そこで問題となるのが大動脈解離(A型解離)に伴う脳梗塞. この場合t-PAやカテーテルは病状を悪化させる可能性があります.
脳梗塞のうち, 大動脈解離に伴うものはどの程度あるか?
また, 脳梗塞患者において解離を疑う所見にはどのようなものがあるか?
発症24時間以内の脳梗塞疑い症例1637例中, A型解離を認めたのは5例(0.31%[0.04-0.57])
(Cerebrovasc Dis 2016;42:110–116 )
・急性脳梗塞と診断されたのは457例であり, このうちA型解離は1.09%[0.14-2.05]
・特に発症4時間以内に受診し脳梗塞と診断された患者群では, 1.7%[0.05-3.36]と多い.
t-PA適応や血管内治療において鑑別が重要となる
・この5例の主訴は意識障害が4例, 構音障害が1例.
全例で胸痛の訴えはない.
・頸部血管USで右側総頸動脈にフラップを形成する例が4/5.
1例は未評価であり不明.
A型解離に伴う脳梗塞と, それ以外の脳梗塞の比較
・A型解離に伴う急性脳梗塞症例では血圧は低め.
特に右上腕で測定した血圧が低値となる
・また, D-dimerが異常高値となる
急性脳梗塞における, A型解離の可能性を示唆する所見
・意識障害, 低下に加えて右側の測定血圧の低下がポイント
・D-dimerも異常高値ならばA型解離を疑う
・右総頸動脈のフラップを認める頻度が高いため, t-PAや血管内治療を考慮する場合はルーチンでチェックするのも大事
脳梗塞症例で胸背部痛を伴わない1236例を評価
(Circ J 2015; 79: 1841–1845)
・このうち9例でA型解離が認められた.(0.73%)
・両群の比較:
・所見で差があるのは血圧. 解離例では血圧が上昇しない.
D-dimer: 受診24h以内の測定
・D-dimerは解離例で特に高値
46.47±54.48µg/mL[範囲6.9-167] vs. 2.33±3.58[範囲0.3-57.9]
・0-6hではさらに高値.
D-dimer≥6.9µg/mLは感度100%, 特異度94.8%で大動脈解離による脳梗塞を示唆する.
・心原性塞栓症例422例との比較でも, 上記カットオフは感度100%, 特異度92.7%で解離を示唆.
MRIを評価する際は頸部血管まで評価する, できない場合は頸部血管USで評価, というアルゴリズムも提唱されている
(Magnetic Resonance Imaging 34 (2016) 902–907 )
では反対に, A型解離のうち, Strokeを合併する割合は?
2202例のA型解離のうち132例(6.0%)でStrokeを合併
(Circulation. 2013;128[suppl 1]:S175-S179.)
・Stroke合併例の方がやや高齢, 高血圧が多いがあまり臨床的に意義があるかは微妙
症状の頻度
・Stroke合併例では胸痛の訴えは少ない
失神や低血圧が多いA型解離患者におけるStroke合併に関連する因子
国内からの報告: A型解離226例のうち, Strokeを認めたのは23例(10%)
(Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 25, No. 8 (August), 2016: pp 1901–1906 )
・このうち21例はStroke症状を主訴とし, 脳卒中科が初期診療
・解離の部位は腕頭動脈が全例, 右総頸動脈が83%
・t-PAの適応を満たす(解離の存在以外)は57%であった.
・全例でD-dimerは顕著に上昇中央値29.7µg/mL[4.2-406.2]
A型解離59例の解析では中枢神経症状を認めたのは11例(18.6%)
(American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1836–1838 )
・Stroke合併例では胸痛や背部痛は少ない.
初期の血圧も低め
D-dimerは両群とも高い
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まとめると,
・脳梗塞のうち, A型解離が隠れているのは1-2%程度.
・A型解離で脳卒中を合併する割合は6-20%程度, 大体1割前後.
・脳梗塞を合併するA型解離では胸痛や背部痛の訴えは少なく, 半分いくかどうか.
特徴としては意識障害, 血圧低値(特に右上腕), D-dimerの異常高値(5.0µg/mLを超える)が挙げられる.
・評価には頸部MRIや頸部血管エコーによるフラップの確認が重要.
脳梗塞でt-PAや血管内治療の適応となる症例ではなおさら血圧の左右差や意識, D-dimerのチェック, 頸部血管エコーは重要といえる.