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2016年1月29日金曜日

筋肉痛に対するNSAIDの効果

運動後の筋肉痛は “Delayed onset muscle soreness(DOMS)”と呼ぶ
高強度の運動後 24-48時間後に生じる筋肉の痛みで, 同時に筋逸脱酵素上昇や筋力の低下を伴う
・筋肉の順応に伴う生理的な反応であり, 炎症性変化も伴う
 疼痛がある筋組織に白血球浸潤が認められる
 また, 血中白血球も上昇する.
・DOMSは3期に分類される
 初期は筋組織が障害され, Caイオンが過剰に流入する時期
 その後貪食細胞が浸潤し, 疼痛や腫脹を伴う時期,
 最後に改善する再生期 
・再生期に蛋白合成が行われ, 筋組織の増加, 肥大が生じる
(Clin J Sport Med 1998;8:82-87)


(Journal of Strength and Conditioning Research, 2003, 17(1), 197–208)

DOMSは炎症や腫脹, 疼痛が問題となるのと, それに伴う筋力低下が一時的に認められるのが問題となる.
・炎症反応が関連するため, NSAIDにてDOMSが緩和できるかもしれない.

筋肉痛(DOMS)に対するNSAIDの効果
2003年までのStudyではNSAIDによるDOMSの疼痛緩和や筋力低下の抑制効果は様々
・効果が認めないする報告や認める報告と色々ある
(Journal of Strength and Conditioning Research, 2003, 17(1), 197–208)



疼痛や筋力以外に、CPKやLDHの値を比較しているStudyもあるが, それもStudyにより結果は様々.
CPKがNSAIDにより有意に低下している報告もあれば, 有意差がないとするものもある
(Journal of Strength and Conditioning Research, 2003, 17(1), 53–59 )

最近のRCTでは, NSAIDとサフランの効果を評価している
39例の健常人ボランティアを以下の3群に割り付け(DB-RCT)
・サフラン摂取群 12例 (ドライパウダー 300mg/d)
・インドメタシン内服群 12例 (75mg/日, 1日3回に分けて投与)
・コントロール群 15例.

上記3群に割り付け, 運動プログラム後のDOMSへの影響を比較した.
・投薬は運動の1週間前〜運動後3日間の合計10日間行った.
・アウトカムは, 最大筋力, CK値, LDH値, 疼痛を評価

アウトカム: 疼痛への影響
・疼痛はサフランとイントメタシン内服で有意に抑制される.
・特にサフランでは効果が高い


アウトカム: 筋力への影響
DOMSがあると筋力は低下
・ただし, インドメタシンやサフラン内服群では筋力は保たれる
・特にサフランでは効果が高い

アウトカム: CKとLDHの変化
サフランでは酵素上昇がない
・インドメタシンでは低下が早い

サフランすげぇ!
サフランはサプリメントで販売されているが,
そのサプリは3錠でサフラン60mg含有。つまり1日に15錠使用する必要がある。
90錠で4500円くらい。

6日間、約1週間で4500円か、、、うーむ、、、

2016年1月27日水曜日

週1回投与のGLP-1受容体作動薬の比較

週1回投与のGLP-1作動薬のRCTにおいてNetwork meta-analysisを行い相互を比較.
(Ann Intern Med. 2016;164:102-113.)

薬剤は以下の通り
 Albiglutide(未承認)
 Dulaglutide(トルリシティ®)
 Exenatide(デビュリオン®)
 Semaglutide(未承認)
 Taspoglutide(未承認)

2016年現在, 国内のGLP-1アナログは
Liraglutide(ビクトーザ®), 
 Exenatide(バイエッタ®, デビュリオン®), 
 Lixisenatide(リキスミア®) 
 Dulaglutide(トルリシティ®) がある
・デビュリオンとトルリシティは週1回製剤
・また経口薬としてSemaglutideが今後発売される可能性がある

各薬剤間の比較(効果)
・HbA1c低下効果, FBG低下効果は
 Dulaglutide 1.5mgはExenatideと同等.
 他の週1回製剤よりもHbA1c低下効果は良好
 ただし, 国内では0.75mg製剤のみ.
 Dulaglutide 0.75mgは他と同等の効果
・体重減少効果はDulaglutideよりもExenatideの方が期待できる.

・コレステロール低下作用はAlbiglutideでやや期待できる.
・血圧低下作用はDulaglutide 0.75mgよりもExenatideの方が期待できる

プラセボ群との比較(効果)
SITA: sitagliptin, MET: metformin, PIO: pioglitazone
dGLP1: daily GLP-1作動薬

・GLP-1作動薬はSU剤やインスリン強化療法よりもHbA1c低下効果が期待できる.
・Daily GLP-1阻害薬と週1回の効果も同等.
・GLP-1作動薬はDPP-4阻害薬(sitagliptin)よりもHbA1c低下効果は良好であり, 体重低下効果も期待出来る.
・DUL1.5は効果が高いが, 国内では0.75mgのみ.
・体重減少効果もGLP-1受容体作動薬はMETと同程度にあり.

各薬剤間の比較(副作用)
・GLP-1作動薬間では低血糖リスクはどれも有意差なし
・悪心はDUL0.75とEOWは同等.

プラセボ群との比較(副作用)
・GLP-1作動薬の低血糖リスクはプラセボと比較してOR 2程度だがインスリンやSU剤よりも低い
・悪心はGLP-1作動薬で多い副作用と言える.

--------------
GLP-1作動薬は皮下注射製剤ということで, 経口血糖降下薬と一線を画する印象がある.

ところが, 基礎インスリン療法と同等のHbA1c低下効果が期待でき, さらに体重減少も期待できる. さらに低血糖リスクは少ない利点がある.

患者によっては、皮下注射 = インスリン、ということで抵抗がある人もいるが, 週1回製剤や経口製剤がでればそれも緩和される可能性がある.

さらに, 個人的に期待しているのは, 基礎インスリン単独から, 強化インスリン治療へ移行する前に, 基礎インスリンと, GLP-1作動薬を併用させる方法である.

2型DM患者で, Insulin glargine ≥20U/d単独 or Metformin or/and Pioglitazone使用中でもコントロール不良(HbA1c 7.1-10.5%)の患者261名を対象としたDouble-masked RCT
(Ann Intern Med. 2011 Jan 18;154(2):103-12.)
Exenatide 10µg SC bid vs Placeboに割り付け, 18-30wkフォロー.

Outcome; 脱落率はそれぞれ19% vs 18%と同等.
Outcome
Exenatide
Placebo
Difference
HbA1c ≤6.5%
40%[30-49]
12%[6-17]
28%[17-39]
~30wkの体重変化
-1.78kg[-2.48~-1.08]
0.96[0.23-1.70]
-2.74[-3.74~-1.74]
低血糖; Minor
25%
29%

低血糖; Major
0%
1%

夜間低血糖
17%
26%

・HbA1cはExenatide群で有意に低下, また体重も低下する(-1.74%[-1.91~-1.56] vs -1.04%[-1.22~-0.86], P<0.001)

GLP-1作動薬 + 基礎インスリン治療を評価したMeta
(Lancet 2014; 384: 2228–34)
・GLP-1 + 基礎インスリン療法は, 対象と比較して,
アウトカム
比較

HbA1c(%)
vs Control
WMD -0.44[-0.60~-0.29]

vs 基礎インスリン単独
WMD -0.10[-0.17~-0.02]
HbA1c7.0
vs Control
RR 1.92[1.43-2.56]

vs 基礎インスリン単独
RR 1.07[0.91-1.26]
低血糖
vs Control
RR 0.99[0.76-1.29]

vs 基礎インスリン単独
RR 0.67[0.56-0.80]
体重変化(kg)
vs Control
WMD -3.22[-4.90~-1.54]

vs 基礎インスリン単独
WMD -5.66[-9.80~-1.51]
 有意に血糖コントロール改善や体重減少効果が期待できる.
 また低血糖リスクも少ない.

2016年1月26日火曜日

失神で発症するくも膜下出血は5%くらい

失神で救急搬送され, 結局くも膜下出血でした, という症例は
救急をやっていれば年1例くらいはお目にかかる.

SAHと診断, 治療された1460例の後ろ向き解析では,
 590例がSAH発症時に意識障害あり(40.4%).

その内訳はこちら
・<10分の意識障害が169例
・10-60分が93例
・>60分が181例.

「失神」として発症するのは169/1460, 11.6%程度といえる

・そしてそのうちの約半数が, 来院時 頭痛のみを訴える程度.

ということは, SAHの約5%が失神 ⇨ 頭痛 というプレゼンテーションで来院する.

ちなみに, SAH発症時の意識障害は程度に関わらず, 予後不良因子となる.

5%って嫌な数値ですね。
軽症のSAHならば外来で受診することもあるでしょうし, 
やはり救急で失神±頭痛 ⇨ 頭痛には要注意です。

ちなみに意識障害と同時、その前に頭痛を自覚している例は87.3%であり,
1割は失神後に頭痛を自覚していることにも注意ですね.

メニエール病に対するベタヒスチン(メリスロン®)のRCT

メニエール病に対する治療としては、ベタヒスチン(メリスロン®)が使用されていることが多い(めまい全般に対して処方されてるのが実情ですが、、、)

ベタヒスチンはH1、H3アンタゴニストで, 血流を改善させることによりリンパ流の回収を促進させる効果が期待できる.

しかしながらこの効果を評価したRCTは乏しく、
経験上行われており, さらに薬価も安いので許容されていることが多い.

Reviewでは, 高用量 48mgを1日3回, 12ヶ月間使用することが重要としている
(Ther Adv Neurol Disord (2009) 2(4) 223–239)

で, この度ドイツよりBEMED trialが発表

BEMED trial: ドイツにおける多施設DB-RCT
(BMJ 2016;352:h6816)
・メニエール病と診断された患者群221例を
  プラセボ群 74例
  低用量Betahistine: 24mg bid群 73例
  高用量Betahistine: 48mg tid群 74例に割り付け9ヶ月間継続
・患者は21-80歳, 平均 56歳で, 片側, 両側のDefinite Meziere's diseaseを満たす患者群.
 具体的には2回以上の突発性, 20分以上持続する回転性めまいがあり, 聴力低下が認められている. さらに他に原因となる疾患が除外されている(中枢病変, 片頭痛, BPPVなど).

・日本国内の投与量は1回 6-24mgを1日3回としている(低用量)

アウトカム

・プラセボ, ベタヒスチンで発作の頻度は有意差なし.
 投与量も関係なし.

・めまいの重症度の緩和効果も期待できない
・QOL, 聴力の変化も有意差はない.

というなんとも残念な結果でした.

2016年1月22日金曜日

STONEスコアの外部バリデーション

STONEスコアは尿路結石を予測するスコアであり,
なかなか良い予測能を誇る.

詳しくは こちらを参照

尿路結石: 診断


STONEスコア
性別
OR
Pt
人種
OR
Pt
尿中RBC
OR
Pt
女性
1
0
黒人
1
0
なし
1

男性
4.31[3.13-5.98]
2
黒人以外
6.77[3.79-12.64]
3
あり
5.61[3.96-8.04]
3
疼痛出現〜
OR
Pt
悪心, 嘔吐
OR
Pt



>24h
1
0
無し
1
0



6-24h
1.85[1.27-2.70]
1
悪心のみ
1.98[1.38-2.86]
1



<6h
6.34[4.26-9.33]
3
嘔吐のみ
5.26[3.53-7.93]
2
合計
0-13
Pt
性別, 疼痛出現からの時間, 人種, 悪心/嘔吐, 尿中RBCで評価し,
 0-5点で低リスク: 尿路結石の可能性は9.2%
 6-9点で中リスク: 尿路結石の可能性は51.3%
 10点以上で高リスク: 尿路結石の可能性は88.6%
(BMJ 2014;348:g2191)

そのSTONEスコアに外部バリデーション(追試)がされ, 発表されました.
External Validation of the STONE Score, a Clinical Prediction Rule for Ureteral Stone: An Observational Multi-institutional Study. Ann Emerg Med.
STONEスコアのExternal Validation.
尿路結石症疑いで9箇所のERを受診した845例でSTONEスコアを評価.
・最終的に尿路結石と診断されたのは331例(39%)
 高リスク群では72.7%
 中リスク群では32.2%
 低リスク群では13.5%

このStudyでは, 診察した臨床医の印象(見積もった検査前確率)も一緒に評価しているのが面白い.
そして, 大体見積もった検査前確率よりも実際の尿路結石の可能性は低い.
 大体 1/4以下と予測すると17%
 半分以下と予測すると19.1%
 半分〜3/4と予測すると37.2%
 3/4以上と予測すると54.5%

STONEスコアのカットオフ, 臨床医の印象の尿路結石に対する感度/特異度

STONEスコアは臨床医の印象よりも感度, 特異度ともに良好という結論.
 まあこれが一般的に広まれば, それが臨床医の印象に置き換わって行くのでしょうが,
 研修医はしっかり押さえておくべきスコアと言えると思います. 

2016年1月21日木曜日

補液への反応性をエコーで推測する

重症疾患による低循環の患者では補液が重要となる.
しかしながら, 補液自体が害となることもあり,
「負荷する(入れる)べきか」「引くべきか」という判断はしばしば迷うこともある.

簡便で, 有用な指標も乏しいのが実際の所。

個人的にはエコーによる評価を多用しているが,
Journal of Critical Care 31 (2016) 96–100 より, 正に自分が行っているマネージメントそのもの, と言っても良い総説が出たので紹介する.

エコーによるIVCの評価と肺エコーによる補液負荷調節
Journal of Critical Care 31 (2016) 96–100
・まずIVC径を評価し, <15mmならば補液負荷を.
・1.5-2.5mmならばIVC径の変動率を評価する.
 この時 挿管患者ならばカットオフは>12%とし, 満たせば補液を負荷
 自発呼吸患者ならばIVC径の変動には頼らない
・最後に肺エコーを行い, 両側でA lineならば補液負荷を試す.
 両側でB lineならば補液負荷はしない. 
というプロトコール.
IVC径からの評価
IVC径は健常人で10-29mm (自発呼吸)
・メタアナリシスにおけるIVC径の評価:
・ショック患者, 低循環患者群と, 健常コントロールでの比較.
 患者は両群とも自発呼吸患者.
・ショック患者でのIVC径は平均11mm, 5.6-15.5mmで, 大半が<15mmとなる.
(American Journal of Emergency Medicine (2012) 30, 1414–1419.e1)

また, 他の前向きStudyにおいて, 補液に反応しないショック患者30例中, 29例がIVC>15mmであった報告もあり(これは挿管管理中の患者)(Intensive Care Med. 2004 Sep;30(9):1834-7.)
 <15mmならば補液負荷を試してもよいかもしれない.

IVCの変動率からの評価(人工呼吸器管理中の患者)
人工呼吸器管理中の患者において, 吸気終末期と呼気終末期のIVC径を評価した前向きStudy.
・IVC径の変動と補液反応性の関連を前向きに評価.
・補液反応性は7ml/kgのコロイド液負荷を行い, CI≥15%の増加がある場合に反応性ありと評価.
アウトカム
・IVC径の変動 ≥18%ならば, 感度90%, 特異度90%で補液反応性があることを示唆する.
(Intensive Care Med. 2004 Sep;30(9):1740-6.)

人工呼吸器管理患者39例において, 8ml/kgのコロイド液負荷を施行.
・CI ≥15%の上昇を反応性ありと定義し, 反応あり群となし群でIVC径変動率を両者で比較.
アウトカム
・IVC変動率は 25±15% vs 6±4%と有意に反応がある群で変動率も高い.
 カットオフ≥12%でPPV 92%, NPV 93%で補液反応性を示唆.
(Intensive Care Med. 2004 Sep;30(9):1834-7.)

2013年までに出版された8 trialsのMeta-analysis(N=235)
・IVCの呼吸性変動率のカットオフは12-40%と幅があり, 
 補液反応性への感度 76%[61-86], 特異度 86%[69-95].
・人工呼吸器管理患者に限る(4 trials)と, 感度 81%[67-91], 特異度 87%[63-97] となる.
 自発呼吸患者を評価した研究は1つのみ
(Ultrasound Med Biol. 2014 May;40(5):845-53.)

IVCの変動率からの評価(自発呼吸の患者群)
急性の循環不全 40例を対象 (敗血症 24, 出血 11, 脱水 5例)
・循環不全はMAP<65mmHg, 尿量<0.5ml/kg/h, 頻脈, Mottled skin, 乳酸値>2mmol/Lのいずれかを満たす患者群で定義.
 明らかな肺水腫症例や右心不全症例は除外.
・全例が自発呼吸があり, 挿管されていない.
・上記患者群でIVC呼吸性変動と補液反応性の関係を評価.
・補液反応性は500mlのコロイド液を15分でDIVし, 補液後のsubaortic VTI≥15%の増加があれば反応性ありと判断(velocity time index).

アウトカム; IVC変動率と補液反応性.
・変動率≥40%で感度70%, 特異度80%で補液への反応ありと判断.

肺エコーによる補液反応性の評価
肺エコーでは補液反応性の評価よりは, 補液することの安全性を評価する意味合いが強い.
・Blue-protocolではびまん性のB lineは感度 97%, 特異度 95%で心原性肺水腫を示唆する.
(Chest 2008;134:117-125)
・また, 両側でA lineのみならばPAOP≤13mmHgに対するLR 6.7とDry lungを強く示唆する所見と言える(Chest 2009; 136: 1014-20)(Anesthesiology 2014; 121:320-7)

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以上よりエコーによる補液反応性を評価する際のポイントとしては,
人工呼吸器管理中の患者において,
・IVC径<15mm は補液反応性を示唆する.
・IVC変動 >12-18%は補液反応性を示唆する.
・肺エコーはA lineならば安心して補液負荷が可能という指標となる.
 両側B lineでは要注意.

自発呼吸患者において
・IVC径とIVC変動については実のところあまりエビデンスがない.
 IVC変動のカットオフは40%とするとよいかもしれないが, 感度が低い
・肺エコーはA lineならば安心して補液負荷が可能という指標となる.
 両側B lineでは要注意.

ということ.
それに加えて, 心エコー所見を踏まえると, 結構正確に補液反応性が評価できる印象があります.

肺エコーも、B lineは両側の背側から出現し, 側胸部, 前胸部へと拡大します.
 どの時点で補液を控えるか, どこまで粘るかというのはさすがに経験が必要と思います.
 その点も明確に言語化できれば良いのですが、、、

にしても, こういうことをまとめて, 論文にできる人にはいつも尊敬します.
そして、いつもお世話になっております.