(2回目接種後)

B: SARS-CoV-IgGの変化

C: 両群の中和活性(2回目接種後)

D: 中和活性の変化

E: 両群のSARS-CoV2-IgAの値

F: SARS-CoV2-IgAの変化

・抗体価は有意に健常人よりもCID患者で低いものの,十分に中和活性は認められる

・副作用も両者で同等. また, 疾患の再燃/増悪も無し


また, 参考までに膠原病患者へのCOVID-19ワクチン接種の際の薬剤の調節の提言

(American College of Rheumatology Guidance for COVID-19 Vaccination in Patients with Rheumatic and Musculoskeletal Diseases – Version 1)

>> 4月末のUpDateに置き換え(2021/5/6)

調節を考慮すべき薬剤のみ抜粋すると

・MTX, JAK阻害役はワクチン接種後, 可能ならば1wkあける

・MMFは前後1wkあける

・ABA SCはワクチン前後1wkあける
IVの場合は, ABA投与後4wkあけて接種し, 接種後は1wkあける.

・IVCYはワクチン接種後1wkあける

・RTXの場合, 
2回目の接種後, 2-4wkあけてRTXを使用する方が良い

・NSAIDやアセトアミノフェンは
接種前1日あける.

2021年3月30日火曜日

市中肺炎の抗菌薬投与期間 3日間 vs 8日間の比較

 重症市中肺炎でも, 3日間のIV抗菌薬投与後に安定すれば内服に切り替えても予後は変わらない, という報告は今までも出ていた.

静注→経口抗菌薬への切替えのタイミング


今回, 3日間投与で安定すれば, その時点で終了 vs 継続群で比較したRCTが発表.

PTC study: フランスにおけるDB-RCT.
(Lancet 2021; 397: 1195–203)

・以下を満たす患者群を対象
 成人例の中等症~重症肺炎で入院管理となった患者
 非ICU管理患者
 3日間のβラクタム単剤治療(AMPC/CLAABPC/SBT, 3世代セフェムなど)により, 安定化*した患者

*安定化は以下を満たすことで定義:
 解熱(BT≤37.8), HR<100bpm, RR<24/min, SpO2≥90%, sBP≥90mmHg, 意識障害なし.

除外項目: 複雑性CAP(膿胸, 大量胸水, 重大な慢性呼吸器感染), 免疫不全, 誤嚥性肺炎が疑われる症例, Abxが必要な他の感染症合併, レジオネラが疑われる症例, 細胞内感染菌による感染

上記患者群を, AMPC 1g + Clavulate 125mg/d(12回に分けて投与)をさらに5日間継続
 vs Placebo群に割り付け, 15日目の治癒率を比較した.

母集団
・CAP 706例のうち導入基準を満たしたのは310
・最終的に303例で割り付け

アウトカム

・Day 15における治癒基準*を満たす患者は両群で同等
 *解熱(BT≤37.8), 臨床症状の改善/消失, 追加Abx投与不要で定義

二次アウトカムと合併症

・30日予後も両者で有意差なし
・消化管副作用はAbx継続群で多い傾向

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一般病棟への入院となった市中肺炎症例で, 3日間の抗菌薬投与で安定すれば, それで治療を終了しても予後を悪くさせない結果.
大体入院する市中肺炎症例の半数弱で当てはまるようだ.

2021年3月29日月曜日

リウマチ膠原病患者におけるCOVID-19の重症化/死亡リスク因子は?

 (Ann Rheum Dis 2021;80:527–538.)

フランスにおけるCohort study.

炎症性リウマチ疾患/筋骨格系疾患(iRMD)患者における重症化リスク因子, 死亡リスク因子を評価.

・iRMD-COVID-19群は694

 軽症例が438, 中等症 169, 重症 87.

 死亡は58

・背景疾患で最も多いのはRA30.7%, 次いでSpA23.8%, PsA 10.1%


iRMD-COVID-19患者群における重症化リスク因子は


・高齢者, 男性例, 間質性肺疾患合併,

 糖尿病, 高度肥満, 高血圧, 慢性腎疾患合併

・炎症性関節炎と比較して, 自己炎症性疾患や血管炎は重症化リスク因子となる

・治療では, ステロイド使用, MMF使用

 BioではRTX使用で重症化リスクが上昇.


死亡リスク因子は,


・高齢者, 男性例

 間質性肺疾患合併

 糖尿病, 高血圧, 慢性腎疾患,

全身性自己免疫性疾患

・治療ではステロイド(PSL≥10mg/d), 

 コルヒチン使用, MMF使用, RTX使用

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既に知られている, 高齢者, 男性, 肺疾患, 糖尿病, 高血圧などはiRMD患者にかかわらず, COVID-19の重症化, 死亡リスク因子であるが, 

iRMD患者では他にステロイド使用, MMF, RTX使用は重症化や死亡リスク因子となる.

MTXや他のBioはiRMD患者の中では, リスク上昇には関連しない結果

2021年3月26日金曜日

SSRI, 他の抗うつ薬のちょうど良い投与量とは?

 (Lancet Psychiatry 2019; 6: 601–9)

うつ病に対するSSRIを評価したDB-RCTsMeta-analysisにおいて, 投与量による効果-副作用バランスを評価.

・5種類のSSRI[Citalopram, Escitalopram(レクサプロ®), Fluoxetine, Paroxetine(パキシル®), Sertraline(ジェイゾロフト®)], Venrafaxine(イフェクサー®), Mirtazapine(リフレックス®)のうつ病に対する急性期治療を評価した報告を抽出し, 重大な身体疾患の合併例を含むものは除外

・アウトカムは, 8wkにおけるうつ病の改善(50%以上の症状スケール改善), 副作用による中断, 理由によらない中断率を評価.

各薬剤はFluoxetine換算で計算, 評価された.


アウトカム: うつ病の改善, 副作用中断, 全中断RR


Fluoxetine換算で20-40mgがちょうど良い量となる
・Escitalopram(レクサプロ®) 10-20mg (添付文章10-20mg)
・Paroxetine(パキシル®) 17-34mg (添付文章12.5-50mg)
・Sertraline(ジェイゾロフト®) 50-100mg (添付文章25-100mg)
・Venlafaxine(イフェクサー®) 75-150mg (添付文章37.5-225mg)
・Mirtazapine(リフレックス®) 20-40mg (添付文章 15-45mg)

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SNSで知った論文。
SSRIをはじめとした第二世代の抗うつ薬は添付文章極量まで増やせば良いというものでもない. 増量すれば副作用は増加するが, 効果もさらに増強するとは限らない.

勉強になりました。

2021年3月25日木曜日

予後不良群のGBS患者における2回目のIVIGの意義はあるか?

ギランバレー症候群; GBSの治療はIVIGが基本となるが,

初回IVIG後, 予後不良群における再投与の意義を評価したRCTが発表(SID-GBS)

SID-GBS: オランダにおける他施設DB-RCT.(Lancet Neurol 2021; 20: 275–83)

 GBSで初回IVIG(2g/kg, 5d)を行う患者を対象

 初回IVIG, Day 7-9の時点で予後不良と判断(modified Erasmus GBS Outcome Score≥6を満たす患者)された患者群を対象とし,

・Day 7-9d2回目のIVIG(2g/kg, 5d)を行う群 vs Placebo群に割付け, 神経予後を比較.

・mEGOSは年齢, 前駆症状として下痢があるかどうか, さらにMRC sumscoreで計算. 0-12点で評価

年齢

40
41-60
>60

0
1

2

4wk以内の下痢

あり

1

MRC sum score

51-60
41-50
31-40
0-30

0(0)
2(3)
4(6)
6(9)

(()内は入院7日目の評価)

MRC sum score: 6か所の筋肉 x 両側で計算
 肩関節外転, 肘関節屈曲, 手関節伸展股関節屈曲, 膝関節伸展, 足関節背屈

Medical Research Council sum score

0

筋収縮(-)

1

筋収縮(+), 運動(-)

2

運動あるが重力に抗して運動不可

3

重力に抗して運動可能

4

重力, 負荷に抗して運動可能

5

正常


母集団

アウトカム

26wkでのDisability scoreは両者で有意差を認めない
 他の指標も両者で変わらず.

合併症リスク
合併症は有意にIVIG再投与群で増加する結果

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予後不良のGBSにおけるIVIG再投与では, 神経予後の改善効果は乏しい。
副作用, 合併症リスクを上げてしまうだけになってしまう.

2021年3月21日日曜日

自己免疫性自律神経障害

自律神経障害を呈する病態は糖尿病による神経障害やアミロイドーシスなどの沈着性疾患, 薬剤性, 腫瘍性など様々ある. しばしば鑑別も難しいことも多い.

中枢では島回, 前帯状回, 視床下部, 脳幹の障害は自律神経障害を来す

この原因の一つに自己免疫性自律神経障害がある. この一部に抗gAChR抗体の関連が証明されており, 治療可能な自律神経障害として押さえておく事は重要である.


自律神経により影響をうける臓器, 自律神経障害による症状

(The American Journal of Medicine (2019) 132:420−436)

自律神経障害により影響を受ける臓器は以下のようなものがある:


さらに, 自律神経障害による症状:
・起立性の低血圧, 不耐症が主な症状となる
・他に重要な症状として消化管, 分泌線の障害(乾燥症状や発汗障害), 膀胱, 生殖器の障害など

Autoimmune autonomic ganglinopathy: AAG. 自己免疫性自律神経障害
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2017;88:367-368.)
・自己免疫機序で自律神経節が障害されることで生じる後天性の自律神経障害で疾患のおよそ半数にAChRに対する抗体との関連が認められる
・AAGにおよそ半数に抗gAChR抗体(ganglionic AChR)が認められ抗体量は重症度と相関性を認める.
 重症筋無力症で認められる抗筋AChR抗体との交差反応は認めない
・Pure autonomic failurePOTS, 
 自律神経障害+感覚障害やCNS障害
 自律神経障害+自己免疫疾患や腫瘍などで疑う病態.

gAChR抗体が関連する可能性がある病態
(
Autonomic Neuroscience: Basic and Clinical 146 (2009) 13–17)
・急性/亜急性の自律神経障害. 特にコリン性の要素の障害が目立つ場合
・緩徐進行性/慢性経過のPure autonomic failure
・POTS: 起立不耐症
CIA: 慢性経過の発汗障害, 熱不耐
・消化管運動の障害
・末梢のSmall fiber neuropathy(感覚障害, 発汗障害)

日本国内より, AAGで抗gAChR抗体陽性となった179例を解析.(2012-2018, Nakane)
(Journal of Autoimmunity 108 (2020) 102403)

・抗体は抗gAChRα3抗体陽性例が116, gAChRβ4抗体陽性が13
 残り50例はDouble positive.
発症年齢は55±21, 女性例が59%
 急性, 亜急性例が26%のみで, 3/4は慢性緩徐経過.
前駆症状は15%(26)のみ. インフルエンザ様症状(11), 腸炎(9), ヘルペスウイルス感染症(2), 精巣上体炎(1), クラミジア感染症, 外科手術

自律神経症状の頻度

・起立性低血圧/起立不耐症がおよそ8
・下部消化管症状も7割強と頻度が高い
・乾燥症状や発汗障害が4割強
・他に膀胱機能障害や性腺機能障害
抗体別の症状比較では, 起立性低血圧や不耐症は双方同等乾燥症状や発汗障害, 上部消化管障害, 感覚障害はβ4抗体の方で頻度が高い

自律神経外症状は83%

・感覚障害が45%(四肢末端のしびれ感, 感覚障害など)
・CNS障害が33%(精神症状, 性格変化, 認知機能障害, パーキンソン症状, 失調)
内分泌が15%(Na, 無月経, SIADH, 下垂体不全など)
自己免疫疾患が30%(SS 20, 橋本病13)
腫瘍が11%(卵巣腫瘍 5, 肺癌 5, 胃癌 3, 前立腺癌 1, 上顎洞, 縦隔, 胸腺, 精巣)
検査所見では, 
 CSFのリンパ球増多は14%, 軽度の上昇のみ.
 蛋白上昇が48%, 蛋白細胞解離は37%で認められる.
 MIBG心筋シンチにおいて取り込みの低下が認められるのが80%
 CVRRの低下も72%で認められる

gAChR抗体陽性AAG 19例とSeronegative AAG 87例の比較
(Arch Neurol. 2004;61:44-48)

・Mayo clinicAutonomic laboratoryに起立性低血圧で紹介となった患者群で, 二次性の原因(糖尿病, MSA, 薬剤など)が除外され, 特発性起立性低血圧と判断され, さらに抗aAChR抗体が評価された106例を抽出.
・このうち, 陽性例19例と陰性例87例を比較: 
 年齢は陽性群で63.4, 陰性群で61.9歳で有意差なし
 性別は74% vs 54%で陽性群は女性が多い(陽性群では2.8 : 1).
・抗体陽性例は前駆症状が多く, 亜急性経過が多い
 さらに乾燥症状や瞳孔異常, 消化管症状の頻度が高い


補足: AAGを含む, 末梢の自律神経障害をきたす自己免疫機序の病態
(Clinical Autonomic Research (2019) 29:277–288)
・これらは一部オーバーラップすることもある


・傍腫瘍症候群に関連する自己抗体と自律神経障害

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自律神経障害は日常生活に著しく障害を及ぼす病態である.
AAGでは, IVIGや血漿交換, 免疫抑制療法が効果的である可能性があり, この病態を把握しておく事は重要.
ただし, 抗gAChR抗体は現時点では保険収載はなく, 自費検査となるため, なかなか運用は難しいのが難点.