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2017年12月28日木曜日

オピオイド関連下垂体不全

慢性疼痛に対してオピオイドを使用している患者が数カ月前より倦怠感の増悪, 下痢症状を認めて受診.
精査の結果三次性副腎不全であった(CRH分泌低下. 視床下部性の副腎不全)

三次性副腎不全の原因は基本的にはステロイド慢性投与と脳器質的疾患(腫瘍など)程度のはずであるが, 画像検査も正常でステロイド投与歴もない.

さて、原因は?

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オピオイドは下垂体不全をきたすことがある.

オピオイドの慢性投与では, 性腺機能低下症をきたすことが多いが, 一部で副腎機能低下症や成人例の成長ホルモン分泌不全の原因となることが報告されている.
・これらはオピオイドの中止や他薬剤への変更により改善する可能性がある
(日本ペインクリニック学会誌 Vol.20 No.1, 17~23, 2013)

慢性疼痛に対してオピオイドを長期間使用しさらに3ヶ月以内にステロイド投与を受けていない患者48例において早朝コルチゾールとACTH負荷試験を施行した報告
(Clinical Endocrinology (2016) 85, 831–835)
・年齢の中央値は53.5[45.4-62.4]. 25/48が女性例
・使用薬剤

早朝コルチゾール値とACTH 250µg負荷後の値
・早朝コルチゾール <3.6µg/dLとなるのが4(8.3%)
 ACTH負荷後の反応が不十分な症例が3例= 6.25%が副腎不全

副腎不全を合併していた3例は
・39歳女性, 繊維筋痛症に対してフェンタニルパッチ 75µg/h, Oramorph 5mgレスキューを使用
 他に並存症はなし
 ACTH11ng/Lと正常範囲. プロラクチンとIGF-1は正常範囲
 下垂体MRIでは問題なし.
 ホルモン補充により倦怠感は改善を認めた.
・37歳女性, Neuropathic scar painに対してMST 60mg/dを使用.
 他に並存症はなし
 ACTH13ng/Lと正常範囲. プロラクチンとIGF-1は正常範囲
 無月経が1年間持続している.
 下垂体MRIは正常
 ホルモン補充により徐々に倦怠感が改善
36歳女性, 慢性の腹痛に対してフェンタニルパッチ 75µg/hを使用
 他に並存症はない.
 ACTH 37ng/dL, 他の下垂体検査は正常.

64歳男性で, 慢性の腰痛に対してフェンタニルパッチを2年間使用していた患者の報告
(J Intern Med 2005; 257: 478–480.)
・ショックバイタルで救急搬送され, 二次性の副腎不全による副腎クリーゼと診断し, ステロイド投与で改善.
フェンニタニルは入院前に中止されており, 1週間後CRH負荷試験をフォローするとACTH反応性が改善. コルチゾール値も改善を認めた.


21歳女性. 慢性の腹痛でトラマドールを処方されていた.
(Eur J Clin Pharmacol (2011) 67:865–867)
・倦怠感, ふらつき, めまい, 嘔吐, 頭痛などあり受診し早朝コルチゾール低値でありトラマドールによる副腎不全を疑われた
・薬剤中止後は改善.
退院後, かかりつけ医により再度腹痛に対してトラマドールが再開.
 2ヶ月後に同様の症状(+)
 再度検査にて副腎不全(+)
 中止後数カ月かけて改善.

トラマドール使用中, off後のACTH負荷試験後のCortisol値

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報告例はまだ少ないものの, オピオイドの慢性使用により副腎不全を発症する可能性がある点は注意が必要.
この場合は下垂体や視床下部性の副腎不全となる。
オピオイド中止により改善することもある.

今後慢性疼痛に対してオピオイド処方は増えることが予測されるため, 内科、外科、整形外科全ての医師が知っておいた方がよいだろう.

慢性使用中の患者で、以下のような症状がでたときは注意!
(日本ペインクリニック学会誌 Vol.20 No.1, 17~23, 2013)