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2018年9月17日月曜日

アルコール依存や離脱に対するガバペンチン

アルコール依存に対して使用される薬剤は,
 ジスルフィラム: アセトアルデヒドの代謝阻害
 ナルトレキソン: オピオイドµ受容体拮抗薬
 アカンプロセート: NMDA受容体の阻害し, GABAA受容体を刺激する作用- 飲酒欲求の低下
 が主だが, ガバペンチンも有用.

アルコール依存症と診断された成人150例を対象とした単一施設のDB-RCT.
(JAMA Intern Med. 2014;174(1):70-77. )
・外来Settingにおいて, カウンセリング+
 Placebo, Gabapentin 900mg/, 1800mg/日群に割付け, 12wk継続
・断酒成功群, 多量飲酒回避率, 気分障害や睡眠障害などを評価 
 多量飲酒: 1日に男性で5, 女性で4杯以上の飲酒
・治療を希望しているアルコール依存症を対象.
 インターネットにて参加者を募集した
 依存症はDSM-IVで診断.
 また割付け前に3日間以上断酒させている

母集団

アウトカム

・禁酒成功率はプラセボで4.1%[1.1-13.7]
 900mg群で11.1%[5.2-22.2], 1800mg17.0%[8.9-30.1],
 1800mg群ではNNT 8で禁酒に成功.
大量飲酒回避率は22.5%[13.5-37.2], 29.6%[19.1-42.8], 44.7%[31.4-58.8]
 1800mg群ではNNT 5


飲酒量は有意に減少する

アルコール減量, 禁酒に伴う飲酒の渇望感(A), 睡眠の質(B), 抑うつ症状(C)すべてガバペンチンで軽減・改善する.

依存症に対するガバペンチンのStudy
(Ann Pharmacother. 2015 Aug;49(8):897-906)
・ガバペンチンの使用により飲酒量の減少や再飲酒リスクの軽減が期待できる.

離脱症に対してもガバペンチンの効果は期待できる
(Ann Pharmacother. 2015 Aug;49(8):897-906)

単独での治療は避けたほうが無難だが離脱患者で早期から導入, 継続する意義はあるかもしれない
・ベンゾの使用量量の軽減や離脱改善後の断酒に由来する症状の緩和などが期待できる

Mayo Clinicでは2015年よりアルコール離脱患者の加療においてガバペンチンを使用プロトコールを開始している.
(Psychosomatics. 2018 Mar 21. pii: S0033-3182(18)30138-5. doi: 10.1016/j.psym.2018.03.002. [Epub ahead of print]
Use of a Gabapentin Protocol for the Management of Alcohol Withdrawal: A Preliminary Experience Expanding From the Consultation-Liaison Psychiatry Service.)

PAWSS >3で適応(離脱の高リスク群)
ガバペンチン 1200mgLoadingとして使用しその後は800mg 13, 4日間.
 600mg 13, 2日間
 300mg 13, 2日間投与し, 終了
・また, バルプロ酸やメラトニン, クロニジンも症状に応じて投与(痙攣既往, 頭部外傷ではバルプロ酸併用など)
禁酒を希望する患者では600mg 13回を継続し, プログラムに紹介
Loading無しで900mg 13回から開始も可
 また, eGFR 30-60では減量し, <30では投与を避ける

プロトコール


このプロトコールで加療した77例の解析では特に重大な合併症は認められず.
入院期間はベンゾでの管理と同等.

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アルコール離脱症に対してガバペンチンを早期から併用場合によっては予防目的で使用することでベンゾの使用量を抑えられる可能性がある
またその後断酒希望がある患者ではその成功率を上昇させ得る.

離脱の予防は確立も推奨もされていない分野ではありますが、予防する場合はベンゾよりもガバペンの方がまだ使用しやすい
高リスクではガバペンの早期使用+増悪時ベンゾ追加、とかもありではないか.

2018年9月12日水曜日

症例: ①高齢者の下痢, ②アル中患者の皮疹と意識障害

症例シリーズ. ここ1ヶ月で2例, 同じ原因であろうと考えられる疾患を診断しました.
おそらくはもっと隠れているかも, ということで紹介します.

80台男性亜急性経過の下痢下痢による低K血症で入院.

 10年以上前に胃全摘の既往がある男性
 元々食事摂取量も少ないビタミンB12の補充はある.
 数週間前より下痢が出現. 12-3回の軟便〜泥状便腹痛など無し.
 今回は脱力倦怠感あり受診. Labでは炎症反応も正常血清K 2.6と低値であり、下痢による低K血症と診断し入院となった.

 入院後腹部のUS, CTも施行するが明らかな原因となる異常は認められず. 1日に2-3回の下痢は持続し, 1K50-80mEq補充するがあまり上昇が認められず. Mgも評価し低下していたため補正済み.

 食事摂取量が少ないことから栄養の評価をしたところ, ビタミンB1の低値と葉酸の低値が認められた. B12は補充しており正常範囲 ビタミンB1と葉酸は入院時から末梢輸液にて補充済みである認知症の進行や意識障害は認めていない.

 さてこの患者の下痢の原因は?
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70台男性アルコール依存アルコール性肝硬変がある患者意識障害にて入院.

 アルコール依存肝硬変が背景にあり今回は自宅で動けなくなり入院見当識障害が強く認知機能低下も目立つ.
 入院の2-3ヶ月前より顔面体幹四肢に皮疹が出現し皮膚科にて皮脂欠乏性湿疹と指摘され保湿剤を使用しているが改善が乏しいとのこと.
 肝性脳症は所見やアモンニア濃度から否定的と判断背景疾患からビタミンB1欠乏を疑い評価したところビタミンB1は低値であった.

 当然入院時よりビタミンB1は補充を行っているが意識障害認知機能低下の改善は乏しい.

皮疹は写真の通り:



 四肢末端に色素沈着, 皮膚硬化, 落屑が目立つ.
 体幹は頸部に目立ち, 胸部や腹部はそこまで強くない.

>> 日光暴露部に多い印象

さて、①と②の診断は??
































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水溶性のビタミンB1欠乏を合併している点胃全摘歴や食事摂取不良やアルコール依存がある点から水溶性ビタミンの欠乏があると考えた.

特に下痢や認知症皮膚炎と関連づけるとペラグラ(ビタミンB3欠乏)を想起

自費検査にて評価したところ双方ともビタミンB3は低値.

補充を開始したところ①の症例は補充後2日程度で下痢が消失血清Kもぐんぐん上昇補充の必要もなくなった.

症例②も補充をしているが皮疹は数週間改善にかかるためにフォロー中である.


ペラグラに関しては
を参照

ポイントは, 
・下痢は先行症状としてありえる点と, 
・Wernicke脳症とペラグラはしばしば合併し, 一つを治療しても効果不十分な場合はペラグラも考慮する.
・普段しようされることが多いビタメジンはB1,6,12であり, B3は含有されていない. B3ナイクリン注射液や、ビタミンB1との合剤であるシーパラ®がある.意識して補充せねばならない.
 シーパラ®いいなぁ.


2018年9月6日木曜日

症例: 浮腫む

70歳台女性主訴顔面全身の浮腫.

 2-3年前より持続する全身の浮腫にて外来を受診.
 浮腫は下肢で多いが顔面や眼瞼浮腫も認められる
 朝起床時には軽度〜認めないが午後、夕方になると浮腫むことが多い.
 他、発熱や消耗症状は認めない。
 倦怠感や不安症状は認める.

 今まで浮腫に対する検査にて一般血液検査で問題なし(貧血、Alb、肝障害、甲状腺機能正常), 心エコー問題なし。蛋白尿なし。下肢静脈瘤も認めない。
 
 薬剤歴なし。サプリメントなし。
 既往もなし。
 2-3年前より年2-3回の献血(400ml)を行なっている
 食事内容を評価しても塩分負荷が多い印象はない。

身体所見: BP 140/99mmHg, HR 70
軽度顔面浮腫+下肢にnon pitting Edemaを認める。下肢表在静脈拡張は目立たない。
心音問題なし。内頸静脈拍動高も正常範囲。他身体所見に異常は認められない。

血液検査: WBC 6800, Neu 65%, Hb 12.8g/dL, MCV 78fl, PLT 18
 生化学検査は問題なし。
 レニン、アルドステロンも評価するが問題なし。




















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初期のアセスメント:
 浮腫の経過をもう少し詳しく特に日記をつけてもらうことに.
 すると朝〜夕方にかけて+2-3kgの体重上昇を認めることが判明.

 この病歴から特発性浮腫を考慮した.
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特発性浮腫とは,

明らかな原因が認められない浮腫を特発性浮腫と呼ぶ
(American Journal of Kidney Diseases, Vol 34, No 3 (September), 1999: pp 405-423 )
・周期性浮腫, 体液貯留症候群, 起立性浮腫など含まれる.
・30-40歳台の女性で多い. 利尿薬や下剤に関連するものもある
・様々な機序が推測されており, それらの混在によるものと考えられている.
 アルドステロン作用の亢進
 視床下部の異常
 Subclinical hypothyroidism, 
 ドパミン分泌, 腎臓でのドパミン代謝の障害
 血管膜の問題, 毛細血管括約筋の問題など.

自律神経症状や精神症状を伴う頻度も高い
(American Journal of Kidney Diseases, Vol 34, No 3 (September), 1999: pp 405-423 )

浮腫の部位
(Postgrad Med J 1990 66: 363-366)

特発性浮腫の診断基準

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アセスメント2

この症例で評価すると, Thornの基準は満たし, McKendryスコアは16点くらいでギリギリ満たす.

ということで特発性浮腫なのか...
と思いつつ, 2-3年前からの浮腫出現同時期からの献血歴, MCV低値から一つの病態を想起し評価してみた.























フェリチン値 4.3ng/mL

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鉄欠乏では以前ブログでも紹介したように神経調節性失神の原因となる.

鉄欠乏がNMSのリスクとなる機序としては
・鉄に関連する酵素の1つにカテコラミン分解作用があるものがあり,
鉄欠乏状態では常にカテコラミン血中濃度が上昇しているという説 →POTSNMS患者ではカテコラミン血中濃度が高く関連している?
・鉄欠乏では末梢血管抵抗が低下しそれが関与しているという説.
 これは貧血合併例でも同様.
(J Pediatr 2008;153:40-4)


血管抵抗の低下から, もしかすると浮腫の原因にもなるかもということで鉄剤を補充.
また鉄欠乏の原因の評価も行なった.
>>内視鏡問題なしピロリ陽性であり除菌 

鉄補充を開始し2ヶ月後の外来フォロー
 フェリチン40台に上昇を認めその時の会話.
「浮腫消えました!」
 体重日記では朝〜夕の体重変化は1kg未満に.
 さらに2ヶ月後. フェリチン80台. 体重変化はほぼ消失浮腫の訴えも消失した.


最終診断は,
 鉄欠乏による特発性浮腫 としました.

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鉄欠乏と特発性浮腫や浮腫で検索しても症例報告は認められずあまり気づいていないのかたまたまなのかはよくわからない.
しかしながら経過からは関連性はありそうな印象.

よくわからない浮腫では特発性浮腫をさらにその背景として鉄欠乏も考えておくと良いかもしれない.


2018年9月3日月曜日

大動脈解離に伴う脳梗塞

急性期脳梗塞の治療ではt-PAや血管内治療が主流となっています.
そこで問題となるのが大動脈解離(A型解離)に伴う脳梗塞. この場合t-PAやカテーテルは病状を悪化させる可能性があります.

脳梗塞のうち, 大動脈解離に伴うものはどの程度あるか?
また, 脳梗塞患者において解離を疑う所見にはどのようなものがあるか?

発症24時間以内の脳梗塞疑い症例1637例中A型解離を認めたのは5(0.31%[0.04-0.57])
(Cerebrovasc Dis 2016;42:110–116 )
・急性脳梗塞と診断されたのは457例でありこのうちA型解離は1.09%[0.14-2.05]
特に発症4時間以内に受診し脳梗塞と診断された患者群では, 1.7%[0.05-3.36]と多い.
 t-PA適応や血管内治療において鑑別が重要となる
・この5例の主訴は意識障害が4, 構音障害が1.
 全例で胸痛の訴えはない.
頸部血管USで右側総頸動脈にフラップを形成する例が4/5.
 1例は未評価であり不明.

A型解離に伴う脳梗塞と, それ以外の脳梗塞の比較
・A型解離に伴う急性脳梗塞症例では血圧は低め.
 特に右上腕で測定した血圧が低値となる
・また, D-dimerが異常高値となる

急性脳梗塞における, A型解離の可能性を示唆する所見

・意識障害, 低下に加えて右側の測定血圧の低下がポイント
D-dimerも異常高値ならばA型解離を疑う
・右総頸動脈のフラップを認める頻度が高いためt-PAや血管内治療を考慮する場合はルーチンでチェックするのも大事

脳梗塞症例で胸背部痛を伴わない1236例を評価
(Circ J 2015; 79: 1841–1845)
・このうち9例でA型解離が認められた.(0.73%)
両群の比較
所見で差があるのは血圧. 解離例では血圧が上昇しない.

D-dimer: 受診24h以内の測定
・D-dimerは解離例で特に高値
 46.47±54.48µg/mL[範囲6.9-167] vs. 2.33±3.58[範囲0.3-57.9]
・0-6hではさらに高値.

D-dimer≥6.9µg/mLは感度100%, 特異度94.8%大動脈解離による脳梗塞を示唆する.
心原性塞栓症例422例との比較でも, 上記カットオフは感度100%, 特異度92.7%で解離を示唆.

MRIを評価する際は頸部血管まで評価するできない場合は頸部血管USで評価, というアルゴリズムも提唱されている
(Magnetic Resonance Imaging 34 (2016) 902–907 )

では反対に, A型解離のうち, Strokeを合併する割合は?

2202例のA型解離のうち132(6.0%)Strokeを合併
(Circulation. 2013;128[suppl 1]:S175-S179.) 
・Stroke合併例の方がやや高齢高血圧が多いがあまり臨床的に意義があるかは微妙
症状の頻度
・Stroke合併例では胸痛の訴えは少ない
 失神や低血圧が多い

A型解離患者におけるStroke合併に関連する因子

国内からの報告: A型解離226例のうち, Strokeを認めたのは23(10%)
(Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 25, No. 8 (August), 2016: pp 1901–1906 )

・このうち21例はStroke症状を主訴とし, 脳卒中科が初期診療
・解離の部位は腕頭動脈が全例右総頸動脈が83%
・t-PAの適応を満たす(解離の存在以外)57%であった.
全例でD-dimerは顕著に上昇中央値29.7µg/mL[4.2-406.2]

A型解離59例の解析では中枢神経症状を認めたのは11(18.6%)
(American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1836–1838 )

・Stroke合併例では胸痛や背部痛は少ない.
 初期の血圧も低め
 D-dimerは両群とも高い

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まとめると,
・脳梗塞のうち, A型解離が隠れているのは1-2%程度.
・A型解離で脳卒中を合併する割合は6-20%程度, 大体1割前後.
・脳梗塞を合併するA型解離では胸痛や背部痛の訴えは少なく, 半分いくかどうか.
 特徴としては意識障害, 血圧低値(特に右上腕), D-dimerの異常高値(5.0µg/mLを超える)が挙げられる.
・評価には頸部MRIや頸部血管エコーによるフラップの確認が重要.

脳梗塞でt-PAや血管内治療の適応となる症例ではなおさら血圧の左右差や意識, D-dimerのチェック, 頸部血管エコーは重要といえる.