抜管後に突如呼吸困難増悪, CO2貯留, 再挿管... という経験ありませんか?
そういう時には気管軟化症(Tracheobronchomalacia: TBM) やEDAC(Excessive Dynamic Airway Collapse)を考えます.
気管軟化症(Tracheobronchomalacia: TBM) , EDAC(Excessive Dynamic Airway Collapse)
(Respirology (2006) 11, 388–406)
TBM; Tracheobronchomalacia
・気管軟骨, その周辺の筋, 弾性線維の脆弱化.
・気管狭窄を来たし, 気管分泌増加, 咳嗽, Wheeze, 再発性気管支炎, 肺炎を生じる病態.
EDAC; Excessive dynamic airway collapse
・気管軟骨に被われていない気管背側の弾性膜の脆弱化.
・前後方向に気管支が圧排され, 狭窄を来す.
・COPDや肺気腫, 喘息, TBMに伴うことが報告されている
通常気管は吸気時に拡張する.
・胸腔内が陰圧になる事で, 気管壁は伸展される.
その際気管壁の平滑筋は緊張し, 拮抗する
・呼気時は胸腔内が陽圧となり, 気管内腔は縮小する.
・ その際気管壁の平滑筋は気管壁を維持するが,
機能不全があると軟骨の無い後壁が貫入する → EDAC.
気管軟骨が脆弱であれば, 軟骨部が貫入する → TBM.
イメージ
TBM, EDACの頻度
(Respirology (2006) 11, 388–406)(Curr Opin Pulm Med 2009;15:113–119)
後天性TBMの頻度は気管支鏡施行例の4.5%
・COPDで気管支鏡した内の23%, 慢性気管支炎の44%.
・日本国内における, 4283例の気管支鏡施行例では, 50-100%の狭窄出現したのは12.7%.
その内 72%は50-80yの高齢者であった.
75-100%の高度狭窄例は3.1%
EDACの頻度は報告により様々
・咳嗽時に気管径が>50%縮小するのは, 3wk以上の慢性咳嗽で気管支鏡を施行した群の14.1%
・他の原因は, 喘息58.9%, 後鼻漏 57.6%, GERD 41.1%, 気管拡張症 17.9%
(CHEST 1999; 116:279–284)
COPD100例のProspectiveの評価では, EDACは20%で認められた.
・母集団の年齢 65±7歳, FEV1 64±22%
・EDACの有無で呼吸機能, 自覚症状に差は認めなかった.
(Chest 2012;142:1539-1544)
喫煙歴(過去, 現在)がある45-80歳の患者8820例の評価ではCTで評価したEDAC, TBM(ECAC)は5%で認められた.
(JAMA. 2016;315(5):498-505. )
・COPD合併群では5.9%, 非合併群では4.3%とCOPDでは有意にリスクが上昇(AD 1.6%[0.9-2.7])
・GOLD stageが高いほど高リスクとなる
GOLD 1(4.8%),
GOLD 2(5.6%),
GOLD 3(6.6%),
GOLD 4(7.2%)
・他には高齢者, 女性, 肥満がリスク因子
喘息患者におけるTBM, EDACの頻度
(Multidisciplinary Respiratory Medicine 2013, 8:32 )
・202例の喫煙歴(-)の喘息患者で気管支鏡を施行.
・閉塞性肺疾患(-)の62例をコントロールとして評価
TBM, EDACの頻度
・TBM, EDACは重症喘息ほど多く認める.
TBM, EDACの原因
(Respirology (2006) 11, 388–406)
TBMは小児期発症する先天性のタイプと, 中年〜高齢者で発症する続発性のタイプがある.
・小児期では元々気管が細いため, 再発性の咳嗽, 呼吸困難, 呼吸器感染症を来すが, 気管が広くなり, 組織が強固となる学童期には消失.
・続発性はTBM, EDAC双方あり, 中高年で多く, COPDや喘息, 挿管による刺激, 気管切開後に生じる事が有名.
・長期間の人工呼吸器管理(PEEP)も原因となり得る.
他の後天性の原因
・胸部の閉鎖性外傷, 長期間の喫煙, COPD, 肺気腫, 喘息, 慢性炎症
悪性腫瘍; 肺癌や甲状腺癌による気管支壁破壊
機械的因子; 胸部手術など.
慢性的な気管圧迫; 胸骨下甲状腺腫, 胸腺腫, 動脈瘤
先天性気管支拡張; Mounier-Kuhn syndrome
先天性の気管弾性線維の欠如, muscularis mucosa消失
Ehlers-Danlos syndrome
甲状腺疾患; 腺腫による慢性の圧迫.
Endobronchial electrosurgery
(Clin Chest Med 34 (2013) 527–555)
TBM, EDACの診断
繰り返す呼吸苦, 呼吸感染症, Wheeze, 抜管失敗例などで疑う.
・Wheezeは全体の51%, 喘息様発作は17%でのみ認める.
・通常喘息の治療であるステロイドや
・気管拡張薬吸入の効果は乏しい.
・血痰は認め得るが, 3.5%のみ.
・非喫煙者の慢性咳嗽のうち, 最多の14.1%を占める原因.
TBMやEDACでは進行する高CO2血症, 呼吸不全を呈することもあり, その場合挿管となる
・しかしながら挿管患者で上記を診断するのは難しい.
挿管チューブがステントの役割を担う点,
PEEPが気管支虚脱をマスクする可能性がある点.
・上記例で改善し, 抜管した直後にWheeze, 呼吸苦出現し, 再挿管となる例も多い.
→ 繰り返す抜管失敗もTBM, EDACを疑うヒント.
画像所見
・呼気, 吸気時の画像評価で気管支径の変化を追う方法, Cine fluoroscopyによる評価, 気管支鏡による評価が有用
・吸気-呼気の気管左右径の変化値が上気道で18%以上, 中気道で28%以上ならば, TBMの可能性は89-100%, 上記(-)ではTBMは0-5%のみ.
吸気, 呼気CTによる評価
(Journal of Computer Assisted Tomography 2001;25(3):394–399)
・23名のControl, 10名のTBM(EDAC)患者で吸気, 呼気CTを評価
気管前後径(cm)
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吸気時
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呼気時
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%変化
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TBM
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Upper airway
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1.6[0.9-2.5]
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1.0[0.1-1.6]
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39%[16-92]
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Middle airway
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1.9[0.6-2.4]
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0.8[0.3-1.5]
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53.5%[18-63]
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Control
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Upper airway
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2.0[1.3-2.4]
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1.8[-9~14.2]
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11.2%[-6~37]
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Middle airway
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1.9[1.4-2.3]
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1.6[1.2-2.0]
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12.7%[-19~33]
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気管左右径(cm)
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吸気時
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呼気時
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%変化
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TBM
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Upper airway
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2.6[1.7-4.7]
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2.4[1.7-3.4]
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3.9%[-5~15]
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Middle airway
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2.3[1.3-3.4]
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1.1[0.9-2.5]
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9.9%[-4~24]
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Control
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Upper airway
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1.9[1.6-2.4]
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1.8[1.3-2.1]
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4.4%[-9~14]
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Middle airway
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1.9[1.4-2.3]
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1.8[1.4-2.2]
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4.4%[-26~28]
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気管断面積(cm2)
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吸気時
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呼気時
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%変化
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TBM
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Upper airway
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4.3[1.7-9.2]
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1.9[0.8-3.7]
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50%[27-80]
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Middle airway
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3.3[1.4-5.2]
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2.0[0.4-4.5]
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44%[14-69]
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Control
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Upper airway
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2.7[1.9-3.9]
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2.4[1.5-3.3]
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12%[-1.5~33]
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Middle airway
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2.6[1.9-3.9]
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2.2[1.5-3.3]
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14%[4-33]
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気管断面積の変化率で評価する場合,
・上気道で>18%の変化はSn96%, Sp91%でTBMを示唆
・大動脈弓レベルで>28%の変化はSn99%, Sp97%.
気管前後径の変化率で評価する場合,
・上気道で>28%の変化はSn87%, Sp92%でTBMを示唆
・大動脈弓レベルで>30%の変化はSn84%, Sp78%.
カットオフはStudyにより様々.
・健常人のCT評価でも, 呼気時に50%虚脱する例が70-80%で認められる報告もある.
・一般人のボランティアの評価では, 吸気, 呼気時の主気管支虚脱率は54%.
右主気管支 67, 左主気管支 61%との報告もあり.
・従って, 画像のみで評価するのではなく, 動的に評価することも重要.
また症状がある場合に限り評価すべきと言える
(Clin Chest Med 34 (2013) 527–555)
気管支鏡所見
・直視下で気管内の動きが観察できるため, 診断のGold Standardとなる. 狭窄の程度, タイプも分かる
(Respir Care 2007;52(6):752–754)
TBM, EDACの治療
・気管拡張薬, CPAP, 気管内ステント, 外科手術が試される.
(Respirology (2006) 11, 388–406)
治療のアルゴリズム
(Disease-a-Month 63 (2017) 287–302)