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2019年3月17日日曜日

症例: 乳腺炎+関節炎、皮疹

昼のカンファレンスより:

30台女性: 他関節痛+下肢の皮疹

約1年前に出産, 2ヶ月前まで授乳していた女性
1ヶ月ほど前に右乳腺に発赤・疼痛を伴う腫瘤を認め, 乳腺炎と判断.
ドレナージ, 抗菌薬による加療をうけ, 徐々に改善傾向にはあるが, 完治はしていない.

1週間前より右肘, 手首, 左膝関節痛を自覚. また両下腿に2cm程度の浸潤を伴う紅斑が出現したため紹介となった.

所見は以下の通り:
・関節は腫脹, 発赤, 圧痛を伴う. 膝関節には関節液貯留を軽度認める。
・下肢は浸潤, 圧痛を伴う紅斑. 明らかな波動は認めない. 所見からは結節性紅斑様
・乳腺炎は軽快してきているが, 軽度の腫脹, 腫瘤を触れる.
 ドレナージ時の組織からは, ラングハンス巨細胞様の細胞を認め, 肉芽腫性乳腺炎と診断
 培養は未提出.

・T-SPOT陰性. 肺野病変認められず, 末梢リンパ節腫大も認めない.
 他自己抗体も陰性.

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肉芽腫性乳腺炎とは?

肉芽腫を形成する乳腺炎であり特発性, 結核, サルコイド, プロラクチン血症, 乳癌など様々な原因がある
(Cutis. 2019;103:38-42.)(Breast Care 2018;13:413–418)
・組織はLanghans-type multinuclear giant cellを伴う非乾酪性肉芽腫を形成し, 炎症性腫瘤や膿瘍形成が認められる

肉芽腫性乳腺炎は出産後6ヶ月~6年での発症が多い
発症症例の大半が授乳婦であり, 関連性があると考えられる
また, 高プロラクチン血症も関連している可能性がある
・授乳歴から2年以内の発症が多い. ほぼ女性例で, 男性例は数例のみの報告
・乳腺からの乳汁分泌に対する免疫反応の可能性やCorynebabcteriumの脂肪組織への感染に関連する報告が増加している.
結核やサルコイドーシスの評価は重要.
他の機序として自己免疫, 外傷, 代謝性疾患など

症状は乳房の腫瘤や発赤, 疼痛, 潰瘍形成で発症する.
(Breast Care 2018;13:413–418)

102例の特発性肉芽腫性乳腺炎症例の解析では,(結核は除外)
・発症年齢は20-54, 中央値33
 乳腺炎のサイズは37mm[6-92]
培養は63例で施行され, 15例で陽性
 Corynebacterium kroppenstedtii8例より検出された.
 他はS. aureus, S. agalactiae, S. milleri
再発は12例で認められ, 再発のリスク因子は喫煙 OR 48.5[3.2-735.5], C. kroppenstedtii OR 32.2[1.1-1025.9]
(Pathology (December 2018) 50(7), pp. 742–747)

肉芽腫性乳腺炎と診断された90例の解析
・発症年齢 平均値34±8.3[21-60]
結核が1, サルコイドーシスが1. 他は明らかな背景疾患不明であった
(Turk Patoloji Derg 2018, 34:215-219 )

疑問1つめ: 肉芽腫性乳腺炎と結節性紅斑, 関節炎の関係は?

肉芽腫性乳腺炎では多関節炎, 結節性紅斑を合併することがある
(Turk J Med Sci (2017) 47: 1590-1592)
・肉芽腫性乳腺炎の乳腺外症状として, 最も多いものが関節炎とEN.
 ただし頻度自体は少ない.
合併例ではステロイドや免疫抑制療法が行われることが多い

中国における300例の肉芽腫性乳腺炎の解析では,
(Zhonghua Bing Li Xue Za Zhi. 2019 Mar 8;48(3):231-236.)
・発症年齢は23-47, 中央値3296.7%で授乳歴あり
・血清プロラクチン高値は39.7%
・15.7%に結節性紅斑や関節腫脹・関節痛が認められた
・グラム染色を行なった116例中, 60例に脂肪組織中のグラム陽性菌が検出

もちろん, 同様の病態をきたす疾患には結核やサルコイドがあり, これらの評価, 除外は重要ではあるが, 肉芽腫性乳腺炎自体にENや関節炎を伴うことがある.

疑問2つめ: 原因にCorynebacterium??

肉芽腫性乳腺炎の組織から, Corynebacterium kroppenstedtiiが検出される報告が増加してきている.
(J Clin Microbiol. 2015 Sep;53(9):2895-9.)
・脂質好性Corynebacteriumの乳腺炎では肉芽腫形成をきたし, 肉芽腫性乳腺炎となることがある.
 また, 脂肪組織が多いため, 水溶性抗菌薬であるβラクタム系抗菌薬では組織濃度が低くなる可能性が示唆されている.
・脂質好性Corynebacteriumで乳腺炎を呈するものの代表例がC. kroppenstedtii. 
 他にはC. tuberculostearicum, freneyi, glocuronolyticumが検出されている.

これら細菌の感受性は以下の通り
βラクタマーゼ阻害薬含有のペニシリン系, ST合剤, テトラサイクリンへの感受性は良好
・ただし, βラクタム系やアミノグリコシドは脂質移行性は悪いため, 効果が乏しい可能性がある. ドキシサイクリンや, 感受性があればキノロン系を使用した方がよいかもしれない.
 切り替えてコントロールがついた症例報告もいくつかある.
( 2002 Dec 1;35(11):1434-40. Epub 2002 Nov 14.)

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乳腺炎とか, 普段診療しませんが, 関節炎・EN合併例や, 脂質好性Corynebacterium感染症とかあると途端に総合診療(感染症・膠原病)っぽくなりますね.

昼のカンファレンスででた外来症例の共有ですが, とても勉強になる症例でした.

2019年3月13日水曜日

偽痛風による椎体炎

80台女性. 3日前からの発熱, 左膝関節痛、腰痛で体動困難
 元々歩けていた患者であるが, 3日前より発熱, 腰痛の増悪を認め歩行困難となった.
 増悪傾向にあり救急要請.
 救急室の診察ではL1-3付近の圧痛、疼痛があり, 左膝関節の熱感, 腫脹が認められた.

CT画像ではL1-2付近の椎体変形(古い圧迫骨折様)があり, 周囲の軟部組織の軽度腫脹あり.
膝関節は穿刺し, ピロリン酸Ca結晶を貪食した白血球を多数認める. 細胞数は40000台, 糖低下なし. グラム染色では菌体見えず.

椎体MRIを評価したところ,
脂肪抑制像でL1-2の椎体, 椎間板, 周囲軟部組織の浮腫所見, さらに右腸腰筋にも一部浮腫が波及していた.

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化膿性椎体炎の可能性を第一に考慮し, 血液培養を採取.
神経所見は認めず, 抗菌薬を投与する前にNSAIDを試したところ,
翌日には膝関節所見と腰痛が改善. 解熱も認めた.

3日間の投与にて歩行可能まで改善した.

化膿性としてはこの経過は考えにくく, 偽痛風による椎体炎, 膝関節炎と判断.
という症例.

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偽痛風では椎体炎・椎間板炎や仙腸関節炎も認められることは最近報告も増えてきている.
当院の総合診療科では1年に数例はこのような症例を診療する.

偽痛風患者でしっかりと軸関節の診察をすれば, もっと頻度は増えるかもしれない.

頚椎の偽痛風はCrown dens syndromeとしても有名.
参考URLはこちら
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2015/01/crowned-dens-syndromeacute-calcific.html
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2018/02/cds.html

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偽痛風では椎体の面関節に結晶沈着を伴う滑液包炎を認める報告がある
(J Bone Joint Surg [Br] 2005;87-B:513-17. )
・滑液包炎が同部位の神経圧迫をきたす報告もある.
・滑液包炎を伴わないタイプもあるが, その場合臨床・画像的に診断するのは難しい

CPPDで椎体炎を認めた37例の報告
(Semin Arthritis Rheum. 2018 Oct 14. pii: S0049-0172(18)30437-2. doi: 10.1016/j.semarthrit.2018.10.009. [Epub ahead of print] Spinal involvement with calcium pyrophosphate deposition disease in an academic rheumatology center: A series of 37 patients.)

・Rheumatology(フランス)に入院したCPPD患者を後ろ向きにReview.
 5年間のReviewにて, 37/152(24.3%)で椎体症状が認められた.
頚椎が21, 腰椎が19例と多く, 胸椎は4例のみ.
 また複数領域で生じたのが6例であった.
・頚椎ではCrown-dens syndromeとなる.
 無菌性の脊椎椎間板炎は6

 仙腸関節(石灰沈着含む)病変は5

椎体炎合併例, 非合併例の比較

椎体炎合併例は副甲状腺機能亢進症合併例が多い
・末梢関節炎の頻度は有意差なし

椎体病変のパターン
・頚椎病変では, 歯状突起後部の線路様(二重)の石灰沈着を認めることが多い
 また歯状突起周囲の石灰沈着もある
 歯状突起の骨融解を伴う症例も認められた


・椎間板の狭小化面関節の変性, 癒合もある

・CPPDによる椎間板では,
 骨びらんや周囲の軟部組織炎症所見を認めず, 椎間板腫脹のみの症例から,
 骨びらんや周囲の炎症波及を伴う例まで様々なパターンが認められる.

椎間板炎の画像の例



・一見化膿性脊椎炎と思わせるような所見も多々ある

仙腸関節炎も認められる


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件の症例では見直すと, 仙腸関節の不整像やL1-2の骨びらん所見も伴い,
軸関節の偽痛風を繰り返していた可能性を考慮しました.
画像のパターンや頻度, 臨床経過のまとまった報告はまだ少なく, 見逃されていることも多いと感じています.

偽痛風の可能性があり, 抗菌薬を待てる椎体炎・椎間板炎にはNSAID先行も一つの手かもしれません.

2019年3月11日月曜日

慢性結節性痛風

左右非対称の手・指関節腫脹, 疼痛, 膝関節腫脹, 足関節腫脹と,
体幹に有痛性の結節+周囲の紅斑・熱感
画像上腰椎の面関節の破壊+周囲の石灰化を伴う結節形成 を認めた中年男性の症例.

膝関節のエコーにてDouble contour sign(DCS)を認め, 穿刺すると針状の結晶が認められた.
指PIP伸側, 肘頭滑液包, 足関節には白色の結節を認め, 痛風結節と判断.

これら所見から慢性結節性痛風+体幹の痛風性脂肪織炎と判断.


痛風, 高尿酸血症は主に無症候性高尿酸血症, 急性痛風発作が多いが,
あと一つ, 慢性結節性痛風(Chronic tophaceous gout)と呼ばれる長期経過の痛風結節, 慢性関節炎を伴う病態がある.

痛風結節は尿酸結晶に対する慢性の炎症反応で, 異物肉芽腫を形成することで生じたもの.
・長期間(10年~)の痛風関節炎, 高尿酸血症の持続で生じるとされるが, <10年の症例でも16%で皮下結節を認めた報告もある.
結節は3層で構成され中心に尿酸結晶,周囲にリンパ球や形質細胞, Mφ, 外側に線維組織が認められる.
(Curr Rheumatol Rep (2015) 17:19)

痛風結節は皮下組織や関節・腱に生じる.
・皮膚透過性が高い部位では白色の結節に見える(結晶の影響)
 内部の穿刺により尿酸結晶が認められる.
好発部位は肘頭滑液包, アキレス腱, 第一MTP, , 指腹
 他に脊椎や神経根付近, 足根管, 膝蓋腱, 第二中手骨, 三角骨で生じ, 神経圧迫症状や筋症状を呈する症例もある
 稀ながら, 気管支に生じて気道閉塞をきたした症例や僧帽弁, 肝臓, 乳腺に生じた報告もある.

高齢者の結節性痛風症例の痛風結節の分布
(Clin Rheumatol (2012) 31:1127–1132 )

gouty panniculitis: 痛風性脂肪織炎という病態もある
・稀であるが, 痛風に関連して脂肪織炎を呈することがある.
 皮下の痛風結節とその周囲の炎症が認められる.
 痛風の診断基準を満たす症例が大半だが脂肪織炎が先行する例もある.
(Rheumatol Int (2011) 31:831–835)

結節性痛風の治療
・治療の基本は尿酸降下薬による長期間の尿酸値抑制.
 尿酸値の目標は<5mg/dL
 コホートでは, 低いほど痛風結節の改善速度は速く, 痛風結節が改善するのは<6mg/dLを達成した症例のみ
・キサンチンオキシダーゼ阻害薬を極量で使用しさらに他薬剤(ベンズブロマロンなど)を併用するとよい
・関節炎の予防投与として, NSAIDや少量コルヒチンの併用も推奨

63例の結節性痛風患者を対象とした前向きCohort
・アロプリノール, ベンズブロマロン, その併用にて血清UAを組織に析出する濃度以下に維持し痛風結節のサイズをフォロー
・痛風結節は最も大きいサイズのものを最大径で測定し, フォロー

治療薬剤別の評価:

痛風結節が消失するまで2-3年かかる
 大体 1ヶ月あたり1mm程度の縮小

血清UA値と痛風結節の縮小速度の関係.

・UAが低値なほど縮小は速い.
 <5mg/dLを目標とするとよい感じ

2019年3月7日木曜日

CJDっぽい自己免疫性脳症

まだ診断はついていませんが...

70台男性. 急性経過の認知機能障害, 手足・舌のミオクローヌス様運動
数日〜1週間程度の経過で増悪した上記症状にて受診. 小脳失調は認めない.

色々鑑別した結果,
 髄液: リンパ球優位の細胞数増多(10-30程度), 蛋白増加
  髄液細胞診陰性
 頭部MRI正常
 血液培養、髄液培養陰性(抗酸菌含む). Tau蛋白陰性, HSV-PCR陰性
 T-SPOT陰性
 一般的な自己抗体は陰性.
 抗甲状腺抗体陰性
 腫瘍精査では何も引っかからず。

病歴や所見, 検査は長くなるので端折ります

ミオクローヌスが目立ったことから, CJDを鑑別にいれつつ精査, フォローしましたが、診断つかず, 精査の数週間で状態は増悪.
 尿閉, 起立性低血圧といった自律神経症状も出現した.

感染症の可能性は乏しく神経内科相談の上mPSLパルスを施行すると, 明らかに反応があり改善傾向を認めた.

という経過. その後IVIGを施行.

この経過からLGI-1抗体がでるのではないかと精査中(結果未)


さて, CJDに類似した自己免疫性脳症でPubmedを漁ると, VGKC抗体脳炎と橋本脳症がよく引っかかる.

CJDを疑われた346例で細胞表面抗体を評価したところ, 6例で陽性.
・CASPR2抗体, LGI-1抗体, NMDAR抗体, AQP4抗体, Tr抗体, 不明が1例ずつ
・ただし, これら6例はどれもCJDの診断基準(possible, probable)は満たさなかった.
(JAMA Neurol. 2014;71(1):74-78. )

初期にCJDと判断され, 最終的に自己免疫性脳症であった8例中, 6例はLGI-1抗体陽性例, 2例がCASPR2抗体陽性例.
(Journal of Neuroimmunology 295–296 (2016) 1–8 )
・LGI-1抗体とCASPR2抗体 = VGKC抗体
・上記8例と, CJD19例を比較
・ミオクローヌスはCJDミオクローヌス様運動は自己免疫性脳炎で認める.
・自律神経障害も自己免疫性脳炎で認める所見

VGKC抗体脳炎で認められるMyoclonus-like symptomMyoclonusと判断され, CJDを疑われる場合が多い.
・CJDにおけるMyoclonusは感度が高い所見ではあるもののCJDの中期~後期で多く出現する症状.
 一方で, Myoclonus-like symptomは自己免疫性脳炎の早期に認められる症状であり, 病初期で認められる場合はCJDよりも自己免疫性脳症を疑うべきかもしれない.

また, 橋本脳症もCJDに類似する報告があり,
(J Neurol Neurosurg Psychiatry 1999;66:172–176 )
・急速進行性の認知症, ミオクローヌス, 精神症状, 失調など症状が類似している
・てんかん発作や局所症状はCJDでは稀
 変動性の経過もCJDらしくないと言える.