70歳台女性. 主訴: 顔面, 全身の浮腫.
2-3年前より持続する全身の浮腫にて外来を受診.
浮腫は下肢で多いが, 顔面や眼瞼浮腫も認められる.
朝起床時には軽度〜認めないが, 午後、夕方になると浮腫むことが多い.
他、発熱や消耗症状は認めない。
倦怠感や不安症状は認める.
今まで浮腫に対する検査にて, 一般血液検査で問題なし(貧血、Alb、肝障害、甲状腺機能正常), 心エコー問題なし。蛋白尿なし。下肢静脈瘤も認めない。
薬剤歴なし。サプリメントなし。
既往もなし。
2-3年前より年2-3回の献血(400ml)を行なっている
食事内容を評価しても塩分負荷が多い印象はない。
身体所見: BP 140/99mmHg, HR 70
軽度顔面浮腫+下肢にnon pitting Edemaを認める。下肢表在静脈拡張は目立たない。
心音問題なし。内頸静脈拍動高も正常範囲。他身体所見に異常は認められない。
血液検査: WBC 6800, Neu 65%, Hb 12.8g/dL, MCV 78fl, PLT 18万
生化学検査は問題なし。
レニン、アルドステロンも評価するが問題なし。
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初期のアセスメント:
浮腫の経過をもう少し詳しく, 特に日記をつけてもらうことに.
すると, 朝〜夕方にかけて+2-3kgの体重上昇を認めることが判明.
この病歴から特発性浮腫を考慮した.
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特発性浮腫とは,
明らかな原因が認められない浮腫を特発性浮腫と呼ぶ
(American Journal of Kidney Diseases, Vol 34, No 3 (September), 1999: pp 405-423 )
・周期性浮腫, 体液貯留症候群, 起立性浮腫など含まれる.
・30-40歳台の女性で多い. 利尿薬や下剤に関連するものもある
・様々な機序が推測されており, それらの混在によるものと考えられている.
アルドステロン作用の亢進,
視床下部の異常
Subclinical hypothyroidism,
ドパミン分泌, 腎臓でのドパミン代謝の障害,
血管膜の問題, 毛細血管括約筋の問題など.
自律神経症状や精神症状を伴う頻度も高い
(American Journal of Kidney Diseases, Vol 34, No 3 (September), 1999: pp 405-423 )
浮腫の部位
(Postgrad Med J 1990 66: 363-366)
特発性浮腫の診断基準
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アセスメント2
この症例で評価すると, Thornの基準は満たし, McKendryスコアは16点くらいでギリギリ満たす.
ということで特発性浮腫なのか...?
と思いつつ, 2-3年前からの浮腫出現, 同時期からの献血歴, MCV低値から一つの病態を想起し, 評価してみた.
フェリチン値 4.3ng/mL
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鉄欠乏では以前ブログでも紹介したように神経調節性失神の原因となる.
鉄欠乏がNMSのリスクとなる機序としては
・鉄に関連する酵素の1つにカテコラミン分解作用があるものがあり,
鉄欠乏状態では常にカテコラミン血中濃度が上昇しているという説
→POTSやNMS患者ではカテコラミン血中濃度が高く, 関連している?
・鉄欠乏では末梢血管抵抗が低下し, それが関与しているという説.
これは貧血合併例でも同様.
(J Pediatr 2008;153:40-4)
血管抵抗の低下から, もしかすると浮腫の原因にもなるかも, ということで鉄剤を補充.
また鉄欠乏の原因の評価も行なった.
>>内視鏡問題なし. ピロリ陽性であり除菌
鉄補充を開始し2ヶ月後の外来フォロー.
フェリチン40台に上昇を認め, その時の会話.
「浮腫消えました!」
体重日記では朝〜夕の体重変化は1kg未満に.
さらに2ヶ月後. フェリチン80台. 体重変化はほぼ消失. 浮腫の訴えも消失した.
最終診断は,
鉄欠乏による特発性浮腫 としました.
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鉄欠乏と特発性浮腫や浮腫で検索しても症例報告は認められず, あまり気づいていないのか, たまたまなのかはよくわからない.
しかしながら経過からは関連性はありそうな印象.
よくわからない浮腫では特発性浮腫を, さらにその背景として鉄欠乏も考えておくと良いかもしれない.