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2018年8月24日金曜日

皮膚所見が目立たない乾癬性関節炎の皮膚鏡所見

Seronegative RAと乾癬所見が目立たない乾癬性関節炎(PsA)の診断はしばしば難しい初期にSeronegative RAや原因不明の末梢関節炎と診断された患者が後日皮膚所見が出現判明し, PsAとされることもある.

両者の鑑別には皮膚鏡による評価が有用な可能性がある.

PsA sine psoriasis 15例(乾癬所見が目立たないPsA), RA12例において, 肘の所見と指のNail-fold capillaryを評価した報告
(Journal of Dermatology 2016; 43: 1217–1220)
・肘もNFCDermoscopyを使用した.

Dermoscopyの所見
 ・PsAの爪所見では発赤を背景とした点状の血管, 発赤のみが多い
・肘所見ではびまん性の発赤, 点状血管が主となる


爪の所見
a) PsA症例. びまん性の発赤に点状の血管を認める
b,c) RA症例. 「魚の学校」様に細かい血管が群生(b), 不整, 不鮮明な紫色の血管所見(c)
d) コントロール群. 正常所見


肘の所見
a) PsA症例: びまん性の点状血管
b,c) RA症例: 不整不鮮明な紫色の血管所見や血管消失所見

早期のPsA, RA(seropositive, negative)で手指の障害, 症状を認める患者群を対象
(J Rheumatol. 2018 May;45(5):648-654)
・ERA(発症<12M), EPsA(発症<24M)で紹介された患者を対象.
 診断はACR/EULAR 2010, CASPARで評価され, さらに末梢関節が有意に障害されている患者を導入(DIPメインは除外)
上記患者において, 手のUS, 皮膚鏡評価を施行.
 またその後膠原病+皮膚科に紹介し, 詳細に再評価を行った.

患者は73例で, 内訳は
Seronegative ERA 23, Seropositive ERA 25, EPsA 25
 Seropositive ERA19/25RF, CCP抗体陽性
 EPsA22/25が乾癬所見あり, 23/25CASPAR ≥3

初期にSeronegative ERAとされた23例中
 6例(26.1%)が後に爪や皮膚所見を生じ, PsAと診断された.
・このうち4例は肘のみで皮膚病変が認められる限局型皮膚鏡のみで検出可能であった.
2例は爪のみで乾癬性の変化が認められた


関節US所見や皮膚鏡所見のPsA予測に対する感度, 特異度
・超音波所見もPsAに特異的な所見は多いが感度が不十分.
・爪の皮膚鏡所見(点状血管)は感度96%, 特異度83.3%ERAEPsAの鑑別に有用.
・超音波所見と組み合わせると感度は低下する特異度は若干の上昇.

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・乾癬所見が目立たないSeronegativeな末梢関節炎でも後にPsAが顕在化する可能性がある
・早期に検出する方法として爪や肘のDermoscopeによる評価が有用な可能性.

2018年8月14日火曜日

症例: 70歳台女性, 変な感じが持続する

70台女性主訴言葉で言い表せない感じ

 高血圧に対して降圧薬を使用している程度の背景の女性.
 特に今まで問題なく生活していた.
 3ヶ月ほど前より「言葉で言い表せないような感覚」を自覚最初は発作的に30分程度ありそれを繰り返していた強いて言うならばイライラ、モヤモヤ、不安などと言った症状動悸や冷や汗もあったとのこと
 症状の頻度は増加し常に変な感覚が付きまといたまに強く不安になるよっとした音や光が過敏に感じイライラムカムカするためにテレビも見ない食事も食べたくないなど症状が増悪した.
 他病院を受診し血液検査など一通り評価したが異常なし(甲状腺機能含む). 精神疾患が疑われ精神科がある病院を受診せよとのことで当院へ(精神科外来ありませんが・・・). そして内科へ.

 下痢はなくむしろ便秘気味嘔気食欲低下あり.

既往:高血圧内服:アムロジピン

 診察時はやや興奮気味ではあるが意識晴明見当識障害もなし. BP 130/60, HR 105bpm, reg. RR 22, SpO2 99%, BT 36.2
 頭頸部に問題なし心音は雑音や過剰心音なし頻脈. 他胸腹部に異常所見なし. 四肢の筋緊張は強くなかなか脱力してくれない促すと可能.
 DTRは減弱亢進なし左右差なし神経障害も明らかな異常なし.

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新規発症の精神症状であり精神科紹介前にやはり二次性の評価は必要
便秘症状や食欲低下などもあり甲状腺機能は前医にて正常範囲との報告.そこで基本的な血液検査を再度評価.

>>血清Ca 11.6mg/dLと高Ca血症あり.

ということで高Ca血症に伴う精神症の可能性を考慮. 補正をしつつ原因精査を開始した.


Ca血症では消化管症状とともに精神症状も有名.どのような症状があるのか?

Ca血症による精神症状
(Am J Psychiatry. 2017 Jul 1;174(7):620-622.)
・機序は不明確であるが, Caが中枢神経のMonoamine代謝に関わることが関連していると考えられている.
長期間の高Ca血症により生じるが, Ca血症の重症度と精神症状は相関するとは限らない.
 著明な高Ca血症は昏睡となるが, 10-14mg/dLでは抑うつ症状~イライラまで様々.

PHPT(原発性副甲状腺機能亢進症)において, 軽症の高Ca血症があり精神症状のみ認められる症例報告もある
(Am J Psychiatry. 2017 Jul 1;174(7):620-622.)
・PHPTに対して副甲状腺切除を行なった患者群の解析では,
 不安症状が43.1-53.0%
 抑うつ症状が33.0-62.1%, 自殺念慮が22%
 易怒症状が51.9%
 幻覚, 妄想が5-20%
 認知障害が37.3-46.5%
特に高齢者では見落とされやすい

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・高Ca血症による精神症状には抑うつ症状や無為など陰性症状〜興奮, 妄想幻覚, イライラなど陽性症状まで様々な精神症状呈する.
・精神症状は軽度の高Ca血症でも生じえる. 昏睡までいくのは>14mg/dLの高度上昇例で多い
急性~亜急性経過の精神症状認知機能低下では高Ca血症に伴うものの可能性も考慮する.(Psychosomatics 2002; 43:413–417)

2018年7月28日土曜日

症例: CH50のみ低いのですが?

80歳台男性. 自己免疫性疾患も疑う病状であったため自己抗体補体免疫グロブリンなどチェックしたところ, CH50のみ低い結果が. C3,4は正常範囲. これはどう解釈したら良いだろうか? 次の一手は?

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補体低下の原因は以下を参照.
機序

免疫複合体の形成
C3,4双方が低下(Classical pathway)
SLE, MPGN, クリオグロブリン血症(I-III)
糸球体腎炎や血管炎を呈する慢性感染症
感染後糸球体腎炎, リウマチ性血管炎, 特発性血管炎, Serum sickness, 薬剤性ループス, 薬剤過敏性症候群, 化学療法, 甲状腺疾患, Jejunal ileal bypass, B細胞性リンパ増殖性疾患
免疫以外の原因
主にC3の低下(Alternative pathway)
動脈硬化性塞栓症, HUS/TTP, 重症敗血症, 重度の低栄養, 肝不全, 急性膵炎, 先天性の補体経路異常, 熱傷, 急性心筋梗塞, 造影剤使用, 透析, Cardiopulmonary bypass, マラリアによる溶血発作, 全身性ウイルス感染症, ポルフィリア
(Kidney International 1991;39:811-821)

検査ではC3,C4,CH50がコマーシャルベースで評価可能であり,
・C3, C4は血中に最も多く存在する補体成分で主に肝臓で産生される.
CH5050% hemolytic complement activityを示し一定の赤血球を50%溶血させるのに必要な補体活性. 補体全体を反映する

基本的にC3もしくはC4低値ならばCH50も低下するが,
C3,C4正常でCH50低下の場合はCold activationと他の補体成分の欠損を考慮する
・Cold activation: 採血後低温にすると補体が活性化する現象
 HCVやクリオグロブリン血症に関連する.
 上記評価には37度に維持して評価もしくはEDTA血漿を用いて再評価し, 正常化を確認
(Journal of Clinical Immunology 1992;12(5):362-370)

補体のCold-Dependent Activation(CDAC)
・補体成分は正常, 37度血清やEDTA血漿で評価したCH50は正常だが, 通常の検査にてCH50が低値となる現象

リウマチ性疾患 170例において, 補体を評価した報告では19例で持続的な補体低下が認められた.
(Clin Exp Immunol 1997; 107:83–88 )
このうち9例でCDACと判断
・リウマチ性疾患間でCDACリスクは同等

・有意差を認めるのはリウマチ因子とHCV

ということで, EDTA血漿で再評価+HCVを評価すると, HCV抗体陽性との結果かなりCDACが疑わしい状況と言える.

ところでもし補体欠損であったらどうなのだろうか?ということも気になったのでサラッとだけ触れる.

日本人で多い補体欠損はC9欠損
(Int Immunol. 1989;1(1):85-9.)
・大阪の献血データ 145640件において補体を評価した報告では138例でC9欠損が認められた. これら症例のCH5013.1±3.0U/mL
頻度としてはC9欠損は0.095%
 他のC5-C8の異常は0.011%
・CDACによるCH50低値は657. 0.451%であった.

補体欠損とリスクとなる感染症, 関連疾患


・一部ではSLESLE様症候群を呈する.
・C5-C9では髄膜炎菌による髄膜炎, 敗血症リスク
C9欠損は日本人で多いとの記載がある.

2018年7月25日水曜日

症例: 90歳男性、謎の空気.

 寝たきり施設入所中の男性食欲低下腹部膨隆にて入院.
 腹部所見では軽度腹部は膨隆あるも腹壁はSoftで圧痛もなし. 腸管蠕動も問題なし.
 腹部エコーでは小腸内のFluidが軽度貯留あるが腸閉塞というほどの拡張もなし.排便・排ガスもあり.
 血液検査も明らかな異常なし.

 ふと1ヶ月前に撮影した腹部CT(大動脈瘤フォローで撮影されていた)を見てみると何か違和感がありさらに細かくみると上腹部にFree airあり
 そこで今回も再評価すると同程度のFree air(+). 他の以前のCTには確認した限りは認められず.

 腸管虚血を示唆する所見もなく腹水もなし
 さてこのFree Air...

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腹腔内のFree air: 気腹症の9割は消化管穿孔によるもの(Surgical pneumoperitoneum).
・それ以外のNon-surgical pneumoperitoneumには術後内視鏡後, PEG増設後特発性細菌性腹膜炎。。。などの頻度高い(Crit Care Med 2000; 28: 2638 –2644)

さらに他の原因:
・胸部病変・呼吸器使用に伴うものや骨盤内の処置によるものが多い
・コカイン使用, 強皮症(腸管気腫を伴わない)によるものもある

特発性気腹症14例のまとめ(Surgical Case Reports (2015) 1:69)

・既往歴に強皮症やRaynaud現象があるのが3.
 他はNSAID使用やTB, Stroke後など.

強皮症では腸管気腫症との関連が報告されており以前少しまとめたのでそこも参照してほしい

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この患者さんはおそらく強皮症では?
と思い再度診察すると年齢の割には顔面のしわが少なく光沢を帯びている
軽度毛細血管拡張もあり
手指のPuffyな腫脹も認められ, Nail-fold capillaryの消失, 拡張所見もあり.

背景に強皮症がありそれにより気腹を繰り返している可能性が示唆される.
便秘や内服も評価しリスクがあれば介入する方針となった.