元々歩けていた患者であるが, 3日前より発熱, 腰痛の増悪を認め歩行困難となった.
増悪傾向にあり救急要請.
救急室の診察ではL1-3付近の圧痛、疼痛があり, 左膝関節の熱感, 腫脹が認められた.
CT画像ではL1-2付近の椎体変形(古い圧迫骨折様)があり, 周囲の軟部組織の軽度腫脹あり.
膝関節は穿刺し, ピロリン酸Ca結晶を貪食した白血球を多数認める. 細胞数は40000台, 糖低下なし. グラム染色では菌体見えず.
椎体MRIを評価したところ,
脂肪抑制像でL1-2の椎体, 椎間板, 周囲軟部組織の浮腫所見, さらに右腸腰筋にも一部浮腫が波及していた.
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化膿性椎体炎の可能性を第一に考慮し, 血液培養を採取.
神経所見は認めず, 抗菌薬を投与する前にNSAIDを試したところ,
翌日には膝関節所見と腰痛が改善. 解熱も認めた.
3日間の投与にて歩行可能まで改善した.
化膿性としてはこの経過は考えにくく, 偽痛風による椎体炎, 膝関節炎と判断.
という症例.
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偽痛風では椎体炎・椎間板炎や仙腸関節炎も認められることは最近報告も増えてきている.
当院の総合診療科では1年に数例はこのような症例を診療する.
偽痛風患者でしっかりと軸関節の診察をすれば, もっと頻度は増えるかもしれない.
頚椎の偽痛風はCrown dens syndromeとしても有名.
参考URLはこちら
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2015/01/crowned-dens-syndromeacute-calcific.html
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2018/02/cds.html
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偽痛風では椎体の面関節に結晶沈着を伴う滑液包炎を認める報告がある
(J Bone Joint Surg [Br] 2005;87-B:513-17. )
・滑液包炎が同部位の神経圧迫をきたす報告もある.
・滑液包炎を伴わないタイプもあるが, その場合臨床・画像的に診断するのは難しい
CPPDで椎体炎を認めた37例の報告
(Semin Arthritis Rheum. 2018 Oct 14. pii: S0049-0172(18)30437-2. doi: 10.1016/j.semarthrit.2018.10.009. [Epub ahead of print] Spinal involvement with calcium pyrophosphate deposition disease in an academic rheumatology center: A series of 37 patients.)
・Rheumatology(フランス)に入院したCPPD患者を後ろ向きにReview.
5年間のReviewにて, 37/152例(24.3%)で椎体症状が認められた.
・頚椎が21例, 腰椎が19例と多く, 胸椎は4例のみ.
また複数領域で生じたのが6例であった.
・頚椎ではCrown-dens syndromeとなる.
無菌性の脊椎椎間板炎は6例
仙腸関節(石灰沈着含む)病変は5例
椎体炎合併例, 非合併例の比較
・椎体炎合併例は, 副甲状腺機能亢進症合併例が多い
・末梢関節炎の頻度は有意差なし
椎体病変のパターン
・頚椎病変では, 歯状突起後部の線路様(二重)の石灰沈着を認めることが多い
また歯状突起周囲の石灰沈着もある
歯状突起の骨融解を伴う症例も認められた
・椎間板の狭小化, 面関節の変性, 癒合もある
・CPPDによる椎間板では,
骨びらんや周囲の軟部組織炎症所見を認めず, 椎間板腫脹のみの症例から,
骨びらんや周囲の炎症波及を伴う例まで様々なパターンが認められる.
椎間板炎の画像の例
・一見化膿性脊椎炎と思わせるような所見も多々ある
仙腸関節炎も認められる
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件の症例では見直すと, 仙腸関節の不整像やL1-2の骨びらん所見も伴い,
軸関節の偽痛風を繰り返していた可能性を考慮しました.
画像のパターンや頻度, 臨床経過のまとまった報告はまだ少なく, 見逃されていることも多いと感じています.
偽痛風の可能性があり, 抗菌薬を待てる椎体炎・椎間板炎にはNSAID先行も一つの手かもしれません.