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2018年9月3日月曜日

大動脈解離に伴う脳梗塞

急性期脳梗塞の治療ではt-PAや血管内治療が主流となっています.
そこで問題となるのが大動脈解離(A型解離)に伴う脳梗塞. この場合t-PAやカテーテルは病状を悪化させる可能性があります.

脳梗塞のうち, 大動脈解離に伴うものはどの程度あるか?
また, 脳梗塞患者において解離を疑う所見にはどのようなものがあるか?

発症24時間以内の脳梗塞疑い症例1637例中A型解離を認めたのは5(0.31%[0.04-0.57])
(Cerebrovasc Dis 2016;42:110–116 )
・急性脳梗塞と診断されたのは457例でありこのうちA型解離は1.09%[0.14-2.05]
特に発症4時間以内に受診し脳梗塞と診断された患者群では, 1.7%[0.05-3.36]と多い.
 t-PA適応や血管内治療において鑑別が重要となる
・この5例の主訴は意識障害が4, 構音障害が1.
 全例で胸痛の訴えはない.
頸部血管USで右側総頸動脈にフラップを形成する例が4/5.
 1例は未評価であり不明.

A型解離に伴う脳梗塞と, それ以外の脳梗塞の比較
・A型解離に伴う急性脳梗塞症例では血圧は低め.
 特に右上腕で測定した血圧が低値となる
・また, D-dimerが異常高値となる

急性脳梗塞における, A型解離の可能性を示唆する所見

・意識障害, 低下に加えて右側の測定血圧の低下がポイント
D-dimerも異常高値ならばA型解離を疑う
・右総頸動脈のフラップを認める頻度が高いためt-PAや血管内治療を考慮する場合はルーチンでチェックするのも大事

脳梗塞症例で胸背部痛を伴わない1236例を評価
(Circ J 2015; 79: 1841–1845)
・このうち9例でA型解離が認められた.(0.73%)
両群の比較
所見で差があるのは血圧. 解離例では血圧が上昇しない.

D-dimer: 受診24h以内の測定
・D-dimerは解離例で特に高値
 46.47±54.48µg/mL[範囲6.9-167] vs. 2.33±3.58[範囲0.3-57.9]
・0-6hではさらに高値.

D-dimer≥6.9µg/mLは感度100%, 特異度94.8%大動脈解離による脳梗塞を示唆する.
心原性塞栓症例422例との比較でも, 上記カットオフは感度100%, 特異度92.7%で解離を示唆.

MRIを評価する際は頸部血管まで評価するできない場合は頸部血管USで評価, というアルゴリズムも提唱されている
(Magnetic Resonance Imaging 34 (2016) 902–907 )

では反対に, A型解離のうち, Strokeを合併する割合は?

2202例のA型解離のうち132(6.0%)Strokeを合併
(Circulation. 2013;128[suppl 1]:S175-S179.) 
・Stroke合併例の方がやや高齢高血圧が多いがあまり臨床的に意義があるかは微妙
症状の頻度
・Stroke合併例では胸痛の訴えは少ない
 失神や低血圧が多い

A型解離患者におけるStroke合併に関連する因子

国内からの報告: A型解離226例のうち, Strokeを認めたのは23(10%)
(Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 25, No. 8 (August), 2016: pp 1901–1906 )

・このうち21例はStroke症状を主訴とし, 脳卒中科が初期診療
・解離の部位は腕頭動脈が全例右総頸動脈が83%
・t-PAの適応を満たす(解離の存在以外)57%であった.
全例でD-dimerは顕著に上昇中央値29.7µg/mL[4.2-406.2]

A型解離59例の解析では中枢神経症状を認めたのは11(18.6%)
(American Journal of Emergency Medicine 35 (2017) 1836–1838 )

・Stroke合併例では胸痛や背部痛は少ない.
 初期の血圧も低め
 D-dimerは両群とも高い

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まとめると,
・脳梗塞のうち, A型解離が隠れているのは1-2%程度.
・A型解離で脳卒中を合併する割合は6-20%程度, 大体1割前後.
・脳梗塞を合併するA型解離では胸痛や背部痛の訴えは少なく, 半分いくかどうか.
 特徴としては意識障害, 血圧低値(特に右上腕), D-dimerの異常高値(5.0µg/mLを超える)が挙げられる.
・評価には頸部MRIや頸部血管エコーによるフラップの確認が重要.

脳梗塞でt-PAや血管内治療の適応となる症例ではなおさら血圧の左右差や意識, D-dimerのチェック, 頸部血管エコーは重要といえる.