発熱, 嘔吐, 下痢で救急を受診した30歳台の男性.
採血にてAST 100, ALT 80程度の肝障害が認められ, 消化器科へ紹介.
その後検査されたが明らかな原因不明.
で, 他の理由(発熱持続)で内科外来を受診した経過.
診察室入った瞬間に体格(全身性の痩せ + 首周りとのギャップ)でバセドウを疑い,
結果的にそうであったという, まあ普通の症例.
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でこの症例でのClinical Questionとして,
・バセドウ病で肝障害はどの程度あるのか?
・採血でMCV 77, Hb 11g/dL程度の小球性の赤血球, 小球性貧血が認められたが, これもバセドウ病と関係があるか? ちなみにフェリチン 600と低下はない.
Q. 甲状腺中毒症と肝障害
レビュー文献 (Eur J Intern Med. 2015 Oct;26(8):563-71. Thyroid disorders and gastrointestinal and liver dysfunction: A state of the art review.) によると, 甲状腺中毒症の64-70%でALPの上昇が認められ, AST, ALTは37%, 27%で上昇する報告がある.
・これらの上昇する機序は, 肝臓内の血管周囲領域の組織の相対性低酸素に伴うものとされている
・BilやGGTの上昇は稀(5%, 17%)
・肝炎もきたすが, 基本的にSelf-limiting
ただし, 劇症肝炎の報告もある
・組織では非特異的な炎症所見のみだが, 一部の患者でCentrizonal necrosisやprivenular fibrosisが認められる
・また, 肝内の胆汁鬱滞像もある
1514例の甲状腺中毒症患者のうち, 肝胆道系酵素上昇を認めたのは39%
(Clin Endocrinol (Oxf). 2017 May ; 86(5): 755–759. doi:10.1111/cen.13312.)
・TSHが検出感度以下(≤0.02mIU/L)の811例の評価では45%(AST 13%, ALT 13%, ALP 35%, GGT 2%, T-Bil 9%)
・一方, TSHが検出感度以上の697例では33%(AST 18%, ALP 14%, ALP 22%, GGT 2%, T-Bil 15%) と, TSHの低下が著しい方が頻度は高い.
甲状腺機能亢進症の77例中, 初期に肝酵素上昇を認めたのは25例(32.5%)
(Endocr Pract. 2016;22:974-979)
・バセドウ病59例, Toxic nodular goiters 11, toxic adenoma 4, amiodarone-induced thyrotoxicosis 3例
・5例はASTやALTが>2ULNまで上昇していた.
また, この肝酵素上昇はMMI治療開始後は徐々に改善する傾向となる
バセドウ病と無痛性甲状腺炎における肝胆道系酵素の変動を比較すると, 双方とも同様の動態
(Thyroid. 2008 Mar;18(3):283-7.)
・これは抗甲状腺薬による肝障害ではなく, 甲状腺機能の変化が肝障害に関連していることを示唆する
Q. 甲状腺中毒症と貧血, MCV
甲状腺中毒症 353例の解析では, 貧血の合併は31例(8.7%)
(Clin Endocrinol (Oxf). 2018 Jun;88(6):957-962.)
・このうち以前から指摘されている10例と, 他に原因を認めた11例を除外すると, 甲状腺中毒症以外の原因が判然としないのは10例のみ(2.8%)
・貧血の期間は1ヶ月程度で, MCVは77-94と正球性〜小球性気味(正球性が8例, 小球性2例)
バセドウ病 87例の解析では, 貧血合併は31例
・他に原因を認めないバセドウ病に伴う貧血とされたのが21例(24%)
貧血+群における, 甲状腺機能正常化に伴う各数値の変化
・他の原因があっても, 甲状腺機能が正常化するとMCVやHbは上昇し, Ferittinは使用されて低下する.
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まとめると,
・甲状腺中毒症ではAST, ALT, ALP上昇は3割程度で合併する.
肝炎を呈することもあるし, 稀であるが劇症肝炎となることも.
甲状腺機能正常化とともに肝酵素も正常化することが多い.
ちなみにPTUでも薬剤性肝障害は多く, 3割程度で合併.
・甲状腺機能亢進症では貧血は合併し得るが, 頻度は様々. 数%~20数%と幅広い
貧血は正球性〜小球性となる.
MCVは低下する傾向にあり, 甲状腺機能正常化するとMCVは上昇. またフェリチンも低下することからは鉄利用障害が関係している可能性がある.