腰椎穿刺前に頭部CTを評価するかどうかは昔から議論が盛んな分野.
ガイドラインでは以下の場合にCTを行うべきという指針がある.
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(3):321–8 )
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Swedish Guideline
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ESCMID
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IDSA
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意識障害
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刺激に反応しない昏睡, GCS<6,
RLS>5で対光反射に反応なし, 後弓反張, 呼吸リズムの異常, 徐脈+高血圧 |
GCS<10, RLS>3
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GCS<15, RLS>1
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神経所見
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片麻痺, 神経局所症状,
>4日持続する神経症状がある, 髄膜炎で説明できない症状がある |
片麻痺, 神経局所症状
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片麻痺, 神経局所症状
眼球運動の異常, 視野の異常, 瞳孔散大 |
新規痙攣発作
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ー
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1週間以内の痙攣発作
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1週間以内の痙攣発作
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重症免疫不全の合併
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ー
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移植レシピエント, HIV, 重度の免疫抑制療法
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移植レシピエント, HIV, 重度の免疫抑制療法
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CNS疾患の既往
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ー
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ー
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脳腫瘍, 脳卒中, 中枢感染症の既往
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乳頭浮腫
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ー
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ー
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あり
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European Society for Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID),
Infectious Diseases Society of America (IDSA) guidelines.
ー: ガイドラインで言及なし
スウェーデンにおける細菌性髄膜炎の前向きCohort
(Clinical Infectious Diseases® 2018;66(3):321–8)
・815例の細菌性髄膜炎のうち, LP前に頭部CTを施行したのは378例.
・CT施行群の方が抗菌薬やステロイド投与までの時間が長くなる.
・全体の院内死亡率は8%.
・2-6ヶ月での神経予後良好(Glasgow outcome score 5 + 神経学的後遺症や聴覚障害の残存無しで定義)は50%.
LP前のCT検査の推奨適応は,
・Swedish guidelineで7%,
ESCMIDで32%
IDSAで65%
・各種ガイドラインのAdherenceは,
Swedish guidelineが48%, ESCMIDが53%, IDSAが57%
(Adherenceはガイドラインで推奨された場合に撮影し, 非推奨では撮影なしでLPを施行した症例で定義)
各ガイドラインのAdherenceとアウトカムへの影響.
・Swedish guidelineでは, Adherenceがある方が死亡リスクが減少し, 神経学的予後の改善が良好となる.
>> つまり必要なガイドラインで推奨される症例のみでCTを評価するほうが予後が良い.
・ESCMIDでも死亡リスクの改善あり. ただし神経予後は有意差なし.
・IDSAに準拠することはは神経予後の増悪リスクとなってしまう.
つまり, LP前の頭部CTの閾値を低くすればするほど, 予後の増悪につながる結果.
LP前にCT評価をするかどうかで比較したアウトカム.
・各ガイドラインでLP前のCTを推奨しない患者群(左)で, CTを行った場合, 予後増悪因子となる.
・ESCMID, IDSAで「CTを行うべき」患者群でも, CTを優先すると予後増悪因子.
・Swedish guidelineでは, 「CTを行うべき」患者群でCTを優先した場合, 死亡リスクとはならないが, 神経予後不良リスクにはなり得る.
来院時の意識状態で見たアウトカム
・どの患者群でもLP前のCT検査では予後増悪因子.
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細菌性髄膜炎を疑った場合, とかく迅速に抗菌薬を開始することが重要.
そのためには早期に腰椎穿刺を進めねばならない.
CTを見てから・・・とすると, その分精査や治療が遅れる. そしてそれが予後増悪につながる可能性がある.
ガイドラインではどの患者でCTを優先するかを推奨しているが, その閾値が低く, 逆に治療の遅れとなっている可能性がある点は非常に注意が必要.
CTを評価した方が良いと判断した場合は早期にすべきだし, 場合によってはCT前の抗菌薬投与も考慮すべきということになる.
いままでは細菌性性髄膜炎を疑った場合, 「腰椎穿刺の前に抗菌薬」だったのが、今後は「不要ならばCTしない, CTする場合はCTの前に抗菌薬」ということを念頭に置く必要がある.