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2019年10月29日火曜日

腹膜透析関連腹膜炎の治療

(CJASN 14: 1100–1105, 2019. doi: https://doi.org/10.2215/CJN.14631218)

腹膜透析(PD)患者における腹膜炎は頻度も高く, 重大な合併症の一つ
・腹膜透析患者における死亡原因の>15%を占める
・また, 重症の腹膜炎や繰り返す腹膜炎では腹膜透析効率も低下するため維持透析への移行リスクにもなる


PD関連腹膜炎は,
・患者の腹痛や透析液の混濁
・透析液中WBC>100/µL + Neu>50% (注入後2h以上経過した液)
透析液培養陽性 PD関連腹膜炎と診断

ただし, 早期診断, 治療が重要であるため透析液の混濁など疑いが濃厚な場合は確定しなくても治療は許容される
・透析液培養は血液培養ボトルを用いる

透析液が混濁する原因一覧
(Perit Dial Int 2016; 36(5):481–508)

PD関連腹膜炎の治療
・グラム陽性, 緑膿菌を含む陰性菌双方カバーする方が良い
 MRSAリスクが高ければVCMを検討する
敗血症徴候がなければ抗菌薬は腹腔内投与で治療
・培養結果が判明すればそれに合わせた抗菌薬に変更する
・治療機関は2-4週間程度

腹腔内投与で使用する抗菌薬と投与量
(Perit Dial Int 2016; 36(5):481–508)

治療フローチャート

カテーテル抜去を考慮する時

腹膜透析関連腹膜炎患者における真菌感染の二次予防
・腹膜透析関連腹膜炎や, リスクがある患者で抗菌薬を使用する場合
 真菌の二次性腹膜炎を生じることがあり抗真菌薬の併用がリスク低下に役立つ.
使用する薬剤はフルコナゾールもしくはナイスタチン.
 ナイスタチンのほうがAbxとの相互作用は少なく, 使用できる国ではそちらの方が良い.
真菌性腹膜炎のリスク RR 0.28[0.12-0.63]
 頻度は64/1000 → 18/1000, NNT 217  (Cochrane Database of Systematic Reviews 2017, Issue 4. Art. No.: CD004679.)
・感染リスクが高い患者では考慮

2019年10月23日水曜日

COPDとβ遮断薬

COPDや喘息ではβ作動薬吸入が治療になるため,
β遮断薬の使用については病状を増悪させる懸念がある.

基本的に, 心臓選択性β遮断薬は, 喘息やCOPD増悪には関与しないと言われている
(Cochrane Database Syst Rev. 2005 Oct 19;(4):CD003566.)

非選択性β-blocker使用においては, (CHEST 2005; 127:818–824)
・Propranolol(インデラル®) FEV1, PC20低下, 気管過敏性UP
 β吸入薬への反応性の低下を認めた 
・Metoprolol(ロプレソール®) 気管過敏性UP
・Celiprolol(セレクトール®)  Placeboと同様(心臓選択性) が指摘されている.



Observational Cohortでは, 心疾患の既往がある場合は, β遮断薬による予後改善効果が認められているが, 心疾患がない場合は特に利点も欠点もない, と言う報告が多い.

平均年齢64.8yr(11.2)COPD患者2230名のObservational cohort
(Arch Intern Med 2010;170:880-7)
・7.2yr(2.8)フォローにて, 686(30.8%)が死亡
 1055(47.3%)1回以上の急性増悪を来した.
・β-blockerを使用していたのは665(29.8%)
 β-blockerCOPDの予後を増悪させるよりはむしろ改善させる.(Adjusted with propensity score)

OutcomeAny β blockerCardioselectiveNonselective
死亡Risk HR0.64[0.52-0.77]0.63[0.51-0.77]0.80[0.60-1.05]
急性増悪 HR0.64[0.55-0.75]0.68[0.58-0.80]0.70[0.56-0.89]
・Subgroup解析では, 心疾患の既往が無い場合は
 β-blockerによる死亡, 急性増悪Risk軽減効果は認めない.
 → 心疾患が合併していれば, 躊躇無くβ-blockerは使用すべきと言える.

英国のCohort study. COPD患者でAMIを発症した1063.
(BMJ 2013;347:f6650)
・β阻害薬を投与しなかったのが55.1%, AMI後に開始した群が21.9%, AMI以前より開始していたのが23.0%
・COPD+MIにおけるβ遮断薬投与による予後改善効果(死亡HR)
β阻害薬の追加, 併用は有意に予後を改善させ得る

2017年時点でのReviewでは, 以下のように記載されている
「2017年時点でCOPDや喘息に合併した心不全, 心筋虚血患者へのβ阻害薬の使用については明確なRCTはない.
 β阻害薬の使用により予後が改善したという報告もあれば入院リスクが増大した報告もある. これらはすべてCohortによるもの.
 β1選択性阻害薬も厳密にβ1のみを阻害するわけでもない.
 適応に注意すべきではあるが投与を控えるべきとも言い難い.
 今後さらに選択性の高いβ1阻害薬やIvabridineのようなβと関係のない陰性変時作用がある薬剤が使用可能となればそれも選択肢となる.」
(Thorax 2017;72:271–276. )


ここで, 最近発表された, β遮断薬の適応となる心疾患がない, COPD患者を対象としたMetoprololのRCT.
(N Engl J Med. 2019 Oct 20. doi: 10.1056/NEJMoa1908142. [Epub ahead of print]
Metoprolol for the Prevention of Acute Exacerbations of COPD.)

BLOCK COPD: 40-85歳のCOPDと診断された患者群で, 急性増悪リスクが高い*と考えられる患者を対象としたDB-RCT.
・*以下の1つ以上を満たす
 呼吸器系の問題に対して, 1年以内の全身性ステロイド, 抗菌薬使用歴がある
 1年以内にCOPD急性増悪でERを受診, または入院
 在宅で酸素投与を必要とした症例
・さらに, 安静時HR 65-120bpm, sBP>100mmHgを満たす患者を対象とした
・除外項目は, β阻害薬を必要とする理由がある患者(MI, HF, PCI)

・Metoprolol50mg/dで開始し, 25~100mg/dで調節
・COPD急性増悪リスクを比較した.

Study532例導入時点で途中で中断.

・Primary outcome有意差がでない点と
 介入群で安全性の懸念が生じたため

アウトカム


COPD急性増悪頻度は有意差なし
・ただし, 重症以上の増悪リスクは有意にMetprolol群で上昇.

心血管イベントは両群で有意差なし.
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COPD症例に対するβ遮断薬は, 急性増悪の重症度を上昇させてしまう可能性がある.
虚血性心疾患や心不全に対する作用と, 上記不利益を天秤にかけて考慮せねばならない.

当然その利益がないであろう, 心疾患(-)群では使用すべきではない.
心疾患(+)では, まだ明確な結論はない. 今後どの患者で投与すべきか, しないべきかという線引きを行う解析が増えるだろう.

COPDで毎回挿管ギリギリまでいってしまう患者では避けたい と個人的には思ふ

特発性過眠症

過眠症は日中の傾眠, 嗜眠を生じ, 日常生活を障害する病態
一般人口の4-6%で認められるとされる
・夜更かしや, 夜間の仕事といった社会的な要因
・ナルコレプシー, 周期性過眠症
 参考: ナルコレプシー, 反復性過眠症
・うつ病や精神疾患
・薬剤性: 抗てんかん薬, 抗精神病薬, 抗ヒスタミンなど
・中枢神経疾患: アルツハイマー, パーキンソン病など変性疾患や, 脳卒中, 脳腫瘍, 頭部外傷後の過眠症.
感染症: Whipple, HIV, African trypanosomiasis, 他ウイルス感染症
・内分泌: 甲状腺機能低下症, 副腎不全, GH欠乏症
・特発性
(Dialogues Clin Neurosci. 2005;7:347-356.)

といった原因がある.
代表的な過眠の疾患はナルコレプシーと特発性過眠症.
日常診療で多いのはOSASや薬剤. 生活習慣.
変わった疾患で知っておくと良いのが反復性過眠症.

今回は特発性過眠症について: Idiopathic hypersomnia(IH)

特発性過眠症は日中の強い眠気と合計睡眠時間の増加を認め明らかな原因を認めない慢性疾患.
・IH患者では, 過度な眠気やIHの家族歴が34-38%で陽性となり, 遺伝的な影響も認められる.
診断基準は
 慢性経過の日中の耐えられない眠気
 カタプレキシー(-),
 入眠時の早期REM睡眠移行がない(3回以上)
 入眠後15分以内のREM睡眠で定義
 MSL <8分(睡眠潜時反復検査) or 24h11h以上の睡眠(24h PSG)
 他の原因が除外される.
(Sleep Med Clin. 2017 Sep;12(3):331-344.)

IH患者では半数程度で夜間や日中の睡眠後に眠気が持続し, 起床ができない, 酔ったような症状が出現し(Sleep drunkeness), 健常人や精神疾患患者で認められる寝起きが悪い(sleep inertia)のと区別される.
・治療薬(主にモダフィニル)の使用に際して, Sleep drunckenessは障害となるため, 予定起床時間の1時間前に薬剤を内服させる(家族やスタッフのサポートの元)ことで対応かのうなことがある
寝前のメラトニンを試す医師もいる
 効果は不明であるが, 副作用は少ないため, 試しても良い.

IH患者では認知機能低下も認められる
記憶力の低下が79%, 集中力の低下が55%
・心が空っぽになるような感覚が58%, 日常の活動で間違える, ミスるのが61%で報告されている

診断にはMSLT, PSGを行う.
(Rev Neurol (Paris). 2017 Jan - Feb;173(1-2):32-37.)
・MSL*<8分は診断基準に含まれるがIHでは≥8分のこともあり, その場合24hPSGにおける睡眠時間≥11hでも有意と考える.
 *MSLT: multiple sleep latency testは日中にPSGを複数回(1回あたり2時間, 4-5回)行う. 開始〜入眠までの時間(睡眠潜時: sleep latency)を測定し, 平均値を求める. 20分以上眠らない場合は終了. 10分未満が日中の傾眠, 8分未満は病的. 検査前1週間は夜間しっかり寝ているかどうか、睡眠日記をつけてもらう.

他の過眠や日中の眠気を呈する疾患の除外も重要

ナルコレプシーで高頻度で認められる4大症状のIHにおける頻度

IHにおける重症度スコア
(Neurology. 2019 Apr 9;92(15):e1754-e1762.)
質問
点数
1) 自分の理想の睡眠時間(休日や週末)は何時間ですか?
3: 11時間以上 2: 9-11時間
1: 7-9
時間 0: 7時間未満
2) 仕事や学校で朝決まった時間に起きる際睡眠が不十分と感じる頻度はどのくらいですか?
3: 常に 2: しばしば
1: 
たまに 0: ない
3) アラームや誰かに起こされずに自分で朝起床することが難しい不可能だと思う頻度
3: 常に 2: しばしば
1: 
たまに 0: ない
4) 朝起床した後身体や頭がしっかりと機能するまでの時間はどの程度ですか?
4: 2時間以上 3: 1-2時間 2: 30-1時間
1: 30
分未満 0: 起床後すぐ
5) 起床後すぐ変なことを言う/行う不注意なことをすることがありますか(寝ぼける物を落とす壊す)
3: 常に 2: しばしば
1: 
たまに 0: ない
6) 日中状況がゆるせばどの程度眠りに落ちますか
4: 6-7回 3: 4-5回 2: 2-3
1: 
1回程度 0: なし
7) あなたにとって理想の昼寝時間はどの程度ですか
(1
日に複数回寝る場合は合計)
3: 2時間以上 2: 1-2時間
1: 1
時間未満 0: 居眠りしない
8) 居眠り後はどのような感じですか
3: とても眠い 2: 眠い
1: 
起きられる 0: しっかりしている
9) 日中つまらない仕事業務をしている時どの程度眠気とたたかっていますか
4: 1日に2回以上 3: 4-7回 2: 2-3
1: 
1回以下 0: なし
10) あなたの過度な眠気が自分の健康に悪影響を及ぼしていると思いますか(モチベーションの低下倦怠感など)
4: 著明に影響 3: とても影響 2: 中等度の影響
1: 
軽度の影響 0: 影響なし
11) あなたの過度な眠気が自分の知的機能に悪影響を及ぼしていると思いますか(集中力記憶力知能)
4: 著明に影響 3: とても影響 2: 中等度の影響
1: 
軽度の影響 0: 影響なし
質問
点数
12) あなたの過度な眠気が自分の気分に悪影響を及ぼしていると思いますか(悲しさ不安過敏イライラなど)
4: 著明に影響 3: とても影響 2: 中等度の影響
1: 
軽度の影響 0: 影響なし
13) あなたの過度な眠気が日常業務を行えなくしていますか(学校や仕事家事)
4: 著明に影響 3: とても影響 2: 中等度の影響
1: 
軽度の影響 0: 影響なし
14) あなたの過度な眠気が車の運転に影響を及ぼしていますか
4: 著明に影響 3: とても影響 2: 中等度の影響
1: 
軽度の影響 0: 影響なし

また, 日中の眠気の評価にはEpworth sleepness scale(ESS)がよく用いられる
主にOSASで使用されるが, 過眠症全体の評価で用いられる.


IHの治療, 対応
・非薬物治療で最も試されるのはカフェイン摂取やニコチン摂取だが効果は限定的
・薬物治療で最も使用されるのがモダフィニル.
 2つの小規模RCTがあり, それぞれ400mg, 200mg12回投与により有意な日中の眠気の改善, 運転中の眠気の改善が得られる朝と昼に12回内服
・他の薬剤も試されているが, Cohort程度

IH患者33例を対象とし, モダフィニル100mg bid(朝昼)投与群 vs Placebo群に割り付け, 3wk継続し, 各指標を比較したRCT.
・小規模ではあるが, ESSの改善が認められる.
(J Sleep Res. 2015 Feb;24(1):74-81.)

薬物治療のCohortまとめ


(Sleep Med Clin. 2017 Sep;12(3):331-344.)

IHは自然寛解も見込める
 報告では1年以上のフォローにより~3割程度の自然寛解が見込める

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過眠症, 
臓器不定科としては知っておいた方が良い病態と思います.
ちょうど診療する機会があったので, 知識をUpDate