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2019年1月31日木曜日

感染性心内膜炎の経口抗菌薬投与への切替え

(N Engl J Med 2019; 380:415-424 Partial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis)

感染性心内膜炎で安定している患者400例を対象としたRCT
・そのまま抗菌薬静脈投与継続か, 経口に切り換え退院する群に割付け

患者は左心系のIE, 血液培養よりStreptococcus, Enterococcus faecalis, S aureus, CNSが検出された群を対象
・心臓内デバイスの除去や外科手術適応はガイドラインに準じて判断
・導入患者: 初期治療で十分な臨床的反応が得られ, 安定ている患者を導入
 初期治療では, 静注抗菌薬治療を10日間以上投与, 外科治療群では手術後7日以上投与.
 さらに, 割り付け前にTEEを行い, 外科治療が必要な膿瘍形成や弁膜症を否定している.
 
 また, 割り付け時に残り10日以上の抗菌薬投与が予定されている患者を導入

予定された抗菌薬投与期間が終了する1-3日前に再度TEEを行い, 治療反応性を評価.
治療終了後1wk, 1,3,6Mごにフォロー.

母集団

アウトカム
・両群とも死亡リスク, 塞栓リスク, 血液培養陽性化リスクは有意差なし

・サブ解析でも有意差なし

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左心系IEで起因菌が判明しており, 10日間以上(手術症例では術後7日間以上)静注抗菌薬が投与され, 状態安定していれば内服へ切り替えても予後は変わらない.

普段は状態が良ければ2wkをめどに切り替えていましたが、まあそんな感じで

2019年1月24日木曜日

静注→経口抗菌薬への切替えのタイミング

ICU管理となった重症市中肺炎 265例を対象としたRCT.
(BMJ. 2006 Dec 9;333(7580):1193.)
静注抗生剤3日間投与後, 安定していれば経口投与に切り替える群 vs 7日間静注投与を継続する群に割り付け, 比較.

・重症CAPの定義はPSI IV, V もしくはATSの基準にて重症肺炎を満たすことで定義
・人工呼吸器, Cystic fibrosis, 呼吸器の構造的障害があり,GNBの常在が証明されている患者, 余命が1ヶ月以内の患者, 重度の免疫不全(Neu<500, CD4<200)は除外

・臨床的に安定の定義は以下
 呼吸数<25/
 Sat >90%もしくはPaO2 >55
 血行動態安定
 発熱が>1度低下を認める
 意識障害なし
 経口内服が可能 を満たす群

・抗菌薬は経口切替群は合計10日間
 IV継続群は7日間使用

母集団データ

アウトカム

・両者で臨床的治癒率, 治療失敗リスクは有意差ない結果

腸内細菌の菌血症患者を対象とした後ろ向き解析のPropensity-score matched analysis.
(JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2018.6226 )
・患者は腸内細菌科の単一菌による菌血症であり感染巣コントロールが正しく行われ, 抗菌薬治療が1日目より開始されDay 5には臨床的な反応が得られている患者を対象.

上記を満たす患者群をDay 5までに経口投与に切り替えた群と
 最後まで経静脈投与を継続した群を抽出し, Propensity-acore matched analysisにて30日死亡リスクを比較した.

・腸内細菌科: Cidtrobacter spp, Enterobacter spp, E coli, Klebsiella spp, Proteus mirabilis, Serratia marcescens.

・臨床的反応はPitt bacteremia score≤1で定義


母集団


・UTI4割程度.

 消化管が2
 ICU管理されたのは2


アウトカム
30日死亡率は13%程度であり両群とも有意差はない(HR 1.03[0.820-1.30])
菌血症再発リスクも有意差なし(IV0.8%, 経口0.5%, HR 0.82[0.33-2.01])

参考: レビューにおける経口薬への変更基準
(J Pharmacol Pharmacother. 2014 Apr;5(2):83-7.)

参考: 経口抗菌薬のBioavailabilityと変更の例
(J Pharmacol Pharmacother. 2014 Apr;5(2):83-7.)

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肺炎や腸内細菌菌血症では改善傾向があれば3-5日目に経口へ切替えが許容される.
ICUや免疫不全患者, 心内膜炎や骨髄炎、膿瘍ではまだ不明確ではある.

2019年1月23日水曜日

DIHSで好中球減少, 無顆粒球症

70歳台女性.
緑膿菌による持続的菌血症にてMEPMを使用中に全身性の皮疹, 発熱再増悪, 腎機能障害, Eo上昇(1000-2000程度), 異形リンパ球の出現があり, DIHSを考慮し, 抗菌薬を中止, 変更.

その2日後の血液検査にてWBC 2000台, Neu 6%と著明に好中球が低下.
フォローでもWBC 1800, Neu 数%と低下を認めた. その際のEoは10-20%程度.

それまでの経過では全く好中球減少や血球減少は認められず, 他に原因となるものも見当たらない.

DIHSによる好中球減少はあるのか?



最近のDIHSのレビューでは(Hosp Pract (1995). 2018 Aug;46(3):152-162. )
「希だが報告がある症候」に無顆粒球症が入っている

Pubmedで症例報告を探してみると, 以下の薬剤で報告があった.
・アロプリノール, サルファサラジン (Acta Derm Venereol 2016; 96: 842–843)
・フェニトイン (Brain & Development 31 (2009) 449–451)
・クロピドグレル(好中球減少) (Mayo Clin Proc. 2005;80(10):1368-1370)

このうち上記2つの報告は日本国内から.

抗菌薬での報告はないものの, この患者ではNeu以外にPLTの低下, 貧血も伴い,
網赤血球の低下, IPFの低下もあり, 急性経過の骨髄不全なのであろう.
経過からはDIHSの経過で矛盾はしないものの, 詰めるのが難しい.

対応は定まってはいないが, 症例報告ではG-CSFの使用が試されている.

2019年1月22日火曜日

入院患者の血糖コントロール: Basal-plus, DPP-4併用療法

入院患者の血糖コントロールでは単なるSliding scaleのみでは後手後手であり,
基礎+追加分泌分を補うRABBIT protocol(Basal-bolus)がある
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/02/rabbit-protocol.html

このBasal-bolusレジメのMetaでは, Sliding scale群と比較して
 血糖値は-17.94mg/dL[-23.37~-12.52]低くなるものの
 軽度の低血糖リスクは上昇: <60mg/dL RR 4.21[1.61-11.02]
 高度の低血糖リスクは有意差なし: <40mg/dL RR 3.72[0.63-22.05]
 と低血糖リスク上昇が認められる.
(Diabetes Metab Res Rev. 2017 Jul;33(5): e2885)

実際, 急性期入院の血糖コントロールでは, よほど血糖コントロールが難しい患者以外はBasal-bolusレジメは行うことは少なく, 以下で説明するようなBasal-plusレジメやDPP-4併用を試すことが個人的に多い.

Basal-plusレジメ
・基礎+Sliding scaleを用いる方法

Basal Plus Trial: 入院した375例の2DM患者を対象としたRCT
(Diabetes Care 36:2169–2174, 2013)
・患者は2DMで内科, 外科に入院し, 血糖140−400mg/dLを満たす.
 DMの治療は食事療法, 経口血糖降下薬, 低用量インスリン(≤0.4U/kg/d).
入院後は投薬を中止し, 毎食前と眠前の4回血糖をチェック.
 低用量インスリン使用中の患者はそのまま継続し, 血糖>140mg/dLならば母集団に組み込んだ.
ステロイド投与中, 肝障害, Cre≥3.0mg/dL, DKA既往血糖>400mg/dLは除外.

上記患者群を以下の3群に割り付け
・Basal-bolus レジメ*: RABBIT protocolと同じ
Basal plus レジメ**: 基礎Glargineを使用し, 追加分泌はGlulisineSSI
・SSI: GlulisineSSIのみ使用

*Basal-bolusレジメでは
・0.5U/kgのインスリン量の半分をGlargine, もう半分をGlulisineで補う
 Glargine11, Glulisineは毎食前投与(1/6)
食前血糖が>140mg/dLでは上記GlulisineにさらにSSIを追加して投与.
 ≥70, Cre≥2.0mg/dLでは0.3U/kgで計算

**Basal plusレジメでは
・0.25U/kgGlargine11回投与. GlulisineSSIに則り使用.
 ≥70, Cre≥2.0mg/dLでは0.15U/kgで計算

目標血糖値は食前 100−140mg/dL

アウトカム
・Basal-bolus群とBasal plus群は同等の血糖コントロールを示す
・低血糖リスクも同等

DPP-4阻害薬+Basalレジメ
・基礎+DPP-4阻害薬を用いる方法

Sita-Hospital trial: 18-80歳の2DM栄養指導, 経口血糖降下薬または0.6U/kg未満のインスリンで管理されている患者群で, 内科, 外科入院となった群を対象.
(Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Feb;5(2):125-133.)
入院時血糖は140-400mg/dLを対象とした
除外項目は血糖≥400mg/dL, Ketosis, 1DM, DM既往なし, 最近のDPP-4阻害薬やGLP-1作動薬での治療歴, 腸閉塞, 48時間以内に食事開始が困難と予測される群, ICU管理となる可能性がある群, AMI, 心臓外科手術, PSL >5mg/d使用, 肝疾患, eGFR<30, 妊婦, 精神疾患で同意が得られない.

上記患者群を
 Sitagliptin(ジャヌビア) + Basal glargine(ランタス)投与群と
 Basal-bolus群に割り付け, 最初の10日間の血糖コントロールを比較

母集団

アウトカム

・両群とも血糖コントロールは同等

・血糖コントロール, 治療失敗, 低血糖エピソードどれも有意差なし
 インスリン使用量はDPP-4阻害薬併用群で少ない

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・急性疾患で入院したDM患者の血糖コントロールは, 一旦経口血糖降下薬を中断し, 基礎+追加分泌分のインスリンで管理することが正攻法ではあるが, これは結構手間がかかる.
・Basal-plusで基礎を補いつつSSIを併用する方法は個人的には楽で管理しやすい.
・さらにDPP-4阻害薬を併用すると血糖コントロールがさらにしやすくなる印象もある.
 (ただしジャヌビア®は腎機能低下例には注意. また, Sita-Hospital trialは元々DPP-4阻害薬を使用している患者は除外されているので, 継続投与としての使用の結果ではないことにも注意が必要)


2019年1月21日月曜日

重症インフルエンザにおける細菌感染合併の評価にはPCTが有用

昨日のインフルエンザ感染症+細菌感染症の症例に関連して,
炎症マーカーは細菌感染合併の予測に利用できるかどうかを検討.

2009年のH1N1インフルエンザ流行期にフランスの23 ICTsで管理されたインフルエンザ肺炎例を後ろ向きに解析.
(Intensive Care Med (2011) 37:796–800)
・103例のH1N1インフルエンザ肺炎症例の解析において48(46.6%[37-56])で細菌感染合併が証明された.
 主に肺炎球菌が54%, S aureus31%

PCTを評価した症例は52例であり, このうち37%が細菌感染合併
・PCTは細菌感染合併群で有意に高い.
 細菌感染合併群 29.5[4.0-45.4]µg/L
 非合併群 0.5[0.12-1.8]µg/L
PCT>0.8µg/L感度91%, 特異度68%細菌感染合併を示唆する

・CRP
 細菌感染合併群で26.0[11.0-34.7]mg/dL
 非合併群で9.5[5.7-16.1]mg/dL
 カットオフ>23mg/dLで細菌感染合併を示唆する結果

韓国における2009年のH1N1インフルエンザ流行期にインフルエンザ市中肺炎と診断された60例の解析.
(Influenza and Other Respiratory Viruses, 2011;5, 398–403)
・このうち16例で細菌感染合併と判断された.
細菌感染で多いのは肺炎球菌とS aureus
・細菌感染合併の有無とPCT, CRP値
 カットオフと感度, 特異度は以下の通り:
PCT>1.5ng/mLは感度56%, 特異度84%
・CRP>10mg/dLは感度69%, 特異度63%で細菌感染合併を示唆

2009-2014年にH1N1インフルエンザA感染によりICU管理された患者群を対象としたCohort.
(J Infect. 2016 Feb;72(2):143-51.)
・972例中, 196(20.3%)で細菌感染の合併が証明.
肺炎球菌が50%と半数を占める.

細菌感染の評価にはPCTが利用できるがCRPはアテにならない.
 PCTのカットオフと細菌感染合併の感度, 特異度

他にはショックバイタルも細菌感染に関連性があり, これらデータからのICU管理中のインフルエンザ患者における細菌感染合併リスクの評価アルゴリズム.
・YES が細菌感染合併率
・再高リスク群では52.9%で細菌感染が合併. 最低リスク群では5.5%

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重症インフルエンザ感染症, インフルエンザ肺炎症例において,
細菌感染の合併の評価にはCRPよりはPCTを参考とした方が良い.
とは言え, あくまでも補助的に用いるべきではあるが