昼のカンファレンスより:
30台女性: 他関節痛+下肢の皮疹
約1年前に出産, 2ヶ月前まで授乳していた女性
1ヶ月ほど前に右乳腺に発赤・疼痛を伴う腫瘤を認め, 乳腺炎と判断.
ドレナージ, 抗菌薬による加療をうけ, 徐々に改善傾向にはあるが, 完治はしていない.
1週間前より右肘, 手首, 左膝関節痛を自覚. また両下腿に2cm程度の浸潤を伴う紅斑が出現したため紹介となった.
所見は以下の通り:
・関節は腫脹, 発赤, 圧痛を伴う. 膝関節には関節液貯留を軽度認める。
・下肢は浸潤, 圧痛を伴う紅斑. 明らかな波動は認めない. 所見からは結節性紅斑様
・乳腺炎は軽快してきているが, 軽度の腫脹, 腫瘤を触れる.
ドレナージ時の組織からは, ラングハンス巨細胞様の細胞を認め, 肉芽腫性乳腺炎と診断
培養は未提出.
・T-SPOT陰性. 肺野病変認められず, 末梢リンパ節腫大も認めない.
他自己抗体も陰性.
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肉芽腫性乳腺炎とは?
肉芽腫を形成する乳腺炎であり, 特発性, 結核, サルコイド, プロラクチン血症, 乳癌など様々な原因がある
(Cutis. 2019;103:38-42.)(Breast Care 2018;13:413–418)
・組織はLanghans-type multinuclear giant cellを伴う非乾酪性肉芽腫を形成し, 炎症性腫瘤や膿瘍形成が認められる
肉芽腫性乳腺炎は出産後6ヶ月~6年での発症が多い
発症症例の大半が授乳婦であり, 関連性があると考えられる
また, 高プロラクチン血症も関連している可能性がある
・授乳歴から2年以内の発症が多い. ほぼ女性例で, 男性例は数例のみの報告
・乳腺からの乳汁分泌に対する免疫反応の可能性やCorynebabcteriumの脂肪組織への感染に関連する報告が増加している.
・結核やサルコイドーシスの評価は重要.
・他の機序として自己免疫, 外傷, 代謝性疾患など
症状は乳房の腫瘤や発赤, 疼痛, 潰瘍形成で発症する.
(Breast Care 2018;13:413–418)
102例の特発性肉芽腫性乳腺炎症例の解析では,(結核は除外)
・発症年齢は20-54歳, 中央値33歳
乳腺炎のサイズは37mm[6-92]
・培養は63例で施行され, 15例で陽性.
Corynebacterium kroppenstedtiiが8例より検出された.
他はS. aureus, S. agalactiae, S. milleri
・再発は12例で認められ, 再発のリスク因子は喫煙 OR 48.5[3.2-735.5], C. kroppenstedtii OR 32.2[1.1-1025.9]
(Pathology (December 2018) 50(7), pp. 742–747)
肉芽腫性乳腺炎と診断された90例の解析
・発症年齢 平均値34±8.3歳[21-60]
・結核が1例, サルコイドーシスが1例. 他は明らかな背景疾患不明であった
(Turk Patoloji Derg 2018, 34:215-219 )
疑問1つめ: 肉芽腫性乳腺炎と結節性紅斑, 関節炎の関係は?
肉芽腫性乳腺炎では多関節炎, 結節性紅斑を合併することがある
(Turk J Med Sci (2017) 47: 1590-1592)
・肉芽腫性乳腺炎の乳腺外症状として, 最も多いものが関節炎とEN.
ただし頻度自体は少ない.
・合併例ではステロイドや免疫抑制療法が行われることが多い
中国における300例の肉芽腫性乳腺炎の解析では,
(Zhonghua Bing Li Xue Za Zhi. 2019 Mar 8;48(3):231-236.)
・発症年齢は23-47歳, 中央値32歳. 96.7%で授乳歴あり
・血清プロラクチン高値は39.7%
・15.7%に結節性紅斑や関節腫脹・関節痛が認められた
・グラム染色を行なった116例中, 60例に脂肪組織中のグラム陽性菌が検出
もちろん, 同様の病態をきたす疾患には結核やサルコイドがあり, これらの評価, 除外は重要ではあるが, 肉芽腫性乳腺炎自体にENや関節炎を伴うことがある.
疑問2つめ: 原因にCorynebacterium??
肉芽腫性乳腺炎の組織から, Corynebacterium kroppenstedtiiが検出される報告が増加してきている.
(J Clin Microbiol. 2015 Sep;53(9):2895-9.)
・脂質好性Corynebacteriumの乳腺炎では肉芽腫形成をきたし, 肉芽腫性乳腺炎となることがある.
また, 脂肪組織が多いため, 水溶性抗菌薬であるβラクタム系抗菌薬では組織濃度が低くなる可能性が示唆されている.
・脂質好性Corynebacteriumで乳腺炎を呈するものの代表例がC. kroppenstedtii.
他にはC. tuberculostearicum, freneyi, glocuronolyticumが検出されている.
これら細菌の感受性は以下の通り
・βラクタマーゼ阻害薬含有のペニシリン系, ST合剤, テトラサイクリンへの感受性は良好
・ただし, βラクタム系やアミノグリコシドは脂質移行性は悪いため, 効果が乏しい可能性がある. ドキシサイクリンや, 感受性があればキノロン系を使用した方がよいかもしれない.
切り替えてコントロールがついた症例報告もいくつかある.
(Clin Infect Dis. 2002 Dec 1;35(11):1434-40. Epub 2002 Nov 14.)
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乳腺炎とか, 普段診療しませんが, 関節炎・EN合併例や, 脂質好性Corynebacterium感染症とかあると途端に総合診療(感染症・膠原病)っぽくなりますね.
昼のカンファレンスででた外来症例の共有ですが, とても勉強になる症例でした.